. 2 分極電荷と電場 ついて , 直接に電場を計算することは気の遠くなるような話ではないか . 69 こでは微視的な尺度で変動している電場そのもの そこで頭を切りかえて , ではなく , それを巨視的な尺度で平均したものを考えていることに着目しよう . 前章で扱った導体の場合も , 実はそのような意味での電場を考えていたのであ る . 金属の中でも原子核のすぐ近くには , 非常に強い電場がいつも存在する . 導体の中には電場がないといったのは , このような微視的電場を多数の原子に わたって平均したときの話である . たとえば , 金属中に 1000 個の銅原子の列を 考えると , 原子の中にはいま述べたような微視的電場があるが , 平均としては 右端の原子と左端の原子とは同じ電位であって , どちら向きの電場もない , と いうことなのである . さて , 電場については重ね合せの法則が 成り立つ . すなわち , いろいろな電荷によ る電場は , それぞれの電荷からの電場をベ クトル的に合成すればよい . また , ある点 での電場は電荷に対する相対的位置により 定まる . このことから , 微視的双極子によ る微視的電場を計算して , 巨視的平均をと る ( 3 ー 6 図の A → B の経路 ) 代りに , 先 に微視的双極子を平均して電気分極を求 め , それが作る電場を考えてもよい (C → D の経路 ) ことになる . 次に , 電気分極が作る電場を求めよ う . いま , 誘電体の微小部分として電場の 方向に平行な辺をもつ直方体を考え , その 電気分極がであったとしよう . この直方 」 S 分極 ( b ) , 分極電荷 ( c ) の関係 3 ー 7 図微視的双極子 ( a ) , 電気 体部分の全電気双極子モーメントは , 定義式 ( 3.1 ) の右辺の分子であるから , 」レである ( 」は直方体の体積 ). これに対応する巨視的電荷として , 直方 体内に一様に等しい密度で分布する正負の電荷が , わずかにの方向にずれた
5.1 磁石と磁場 115 カ ( 5.1 ) が ' の積に比例していることは , 符号を含めて意味のある ' はいうまでもない . N 極同士や S 極同士ならば 4 > 0 で斥力を表わし , 極と S 極では ' < 0 となって引力を表わすのである . 基本法則 ( 5.1 ) から出発して , 静電場の理論と まったく平行した形で静磁場の議論を展開するこ とができる . すぐ後でそれを実行するが , その前 に電気と磁気との重要な相違点を指摘しておこ う . それは , 電気の場合には正の電荷と負の電荷 とは自由に分離できたのに対して , 磁気では正の 磁荷と負の磁荷とは必ず対になって存在し , 分離 できないということである . 2.1 で述べたよう に , 両端に正負の電荷がある導体を適当な方法で 分割すれば , 正に帯電した導体と負に帯電した導 体とに分けることができる ( 5 ー 3 図 , ( a ) ). しか し , 磁石を中央で 2 つに分割してもそれぞれが磁 5 ー 3 図導体電荷は分離で きる ( a ) が , 磁石の磁 石となってしまい , N 極だけ , S 極だけに分割す 荷は分離できない ( b ) ることができない . この様子は , 電気でいえば , 電気分極している誘電体と同じである 3.2 ). すなわち , 磁石の両極にあると 考えた磁荷は , 分極電荷に対応する分極磁荷とみなすべきものである . このことを微視的な立場からいうと , 電荷は一 e をもつ電子 , 十 e をもつ 陽子といった素粒子によって担われているが , 単独の磁荷をもっ素粒子は発見 されていない . そこで , 単独の磁荷は存在しないとして , 磁気の理論を展開す ることにする . 一方 , 電子 , 陽子 , 中性子など素粒子の中には磁気双極子モー メントをもつものがある . この章のまえがきに書いたように , 電荷をもつ粒子 の運動による電流は磁気の一原因となる . しかし , ' こでいう磁気モーメント は , 静止している素粒子がその固有の性質としてもっているものであって , れをスピン磁気モーメントという . その値は , それぞれの素粒子に固有のもの 十十十 導体 十十十 磁石
