第 3 編論文の構成 47 てもし , ますます興味を感じたなら , また前の方をひっくり返す・・・というよう な読み方をすることが多い . このように , 摘要というものは非常に大切な役目 を持っているから論文には摘要を必す付けるようにすべきである . 摘要には何を書くか : 摘要には , イ ) 自分の得た新しい実験成績・結論を 書くのはもちろんであるが , それ以外でも , ロ ) およそ論文の中で扱った題目 のうちのおもなものは落とさずに載せる ( 論文の中の項目のうちただーっだけ しか興味を持たない人がいたとしても , きちんとその人の目にとまらせるため に ). また , ハ ) 実験材料・方法をもごく簡潔に述べ , ニ ) どんな点を論議の 中心にしたかも書くようにする . 摘要の表現 : 摘要はできるだけ ( 1 ) , ( 2 ) , ( 3 ) , ・・・と個条書きに論文の すべての要点を簡単に書く . その文章は特別によく練って , 読みやすく , わか りやすく書き , 回り遠い , あいまいな表現のないよう注意し , 短いながらも読 みごたえがあるように書く . 摘要がよく書けていると , 読者がノートやカード にその論文の抜き書きをするのに , 摘要をそのまま写すだけでまにあうことが 少なくないから , それだけ読者の時間と労力の節約にもなる . 摘要の書き方を練習するには , 抄録雑誌の中の抄録や他人の論文の摘要をで きるだけたくさん読んで目を肥やし , よく書けているものとそうでないものと の区別判断がつくようにする . 摘要の長さ : 摘要はあまり長過ぎてはいけない . 雑誌によっては , 摘要は全文の何 分の 1 以下とその長さを制限しているものもあるほどで , 摘要がくどく長たらしくて , 摘要の摘要がほしくなるようなのは感心しない . ただし , 日本語論文には欧文抄録を付 この場合は , 外国人の読者はほとんど日本語を読めないことを考え けることが多いが , に入れて , 摘要を普通よりも少し長く , くわしく書いてもよい . 非常に短いものや簡単な資料や分類学論文などでは摘要を略すことがある . 反対に , 論 文が長くて内容が複雑な場合には本文中の適当な区分ごとに摘要を付けることがある . ただしこの場合でも , 論文の最後には必ず改めて全体としての摘要を書くべきである . なお , 摘要を本文の後に付ける代わりに , 本文の前に載せる規定の雑誌もある . 32. 脚注脚注は , 論旨を進めていく途中で , その主流には直接大きな関 係はないが参考になることがらとか特に興味を持つ読者のための説明とか , 本文の中でくわしく説明していては論文の筋が混乱するとかいう場合に付ける , = ロ
第 4 編文章論 章にすることを心がけるべきである . " どうせ日本人が書いたのだから , 少し ぐらい誤りがあっても判読してくれるだろう . 仕事さえしつかりしたものであ れば・・・ ' とあまえた気持になってはいけない . 読者の方では , そんなことを 考えてくれるどころか , 正しく書けていてあたりまえで , しかも反対に , 文章 のちょっとした誤りから著者のセンスを疑ったり仕事そのものを割り引きする ことさえあるのである . 考えてみればとても損な話であるが . 日本人が外国語 で仕事を発表しようとする以上は , こうした不利な点は初めから覚悟してかか らなければならない . 我流に書き流したものをしつかりした専門家にも外国人にも見せないで軽々 しく発表することは労して効がないばかりでなく , ひいては自分の属する研究 機関の名誉に関する場合もある . 46. 文範とその利用科学論文には , いろいろの種類の論文一般に通ずる決 まり文句や , ある特定の専門分野で通用する慣用の言いまわしなどが少なくな こういうものは , 欧語について不利な立場にあるわれわれが苦心して作文 するよりも , その国語を用いる国の一流のしかるべき学者の書いた物から文範 を求め , それにならうのも賢明なやり方である . 