4 たいほう うんりゅう 聯合艦隊司令部は、新たに就役した改大鳳型や雲龍型空母を投入して、今回の西海 岸航空作戦を、実施するつもりであった。 ただし戦う相手は艦隊ではなく、陸上基地から発進する戦闘機や爆撃機である。 したがって空母航空隊の機種構成も、従来とは大きく変わっていた。 具体的に言えば、艦戦分隊の比重が大きくなり、艦攻分隊と艦偵分遣隊は、最小編 成となっている。 なお配備機だが、大鳳型、改大鳳型空母には烈風型三六機が配備されている。 対潜警戒と対地攻撃を引き受ける艦攻分隊は、流星改が予備機を含めわずか一一一機 で、艦偵は彩雲四機が派遣されている。 戦 飛行甲板を装甲化した大鳳、改大鳳型艦隊空母と、中型艦隊空母雲龍型は主要機数 航 海が同じであった。 れつぶう 西 ただ艦戦分隊は、大型機の烈風だけではなく、紫電改の後継機として、開発された 章川西製の陣風Ⅱ型が、新たに投入されている。 第陣風は烈風とは異なり、最大五〇〇キロまでの爆装が可能で、必要に応じて戦闘爆 撃機の運用も可能であった。 じんぶう
こう言って小沢は、それ以上は語らずに頭を下げた。 さすがに司令長官から頭を下げられると、参謀や幕僚たちはなにも言えなくなる。 こうして詳細は明かされないままに、ニューメキシコ州内の二個所が攻撃目標にな ったのである。 しかし問題はまだあった。中でも最大の難関は、連山特別攻撃隊の飛行ルートであ った。 「カリフォルニア州沿岸から侵入すると、最短距離を飛行してもアリゾナ州を通過し ないと、ニュ 1 メキシコには辿り着けません。 さらに軍事施設が多いカリフォルニア州南部を避けて、北部から回り込むとネバダ、 ュタ、コロラドと、さらに通過する地域と距離は大幅に増えますが : 長官公室で二人になると、剛胆な草鹿参謀長も、無理だと言わんばかりの表情であ る。 すると小沢は、ニンマリとして言った。 「そのどちらも通らんよ。儂が考えているコースは、ここを通って一度カリブ海へ出 て、そこからニューメキシコを北上して、目標を目指すー そう言って小沢が指でなぞったのは、中立国メキシコ上空を横断して、メキシコ湾 岸のカリブ海へ出るコースであった。
ものだ。 この通称、ヤマ機関は、無線傍受以外にも国内電話の盗聴も担当していた。 トンプー だから寺崎が統括する東風機関は、現代的な無線通信や電話には頼らなかった。 なんと、昔ながらの連絡手段を取ることで、盗聴や探知から逃れていた。 メール・ランナー それは飛脚を使う古典的な連絡方法であった。 確かに時間はかかるが、信用が置ける人間を飛脚に仕立てることで、秘密は保たれ ていた。 そしてこの飛脚が通信文を受領するのは、大勢の人々が出入りしても、けっして疑 われることのない場所、つまり旧教の教会だった。 地域の教会は、ヒスパニック系住民が集まる場所であり、教会関係者を除く白人が 現れることは、滅多にない安全地帯でもあった。 こうした通信文を起草し、また受領した指示文を解読するのも、これらの教会に配 属された司祭や助祭である。 諜報員らが集めて、情報将校らが分析した極秘情報は、教会が教区ごとに司教宛て へ送る教区報告書の中に、紛れ込ませるかたちで作成された。 なおこの教区報告書を託されるのは、熱心な信者か聖職者である。 ただこのク飛脚クらは、自分たちが極秘情報を運んでいることを、一切知らされて
