5 原子構造と量子論 124 2 応 というとびとびの値しかとりえない , とポーアは考えた . んはプランク定数で ある ( プランク定数の単位 J ・ s = kg ・ m2 ・ s ー 1 は角運動量の単位と一致することに 注意 ). 整数れを量子数 (quantum number) とよぶ . ポーアの量子論は , 量子 化条件 ( 5.21 ) を満足する軌道上を電子が運動しているかぎり , 電磁波の放出・ 吸収はおこらないと仮定する . この運動状態が 5 ー 1 節で述べた定常状態である . 実際 , ( 5.21 ) を ( 5.19 ) に代入すると , 定常状態の軌道半径はれ鳬 B に等しい とがわかる . ただし , aB は ( 5. 1 ) であたえられるポーア半径である . ( 5.21 ) を ( 5.20 ) に代入して , 定常状態のエネルギー また , 1 En & 02 ん 2 がえられる . これが水素原子中の電子のエネルギー準位ということになる . 調 和振動子のエネルギー準位は等間隔であったが , ( 5.22 ) はそうでない ( 図 5 ー 8 ). ど > 0 ( 5.21 ) れ = 1 , 2 , 3 , ・ 4 ( 5.22 ) 2 ど = 0 / ヾ丿レマーー 系列 ライ - マン 系列 E く 0 図 5 ー 8 水素原子中 の電子のエネルギ ー準位 . ポーアの量「・論は , 電磁波の放出または吸収は , 電子がある定常状態から別 の定常状態へ遷移をおこなうときにおこると考える . いまが > 〃として , 量子 数がの定常状態から量子数れの定常状態へ電子が遷移し , これにともなって
5 原子構造と量子論 EO ん 2 ( = 0.5292 A) かりにん→ 0 とすれば衂→ 0 となり , 原子はつぶれてしまう . とびとびの軌道半径れ B ( 〃 = 1 , 2 , 3 , ・・・ ) をもっ運動状態をポーアは定常状態 (stationary state) とよび , 定常状態にある電子は電磁波の放出・吸収をおこな わないと仮定した . しかし , 電子はある定常状態から別の定常状態へ偶発的・ 不連続的にとび移ることがあると考え , これを遷移 ( transiti 。 n ) とよんだ . 電磁 波の放出・吸収は遷移にともなっておこる . 一見身勝手な仮設であるが , エネルギー準位 , 定常状態 , 遷移は , いずれも 本格的な量子力学の中に生き残る重要な基本概念である . しかし , 一方では軌 ートンカ学を使うという点では , ポーアの量子 道概念を残し , その計算に一 論は過渡期の理論であり , 前期量子論とよばれることもある . 5 ー 2 線散乱と原子構造 ラザフォードはラジウムの放射する夜線を厚さ 10 ー 7 m ぐらいの金のフォイ ルにあて , 散乱されてくる伐粒子の角度分布を計数管でしらべた ( 図 5 ー 2 ) . 大 部分の粒子は直進するか , 小角度だけ散乱されるが , 90 。以上の大角度散乱 されて逆もどりする粒子が 2 万分の 1 ぐらいあった . 114 ( 5. 1 ) CZB 2 金フォイル ラジウム 図 5 ー 2 線散乱の実験 .
