中学時代 - みる会図書館


検索対象: ムーンヴォイスの奇跡
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1. ムーンヴォイスの奇跡

まだ苦しそうに息を整えている木根先生をちらりと見て、次いで一志を見上げた。 「木根先生は、保健室の先生だよ。うちは男子校ってだけじゃなくて、先生も徹底的に男ばっ かだから。保健室まで男の先生ー おおげさ 大袈裟に肩をすくめて言ってみる。一志は、ふうん、と興味無さそうにうなずくだけだっ ちょっと肩すかしな気持ちで首を傾げる。普通、徹底的な男の園って聞いたら条件反射で嫌 な気持ちにならないか ? というところまで考えて、ついさっきまで、オレは一志に告白の続きをされていたんだと思 い出した。 もしかして一志って、女嫌いだからオレのこと好きとか言ってんのか ? きやっか 「聖、いま考えてること却下ー 低い不機嫌な声で一志が言う。 オレははっと顔を上げた。口をぎゅっと結んで、悔しいのを椹える。 ここにきてやっと、一志が中学時代からオレにさんざんしてきたことを思い出した。 「一志つ、おまえオレが何考えてるか、表情見て読むの止めろって、中学時代からずーっと言 てるだろっ」 くや こら

2. ムーンヴォイスの奇跡

夢の中では、ここに知らない生徒がいたんだよな : ・。 すみ 構える気持ちの隅で、今朝の夢を思い返す。 どうせ呼び出しをされるなら、一志よりまったく知らない人の方が気分的に楽だった。 意気地のないことを考えながら、オレは一志の近くまで行く。 一志が、どう見ても乗り気じゃないオレの顔を見下ろして、軽くため息をついた。 「俺に会いたくなかった、って顔してるな。聖 「そ、・ : いうんじゃないけど 慌てて顔を上げる。だけど、次の言葉が出てこない。 くちびる オレは唇に指をあてて、困惑した気持ちのまま黙り込んだ。 新学期早々、オレをこんな人気の無い場所に呼び出した新入生の高籏一志は、実は都内に住 んでた中学の時代の後輩・ : っていうか、年下の友達ってやつだ。 だけど、そんな中学生の友人関係は、オレが去年、この蒼林学園高等学校に入学して途切れ たと思ってた。だって、この高校とオレ達の通ってた都内の中学は、新幹線で二時間弱離れた 場所にあるんだ。 おんしんふつう 引っ越しを機に、遠くの高校に進学して一年も経ったら、中学の友達はたいてい音信不通に こんわく

3. ムーンヴォイスの奇跡

思いきり言っても、一志はしみじみと嫌だ、という顔をするだけだ。 なんなんだよ、こいっ ! と思うのと同時に、さっき男の子がオレの考えてることを言い当 てたのも、これのせいだったのかと思う。 オレって、考えてることの大半は顔に出ちゃうらしいんだ。 気が付かない人は気が付かないらしいんだけど。カンが良くてつきあいが長いャツが相手だ と、手に取るように解ってしまうらしい 自分でもマズイよなー、と思う。でも、それをいちいち言い当てられるのって腹がたつ。 中学時代、一志は確かに一番の友達だった。でもこの件ではしよっちゅうケンカしていた。 中学生活の最後に、一志からの「告白」なんて、インパクトの強いことをされてしまったば つかりに、今の今まで忘れていたみたいだ。 跡もしかしたら、一志との思い出は美しいままで終わらせてしまおう、って無意識に決めてか の かっていたのかもしれない。 ス オでも、思い出しちゃったものは思い出しちゃったしなー ヴ ンオレは、むーっと顔をしかめて一志を睨みつけた。 ム 一志が、軽くバカにしたようなため息をつく。腕を組んでオレを見下ろした。 「多分俺のこと、女嫌いなのかな、とか思ってたんだろうけど。そんな簡単に理由付けて逃げ にら