一般的なしかも小さい問題 で , 文法書や普通の辞典にも書いてなくてどう書いてよいか判断のつきかねる ことがあるが , この場合にも上記のような文範がそれを解決してくれることが よくある . もちろん , どこの国の学者でも論文を書く時に文法上の誤りが絶無 であるとは言えないだろうが , 多くの文範をいろいろ集めて比較検討し , 不審 な点は辞書をひいたり , 指導者や先輩に聞いたりする手数を惜しまなければ , だんだんと目が肥えてきて , 適当な文範だけを選び集めるようになるものであ る . また , ある一つのことの英語の表し方が人によっていろいろ相違することが ある . たとえば "Kingsley の方法 , " "Lane と Eynon の方法 " のことを英 語で書くのに下のようないろいろの表し方がある . Kingsley's method The KingsIey method The method of KingsIey Lane—Eynon's method
第 4 編文草論 65 者か信頼できる先輩かに頼んで , 自分の研究している方面に関係の深い欧米人の中から よい論文を正しい文章で書く学者を選んでもらい , その人の論文については特別ていね いに縦からも横からもその文章を解剖してカードに記入するようにするのが良策である . 私は上海の任地で , 自分の専門に関係の深い学者の中からアメリカの G. H. Parker 教 授を選んでその人の英語を縦横に解剖し , 4 ~ 5 年の間にそれから得た文範だけでも数 百件以上に達した . そのころ , 恩師谷津直秀教授が上海に立ち寄られた時に , いくつか の引き出しに納めた文範カードをお見せしたら , "Parker とはよい人を選びましたね . あの人の英語は実によい . 君の実行している方法も非常によい . ' とほめられ , 大いに面 目をほどこしたことがあった . よい論文は読んでいく途中であちらこちらにひっかかる ことがなく , なんとなく気持よく感ずるものである . そういう論文から文範を取るよう にすればまちがいがない このような方法を忠実に続けた結果 , 上海在任の十数年間に 文範カードは 4 っ引き出しのカードに一ばいになった . ある項目のカードがある程度た まると , それらをまた再整理してあとで参照しやすいようにし ( 転記の場合に書きまち がいのないよう注意するのはもちろん ) , また Parker の文範だけには特別の印を付けて こまでくると , 英文を綴るのに必要な言いまわしとか用語とかが各項目ごと おいた . に非常に豊富に集まり , あまり辞書をひかなくても十分にまにあうようになってくる . 47. 実験のプロトコールを初めから欧文で書く練習研究報告をある一つの 欧語で発表しようとする時は , 最初からその欧語を用いて実験の記録をつける のも一つの方法である . 私は大学を出てからあと現在に至るまでずっとこの方 法を実行し , また他人にも勧めてきたのであるが , それが欧語論文を書く最良 の方法であるかどうかは別問題として , 以下にそれを具体的に説明して読者の 参考に供しようと思う . 実験の記録はその方面での決まり文句が多いから , それに関係した英米人の 文献を読む時に , 前々から心がけておけば , 必要な言葉を覚え込むことはあま り困難ではない . もしも思い出せない言葉があったら , そこだけをローマ字で 書いてアンダーラインを引いておき , 英語のあいまいな部分にもアンダーライ ンしてあとで調べるとよい . とにかく , ノートに漢字やかなを 1 字も書かない ようにすること . この方針をかたく守り続けると , ノートに書いた自分の英語 の自信のない部分やわからない部分がいつも気になっていて , 少しばかりのひ まがあるとすぐ辞書や文法の本をひくようになるものである . さて , だんだん と実験が進むにつれ一群の実験結果をまとめる段階になり , ある程度の結論を
124 第 6 編図 表 第 8 表数値に標準誤差を付記した例 INDEX OF REACTION 士 STANDARD ERROR DAYS STARVED AND DESICCATED 0 1 2 3 4 5 Unop erated No. of Tests 5 5 5 5 5 5 MaxiIIary Palpectomize 75 67 43 ー 38 ー 73 ー 91 + 2.9 士 3. 1 + 3.0 + 9.8 + 1.4 + 1. 1 70 56 11 ー 40 ー 91 ー 84 士 1.1 + 2.5 + 4.9 士 9.4 士 6.9 + 1.0 No. of Tests 5 5 5 5 5 5 とする場合には , 次のような印刷形式を採ることを勧めたい . を忘れないこと ( 日本人はよくこれを忘れる ). 