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検索対象: ムーンヴォイスの奇跡
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1. ムーンヴォイスの奇跡

まだ苦しそうに息を整えている木根先生をちらりと見て、次いで一志を見上げた。 「木根先生は、保健室の先生だよ。うちは男子校ってだけじゃなくて、先生も徹底的に男ばっ かだから。保健室まで男の先生ー おおげさ 大袈裟に肩をすくめて言ってみる。一志は、ふうん、と興味無さそうにうなずくだけだっ ちょっと肩すかしな気持ちで首を傾げる。普通、徹底的な男の園って聞いたら条件反射で嫌 な気持ちにならないか ? というところまで考えて、ついさっきまで、オレは一志に告白の続きをされていたんだと思 い出した。 もしかして一志って、女嫌いだからオレのこと好きとか言ってんのか ? きやっか 「聖、いま考えてること却下ー 低い不機嫌な声で一志が言う。 オレははっと顔を上げた。口をぎゅっと結んで、悔しいのを椹える。 ここにきてやっと、一志が中学時代からオレにさんざんしてきたことを思い出した。 「一志つ、おまえオレが何考えてるか、表情見て読むの止めろって、中学時代からずーっと言 てるだろっ」 くや こら

2. ムーンヴォイスの奇跡

ごうか 日常の苦悩と不条理よりも、豪華なエンターティンメント、歌とダンスのミージカル、とい うタイプだったので。タカラヅ力も、その流れで見てしまったのかもしれません。普段見に行 ごくさいしきどぎも っていたものよりも、極端に極彩色で度肝を抜かれましたれど。 ふう さて、こんな風に好きなものを見たり遊んだりしている私の日常は、ごく地味です。 もの書きの日常は、パソコン ( ノートパソひとつで仕事をしています。漫画家の友人たち そろ が、ロを揃えて、部屋が汚れなくて良いよね・ : と言います ) に向かって、ばちばちと打ち込み を続けるのみ。終わるまで打て ! という感じです。 しかし、自分で更新しているサイトの日記で、今日も打ち込みしてましたー、今日もです 、と書いたってツマラナイ。だから、舞台を見に行ったとか、趣味で見て歩いている展覧会 に行ったとか、美味しいものを食べに行った日のみ、日記に書くことになります。 すると、日々、遊び暮らしている人のような日記が出来上がる。 違うんですー、普段は仕事してるんですよーっ。 最後になりますが、御礼の言葉を。 うれ 挿絵のみずき健さん。可愛らしいイラストを戴けることになって、とっても嬉しいです。今 さしえ けん おれい いただ

3. ムーンヴォイスの奇跡

167 ムーンヴォイスの奇跡 一年前に「好きだ」って言われて、その後、音信不通になっていたけど。オレは、一志が告 そうりん 白した後に言った、「一年経ったら、俺も蒼林学園高等学校に行く」って言葉を、心のどこか で信じてた。 うれ 本当に入学してきたことを知った時は、信じられない、なんて思いながら、心の奥底では嬉 しがっていたんだ。 ごまか ずっと自分の感情を誤魔化して、都合の悪いものは見ないふりをすることが癖になっていた から、自分が一志をどう思っているのか自覚出来ていなかった。 一志は好きだって言ってくれたけど、オレは一志を普通の友達だと思ってる。そう思い込ん でいたのも、その方が自分にとって都合が良かったからだ。 好きだと言われていた方が、一志により多く想われていられる。 ゅ、 2 んつかんひた 心の底で、子供っぽい優越感に浸っていた。 バカみたいだ。そんな思い込みのせいで、オレは自分の気持ちを自覚できないまま、 一志に曖味な態度・はかり取っていた。 友達を好きだって自覚すると、自分が苦しくなるだけだ。そんな風に、気持ちの奥底で思っ ていた。 だから絶対、自覚しないようにしていただけだ。 あいまい ふう くせ

