凡 ( 1 ) " まえがき " に述べたように 例 この本は論文のまとめ方と書き方についての一 般的な心がまえを説くことと , 個々の実際的問題が起こた場合の参照に応することと の二重の目的で書かれたものであり , その両者はだいたい活字の大きさで区別している . すなわち , 前者の一般的心がまえは 9 ポイント活字 , 後者は 8 ポイント活字で組んであ る . 従。て , 論文のまとめ方と書き方についての一般的なことを知ろうとする時は , の本の大きな活字で組んである部分を初めから順を追って読み , 個々の問題にぶつかっ た時は索引を利用して参照すべきページを捜し出していただきたい . もちろん , そのど れに属するか決めかねる性質のもの , 両方に関係あるものなども少なくないので , 活字 の大小の使い分けはあくまで便宜的なものにすぎない . ( 2 ) これらの事項を記述するにあたっては , 実験をまとめ論文に発表するのにおよ たと そ関係のあることを残らす , しかも一様にくわしく書くということはしなかった . えば , 統計学・写真術・印刷術・タイプライテング・書誌学・文法などについては , 良 書がいろいろ発行されているから大部分はそれに譲った . その反面 , まとまった文献が 少ないものや本により書き方がまちまちでどれに従うべきか迷うような問題はくわしく だから , 全体的には各事項の記載に長短のつり合いがとれていない印象を与え 書いた . るかもしれないが , 一般的な物知りを作る目的ならいざしらす , 実用上の目的のために はそれで少しもかまわないものと信じている . また , ある一つの項目についても , ・・と , いろいろの形式をただ並べ立てただけ いう形式もある , ああいうやり方もある・・・ では , 著者の物知りを広告することにはなっても , そのどちらを選ぶべきかと読者をか えって迷わせる場合もあるから , 本書ではある事項について適当と思われる形式を 1 つ か 2 つあげるだけにし , 必要があればそれらの形式の得失を説明するようにした . また , この本には重複して述べた部分がところどころにある . これは , この本が机上便覧的に 使われる場合の便利さを考えたためである . ( 3 ) 形式を選定するにあたっては , 各国各方面の代表的な諸雑誌を広く参考にし , イ ) なるべく簡単で無難な , ロ ) 誤記・誤値・校正見落としの起こる機会のなるべく少 ニ ) 不必要な , 、 ) 費用のあまりかからぬ範囲で読者にできるだけ親切で便利な , ない , 空白部分のない , ホ ) 見た目に美しく感ずるようなものをと心がけた . いすれとも決め かねる場合には , 多くの一流雑誌について一々統計をとり , その中で頻度の高い形式を 採用したので , 単なる自分だけの好みとか独断とか我流とかで決めた部分はあまりない つもりである . ( 4 ) 日本人が外国語で科学論文を書く場合には英語が圧倒的に多く , 以前はドイツ 語が多かった医学論文でさえも戦後は英語で書いたものが目立って多くなってきた . IX
第 4 編文章論 章にすることを心がけるべきである . " どうせ日本人が書いたのだから , 少し ぐらい誤りがあっても判読してくれるだろう . 仕事さえしつかりしたものであ れば・・・ ' とあまえた気持になってはいけない . 読者の方では , そんなことを 考えてくれるどころか , 正しく書けていてあたりまえで , しかも反対に , 文章 のちょっとした誤りから著者のセンスを疑ったり仕事そのものを割り引きする ことさえあるのである . 考えてみればとても損な話であるが . 日本人が外国語 で仕事を発表しようとする以上は , こうした不利な点は初めから覚悟してかか らなければならない . 我流に書き流したものをしつかりした専門家にも外国人にも見せないで軽々 しく発表することは労して効がないばかりでなく , ひいては自分の属する研究 機関の名誉に関する場合もある . 46. 文範とその利用科学論文には , いろいろの種類の論文一般に通ずる決 まり文句や , ある特定の専門分野で通用する慣用の言いまわしなどが少なくな こういうものは , 欧語について不利な立場にあるわれわれが苦心して作文 するよりも , その国語を用いる国の一流のしかるべき学者の書いた物から文範 を求め , それにならうのも賢明なやり方である . 一般的なしかも小さい問題 で , 文法書や普通の辞典にも書いてなくてどう書いてよいか判断のつきかねる ことがあるが , この場合にも上記のような文範がそれを解決してくれることが よくある . もちろん , どこの国の学者でも論文を書く時に文法上の誤りが絶無 であるとは言えないだろうが , 多くの文範をいろいろ集めて比較検討し , 不審 な点は辞書をひいたり , 指導者や先輩に聞いたりする手数を惜しまなければ , だんだんと目が肥えてきて , 適当な文範だけを選び集めるようになるものであ る . また , ある一つのことの英語の表し方が人によっていろいろ相違することが ある . たとえば "Kingsley の方法 , " "Lane と Eynon の方法 " のことを英 語で書くのに下のようないろいろの表し方がある . Kingsley's method The KingsIey method The method of KingsIey Lane—Eynon's method
