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検索対象: 六人の兇王子 : サーリフの宴
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1. 六人の兇王子 : サーリフの宴

ギヴァはなにも一一 = ロえなかった。 ふたたび火を見る。 す、つはい アスカニオを思いだす。彼女を崇拝し、思慕する表情を。 この女性は、この無秩序な世界に必要な人だと思った。理想を掲げながらも現実の世を見据 え、着実に人々を救おうとしている。 どくが この聖女ともいうべき女性をサーリフの毒牙にかけてはならぬ。 アスカニオの気持ちは守らねばならぬ、と思った。 たきび アンジェラが眠ったあとも、ギヴァは焚火のまえに座ったままでいた。 宴脳裏にひとりの女性の顔がうかぶ。もし彼女がいれば、横に座っているだろう。肩に頭をよ フせてきたかもしれない。豊かな髪がギヴァの胸に流れ、ほのかな木犀の香りがしたかもしれな サ ( ルクレチア ) 子 兇彼女がそばにいることを思うと、なぜか胸が温かかった。 たぎ 人それは、熱い燃え滾るような想いではない。 ひっそりと、胸の奥にともった灯だ。激しく燃え盛ることはないが、消えることなくギヴァ を照らしつづけてくる。闇のなかで迷うことなく、歩んでいくべき先を示してくれる。 もくせい

2. 六人の兇王子 : サーリフの宴

ひざまず いった。女性のまえで跪き、目線をあわせて瞳をのそきこんだ。 あおいろ 碧色の円盤に姿がうつる。 像がうつっても、まえにだれがいるかわかっていないのだろう。 かわ ときおり目の渇きを癒すようにまばたきが起こる。 しばし、デル。ヒェロはそのまま瞳をみつづけた。指を顔のまえで左右に動かしてみせた。 しわざ 「 : : : 他の三人であれば、まだ御令嬢を目覚めさせる可能性があったのに。″ 彼〃の仕業であ るとすると、私では無理です。たいへん申し訳ありませんが」 といき レオナルドは抜けるような吐息をもらす。 女性の顔に感情は一片も表れないままだった。 宴そのとき、デル。ヒェロは息をのんだ。 ルクレチアの瞳から雫が一粒こぼれおちた。 サ 「ルクレチアが : : : 」 カ声を絞り出した。 兇レオナルド : 人「夢を見ていらっしやるのです。″彼〃が、御令嬢を眠らせたのならば、意識は夢のなかにお られるはず。・ : : ・きっと、悲しい夢なのでしよう」 厚くも薄くもない、形のよい唇がほんのわずか動いた。たしかに、「ギヴァ」と。

3. 六人の兇王子 : サーリフの宴

ととの 母譲りの碧眼はつぶらだ。鼻が高い。彫りが深く、全体に整った顔立ちだった。上品な物腰 きわだ かしん こ、つじよ から女性らしさも際立つ。若い家臣たちのなかにも、この公女に恋している者は多いときく。 ( 内々で婿を選ぶわけにもいくまい。どこかの王族の子息でなければな ) それが政治というものだった。特に、乱世に生きる貴族には、自由な婚姻は許されない。 かし 父に小首を傾げて微笑む。 せめて婿になる男の人柄がよいことを望むだけだった。 突如、激痛が腹部におこった。思わず、情けない濁った声をもらした。熱い。痛みよりも熱 が上回った。 ひざ 脇腹を押さえ、膝をつく。 ふたりの女性は後ろに離れていった。 痛みを堪えながら肩越しに背後を見た。見たくはなかったが、確かめずにはおられなかっ こ 0 公妃の手には短剣が握られている。金属の切っ先には赤黒い粘った液体が付着している。 ランプルスコの血だ。 「な、なぜ」 じんじしっ 妻の目は一変していた。尋常でない。なにかに取り憑かれた目だ。 娘のリリアーナが母親によりそう。 ゆず こら へきがん こんいん

