☆ 1 ☆そして衝撃のキス、ンーン 「プリンセス・ノノ 。、ーレと地球少年ランのキスシーン」 次回の台本をにぎりしめて、そのすらりとしたスタイルのいい美少女が叫んだ。 こうしろう 「そんなの聞いてないよ ! 約束がちがう ! 光司狼 ! 」 みづき 、怒った顔も綺麗だぜ、水月ー ン 、一「アハハ ? アハハってなに ! アハハって ! きみのキャラじゃないだろう光司狼」 = 「まあまあ水月、落ち着けよ」 らん ポ「嵐 ! きみもなに関係ないような顔してるの ! きみと僕の話なんだよ」 恋「えー、いーなあ水月。嵐とキスシーン撮れるんだー ュ ラ白鳥の王子、困る。の図。 プリンス・ジークフリート ゅう キレイ
「嵐のキスシーンだけほしいなんて言うからオレ、スタッフさんに編集たのむの、すっげ恥ず かしかったぜ。ちいちゃんへンタイ」 「ふん。好きな男が他者とくり広げる愛欲の場面をこの目に焼きつけ、みずからを痛めつけよ うというこの徴妙な男心。小猿などにはわかるまい」 んなもんわかるもんか。 と言っても始まらないので、とりあえず黙とビデオをセットする佑である。 五〇インチの巨大画面に ( 高藤家ではあととりのワガママはたいてい聞き人れられてい る模様 ) びよよんと現れたのは、地球少年ランのアクションシーン。 そして続いて、プリンセス・ユーとのラブラブキッス。 どうやらスタッフも亜ノリしちゃったらしく、ビデオフィルムはみごとなまでにキスシーン だらけに編集されて、観ている佑もあらためて赤面したりして。 そんなビデオをじっくり観ながら、角度が悪いだの、表情がイマイチだの、千夏はいろいろ 文句をつけて、なかなかに楽しいふんいきが満ちてゆく。 ランとユーのカラミはどうやらクリア。 問題が起こったのは次のシーンであった。 「むむ ? なんだこいつは ? 」
キスシーンのモデルは光司狼と水月だった。 光司狼は首をかしげずにいられない。 「佑のやっ、俺が水月に手を出したのがそこまでショックだったのか ? けどあいつが好きな らん のは嵐だよな ? それとも水月にくら替えしたか・ : ? 」 ミステリー それは謎。 キスはいつだってミステリー小説。 第一章はキスから始まる。
ちょっとめずらしい光景である。 嵐 x 水月。 もともと趣味も好みもぜんぜん違うふたりには、基本的に接点というものが少なく、何かを 一緒にやったという記憶がほとんどなかった。 嵐がサッカーに夢中になっている頃には、水月はバレエを習い始めていたし、今も嵐はサッ カー特待生として別の高校に通っているので時間帯もずれ、こうしてスタジオで会う日の他は 休日でさえ家でも顔を合わせなかったりと、ナチュ一フルにすれ違ってばかりなのである。 かた それがいきなり、接触夥多なキスシーン。 水月のとまどいはムリもないと言えたのだが。 「 : ・あれ ? 」 水月の腰を抱き寄せかけていた嵐が、ふと素に戻って言う。 「もしかしてキンチョーしてる ? 水月 ? 」 「え、もしかしてマジで俺とのキスシーンがイヤだった ? 」 マジがおき ってそんな真顔で訊かれても。 「ふ、普通イヤだろうぼ兄弟なんだぞ、僕たちは ! 」 ぶんすか言い返した水月に、天下のプレイボーイ・嵐、かくのごとし。
「水月 ? 」 「わからないよ。でも、そうかもしれないー 「ためしてみるか ? 」 「なに ? キス ? 」 「ああ。プロデューサーとしちゃ、女優にはキスシーンのイッコやニコ、軽々とこなしてもら いてえのが本音でね」 「フン。したいならすればいいだろう」 光司狼相手ならいくらでもこんなセリフが言えてしまう。 何をしても、されても、てんで余裕。 心が騒いだりもしない。てんで冷静。 ( なのにどうしてあのとき・ : ) 水月の人生にわからないことが増えていく。 謎。 謎は物語のはじまりだってことを、水月はまだ知らない。 兄弟以上恋人未満な悪徳キスを受け人れながら、水月の目はふとすきまの空いたカーテンの ほうへ向けられ。 「佑に」