見出しの後には点を付けない . ポ小文字を使う ( 第 6 , 7 , 8 表 ). ただし , 小見出しの第 1 語の先頭は大文字にすること 必要のある時は , 大見出しには 6 ボの大文字かスモールキャヒ。タルを , 小見出しには 6 ( 4 ) 表の中の見出し語 : 欧文の表の中の大見出しと小見出しとを活字で区別する の形式を勧める ). ともすれば , 表だけがどぎつく目立ち過ぎるのと , 少しでも不要の手数を省く意味で上 を付けない ( 太線や二本線を使ったり , 両側に縦線を付ける形式も広く行われているが , ( 3 ) 一番外側の線 : 表の一番上と下とに細い横線を 1 本ずっ引き , 両横には縦線 て補うようにする . 実験条件や注意事項なども , 表題の下でなしに , 表の下端に書く . 表題が長くなり過ぎる時は , 題を適当に簡単にし , あとは注の形で表の一番下に説明し 第 1 語と固有名詞だけを大文字で始め , ほかは全部小文字にし , 最後に点を付けない . 番号と表題を上下別々の行に書くのと , どちらがよいとも決めにくい . 表題 ( 英文 ) は 欧文の場合には , 表の番号と表題を同一行にするのと ( 表の番号の後には点を付ける ) , ことが多い . むから , 表の番号と表題とを上下別々の行に書くと , スペースがあき過ぎた感じになる あけて表題を書く ( 終わりに点を付けす ). 日本語では表題は欧文よりも長さが短くて済 日本文の場合には , 表の番号を第何表と書き ( 終わりに点を付けず ) , そのあと 1 字分 文ともに表の場合は上方中央部に , 図の場合は下方中央部におくことが多い . ( 2 ) 表題と番号 : 番号と表題の位置は雑誌によっても異なるが , 一般に邦文 , 欧 である . てあるのは , 欧文報告で一番普通に用いられる本文活字 10 ボか 11 ポを標準にした場合 関係ではもっと小さい活字を使ってもよい . 以下に書いてある中で活字の大きさを示し には表は 7 ボか 8 ポ , 本文 10 ボの場合には表は 8 ポ , 前にも書いたように , スペースの 文 10 ポまたは 11 ポ ( ポはポイントの略 ) の場合には表は 8 ポ , 和文で本文 9 ボの場合 ( 1 ) 活字の大きさ : 表には本文よりも小さい活字を使う . 欧文で一番普通の , 本
第 4 編文章論 55 36. 論文の最初の下書き論文の最初の下書きをする時は , まず書くべき内 容・順序や見出しの文句など , いわば論文の骨組み一覧といったものを別紙に 書き連ね , それを書いたり消したりしながら構想を練り , だいたい大綱が決定 したら , それを見ながら書き始める . 論文の最初の下書きの時には載せたいと 思う項目の要点を残らず収録する . 記述にあたっては記載の正確と文章の明確 ということに主眼をおき , 言いまわしや構文の簡潔さとか技巧などにはあまり こだわらない方がよい . 書いていく途中で , もっと細かい見出しを新たに付けたり , 見出しの文句を 変えたりする . また , 各区分の話題の軽重を考えて比較検討し , 大小の各見出 しが合理的になっているかどうかを十分に吟味し , 論理的にみて同等 (coordi- nate) のものには同格の見出しを用い , 従属的 (subordinate) のものには , 段低い区分・見出しを付け , またはもう一方を格上げしたりする . このようにして , 内容の区分・見出しを別紙に書き出すということは , 論文 を最後的な形にまで訂正・改善してゆくためにも , また論文をだれかに校閲ま たは批評してもらう時にもぜひ必要であり , 雑誌に印刷する時に内容目次が付 くと付かないとにかかわらす , 原稿を書く場合には必ず実行しなければならな い重要なことである . 37. 原稿の読み返し・練り直し論文の最初の下書きができあがったら , そ れを直す . 原稿の修正はただ 1 度だけでなく , 6 回も 7 回もやらなくてはよい 論文にならないのが普通である . 原稿を読み返して直すのにも , 論文の構成・ 区分がきちんとしているかとか , 行文が十分簡潔であるかとか , 句読点や印刷 形式についてとか目のつけどころがいろいろあるが , 一度にいろいろな点に着 目せず , 最初の回には主としてある点 1 つにだけ着目し , 次の回には別なある 1 点を中心に直す方がよい . 論文を練り直す場合は声を出して読んでみるのも 一法である . 声を出して読んで耳ざわりの個所があったら , たいていは書き方 がおかしいからだと思い , そこを直すことを考えてみる . 訂正には行の間や用 紙の四周を使い , 字をていねいにはっきり書く . 自分が書いて自分が読むのだ からといって , 小さく走り書きしてはいけない . きちんと書いておくとあとで