152 第 7 編特殊事項の表示形式 用いる . ただし , 純粋の数の概念から離れ過ぎたもの , 物の名称化したものや 習慣上特別の語感を有するものには漢字を用いる . アラビア数字で表す例 : 5 個 , 9 人 , 5 分の 1 , 第 5 表 , 第 8 図 , 昭和 48 年 5 月 一見して , 一面から言えば , 一時的な , 一方において , 一般に 漢字で表す例 : 一半を知る , 二硫化炭素 , 三寒四温 , 三色版 , 第六感 , 七福人 , 四十八手 , 十数人 , 数百人 判別に注意を要する例 : 個の男子として 魚 1 種と貝 3 種 食塩 1 分に水 8 分 一部の人々は 96. 略字・記号についての注意略字・符号・記号を使うのに一番注意すへ きことは , ( a ) その方面で通用する方式によっているか , 我流で決めたもの ( b ) 論文の載る雑誌での形式と一致しているか , (c) ーっの論 はないか , 文の中で採用形式がきちんと統一されているかを確かめることである . あまり 普通でないものや , 特に自分の文章の中だけで使うものは , 一番初めに出る所 で , " 以下何々と略す " と必す明記すること . 略字・記号を自分で新しく作る 時は , 特別に必要でない限り大文字やイタリックを使わないようにする . ( 1 ) 欧語の文章中に用い得る一般的な略字 : 専門専門で認められた略字 は別として , 一般的な略字のうちで本文の中にでも用い得るものというのはわ りあいに少ない . その主なものは次の通りである . など簡潔を要する所ではかまわない . 文章の中で化合物名をむやみに記号で書くのは習慣に反する . ただし , 表や脚注 表し , イタリックにしない . なお , よく日本人にみられることであるが , 欧語の ・・・など ) , viz. ( すなわち ) ・・・ これら普通に使われているものは普通の立体で ホ ) 外来語の略語 : i. e. ( すなわち ) , e. g. ( たとえば ) , et al. ( その他 ) , etc ・ 文字で始める人もある . ) case no. 4 , experiment no. 12 ( 大 ニ ) 実験番号などの番号を書く時の no. など : ハ ) Mt. ( 何々山 ) , S. S. ( 汽船何々丸 ) , M. S. ( ディーゼル船何々丸 ) ロ ) A. D. ( 西暦紀元 ) , B. C. ( 西暦紀元前 ) , a ・ m. ( 午前 ) , p. m ( 午後 ) イ ) 敬称・肩書のうちのあるもの の中や本文内の括弧の中など簡潔を要する特別な所では次のような略字を用い ( 2 ) 欧文の中で特別な場合に限り用い得る略字の例 : 表・文献表・脚注
第 2 編論文にまとめるまで 9 ( 4 ) 理論 : 相対性理論や気体の運動学的理論のような理論 (theory) では , お互いの間に一定関係のある要素の全部が全部を直接観察できるという わけでは決してなく , また要素間に適用すると主張される関係がすべて直接実 験的に確かめられるというわけでもない . しかしこのような理論というものの 助けによって , われわれは実験的に確かめ得る多くの数量的または質的法則が 互いに無関係に孤立しているわけでないことがわかる . たとえば , ガスの温度・ 容積・圧力間の数的関係 , ガスの密度・比熱間の数的関係 , 固体の融解点・圧 カ・容積間の関係などはすべて物質の運動学的理論の仮定から論理学的方法で 導き出すことができるのである . (B) 数量的データの処理と表現 6. データの数学的処理一般実験・観察・観測などから得た " なま " の数 量的データは , 目的によってはこれをそのまま記載発表することもあるが , 数 値そのものを知るというよりも事象間の関係やその奥に横たわる原理・原則を 明らかにしたい場合には , なまのデータを数学的に処理してまとめるのが普通 である . しかし , この数学的処理法が不適当だと , なまのデータがどんなに正 確かっ多数であっても , そこに存在する関係や原理を解明することは困難であ る . 