260 水月は腕組みしたまま言った。 「あのねえ。由宇と光司狼はマスコミじゃもう公認の仲ってことになってるんだよ。あーんな アツアツのキスシーン、全国ネットで放映されといて、今さら何ゆってんの ? 」 「水月 5 」 佑がなさけない声を出す。 水月の言うとおりである。 空港で生中継にキャッチされてしまったシーンについては、佑はもはや何ひとっ言いわ けできない。 できない、ケド。 と水月がなんとなくわかった、という顔つきになって言った。 「なるほどね。一からやりなおしってわけ」 「一からやりなおし ? どういうことだ ? 」 嵐が聞きかえす。水月が肩をすくめた。 「つまり初恋ってことだろ」 「初恋、 ? 」 目をまるくした嵐はほうっておいて、水月はその形のよいくちびるの前に白い指をあてて、 何やら考えこむしぐさをした。 ュウ
☆ 3 ☆そして鬼畜なあなたの名前は さくじよ 「ああ ? キスシーンを削除しろだ ? ジョーダン、今さらできるかよ」 こうしろう みづき むじひ その晩、光司狼の部屋を訪れた水月は、あっさり返された無慈悲な答えにぶち切れそうにな ンイタイケな少年たちを自在にあやつる悪徳 : ・いや敏腕プロデューサー兼天才脚本家、その名 シも瀬川光司狼。 、自分をにらみつけてくる自分と同じ顔した弟に、光司狼は言った。 レ 「おまえだってガキじゃねえんだ。キスぐらいなんでもねえだろ ? 第一相手はあの嵐だぜ ? 祉他の男にさわらせるのは Z()D なおまえでも、嵐なら平気だろ ? 」 ( だからそれが困るって言ってるんじゃないか・ : っ ) ュ 説明できなくて。 その説明できないことに腹が立って。 でもなんで腹が立つのかさえ説明できなくて。 せがわ らん
79 ラブ O ュー初恋レポリューション おざき と高藤家を早々に逃げだした男・尾崎佑。 帰り道、人知れず深い悩みがこの発展途上な青少年の胸に宿ることとなる。 ( オレがおかしいのか ? でも、嵐と水月のキスシーンはマジできれいだと思ったんだけど。 それって、 Z(..5 なのかな : ・ ? ) 恋する少年の胸中は複雑怪奇に人り乱れてゆく。 謎。 どっち向いてもミステリー ミステリー
あ、だめ ? ゴマかすな ? でもほら、 0 Z —中はスタジオ人れないしー お。 見て見て。 ( とかいさくら話をそらす ) スタジオ外でちょっとした事件、発生。 ろうか 廊下のべンチで佑が撮影待ちしてるところに、光司狼、遅ればせながら参上。 てなわけで王女。ハールとランのキスシーン、本番スタート ! 途中経過 ! フィニッシュ こうしろう
そうして嵐は佑のほおを撫で、自分のほうを向かせて言った。 「佑、この後の撮影はどうする ? やれそうかい ? むりならスタッフにそう言って」 「ううん、やれるよ。やる」 でつかくてきらきらした佑の瞳が、今また力強い光を放っている。 こうなればもう佑は大丈夫だ。 ぜんげんてつかい ガンコひとすじ男の子 ! は前言撤回なんかしないと嵐は知っている。 「わかった。じややろう」 ほほえ 嵐は確信してニコッと微笑んだ。 佑もニッと笑い返す。そんなプリンセス・ユーのほっぺを軽く押して、嵐は言った。 「そっちの撮影が終わったら、いま俺たちが撮ったシーンも見てくれよ由宇。けっこう上手く いったと思うんだ。監督もほめてくれたよ」 「マジぼ」 「ああ」 「すげえ ! 見して見して ! 」 「オッケー。後でね」 地球少年ランとプリンセス・。ハールの初キスシーン。 考えるだけで楽しくてわくわくしてしまう佑である。 ひとみ