150 第 7 編特殊事項の表示形式 1800520 , 32423 1 800 520 , 32423 独 1 800 520 , 324 23 へ ) ローマ数字 : ローマ数字 ( I , Ⅱ , Ⅲ , ・・・ ) はできるだけ使わないようにする . 93. 有効数字と誤差実験観測などで得た数値の多くは実験誤差の伴った近 似値である ( 6 , 12 ). だから , たとえば 2.7 m という結果を得た時 , これを 2 で割ったものを書く場合 1.3500 m などと多くの数字を並べても , 終わりの方 の数字は無意味であって , 有効数字だけを書くことを原則とすべきである . た とえば , “ 150 万”という数字は厳密には , 有効数字の多少によって 1. 5x 105 15 x 105 150 x 104 1500 x 103 15000 x 102 150000 x 101 1500000 1 1 / 2 x 105 など種々の書き方がある . 希釈倍数 1500000 倍とか細菌数 435329 個のように 有効数字におかまいなしに , ただ数字を不用意に並べるのなどは不見識である . 測定値などには , 20.5 士 0.21 などと誤差を付記することが多いが , それが 標準誤差であるか確率誤差であるか読者にわかるように明記しておくべきであ る ( 第 8 表 ). 94. 英文中の数の表し方英文の中で数を文字で書くべきか数字で書くべき かについては下に述べるような規則がある . しかし実際上は , 数字で書くべき か文字にすべきか迷うことが多いが , どうしても判断がつかない時は文字で書 いておく方が安全である . 数字の使い方は一つの論文の中では統一されていなければならない . 同じ論 文のある所では文字で書き , ほかの所では同じことを数字で表すというような ことをしてはならない . ( 1 ) 数を文字で書くべき場合 : 次のような場合には数は文字で書き表す . イ ) 明確でない値 , 概略の数や一般的に用いられる数 : three times about tWO hours one hundred years ago ロ ) 文の初めに数がくる場合 : Thirty-two ml of the solution was added. ( なるべくならば数が文の最初にならないよう文章を作り直すべきである . )
130 第 6 編図 表 て削り取ったあと , または白紙をそこにはり付けた上に描き直す . ごく小部分 の加筆には製図用の細ペン (crow-quill pen) を使う . これらの修正をするに は , 拡大鏡 ( 台と柄の付いたものがよい ) を用いると便利である . すっかり墨入れが終わったら , 墨入れした細線などをだめにしないよう注意 しながら柔らかい消しゴムで不要部分を消す ( 消し残しのないようによく注意 すること ). ( 注 ) 図の製版にはほとんど凸版が用いられるようになった . 製版用の下 絵を版下または原図とよんでいる . ケント紙の代わりに半透明のトレーシングペーパー を用いるとペンのすべりもよく , 原図を清書するのに便利である . 82. 