それに比べて新人で、予科練卒の庵野は、先輩の狙った個所を確実にトレースでき るか、いまだ確信が持てない。 だから最初の庵野が外すことを覚悟で、後手の高畠が確実に仕留めるのだ。 なお最初に一撃を加えた際に、一機が被弾して隊列を離れ、ジョンストン島への帰 投を指示されている。 したがって最後の組は、三機コンビで一機を狙う。 とにかく第二飛行隊は、単機攻撃で一機撃墜を狙うのではなく、二機、あるいは四 機で、確実に仕留める方針を貫いている。 これはク帝都防空を掲げる小園司令が、開隊時に掲げたク滅敵報国の標語に、 沿ったものであった。 今回も森岡が狙ったのは、編隊の長機であった。 もちろん照準器を覗くことはなく、相変わらず肉眼で直視できる位置まで、発砲を 我漫して上昇し続ける。 このときに、梯団の先頭は対空砲火の有効射程内に入り、前方の空域では撃ち上げ られた砲弾が、ひっきりなしに炸裂している。 したがってここから先は、日本側の迎撃機が襲ってこない空域である。 こぞの
豪州北部と真珠湾、それに米本土西海岸の傍受施設で、無線通信を傍受できること から、有線通信の存在にまで注意が払われなかった。 それ故に、無線通信の発信地だけに注目して、従来どおりトラック環礁だったこと から、疑わなかったようだ。 したがってまさか聯合艦隊旗艦が、ジョンストン島にまで出張ってくるとは、予想 もしていなかった。 なお聯合艦隊内部でも、大淀が聯合艦隊旗艦であることは、極秘事項であった。 一応、第七艦隊 ( 第二潜水艦隊 ) の直属艦というのが、表向きの所属であった。 むろん元は潜水艦戦隊旗艦だから、大淀が停泊中でも疑う者はいない。 実際、大淀には将旗は掲げられていたが、聯合艦隊司令長官の旗艦を示すものは、 一切掲揚されていなかった。 大淀の長官公室で、小沢は目の前に広げられた海図を見ながら、情報参謀と作戦参 謀から報告を受けていた。 「現状では、太平洋艦隊の主力艦艇の大半は、西海岸沿岸に点在する軍港や港湾基地 を起点にして、活動中です。 ただ損傷を受けた戦艦や空母、巡洋艦は、すべて船渠入りして、大修理の真っ最中 であり、当面は大艦隊としての活動は無理かと : ・
236 もしこの飛行場を奪われれば、ソ連戦闘機や襲撃機は占守島内に足場を得ることに なる。 しかも四嶺山は中部地区の要衝だから、仮に北部高地の陣地群が生き残っていても、 占守島守備隊は北部と南部とに分断される。 こうした状態になれば、四嶺山を観測拠点にして、南部地区にも赤軍の野戦重砲は 砲撃をおこなえるようになる。 それは、圧倒的に不利な状態である。だから四嶺山こそが、占守島の防衛を左右す る要の存在だと、杉野旅団長は自覚していた。 特にロバトカ岬の砲台を対砲兵戦で沈黙させられたことは、上陸したソ連赤軍部隊 にとって、予想外の出来事であった。 この段階から、赤軍第皿狙撃師団は認識を改めて、四嶺山を最重点目標に据えて、 主力部隊を攻略へと振り向けている。 むろん占守島守備隊司令を兼任する杉野旅団長は、こうした状況を計算に入れてい ただここまで腰を据えて、赤軍が攻めかかってくるとは、防衛作戦を指揮する杉野 らの想定を超える反応であった。 その証拠に、麓から斜面にかけて、埋設した地雷原や障害物は、赤軍の激しい砲撃 かなめ
202 隊形を再度組んで輪形陣を整えるように、再三指示が飛んでいたが、護送船団方式に 慣れた英米の船舶でも、一度乱れた隊形を元に戻すのは、想像以上に厄介な作業だか ら、ソ連の艦船ではなおさらだ。 とにかく多くの船舶は、ぐずぐずと動き回るだけである。 業を煮やした支隊司令からの指示で、駆逐艦やフリゲ 1 ト、それにコルべットが走 り回っては、もたっく船舶を追い立てていた。 そんな雑踏のような中で、空襲が始まった。海面高度で飛行する天山の編隊は、間 近に迫るまで、ソ連艦の装備する対空レーダーでは捉えることができなかった。 当然警戒は続けていただろうが、それは帝國海軍の水上艦艇が、再び現れることに 対応してのものだ。確かに再び敵は来襲したが、それは予想外の航空攻撃であった。 しかもカムチャッカ半島から上空援護の戦闘機が現れるのを警戒して、幌筵島から も陸軍戦闘機が発進していた。 「我々の頭上には、陸軍機が警戒してくれている。各編隊は落ち着いて目標を狙い、 確実に命中させよ ! 以上かかれー」 それだけ伝えると、稲垣少佐は機内通話へ切り替えた。 「あの二等輸送艦に似たやつを狙うか、多分戦車や火砲を積んでいるだろう」 まつもり 航法員席から指示を出すと、操縦桿を握る松森上飛曹が頷き、雷撃コースに入る。