5 ー 5 光の放出・吸収 の関係がある . とくに r = , つまりん = ( ん / 2 司のとき , 4 襯 e 気モーメントは ( 5.25 ) のあたえる磁 127 ( 5.26 ) に等しい . これをポーア・マグネトン (Bohr magneton) とよぶ . ー 1. 陽子を固定したカの中心と考えずに , その位置べクトル rp と電子の位置べクトル 本物の磁性理論は , 量子論の出現によってはしめて可能になったのである . 質を荷電粒子の運ぶミクロな電流で説明しようとする試みは古くからあったが , かりにん→ 0 とすれば→ 0 であることに注意しておこう . 物質の磁気的性 me 十襯 {襯すe + mprp}, 1 re にたいする運動方程式を書け . で定義される重心および相対位置べクトルの運動方程式を導け . ( 5.22 ) はどのように修 5 ー 5 光の放出・吸収 ヒント : 前題の結果を利用せよ . 2. 水素原子 ( H ) と重水素原子 ( D ) とで , リュードベリ定数はどれだけちがうか ? 正されるか ? 基底状態にある電子を励起状態へ励起するためには , 光で照射したり他の高速 状態にとどまっている . その意味で基底状態の寿命 ( life time ) は無限大である . 基底状態にある電子は安定で , 電磁波を放出することなく , いつまでもこの 常状態へ遷移させることを , 電子を励起 ( excite ) するという . の定常状態を励起状態 (excitedstate) とよふ . また , エネルギーのより高い定 ルギーのいちばん低いれ = 1 の定常状態を基底状態 ( gr 。 undstate ) とよび , れと 2 態は量子数〃で区別される ( 楕円軌道を考えると話がもっと複雑になる ). エネ 水素原子中の電子の場合 , 前節に述べた円軌道モデルを採用すれば , 定常状
た 6 シュレーディンガー方程式とエネルギー準位 189 この形に書いたシ = レーディンガー方程式は一般の力学系にたいして成立する のであって , としてその系のエネルギーをあらわすハミルトニアン演算子 を使えばよいのである . 前章で述べたとおり , E を定数として = は , 黻 ( 7.34 ) が定常状態をあらわす波動関数である . 確率をあたえる 2 = * = ゲいん ( 7.35 ) が時間をふくまないので , 定常状態という名称のふさわしいことがわかる . ( 7.34 ) を ( 7.33 ) に代入して , にたいする時間をふくまないシュレーディン ・ Et ガー方程式が得られる . 〃 95 = 壕 ( 7.36 ) ミルトニアン H の固有値 E にぞくする固有関数であり , 定常 つまり , はハ 状態 ( 7.34 ) にある系のエネルギーは確定値 E をもっているのである . つまり , ハミルトニアンの固有値が系のエネルギー準位をあたえる . ミルトニアンもそうであるが , 一般に物理量をあらわす演算子ハは線形 であることに注意しておこう . , を波動関数 , CI, を複素定数として ( 7.37 ) [ 解 ] c を 0 でない複素定数とすると , ( 7.37 ) により 例題 1 ( 7.25 ) の固有関数は定数因子だけ不定であることを示せ . が成立するのである . ( 1 十 2 ) = CI ハ 1 十 C2 2 的には区別する必要がない . ー 井戸型ポテンシャルシ、レーディンガー方程式 ( 7.36 ) の固有関数が指数関 べたとおり , 物と。とは同し量子力学的状態をあらわすのであって , 物理 となって , 可。も同し固有値にぞくする固有関数である . しかし , すでに述
167 6 ー 7 シュレーディンガー方程式の発見 がポーアの定常状態に対応する . 実際 ( 6.58 ) を ( 6.57 ) に代入し , E=h(D と書く と , d' は ( 6.59 ) 2 襯 を満足すべきことがわかる . 両辺に一 ( 2 襯 / が ) を掛けてみれば , ( 6.59 ) は時間 をふくまないシュレーディンガー方程式 ( 6.53 ) と同じものであることがわかる . 問題 1. U = 0 ( 自由粒子 ) の場合の定常状態をあらわす波動関数は複素平面波 ・ = れんェ + ん + 々ーのこ ) であり , 角振動数は ーー ( 2 十 2 十 2 ) であたえられることを確かめよ .