4. 六人の兇王子 : サーリフの宴

100 彼の反逆のきっかけとなり、彼を裏切った女性だった。微笑みはする。嬉しそうには見えな い。悲しみに満ちた顔であった。 さだめほんろう 自由にならぬ運命に翻弄されつづけていた。実の兄に政略の道具にされ、婚約者を次々とか さくりやく えられた。策略のために見捨てられもした。 心からの笑顔を彼女にしてほしかった。 自分の渇望を思いだす。 兇王子を捨てて遠くへと逃げたかった。 か / っ 〈家〉とも乱れた世とも隔絶した場所で、ふたりで静かに暮らしたいと思った。 いまそれは望むべくもない。 イエルマは元上界の住人となった。彼女が信じていたティマイオスの教えによるのならば。 小さな手を握ろうとする。指がすりぬけた。実体のない幻影となって、離れていく。 まっていてくれなかった。ヴァイサルのものとなったイエルマの姿も焼きついている。苦い 味がロ腔にこもる。裏切りにあった事実が蘇ってくる。 彼女を想いながらも恨んでもいる自分がいる。すでにこの世にいない女性であるのに、いま だ赦すことはできていない。 胸の奥を見据える。自身をみつめなおす。心の底に残る未練と恨みが渦巻く。 ( 情けない男だ。私は ) 」、つプ」、つ かつばう イレ・チェロ

5. 六人の兇王子 : サーリフの宴

218 らす″阿片〃によって中毒患者となっている。彼らは脳と体が蝕まれている。意志は弱まり、 ソヴラ / ・ヴォルトウォーゾ 判断力を失い、〈快楽の宗主〉に絶対服従するほかなくなっているのだ。 奥の扉があいた。 青年が多くの女性をひきつれて入ってきた。 ひたい ビオンド 肩や背に流したくせのない金髪は、灯火をうけて砂金をまぶしたような輝きを発する。額 ビロードつめえり トパッツイオ の黄玉を思わせる〈骨〉も、灰色がかった青色の瞳も、宝玉のようだ。白い天鵞絨の詰襟服 で第肉の一片もない痩身を包んでいる。黄金の凰を思わせる。 サーリフだ。 横によりそう貴族の令嬢は、結った髪の上に宝冠を載せ、耳や首、腕にと宝飾品で飾ってい ディアマンテざくろいし た。金剛石、石榴石、紫水晶などが輝いている。公女リリアーナだろう。 けしよう 背後にいる女性たちも化粧を濃くし宝飾で飾り、着飾っている。顔の造形もよく、めりはり しレつふ のある体も申し分ないが、気品というものがない。街の娼婦たちかもしれなかった。 皆、容姿だけなら見事な高級品だ。 しゅうしゅうひん ほ、つと、つド ) 兇王子一の放蕩児である〈快楽の宗主〉が集めた蒐集品なのだ。 ひろう 自慢の品々をギヴァに披露する気なのだろう。 こちらへ歩みよってくる。一歩一歩が流れるような動きだ。手の振りも優雅に円を描く。芝 居がかっている。役者気取りでこういった動作をわざとやっているのだ。この場の対面を楽し

6. 六人の兇王子 : サーリフの宴

アンジェラが露台に達した。駈けよってくる。 「アンジェラ様がぎてるよ」 はるか下の湖の岸にいるアスカニオの遠い声がする。 「アンジェラ様を守ってー サーリフを見ながら、女たちを受け流した。 ( わかっている。アスカニオ ) ソヴラノ・ この聖なる女性をサーリフに汚させてはならないのだ。身を引き千切る思いで〈快楽の ヴォルトウォーゾ じゅばく 宗主〉の呪縛に勝ったカテリナのためにも守り抜かなくてはならない。誇りをもって人と して戦わねばならない。 こんと、つ ひょ、つ 宴すべての女を昏倒させたとき、サーリフが剣を抜いた。黄金の豹と化して襲いかかってく フる。一呼吸も終えぬうちに間合いに突入してきた。 ( ついに、きたか ) サ ギヴァは、サーリフと剣を交えた。 子 王 兇 の 人