4. ムーンヴォイスの奇跡

なる。一志だって、ここ一年まったく連絡を取ってなかった。 それなのに オレは黙り込んだまま、ちらりと目を上げて一志を見た。 遠目で見た時も思ったけど、一志は背が伸びて大人っぽい外見になっている。 もともと、一志の顔つて造形の・ハランスが良すぎて、冷たそうに見えるってタイプで。本人 はめちゃくちゃ嫌がってたけど、中学時代は美少年っていう古風な形容詞がびったりな外見だ それが今はすらりと身長が伸び、キレイな顔立ちとのバランスが完璧になっている。ルック スと年齢が似合ってきた感じだ。 たった一年で、こんなに大人っぽくなっちゃうんだなあ : ・。 かんがい 跡オレは感慨深い気持ちと一緒に、一年経っても中学生の時とほとんど変わらない外見の自分 のを顧みた。 イ 時間が経てば勝手に伸びると思っていた身長は一七〇弱で伸び悩み、カッコイイとは絶対形 どうがん ヴ ン容してもらえない童顔もそのままだ。 ム一年前、似たような外見をしていた一志だけが大人っぽくなって、オレは中学卒業程度っ て、どういうことなんだろ。 か方・

5. ムーンヴォイスの奇跡

のオレたちの間に、小さな男の子が割って入った。 「ダメ ! 聖お兄ちゃんをいじめたらボクが許さない ! 」 ナイト 子供らしい高い声なのに、言うことは立派な騎士だ。 オレはふきだしたいのを堪え、慌てて口を押さえた。木根先生は、素直にあはは、と声を上 げて笑う。 し′」くまじめ 至極真面目な顔をして一志を睨みつけている男の子と、憮外と口を閉ざした一志のコントラ ストがおかしくてたまらない。 結局、根負けしたのかバカバカしくなったのか、目を逸らしたのは一志が先だった。 「・ : やってらんない。いったい何なんだよ」 とな 一志が、ロの中で唱えるように言う。 かわいそう さすがに、オレも一志が可哀相になってしまった。。 こめん、という意味を込めて一志の腕を 一志がまだちょっとだけ不機嫌な でも、中学時代のつきあいの経験から、これは拗ね てるんだと解る顔をする。 ごめん、ごめん、とロの中で唱えながら、ずいぶん高くなってしまった一志の顔を下から覗 き込んだ。 こら

6. ムーンヴォイスの奇跡

122 「聖はさ、友達に一番とか二番とか順番をつけて、って言ったら怒るタイ。フだよねー 「うん」 きつばりとうなずく。 きびす ヒカルが、ふふつ、と声に出さずに笑った。オレの肩から手を外し、そのまま踵を返して二 年の教室のある棟へ向かって行く。 背中越しに、ひらひらと手だけを振った。 「先に教室に行くよ。僕は、聖の本気の声には逆らえないからー 「・ : ねえ ! さっきから言ってるそれって何卩オレの声がどうかしたのか」 聞いてもヒカルは答えない。 もう一度、ばいばい、という風に手を振って、棟に続く短い階段を、軽やかな足取りで上っ て行ってしまった。 オレは、一人きりで渡り廊下に立ち尽くしていた。 自分のことは自分が一番解ってる。そう思っていた、自分の気持ちが解らない。 一志は中学時代からの友達で、ヒカルだって、いろいろ不思議なことばっかりだけど、笑っ たり話したりしているんだから、友達だ。 ちゅ、つさい その二人がオレを挟んで喧嘩して。オレはそんなの嫌だから、仲裁しようとしたら、一志は