得られたデータから事象間の関係があるかないか , あるとすればどんな関係 かのだいたいの見当をつけるには , 時と場合に応じて , ます算術平均を出して みるとか表にしてみるとかグラフに描いてみるとかするのがよい . ある一つの 方法で関係を見出すことができなかったら , 次々と他の方法を用いてみる . 学 生や若い研究者が研究の中間報告をしに来て , 。と B との間に関係は見つか りません . " と言う場合 , その場で相関図を作ってみたらきちんと高度の相関 関係が現れていたというような例が非常に多いから , ーっや二つの方法に失敗 しただけで簡単にあきらめてしまってはいけない . なお , どのような関係が存在しているか , 初めに全然見当のつかないような 場合には , いきなり複雑な方法を使わず , ます簡単な方法から先に試みるべき
次 目 X11 38. 日本語論文の文体に ついての一 般的注意・ 39. 文体の統一 40. 国語の書き表し方・ (A) 欧語論文・ 45. 正しい外国語・ 46. 文範とその利用・ 47. 実験のプロトコールを初めから 欧文で書く練習・ 48. 辞書・英語参考書・ 英米語の異同・ 49. 50. 用語・ 51. 転移的表現・ 第 5 編文献・ 60. 引用文献の選択と文献の正確な 記入・・ 61. 引用文献を掲げる形式・ 62. 文献記載事項と印刷形式につい ての一般的注意 63. 文献表中の著者名・・・ 64. 文献の年号・・・ 65. 文献の表題・・・ 第 6 編図表 (A) 図表についての一般的注意・ 72. 図表の重要性・・・ 73. 図表についての一般的注意 74. 図表の番号と説明文句・・・ (B) 表について 77. 表の改善 (C) 図画・写真・・・ 79. 凸版と網目版・・ 80. 写真・・・ 81. 図画を描く場合の注意 (D) 曲線の描き方・・・ 41. かな書きの行き過ぎ・ 42. 句読点の打ち方・ 43. 日本文中の欧字・外国語・ 44. 辞書・参考書・ 52. 文の長さ・ 53. 文の統一 54. 文中の語句の位置・ 55. 意味のあいまいな文・ 56. 句読法について 57. 分節法・・ 58. 大文字の使い方・ 59. イタリックの使い方・ 戸 0 冖ー行 / 8 8 8 0- 0 0 1- よ 1 よ 1 △ 一 0 一 0 戸 0 ・ 61 ・ 62 L.O -0 ・ 4 っー 66. 雑誌名の略し方・・・ 67. 雑誌の巻数とページ数・・ 単行本・・・ 68. 69. 日本語文献を欧語論文に引用 する場合の注意・・ 70. 本文中に文献著者名を出す場 合の注意・・ 71. 引用文句の記載の仕方・・・ ・ 97 ・ 98 ・ 109 ・ 100 ・ 101 ・ 104 ・ 105 ・ 109 ・ 110 ・ 113 ・ 113 75. 文章の中に図・表・図版を引 用する場合の注意・・ 76. 本文中の図表の位置・・・ 78. 表の印刷形式について・・ 82. 図に書き入れる文字・数字・・・ 83 、図の拡大率・縮小率・・・ ・ 113 ・ 113 ・ 114 ・ 114 ・ 115 ・ 117 ・ 118 ・ 125 ・ 130 ・ 131 117 ・ 125 ・ 126 ・ 127 ・ 140
第 7 編特殊事項の表示形式 89. 一般的注意事項論文の内容の中には , 本質的にはどの形式を採用して もかまわないが , しかも各自まちまちでは論文全体または雑誌全体としては統 ーを欠き不体裁になるような事項がいくつある . たいていの雑誌ではこれらの 点に関する形式を一定し , 寄稿規定の中で明示してあるから , このような雑誌 に寄稿する場合にはその規定に従わなければならない . もし雑誌に一定の方針 がなく , 著者の自由に任せているならば ( 雑誌としては不見識な話であるが ) , この本に述べてあるような広く一般に使われている形式を採用すべきである . この編には , これら純然たる形式の問題のほかに , 文法・規約その他によって形式が 一定しているもので前記の諸問題に密接に関係あるものをもいっしょに述べてある . 90. 内容区分の見出し論文内容を区分する見出しには次の 4 通りがある : 中央大見出し (center heading) ( a ) 中央小見出し (center subheading) ( b ) 横大見出し (side heading, running heading) ( c ) 横小見出し (side subheading) ( d ) 匸各種見出しの体裁の一例 ] RESULTS 英文の例 . ( ) 0 〃 the % ん 4 〃 / / 4 / な c 〃 (a) CiIia 0f oyster gills. 日本文の例 : 成 繊毛の機械的活力について (A) 1. pH の影響 ( 1 ) カキの鰓の繊毛 : ただし , どの論文でもこの 4 つの見出しを用いるとは限らず , 論文の長さと 147