4. ムーンヴォイスの奇跡

玄関先でスニーカーを履こうしていた一志が、驚いた顔をして振り返った。 こん シャツにネクタイ、紺色のジャケットっていう学校の制服を着たままのオレと、どこかの小 学校の制服みたいな半ズボン姿のヒカルを交互に見て、改めて気付いた、という顔をする。 「ホントに、二人で手を繋いでると年の離れた兄弟みたいに見えるんだな」 「兄弟じゃないよ ! ボクは聖お兄ちゃんと結婚するんだからー まじめ 真面目な顔をして抗議するヒカルの言葉も、馴れてくるとただ単に懐かれてるって感じしか しない。 オレは、はいはい、と笑いながら返事をして、ヒカルに「ホントなんだからつ、ホントに結 婚するんだからー」と、熱烈に抗議された。 ぶうとふくれるヒカルの前に、小さなローファーを並べてあげて、オレもスニーカーを履 。先にスニーカーを履き終えた一志の横に立ち、ちらっと一志の顔を見た。 一志もオレを見て、なんとなく柔らかくなったように感じる顔で笑う。 ふんいき よし、この雰囲気っていいかも。 オレは二人に見えないように、体の横で小さくガッツポーズを作る。 成り行きとはいえ、しばらくオレんちで三人暮らしをすることになったんだ。それならば、 トゲトゲしているより雰囲気良く暮らしたい。 なっ

5. ムーンヴォイスの奇跡

144 「・ : 一志、かあ」 はーっ、と息を吐きながら言ってみる。 裏庭で一緒に昼食を食べた後、背を向けて行ってしまった後ろ姿を思い出す。 困ったことがあったら、夜中でも行ってやる。 そう言ってくれたけれど。今のこの状態が、その「困ったことーなのか、オレには判断がっ 、刀 / し いつも、嫌な気持ちになることや、不安な気持ちになることは、無かったことにして見ない ふりを通してきたから。自分の感情を、上手く説明できる自信がない。 オレはソフアの上に両足を引き上げ、それを両手で抱え込んだ。 膝の上に顎を乗せ、全開にしたロールカーテンのかかった大きな窓を見る。 のほうず 広いばかりでロクな手入れをしていない庭は、野放図に草木が生い茂っている。 かげ 昼時には燦々と降り注いでいた太陽に雲がかかったのか、あたりはごく薄く陰っているよう に見えた。 オレはじっと窓の外の緑を睨みながら、考えたくないと嫌がる感情を、なんとか現状理解の がんば 方向に持っていこうと頑張ってみる。 さんさん にら かか

6. ムーンヴォイスの奇跡

110 言った傍から、手をついて立ち上がろうとする。 オレは慌てて、一志の隣に座り込んだ。 「いや、一緒に食べよ ! 実はさっき、ここで途中まで食べてたんだよね ! わざとらしいくらい明るく一一 = ロって、紙袋の中から飲みかけのペットボトルを取り出す。タマ ひざ ゴサンドのパックも出して、膝を立てて座った足の上に置いた。 一志も、紙袋の中からタマゴサンドを取り出す。 オレは、一志の膝の上をちらりと見て、少しだけ笑ってしまった。 「紙袋の中味、あとコロッケパンとメロンパンで正解だろ」 「・ : どうして解るわけー 年然とした顔にな 0 た一志がオレを見る。 オレは本格的に笑いが込み上げてきて、口元に手をあててそれを押し隠した。 どうして、と聞かれるまでもなく、購買で一志が買いそうなものは解りきっている。 購買とかコンビニで買い物をする時って、一志とオレはまったく同じものを買い込みがちな んだ。 特に、学校の購買みたいな品数の少ないところなら、ほ。ほ百。ハーセントの確率で同じものを 買う。

7. ムーンヴォイスの奇跡

卒業式の終わった帰り道、並んで歩くのは今日で最後の日に、「好きだ」なんて。 黙り込んだまま、自分の考えにハマってしまったオレの肩を一志が掴む。 反射的に、びくっと体を固くして一志を見上げた。 一志は、見ているこっちが切なくなるほど思いつめた顔をしてる。 怯んでしまったオレの顔を見下ろして、ほんの少しだけ苦く笑った。 「そんな怯えなくてもいいだろ。無理に俺を好きになれ、とか言う気無いし。 : ・ただ」 「ただ ? ー 反射的に聞き返す。 一志がオレの肩に手を置いたまま、言いにくそうに目を逸らした。小さく息をつくと、気持 ちを切り替えるように、オレをまっすぐに見つめる。 ささい 「ただ、聖は俺が勝手に思い込んでた聖とは違うんだって思っただけ。些細なことかもしれな いけど、聖が自分で食事作ってるなんて思ってみたこともなかった。俺んちも聖の家も、親は 子供より仕事優先だし、それが悪いって言ってるんじゃないけど : こ いつもは言い淀んだりしない、一志の歯切れが悪い。オレは一志に肩を擂まれたまま、軽く 首を傾げた。 ひる おび