だが小規模な方面艦隊とは言っても、司令長官が指名して諸艦艇を引き抜くのは、 前代未聞のことと聯合艦隊では驚いていた。 もっとも志摩長官は、その話を聞かされても平然としている。 「悪天候が続く北方海域は、空母や戦艦を投入しても使い勝手が悪いだけさ「 航空機は陸軍の飛行師団と基地空があれば充分、艦艇は旗艦に重巡一隻があれば充 分だよ。飛車と角なしでも、桂馬 ( 潜水艦 ) と香車 ( 水雷戦隊 ) を上手に使えば闘え る まつもとたけし そう言って参謀長松本毅大佐と、将棋を打っていた。 「しかし長官、将旗を掲げるのは通信装備の関係上、重巡の方がなにかと都合がいい のですがー 松本参謀長が、そう言ってから志摩の角を獲ると、白い歯を見せた。 「ああ、ならば那智一隻で充分だよ。一水戦と昌福をもらえば、二一戦隊の重巡二隻 の 島 を獲られても、こちらが有利な取引きだ」 守 占 そう言って志摩は、松本の玉将の前へ静かに金将を置いた。 章金将の一目後ろには、当然のように歩が続いている。慌てた参謀長が玉将の逃げ道 第を探すと、左右が塞がれていることに気づく。 左に逃げれば桂馬が、右に逃げれば香車が、それぞれ狙っているのだ。
356 伝統的に帝國陸海軍では、格闘戦に強い軽戦とか、汎用性の高い中戦に重点を置く 傾向がある。 逆に一撃離脱に徹した重戦闘機、特に邀撃戦闘機の乗員育成には、あまり熱意を示 してこなかった。 しかし米陸軍航空軍が、重爆撃機の開発整備に重点を置いている以上、要地防空の ためには、邀撃戦闘機搭乗員の大量育成が必要だ ところが、対重爆撃機戦に備えて、一撃離脱戦法に徹した設計の重戦闘機は、翼面 過重が高いことから運動性に難がある。 しかも離着陸の際には、独特の癖がある機体が多く、経験の乏しい若手搭乗員は 「重戦は操縦桿が重いし、着陸が難しいーと敬遠する者が、想像以上に多いのだ。 「若手が好む軽戦は、操縦性が良好な上に格闘戦には向いているが、これでは米国の 重爆は落とせない。 そうかと言って、古参搭乗員ばかりを集めて、邀撃戦闘機隊を編成しても、それだ けでは人員の補充が間に合わないー 小園司令はそう言うと、各地の練習航空隊へ自ら出向いては、重戦の操縦に向きそ うな人材を探していた。 むろん目を付けた人材は、半ば強引に有無を言わせす、三〇二空へ引き抜いていた。
嫌いなのだ」 御前会議では、太平洋戦争の状況が大本営陸軍部と海軍部を代表して、参謀総長と 軍令部総長の一一人から、地図を前に説明された。 一方的な優位とは言えないが、中部太平洋戦域では米太平洋艦隊に、大打撃を与え ることには成功していた。 ただし今後の戦略として、ハワイ諸島を含む米国領の島々を、どのように攻略する そ、つじよ、つ のかは、聯合艦隊へ一任していると奏上した。 また占領した島々を足場にして、米本土の西海岸への進攻を、いつごろ開始するの やまもといそろく かに関しては、山本五十六軍令部総長は明言を避けている。 これは陸軍参謀総長も同様で、比島攻略作戦がほば終了したことを正式に奏上した。 しかし今も米陸軍が、拠点を構える南太平洋上の島々、たとえばニューギニア島や その先の英領豪州に駐留する米陸軍部隊への対処方法には、具体的な説明をしなかっ それよりも参謀総長が詳細に語ったのは、満州国や朝鮮半島の国境防衛に関するこ とだ。