130 第 6 編図 表 て削り取ったあと , または白紙をそこにはり付けた上に描き直す . ごく小部分 の加筆には製図用の細ペン (crow-quill pen) を使う . これらの修正をするに は , 拡大鏡 ( 台と柄の付いたものがよい ) を用いると便利である . すっかり墨入れが終わったら , 墨入れした細線などをだめにしないよう注意 しながら柔らかい消しゴムで不要部分を消す ( 消し残しのないようによく注意 すること ). ( 注 ) 図の製版にはほとんど凸版が用いられるようになった . 製版用の下 絵を版下または原図とよんでいる . ケント紙の代わりに半透明のトレーシングペーパー を用いるとペンのすべりもよく , 原図を清書するのに便利である . 82. 図に書き入れる文字・数字 : 図に書き入れる文字・数字とか記号など は , まずいとせつかくの図をむだにしてしまう ( 第 4 , 5 , 11 , 12 , 14 , 16 図参照 ). ( 1 ) 一般的注意 : イ ) 文字の大きさや体裁は一つの論文全体を通して統一し , て いねいに書く . ロ ) 学術論文では , 図に入れる文字・数字をひどく図案化したり , きどった字体にす る必要はなく , むしろ平凡なのがよい . また , 字の部分にあまり太い細いの差をつけず , 同じような太さにする . ハ ) 図の中に入れる文字の大きさ・太さは製版する時の図の縮小率を考えに入れて決 める . ニ ) 図の番号を図の中に入れる場合には図の右下にする例が一番多い ホ ) 写真などの黒い部分に文字を入れるには白インクを使うか , 文字を印刷した紙片 をはり付ける . へ ) 図の内部に文字を入れたくない時は , 点線によって図の外部まで導き , そこに文 字を書く . この時の点または短線は一つ一つ同じ調子でゆっくりていねいに , しかも細 過ぎず小さ過ぎず密過ぎないように注意して描く . 写真の黒い部分に線を引く時は白イ ンクを使う . ト ) 拡大率・縮小率については参照 . ( 2 ) 手で書き入れる場合の注意 : 88 ( 3 ) に書いてあることを参照されたい . ( 3 ) 印刷した文字を図にはり付けること : 文字を手で書く代わりに , 特別に印刷 またはタイプしたのをはり付けてもよい . また , 白紙に印刷した欧文の出版広告などの 中から適当なものを切り取って使うことができる . ( 注 ) 最近ではこれらの目的のため に種々の大ぎさの数字 , あるいはアルファベット文字が市販されている . 裏側に糊がつ いているため , 切り取ってはり付けるもの ( タイプトーン ) , あるいは , うつし絵のよう に上からこすりつければよいもの ( インスタントレタリング ) などがある . 写真にはり付ける時は , 文字のまわりの白い部分がはっきり印刷に出るから , すべて
150 第 7 編特殊事項の表示形式 1800520 , 32423 1 800 520 , 32423 独 1 800 520 , 324 23 へ ) ローマ数字 : ローマ数字 ( I , Ⅱ , Ⅲ , ・・・ ) はできるだけ使わないようにする . 93. 有効数字と誤差実験観測などで得た数値の多くは実験誤差の伴った近 似値である ( 6 , 12 ). だから , たとえば 2.7 m という結果を得た時 , これを 2 で割ったものを書く場合 1.3500 m などと多くの数字を並べても , 終わりの方 の数字は無意味であって , 有効数字だけを書くことを原則とすべきである . た とえば , “ 150 万”という数字は厳密には , 有効数字の多少によって 1. 5x 105 15 x 105 150 x 104 1500 x 103 15000 x 102 150000 x 101 1500000 1 1 / 2 x 105 など種々の書き方がある . 希釈倍数 1500000 倍とか細菌数 435329 個のように 有効数字におかまいなしに , ただ数字を不用意に並べるのなどは不見識である . 測定値などには , 20.5 士 0.21 などと誤差を付記することが多いが , それが 標準誤差であるか確率誤差であるか読者にわかるように明記しておくべきであ る ( 第 8 表 ). 94. 英文中の数の表し方英文の中で数を文字で書くべきか数字で書くべき かについては下に述べるような規則がある . しかし実際上は , 数字で書くべき か文字にすべきか迷うことが多いが , どうしても判断がつかない時は文字で書 いておく方が安全である . 数字の使い方は一つの論文の中では統一されていなければならない . 同じ論 文のある所では文字で書き , ほかの所では同じことを数字で表すというような ことをしてはならない . ( 1 ) 数を文字で書くべき場合 : 次のような場合には数は文字で書き表す . イ ) 明確でない値 , 概略の数や一般的に用いられる数 : three times about tWO hours one hundred years ago ロ ) 文の初めに数がくる場合 : Thirty-two ml of the solution was added. ( なるべくならば数が文の最初にならないよう文章を作り直すべきである . )