7. 六人の兇王子 : サーリフの宴

昨夜、サーリフの横にはべっていた女だった。 「どういうことなの」 そうはく アンジェラが蒼白な顔でギヴァを見上ける。 「あのサーリフという男がやったの ? 」 ギヴァは眉にをよせてうなずいた。 「飽きたのです。ですから : : : 」 サーリフは女を蔑みながらも女なしでは生きていけない。その能力ゆえ次々と女を乗り換え よ、つしゃ ることができる。そのくせ飽きればこうやって容赦無く捨て去る。 ギヴァに起こったのは、サーリフに対する嫌悪と憎悪だけではなかった。 宴 ( この兇王子と同類なんだ、私も ) フ人の死を悼むアンジェラの姿を見ていると、サーリフと兄弟であるという事実にいたたまれ 一なくなる。自らの手でこの女性を殺したかのような罪悪感まで起こる。 「われわれを待っているのは、こういう男なのです」 子 王 兇 の 人 いた

8. 六人の兇王子 : サーリフの宴

彼は呆然と、神に身を捧げた女性の行動を見ているしかなかった。 「大丈夫ですか」 修道女が脇に手を入れて、よろける体をささえる。 ギヴァは背後からなにが起こっても対処できるように身構えていた。 「助けはいらぬ」 ソライアは手をはらった。 「傷を負っているではありませぬか」 公妃がむける目は公女と同じだ。サーリフが求める女としてアンジェラをにらみつけてい 宴ギヴァは公妃の肩をつかんでよろける体をとめた。 フ「さわるな ! 兇王子」 一彼女の耳元に顔をよせた。 「サーリフはいまごろリリアーナ殿下とごいっしょですよ」 子 兇顔がひきつるのが見えた。 人「ここは私の手をかりて、サーリフの居場所にいったほうがいいのではありませんか」 歯を食いしばっている顔は動かない。 ( 取引に応じるか ) る。

9. 六人の兇王子 : サーリフの宴

「だめです。ギヴァ殿ー 女性の声がとっぜん響きわたった。声の主が背後から走ってくる。 あへん 「それは阿片ではないのですか ! 」 プリンチベ・グアイオ アンジェラだった。ふたりの兇王子のあいだに割って入ってくる。いままでのやりと 宴りを陰できいていたのだ。 の 「なんとはしたない。子供のまえでなんという態度をー 一彼女はアスカニオを見る。次にサーリフの横で身をくねらせている女に目をむける。 かば ギヴァは、さがってと彼女の手をひいて背後に庇おうとした。 子 兇「あなたはなにものなのです ? ギヴァ殿を脅していましたね」 人彼女はやめない。 サーリフは、額に手をあてて下をむき、低い笑い声をもらしだした。 「これはこれは、救世の修道女様じゃあないか」 第九章 おど

10. 六人の兇王子 : サーリフの宴

「アスカニオ」 声をかけても目をあわさなかった。 「いま忙しいから」 箱をのせなおして、歩み去ってしまう。あとで話があると伝えたかったのだが、とりつくし まもなかった。 ( アスカニオこそ、なんでもどってきたのです ? ) 訊きたかった。 ( 私の〈カ〉を見たのに ) ギヴァを助けてはくれた。子供の身でありながら、危険を冒してここまで運んでくれた。そ おび れでも、自分を避けている。怯えているような気もする。 の ( やはり、怖がっているのか ) 一教会から離れて森のなかへと歩いていった。足が痛むと休んだ。 サ 大きな切株があって、腰をおろした。 子 すず せいじしっ 王夏を控える陽射しは強いが、森の空気は清浄で、涼やかだった。 の深く息を吸う。肺を膨らます。 六ふたりの女性のことを思ってしまう。 ( イエルマ ) ふく