5 ー 4 ポーアの量子論 電磁波が放出されたとしよう . 放出される電磁波の振動数は , 1 12 う ( 5.23 ) であたえられる ( ポーアの振動数条件 ). これは光子という概念で考えた方がわ かりやすい . 遷移の前後で電子のエネルギーは E 。 , ー E ,. だけ減少するが , これ にちょうど等しいエネルギーんをもった光子が 1 個放出されると考えれば , 振動数ンは ( 5.23 ) であたえられることになる . 電子が量子数〃の定常状態から量子数がの定常状態に遷移し , これにとも なって電磁波の吸収がおこる場合にも , 吸収される電磁波の振動数は ( 5.23 ) で あたえられる . さて , ( 5. 23 ) に ( 5. 22 ) を代入し , & 02r ん 3 1.097X 107 m- ( 5. 24 ) とおけば , ( 5.17 ) と同し形が得られる . ( 5.24 ) はリュードベリ定数にたいする 理論式と見ることができる . 普遍定数の値を代入した火の理論値が ( 5.24 ) の 最右辺であって , 実験値と一致する . ポーアの量子論は , 水素原子の安定性と その線スペクトルの説明に成功したのである . 例題 1 電子が陽子を中心にポーア半径 aB で等速円運動しているとき , れにともなって流れる円電流の強さ / と , 円電流による磁気モーメントの大き さ〃 = て 2B2 / を求めよ . [ 解 ] 軌道半径 r , 公転周期レ。ー 1 で電子が円運動しているとする . 軌道に垂 直な断面を電荷ーにが毎秒ン回通過するから , 強さ / = の。の電流が電子の運 動と逆むきに流れているのと等価である . 電磁気学によると , この円電流の作 る磁場は , 磁気モーメントの大きさが = 2 / の双極子 ( 小磁石 ) の作る磁場と 遠方で一致する . 一方 , 電子の角運動量の大きさ ( 5.18 ) はん = 2 つ。〃耻 2 と書け るので ( 5.25 ) 2 襯
レーディンガー方程式の発見 ー▽ 2E 十 / 1 ö2E 02 Dt2 1 ö21 c2 at2 ー V21 = 0 1 ö2E つまり 02 Dt2 1 D2 の 6 ー 7 シュ c2 Dt2 となる . ー —V2E 1 ö2 の c2 at2 ー V2 の 単一の角振動数で振動する解に注目して とおく . ( 6.50 ) に代入し , た = 。と書くと V2 十た 2 の = 0 165 ( 6.51 ) ( 6.52 ) これは真空中の光波の場合である . 屈折率んの媒質中では真空中の光速度 c が でおきかえられるから , た = “なとなる . 前節で述べたように , この表式は んがゆるやかに空間変化していても使うことができる . さて , 光波の ( 6.52 ) に対応する物質波の方程式は , たとしてド・プローイの 表式 ( 6.39 ) を代人した形をもっと仮定しよう . 光波ののは , 既 ) に対応する物 質波の波動関数を , 既 ) と書くことにすると , は次の方程式を満足する と仮定するのである . 2 襯 ▽ ? 十一下 [ E ー U = 0 ( 6.53 ) これがエネルギー E の定常状態を記述する量子力学の基本方程式であって , 時 間をふくまないシュレーディンガー方程式とよばれる . この方程式によって系 のエネルギー準位を決定する実例は次章でいくつか示すが , とりあえず水素原 子の基底状態をあらわすを求めておこう . 水素原子中の電子にたいして ( 6.53 ) は 4 EO だ ( 6.54 ) の形である . 電子が座標原点近くに束縛されている状態をあらわすは , 距離 = な 2 十 / 十 2 ] 1 / 2 が大きくなったときに急激に 0 になるにちがいない . 境界条件を満足する簡単な関数として
5 ー 6 電子衝撃 5 ー 6 電子衝撃 151 基底状態にある水素原子を励起するには , 光照射の代りに電子衝撃を使うこ ともできる . たとえば , 図 5 ー 11 は陰極 c, 陽極 p, 希薄な水素気体をガラス 管に封入したものである . C を別のヒーターで熱すると , そこから蒸発した電 子が CP 間の電圧で加速され , p に到達したとき運動エネルギーにをも つ . 陽極に流れる電流 / を V の関数としてプロットすると , 図のように = 13.6V でグラフの勾配が急に変化する . 1 1 図 5 ー 11 水素原子の レ ( ポルト ) イオン化 . 