68 3. 誘電体 ロッシェル塩 ( NaK ( C4H406 ) ・ 4H20 ) , リン酸二水素カリウム (KH2P04), チ タン酸バリウム (BaTi03) などでは , ある温度範囲では電場をかけなくても電 気分極が存在する . このような物質を強誘電体 , 電場がないときの電気分極 を自発分極という . このようなことが起こるのは , 有極性分子のもつ電気双極 子がお互いの間の相互作用によってある特定の方向に向きをそろえるからであ る . 自発分極が生じない温度では , 強誘電体物質も常誘電体として振舞う . し かしその場合でも , 電気感受率の値が異常に大きいなどの特徴がある . 以下 では , 特に断らないかぎり常誘電体の場合を考えることにする . 3.2 分極電荷と電場 誘電体がある場合の静電場を考える筋道は , 2.1 の導体と同様である . 電場 の中にある誘電体には電気分極が誘起される . 一方 , 電場は電気双極子が作る 電場と外部電場とを合成したものである . つまり , 電場と電気分極とを連立さ せて解けばよい . 電気双極子勲 電気分極 微視的電場 E ーー平均化ーー 巨視的電場 E 分極電荷の 3 ー 6 図誘電体の電場を考える際の思考の流れ図 しかし , 上記の筋道に沿って計算を実行するのは容易ではない . 個々の電気 双極子が作る電場は , 1.7 の式 ( 1.37 ) で与えられているから , あとはそれを 合成するだけのことなのだが , それは大変な計算になる . というのは , たとえ ば 1 モルの物質中にはアポガドロ数 6 x 10 個の分子があり , それらの配置 は , 結晶ならばまだ簡単であるが , 気体や液体では非常に複雑である . しかも , 分子のもつ電気双極子の方向も , 一般にはそろっていない . このような配置に
3. 誘 電 体 72 Q, B には負電荷ー Q があると しよう . 極板の面積 S は十分に広 く , 端の効果は考えないものとす る . さて , 誘電体が入っても系の対 称性は変らないから , 電荷は士び の面密度で極板上に一様に分布す る . この電荷が作る外部電場は , これまで述べてきたように 誘電体 3 ー 13 図誘電体中の電場 である . 電気力線は極板に垂直に A から B へ向かい , 極板の間では電場は一 様である . 誘電体は電場の作用によって分極する . 電気分極も一様で , A → B の方向を向いている . このために , 図の誘電体の上面にはの = —P, 下面に は一の = P の面密度の分極電荷があると考えてよい . この分極電荷が作る電 気力線は , 図の下面から上面へと向かい , 電場は E' である . マイナス符号は , 分極による電場が分極自身を打ち消す方向に生じる ことを示している . この点を強調して , これを反電場ということもある . 全体 の電場は E = Ee 十 E' = Ee この電場によって生じるの式 ( 3.2 ) と連立させて E, P を で与えられる . 求めれば ( 3.4 ) 1 Ee 1 十 Xe 1 十 ( 3.5 ) XeE0
64 誘 電 体 電流を流さない絶縁体とされている物質は , 静電場を部分的に通すことから誘電体とよばれ る . 誘電体の中には電場により電気的な分極が 生じる . 一方 , 分極した電荷分布により電場が変る . この両者をつじっ まの合うように求めることが課題である . その議論の中で , 電束密度と いう新しい場が導入され , これによって見通しよく計算を進めることが できる . 新しい概念を恐れずに , どんどん使っていこう . 前の導体の章 とこの章で , 物質のある場合も含めて静電場の話は終りとなる . 3. 1 誘電体と電気分極 帯電した平行平板キャパシターの極板の間に , 極板とは絶縁されている導体 板を挿入すると , 電荷はそのまま維持されるが電位差はほとんど 0 となる ( 3 ー 1 図 ( a ) ). これは , 導体中には電場が入れないからである . 導体の代りに絶縁 体の板を挿入すると ( 図 (b)), 電位差はやはり減少するが , 0 にはならない . このことから , 電場は弱められてはいるが , 絶縁体の中に入りこんでいること がわかる . このように , 静電場を通すが電流は流れない性質をもつ物質を誘電 体 (dielectrics) という . 誘電体の中の電荷分布の様子を微視的に考えてみよう . 誘電体の中では , 電 子は原子核のまわりに束縛されている ( 3 ー 2 図 ( a ) ). 食塩 (NaCl) のように 英語の接頭語 di =dia は , ギリシャ語に由来し , through という意味である . この言 葉は , ファラデーが上記の意味で使いはじめた . そのまま訳せば電媒体ということになろ う .