第 6 編 図 表 (A) 図表についての一般的注意 72. 図表の重要性図表は実験結果などの科学的資料を簡潔かつ効果的に表 すのに必要不可欠のものである . じようすに作った図や表は , 文字では長々と 書きつづけなければ表せないことや , 非常に複雑で言葉ではとうてい十分に説 明し尽くせないことをよくわかるように読者に示してくれる . 従って , 図や表 を活用すればそれだけ文章に書くことが少なくなり , 本文の大部分を論議など に使うことができる . このごろのように種々の雑誌に非常に多くの論文が出て いると , 多くの読者は一々ていねいに論文を読み通しているひまはない . 忙し い読者は , ます論文の表題を見 , 序論の所を走り読みし , 図表を一覧して , す ぐ文末の摘要を読む・・・・・・というようなやり方で論文の大要を手早くつかもうと する . だから , ある論文に対して読者の持っ第一印象は , その中の図の外見に 影響されることが大きい . もしも図示法が貧弱だと , 論文全体に対して不当に 不利な印象を持っ . 反対に , もし明確でしかも見た目にも美しければ , 読者は その論文に引き付けられるものである . だから , 図示ということについて十分 な研究と練習を積むべきで , 必要あれば , 専門の美術家や製図士の手を借りな ければならない . 雑誌によっては図表の費用は著者の負担となっているものが多いが , だからといって , 費用さえ負担すればどんなに多くの図表を付けてもよいという性質のものではなく , 編 集委員は著者からそういう申し出があっても , 雑誌の権威のために不要のものを載せる のをことわるべきである . 73. 図表についての一般的注意論文にどのような図・表・図版を入れるか を決めるのは非常に大切なことである . 図表はぜひ必要なものだけにし , かっ 不必要に大きくしないこと . 文章に書くだけですむものをわざわざ図や表にし たり , 1 つの代表例以外は文句で書けばすむのに , 同じような図や表をいくつ 113
第 2 編論文にまとめるまで 17 点群落の中心を求めることはできるが , 標的の位置はそのような計算からは見 出されない . 14. 生物を材料とした実験や統計における変異の特質たとえば , 同一条件 でいっしょに飼育した同年齢の魚 ( 短小形と長大形との交雑といったような特 別の遺伝学的交雑によってできたのでないもの ) の体長や体重の変異などのよ うな , ある特定の条件下の自然物における偶然的変異には , 測定の偶然的誤差 に関する理論と同様の理論がよくあてはまることをわれわれは経験している が , しかし一般的に言えば , 物理・化学のように無生物を材料として行った測 定と生物学・医学における生物を材料として行った測定とは本質的に大きな差 別がある . すなわち , 前者における実験材料は実験中にそれ自身変化すること がないか , または変化することが少ないのが普通であるが , 後者において用い る材料は場合によっては実験中に大きく変化し , 中には材料自身の心理的原因 が働いて実験結果を大きく狂わすことが少なくない . 従って , 一般的に言え ば , 物理・化学などで用いる偶然的誤差の理論を , 生物を用いた実験や統計に おける結果の不そろいや , 変動にそのまま適用することは危険である . 生物に 関する実験・観察・統計における結果の変動は普通の測定誤差とは本質的に 味の異なっているもので , 変動そのものに重要な意味がある場合も少なくなく , この変動を追求することによってある性質に関するその生物の季節的変化の重 要なサイクルを発見できることもあるのである . 15. 相関係数われわれが 2 つの事象間の関係を求めようとする時は , 両方 の代表値を比較することによって ( もちろん誤差・信頼限界などを考えに入れ て ) 目的を達する場合が多い . しかし問題の性質によってはそのような方法で は十分満足できない場合も起こる . たとえば , ある木の葉の長さと幅を数百枚 について測り , 長さと幅の間に関係があるかどうかを明らかにしようとしたと する . この場合 , ぼんやりとした全般的な印象としては , たとえば葉が長いほ ど幅も広いということがわかるかもしれないが , 幅の平均値と長さの平均値と を出してみても , 普通の度数分表図 ( 表 ) をそれぞれについて作ってみても , そ の関係の有無を具体的に明確にはできない . ところが , 葉を長さの順序にずっ