13.6 V < 13.6V であれば , 陽極付近に達した電子が水素原子に衝突しても , これ をイオン化するだけのエネルギーは供給できない . V が 13.6V に達すれば , 電子は水素原子に衝突してこれをイオン化し , 自身の運動エネルギーはほとん ど 0 になるという過程が可能である . こうして生じた H + イオン ( 陽子 ) が陽極 付近にたまっている電子による負電荷を打ち消すために , 陽極電流が急に大き くなるのである . フランクーヘルツの実験これは電子衝突法を使って , したがって光励起法 とは独立に , 定常状態の存在を実証したものである . 図 5 ー 11 の陽極 p を , 電 子が通過できる網目状の陽極 PI と集電極 P2 とにおきかえたもので , c から蒸
212 静止質量 26 正準運動方程式 正準形式 59 正準変数 63 正常ゼーマン効果 54 , 292 生成演算子イ 02 , イ 78 制動放射 142 絶縁体 393 絶対温度 5 摂動論 30 イ , 引 0 , 引 0 64 線形演算子 227 遷移速度 323 遷移確率 137 , 320 遷移 114 セルフ・コンシステント ゼーマン効果 54 素粒子論 158 素粒子 15 の測定 素電荷 11 束縛状態 129 , 191 63 相空間 選択則 137 線スペクトル 占拠数 392 46 42 超微細相互作用 357 調和振動子 64 , 279 , 252 のエネルギー準位 直交条件 225 対消滅 , 対生成 26 193 3 イイ ゾンマーフェルトの量子化条件 タ行 134 多重散乱 148 多粒子系の波動関数 短距離カ 117 断熱近似 3 断熱ポテンシャル 断面積 117 中間状態 328 中心力場中の粒子 33 び 28 イ 367 中性子 超関数 長距離カ 13 , イ炻 2 イ 2 121 定常状態 114 , 189 , 2 イ 0 , 釦イ , 引 0 , イな と光子の相互作用ハミルトニアン 電子 2 電気双極子近似イ 05 電気 4 重極子遷移イ川 電荷保存則イ炻 展開係数 2 引 デルタ関数 187 , 2 引 97 デノくイ・モデル デバイーシェラー環 175 デバイ温度 108 デイラックの相対論的電子論 テイラックの記号 2 イ 8 D 線 357 定常波 91 295 電子場の量子化 電磁場の量子化 電磁場の熱振動 電磁場のエネルギー 電子配置 3 イ 9 電子波イ 22 電子スビン共鳴 電子衝撃 131 電子殻 3 イ 9 電子回折 171 周期場中の 磁場中の の生成 イ 0 イ 100 , 398 299 イ 20 398 84 3 ー 2 297 イ / 5 24 33 特殊相対論 同位体 12 伝播関数 3 引 電磁カ 14 電子ポルト
0 157 図 5 1 4 円運動の 2 兀 相平面表示 . = 0 は軌道半径が 0 , エネルギーは一一になってしまうので , これを除く必 要がある . ポーア理論の限界 ( 5.30 ) は前期量子論のいちばん基本的な公式であって , 古典力学で可能な運動のうちで , この条件式を満足するものだけが , 量子論に おける定常状態としてゆるされるのである . しかし , この量子化条件のも。と 深い意味はポーアの理論ではわからない . これと関連して , すでに述べたよう に , 電子を 2 個以上ふくむ原子の場合に量子化条件がどうなるかもわからない . 同じことは , 水素原子の場合でも , 双曲線軌道を運動する電子 ( 電子と陽子の 衝突 ) についていえる . しかし , ポーアの量子論のいちばん基本的な弱点は , 遷移を扱う組織的な理 論形式がないことである . 遷移は非古典的な概念であ。て , 遷移の途中で電子 がどんな軌道を描くかといった種類の質問は一切無用だとされる . ある時間内 に , 注目した遷移がどのくらいの確率でおこりうるかという遷移確率 (transi- tion probability ) だけが問題になる . 遷移確率が大きいほど , 遷移の際に放出 ( または吸収 ) される電磁波の強度は大きい . つまり , スペクトル線の振動数だ けでなくその強度まで知ろうとすると , 遷移確率の計算が必要になるが , その 方法がわからないのである . 前期量子論はいろいろ工夫を試みたのであるが , その説明は省略する . ただし , 選択則 (selectionrule) という概念だけは説明しておこう . ある遷移 は , 遷移確率が 0 であれば禁止 ( f 。 rbidden ) 遷移であるといい , そうでなけれ ば許容 ( a11 。 wed ) 遷移であるという . その判定をあたえる規則が選択則である .