66 3. 誘電体 [ 間 1 ] 正負の電荷中心のずれがェのとき , 電荷間の復原力が一であるとする . 電荷の大きさを 4 として電気双極子モーメントを求めよ . [ 答 : 力のつり合いから = . カ = クエ = 〆 E な ] 対称性の低い分子の中には , 化学結合の性質として , 電場がなくても電気双 極子をもつものもある . たとえば塩化水素や , 水 , 一酸化炭素 CO などの分子 は , い . 7 で述べたように , 電気双極子をもっ ( 1 ー 33 図 ). このような分子を有 極性分子という . [ 問 2 ] CO 分子の電気双極子モーメントの大きさはカ = 3. 3X10 ー 31Cm , c と 0 の距離はイ = 1.1 A である . 移った電荷を求めよ . [ 答 : ク = 力を = 3.0 x 10 ー 21 C = 1.9 x 10 ー 2 司 こうして , 原子的尺度で見れば , 電場のある誘電体中には電気双極 子が多数存在する . しかし , でわれわれに関心のあるのは , 巨 視的な尺度でならしてみたときの 誘電体の様子である . すなわち , 原子や分子を多数含む領域を考え て , この領域における電気双極子 モーメントの体積平均 3 ー 4 図誘電体の微視的電気双極子と電気分極 を導入し , これを電気分極という . その単位は である . 上式の川は微 視的な電気双極子モーメントで , 和は体積」の中にあるすべてのものについ てとる . この領域の寸法は , 原子の尺度に比べれば十分に大きいが , 人間の眼 から見れば小さいように選ぶことができる . 1 gm というと , 人間の感覚から見 ると非常に短い長さだが , その中には原子が数千個並んでいる . 平均をとる体 れ / 誘電体 ( 3.1 )
65 誘電体 3.1 誘電体と電気分極 V 0 3 ー 1 図導体 ( a ) と誘電体 ( b ) を挿入 したキャパシター 十 3 ー 2 図電場によるポーア 原子の分極 正負のイオンからなる結晶でも , イオンはぎっしりとつまって自由に動き回れ こに電場がかかると , 正電荷と負電荷 ないようになっている ( 3 ー 3 図 ( a ) ) . には逆向きの力が両者を引き離すようにはたらく . このため電荷は変位し , 両 者を引きもどす復原力とのカのつり合 いによって , 新しい配置に落ちつく . こうして , 原子や分子では電子の電荷 の中心と正電荷の中心とがずれて , 全 体としては中性であっても , 電気双極 子モーメントをもつようになる ( 3 ー 2 図 ( b ) ). また , イオン結晶では , たと えば負電荷のまわりの正電荷の配置が 対称でなくなるために , やはり電気双 極子が作られる ( 3 ー 3 図 ( b ) ). 十 E=O 十 3 ー 3 図 十 イオン結晶のイオン変位に よる分極 . 隣接負イオンの 重心は x 印の点にある ( b ).
3.1 誘電体と電気分極 積の中心を表わす r を巨視的尺度で変化させてい くと , 一般にはの値は変化する . この意味で電気 分極の場 P(r) を考える . 電場があってはじめて電気双極子が生じるような 場合には , E が小さければ , は E に比例する . また , 有極性分子を含む誘電体においても , 電場が なければ熱運動によって電気双極子モーメントの方 向はまったくでたらめとなり , = 0 である . 電場 があると , い . 7 の式 ( 1.39 ) のように電気双極子を その方向に向けるようにトルクがはたらき , やはり はに比例する . これら 2 つの場合のように = ど OE ( 3.2 ) 67 E = 0 , = 0 誘電体の分極 ( b ) 3 ー 5 図電場方向への と表わされる誘電体を常誘電体という . ギリシャ文 字 % ( カイ ) を用いて表わした比例係数を電気感受 率という . をわざわざ書き出して定義してあるので , は次元をもたない数 である . は誘電体の性質を表わす物質定数であって , 物質の種類や温度など の状態によって定まる . いくつかの物質のの値を 3 ー 1 表に示した . ( 相対誘電率 x = 1 + である . * 印は強誘電体である ) 3 ー 1 表種々の物質の室温における電気感受率 酸素 窒素 二酸化炭素 ヘリウム のくン・・ビン 水 4.9 x 10 ー 4 5.5 x 10 ー 4 9.2 x 10 ー 4 6.5 x 1 『 5 工チノレアノレコーノレ 岩塩 けい素 石英ガラス チタン酸バリウム * ロッシェノレ塩 . * 3.0 約 5000 約 4000 24.1 4.9 10.7 2.5 [ 問 3 ] 水に E= 1.0 x 104V / m の電場をかけた . 電気分極を求めよ . 1.3 79.4 [ 答 : 3 ー 1 表から = 79 を用いて , P = 7.0X1 『 6C / m2 ]