8. ムーンヴォイスの奇跡

ヒカルは、ぎゅーっと目をつむり、絶対振り払われるもんか ! という気合い十分な顔をし 「一志の背の高さ計ってるの ! 動くなってば ! 」 「抱きついて背なんか計れるか ! それよりなんで俺だけ呼び捨てなんだよっ」 なんとかヒカルを振り払った一志が、子供相手に本気で突っかかる。 ヒカルは素早く一志の前に回り込み、腰に手をあてて偉そうにあごを上げた。 「だって、一志は聖お兄ちゃんより年下じゃない」 「そうだけど、チビよりはずっと年上だ」 「ボクはチビじゃないつ」 けんあく あ れんがじ もんび 険悪な睨み合いになった二人の真ん中を、オレは敢えて突っ切る。庭から門扉に続く煉瓦敷 てつごうし きの歩道をさっさと歩き、植物っぽいモチーフで出来ている鉄格子の門扉に手をかけた。 くるっと二人を振り返る。 「いつまでも騒いでると置いてくよ ? それとも留守番してたい ? ヒカルが、びくっと肩をすくめてオレを見る。ぶんぶんと首を振り、慌てた様子で駆け寄っ てきた。 ぎゅっとオレの手にしがみつく

9. ムーンヴォイスの奇跡

はじまりです。木根家は、血族の縁で人ならざる者を代々護り続けることになった。 : ・そうだ かんぬし な、古い神社を護る神主の家系のように」 はんちゅう 「あ、それなら想像の範疇内です」 体の前で両手を握りこぶしにする。 木根先生が、うんうん、と大きくうなずいた。 「神社でお奉りしている神様は目に見えませんが、木根家で護っているものは目に見えます。 月と星の周期で、何時現れるかも解る。ちょうど、彗星の出現を予測するようなものです」 オレは黙ってうなずく。木根先生は、眼鏡の奥のちょっとだけ色の違う瞳で、窓の外に広が る空を見上げた。 「それは、大きな銀色の月が輝く日に竹林に降り立ちます。木根家の者は、降り立っ時間を見 たど むか 極めてお迎えに上がる。今回は、私が竹林に辿り着く前に、聖くんたちが居合わせていました けどね」 「それが、ヒカルだったってことですか : ・ ? ヒカルは人ならざる者ってやつで、えっと : ・」 一一 = ロ葉にしてみても、現実感が伴わない。 うな オレは、うーんと唸りながらべッドに倒れ込んでしまった。白いシーツに頬を押しつけて考 え込む。 まっ ともな えん

10. ムーンヴォイスの奇跡

116 真昼の明るい日差しの下で見るヒカルの顔は、色の白さが際立って内面から輝くように見え る。 びばう もの凄く怒ってる ! って顔してても、元の作りがキレイだと、凄みのある美貌に見えるも んなんだな。 おび そんなことを考えながら、ヒカルの迫力に怯えて立ち上がる。思わず、一歩下がったオレの 背中に一志の体が当たった。 後ろに一志がいるってだけで、怯える気持が半減する。オレは、気力で負けないようにきっ ばりと顔を上げた。 「一志とは、ここで偶然会っただけなんだよ。な、一志っー 同意を求めて振り返る。 だけど一志は、オレの方を見もしない。ヒカルを睨むように見ていた。 「聖が何かすることで、おまえに断りを入れる必要はないだろ」 なんでここで、ヒカルを煽るようなこと言うかなっー ちよお待てつー 焦りに焦るオレの目の前まで、つかっかとヒカルがやってくる。一志の言葉を無視して、オ にぎ レの手をきつく握った。 「帰るよ、聖」 あお にら