7. ムーンヴォイスの奇跡

木根先生に頼まれるまま、勢いで預かってしまったのは、実は一志のことを曖昧にしておきた い気持ちが先走ってしまったからのような気がする。 一緒に暮らして ? ってねだるヒカルの可愛いさに負けたってのもあるけど。普通だった ら、いくら頼み込まれても、見ず知らずの男の子を親不在の自宅で預かる気にはならない。 あの時はとにかく、一志と一一人きりで話すのが嫌だったんだ。 一年ぶりに会った友達として話すんじゃなく、一年越しの「好きーの返事をしなくちゃいけ ない、そのプレッシャーから逃げ出したかった。 一志を好きか嫌いかでふるいにかけて、どっちが重いか決める。どうしたら、そんな答えが 出るんだ ? もちろん、一志は嫌いじゃない。中学時代、はじめて顔を合わせた頃は、一つ年下の一志が 跡ナマイキな口を利くのを苦々しく思ったけど、すぐに馴れてしまった。 の年下だろうが何だろうが、一志はまっすぐなイイヤツで、ロは悪いけど根の部分が優しい イ そう知ってからは、ぶつきら・ほうな一志の態度も全然気にならなくなった。 ヴ ンオレは引っ越し先の高校に行くことになって、一志と別れるのが本当に残念だったし、一志 ムもオレと別れるのを残念がってくれるだろうと思っていた。 まさか、「好きだ」なんて、言われると思ってなかった。

8. ムーンヴォイスの奇跡

さな手が、そっとオレの手を掴む。 え ? と思って見下ろした視線を当然のように受け止め、男の子がにこおっと笑った。 ホントに、感動的なほど可愛い子だ。 しみじみと思っているオレの横に一志が立つ。オレと男の子と、その前に立っている木根先 生を不機嫌顔のままで見渡した。 木根先生に、強い視線を向ける。 「なんか、あんただけは事情を知ってる顔だ」 「一志っ ! 誰かれ構わず文句つけるなよっ オレは慌てて一志の腕を掴む。木根先生が、軽く腕を組んで、あはは、と声を上げて笑っ こ 0 跡「もしかして、彼が聖くんがよく話してる、中学時代の後輩の一志くん ? の にこにこと言う木根先生を驚いた顔で見つめた一志が、次の瞬間、怒った顔でオレに向き直 ス イ っこ 0 ヴ ン「おまえ、知らない相手に、俺の何を話してんだよ」 ム 「たいしたことは話してない・ : はず・ : 後ろ暗いことありありの顔になってしまっているのを自覚しつつ、反射的に目を逸らす。そ

9. ムーンヴォイスの奇跡

息をして、昼なお薄暗い竹林の奥に目を凝らす。 まっすぐに伸びた青竹の、ストライプのように区切られた向こうに、すらりとした立ち姿が 見える。 一七五センチ以上は軽くある身長に似合った、伸びやかな手足を真新しい紺色のブレザーに えりもと えんじ 包み、襟元には臙脂色の細いネクタイの制服真っ黒でさらさらだった髪は、軽く色を抜い てある。 中学の時に見慣れていた黒の学生服とは違う、大人っぽい姿になった一志が、竹林の陰の中 た 4 学・ に佇んでいた。 一志が、オレの気配に気付いて顔を上げる。 跡中学の時より格段に大人びたキレイな顔で、オレのことを睨むようにじっと見た。 にぎ の なんだか息苦しい気持ちになって、オレは体の横でぎゅっと手のひらを握る。 ス イ オレの方が一つ年上なんだから、怯えたりしないで ! 普通にー ヴ しった ン自分を叱咤しつつ、一志の立っている竹林の中に向かう。 おおかぶ ム頭上に覆い被さる竹林が、さやさやと水の音にも似た音をたてて葉を揺らした。一歩ごと、 しず 微かに沈む竹林の感触は、夢で見たのと同じだ。 かす おび にら こん

10. ムーンヴォイスの奇跡

コバルト文日 く好評発売中〉 火とほろ苦さか後を引 (. 教えてくれた秘めの妹 ビター・チョコレート 江上冴子 イラスト / やまガたさとみ 憧れの叔父が告げた衝 撃の告白。中学 3 年生 の一成は、東京から帰 郷した若き叔父・実咲 の秘密にショックを受 ける。だが家庭教師を する実咲の誘惑に身も 心も溺れていく・・