図に書き入れる文字・数字 : 図に書き入れる文字・数字とか記号など は , まずいとせつかくの図をむだにしてしまう ( 第 4 , 5 , 11 , 12 , 14 , 16 図参照 ). ( 1 ) 一般的注意 : イ ) 文字の大きさや体裁は一つの論文全体を通して統一し , て いねいに書く . ロ ) 学術論文では , 図に入れる文字・数字をひどく図案化したり , きどった字体にす る必要はなく , むしろ平凡なのがよい . また , 字の部分にあまり太い細いの差をつけず , 同じような太さにする . ハ ) 図の中に入れる文字の大きさ・太さは製版する時の図の縮小率を考えに入れて決 める . ニ ) 図の番号を図の中に入れる場合には図の右下にする例が一番多い ホ ) 写真などの黒い部分に文字を入れるには白インクを使うか , 文字を印刷した紙片 をはり付ける . へ ) 図の内部に文字を入れたくない時は , 点線によって図の外部まで導き , そこに文 字を書く . この時の点または短線は一つ一つ同じ調子でゆっくりていねいに , しかも細 過ぎず小さ過ぎず密過ぎないように注意して描く . 写真の黒い部分に線を引く時は白イ ンクを使う . ト ) 拡大率・縮小率については参照 . ( 2 ) 手で書き入れる場合の注意 : 88 ( 3 ) に書いてあることを参照されたい . ( 3 ) 印刷した文字を図にはり付けること : 文字を手で書く代わりに , 特別に印刷 またはタイプしたのをはり付けてもよい . また , 白紙に印刷した欧文の出版広告などの 中から適当なものを切り取って使うことができる . ( 注 ) 最近ではこれらの目的のため に種々の大ぎさの数字 , あるいはアルファベット文字が市販されている . 裏側に糊がつ いているため , 切り取ってはり付けるもの ( タイプトーン ) , あるいは , うつし絵のよう に上からこすりつければよいもの ( インスタントレタリング ) などがある . 写真にはり付ける時は , 文字のまわりの白い部分がはっきり印刷に出るから , すべて
( 1 ) 日本文の中ではできるだけ日本語で表現し , むやみに外国語を使わないように する . ( 2 ) 術語には必要があれば最初の 1 回だけ英・独・仏・ラテン語などを書き添えて もよいが , 2 回目からは書き添えない . ( 3 ) 日本で普通に使われている外来語・外国地名・国名などはかたかなで書く ( 例 : インク , ドイツ語 , スペクトル ). かなの書き方は全文を通じて統一する ( 例 : シベリア とシベリヤ , イタリアとイタリヤなどを混用しないこと ). また , 平易な漢字があてられ 広く一般に用いられているものは漢字で書いてもよい ( 例 : 英国 ). ( 4 ) 外国人名はすべて原名のまま . ( 5 ) 動植物名については 98 , 99 を昭 ( 6 ) 外国語やローマ字が文の最初にくる場合には必ず大文字で始める . 文の途中に ある場合には , それそれの国語の習慣に従うこと . ・・ただし microscope という語の・・・・・・ [ 文の途中コ Microscope という語の起源は・・・・・・匸文の最初コ 寒波 ( co 旧 wave; Kältewelle, vague froide) というのは・・ るのだから , 外国人が読んでもおかしくないような , できるだけ完全無欠な文 して , いやしくも外国語で発表する場合には , 読者の対象はおもに外国人にあ 45. 正しい外国語研究報告を日本語で書くか外国語で書くかの問題は別と (B) 欧語論文 そろえておくことが望ましい . 頼できる出版社の国語辞書 ( 小型のもの ) および「広辞苑」 ( 第 2 版・岩波書店 ) などを 会刊 ) が基本となっている . しかし , 多くの辞書はその内容を採り入れているので , 信 参考国語表記については , 文化庁国語課監修「国語表記実務提要」 ( 帝国地方行政学 あう ) , なるべく小さい , いつでも気軽にひける , そしてひきよいものがよい・ る . ただし , これは大きいものの必要はなく ( 大きいものは古い辞典でもまに れらの新しい問題についての説明書を少なくとも 1 種は持っているべきであ 普及し , それにつれて送りがな法やかなづかいも変わってきたから ( 40 ) , そ についてはここに改めて紹介する必要はないであろう . ただ最近は当用漢字が 44. 辞書・参考書日本語についてのもの , 特に以前から普及しているもの 第 4 編文章論 アンモニア溶液・アルコール・石油 43. 日本文中の欧字・外国語 例 : 61