85 題 1. 2 枚の導体板を平行に配置し , 電荷士 Q を与えた . Q = 3 ″ C のとき , / = 200 V であった . 導体板間に誘電体を入れると , に = 40V になった . (a ) 誘電体の相対誘電率を求めよ . (b) 電気感受率を求めよ . (c) 誘電体を入れる前後の電気容量を求めよ . 2. 半径 2 の誘電体の球内に一様な密度で電荷クが分布している . 誘電率をとす る . 球の中心からの距離の位置での , (a) 電束密度 D , (b) 電場 E, ( c ) 電 位 , ( d ) 電気分極 P, を求めよ . 3. 問題 2 において , 半径の球面内にある分極電荷 Qp を求めよ . 4. 、行板極板の間に誘電率厚さェ , と誘電率 E2, さ d ーエの 2 種類の誘電体を入れたキャパシタ ーがある . 極板の面積を S として , 電気容量を求め よ . 5 問題 4 の極板に電荷士 Q を与えた . 2 つの誘電 体の境界面に生じる分極電荷面密度を求めよ . ま た , この面にはたらく力を求めよ . 3 ー 22 図 6. 半径わの薄い同軸円筒殼導体 A , B がある . A と B の中間は誘電率の誘電体で埋められ , 他は真空である . 軸に沿って線密度 応の電荷 , A には単位長あたりスの電荷がある . B には電荷を与えていない . 軸か らの距離を p とする . (a) 電束密度 D(p) を求めよ . ( b ) 電場 E(p) を求めよ . ( c ) A, B の電位差ーを求めよ . (d) A, B の内側面 , 外側面の単位長あたりの電荷 (e) A と B を導線で結んだ後の A , B の単位長あた A S 6 ど 0 を求めよ . 3 ー 23 図
3.2 分極電荷と電場 以上の話の筋道から明らかなよう に , 分極電荷は実在する電荷ではな く , 計算の便宜上導入した仮想的な ものである . 本当に存在するものは 微視的な電気双極子の集団である . だから , 分極電荷を誘電体から切り 離して別の場所へ運ぶことはできな い . 一様に分極している誘電体の棒 3 ー 11 図誘電体を切断しても分極電荷は 分離できない . を分極に垂直な断面で 2 つに分けた とすると , おのおのの部分が分極しているから , 断面には分極電荷が現われる ( 3 ー 11 図 ). これに対して , 静電誘導を起こしている導体棒を 2 つに分けると , 正の電荷と負の電荷を分離することができる . これらのことをよく理解した上 で誘電体が作る電場を計算する手段として使えば ( 3 ー 6 図の E ー F ) , 分極電荷 はとても便利な概念である . 電気分極が一様であれば , 分極電 荷は誘電体の内部では打ち消し合 い , 結局表面にのみ現われる . しか し , 電気分極が巨視的な尺度で場所 十 によって変化していると , 誘電体内 3 ー 12 図一様でない電気分極と分極電荷 部にも分極電荷が残る . 3 ー 12 図の ように , 右側の直方体と左側の直方体とで P の大きさが異なるとしよう . 2 つ の直方体の境界面では , 右側から考えるとの = —P', 左側から考えるとの = P の面密度の分極電荷があることになる . したがって , 差引き」の = ー P)AS の電荷がこの面に存在する . 直方体の一方 , たとえば右が真空であっ たとすると , 境界面は誘電体の表面となる . に = 0 であるからの = P の分 極電荷が現われる . これまで考えてきたことを , 平行平板キャパシターの極板の間を誘電体が満 たしている場合について応用してみよう . 3 ー 13 図のように , 極板 A には正電荷 71 十十十 2 十十十 十十十 十 十