第 4 編文章論 34. 論文の文章に関する根本要件論文の用語・文体に関して根本的に大切 な原則は日本文でも欧文でも変わりはない . ( 1 ) 明確 : 論文の文章はまず第一に明確であることを要する . 自分の 言おうとしていることが正確にそのとおりに読者に了解されなければ論文を書 く目的は達せられない . 文章の明確を期するにはまず自分の考えをはっきりさ せなければならない . 明確な文章は明確な考えから生まれ , 混乱した文章は混 乱した考えから出てくるものである . それにははっきり物事を考えるカ・習慣 をふだんから身に着けておかなければならない . もし , 文章を書いている時 , 自分ながら文体のあまりよくないことを感じたり , 少しおかしいと思う所があ るなら , 用語や言いまわしを変えてみる前に , 自分の書こうとしている考えを 吟味する必要がある . 考えをはっきりさせただけで文体もすっきりすることが よくあるものである . 文章を明確にするための技術的な問題としては 綴り字・字画・送りがな・かなづかい 用語 ( 特にわずかな意味の違う同意語 ) 術語とその定義・説明 略字・記号 句読点法 構文・文脈 著者が論文中で使用する人称 , その他文法上の諸問題 など種々の点に十分注意し , 読み直さなければ意味のとりにくい所 , 文や語句 の意味のぼんやりとしている所 , あいまいな所 , 別の意味や 2 通りに解釈され る所 , 同じ語がすぐ近所で別の意味に使われていたりすることなどのないよう 注意しなければならない . ( 2 ) 簡潔 : 論文はその性質上ともすれば記述が長たらしく単調になり がちであるが , 明確ということのほかに表現の簡潔をも期すべきである . ただ 50
第 3 編論文の構成 て引用する . 31 姓名をローマ字で綴るのにヘポン式にするか日本式ローマ字にするかは著者 いったん科学論文に用いた以上はそ の自由である . ただし下に述べるように の綴り方を変えてはならない . また , どの欧語で論文を書く場合にも同じ綴り のを用い , たとえば英語で論文を書く時とフランス語で書く時とで綴りを変え てはいけない . 日本語論文にも , 抄録者やカード記入者に便利なように著者の ローマ字名と欧語の表題とを付記しておくべきである . イ ) 著者名をローマ字で書く時は , 名を先にし , 姓を後にする . 欧米人は , よく名は 頭文字だけにするが , 日本人の場合は名も略さずに書いた方がよい . というのは , 欧米 人には姓 (surname, family name) のほ力、に名 (given name' Christian name) が 2 つ ある場合が多いから , 両方の頭文字だけを姓の前に付けても , ほかの同姓の人とまちが えられる機会が少ないが , 日本人では 1 つしかないため混同されやすいからである . こと に普通に多くある佐藤・斎藤・佐々木などの姓の場合がそうである . ロ ) しかし , たとえ著者が名前も略さずに全部書いておいても , 抄録雑誌に載せるか カード作成の場合に頭文字だけにされることがあるので , やはり混同が起こる . それを 防ぐ方法は少なくとも 2 つある . 1 つは , たとえば友助というのを Tomosuke としない で T 。 m 。 suke のように 2 つに分けて書くやり方で , もう 1 つは , 要を Kaname とだけ しないで , その音読みの頭字をとって Kaname Y. とし , 英雄を Hideo E. とする方法 こうすれば混同の機会がずっと少なくなるが , 欧語で書く論文の文献表に日本 である . 語論文を載せたりする場合 , 引用者がうつかり普通のやり方でローマ字書きにすると , かえってまた混乱を生じる . このほかにも , いろいろ疑問・不都合の起こる場合もあり , この方法が一般に認められて広く実行されているというわけではない . ハ ) 日本人の姓名をローマ字で印刷する場合 , HIDEYOSHI TOYOTOMI などと 全部大文字にせず姓と名とをはっきり区別させるため , Hideyoshi TOYOTOMI HIDEYOSHI TOYOTOMI Hideyoshi TOYOTOMI のように書くこともあるが ( どの形式にするかは雑誌によって違う ) , これは必ずしも必 要なことではない . ( 2 ) 改姓・改名 : 科学論文を発表する時にいったん用いた著者の姓名お よびその綴りをみだりに変えるのは学界の習慣上許されない . 結婚などのため 改姓した場合には日本語では山中峯子 ( 旧姓高橋 ) などとすればよく , ローマ