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検索対象: 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談
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1. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

おやじ ふなづ 「 2 段目に親父がいる。船津弘海。その下の段に信藤亨子って女がいるだろ」 「ああ。この女がどうした ? 」 そ、つしき 「親父の法事とじいちゃんの葬式の日に来たんだ。それでアルバムを探せと言ったんだ」 もふく 勇帆は喪服の女性との出来事を、自分の気持ちの整理も兼ねて、もう一度高陽に説明し た。写真を渡されたこと、瀬戸次を人殺しと言われたこと、自分を突き止めれば全部話し てやると言われたこと。そして今日、このアルバムを見つけたこと。 「この写真か : あな しりよぶか 高陽は写真を見て眼を細める。冷たく思慮深い顔で、穴があくほど見つめている。 コンビニの袋からジュースを取り出すと、プルトップをあけて高陽に渡して勇帆は言 「おまえの、人には見えないものが見える眼で何か見えるか ? 高陽は意外そうに視線を向けて薄く笑った。 「僕の言ったこと、信じてるのか ? 」 うそ 「嘘なのかよ ? 」 狐 妖「いいや : : : 。勇帆はそういうことを縣鹿にするタイプだと思ってたから : ・ 勇帆は飲みかけのジュースを机に置いた。 「 : ・ = ・俺にも経験がないわけじゃないから。それにおまえは冗でそんなこと言う奴 0

2. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

158 ) 」、つよう 「高陽 : : : 、寝たか ? ー めぐみはいりよと いさほ 恵の配慮で泊めてもらった勇と高陽は、広い客間で床に入っていた。枕元にあるラン プが小さな明かりを灯し、夜は帳を下ろしていた。 「いや : : : 、起きてる」 てんじよう 高陽の声に、勇帆は天井に視線を向けたまま話し始める。 「ここの人ってみんないい人だな。こんなところで育った母さんは優しい人だったんだと 思う。俺、他人がこんなに親身になってくれたのって初めてだから : 。うちは血が繋 がっていても争いばっかしてるから、なんか感動した」 「正直いって、僕もだ。人間もいいなって思ったよ」 「あはは。人間も : : : ね、そうかもな」 「 : : : 大丈夫か : : : ? 」 トーンを落とした高陽の声に、勇帆は体の向きを変えた。薄暗い明かりの中で、高陽が ひとつの悲しみを乗り越えて、勇帆の顔は輝いていた。 とこ つな

3. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

見つめていた。 「心配かけたな : すっかりってわけじゃね 1 けど、大丈夫そうだ。ショックだったけ ど : : : でも、心のどっかで母さんはもう死んでるんじゃないかって思ってた俺もいたから かげ な。ほら、よくドラマにあるように陰からそっと見てるとか、こっそり〈ムいにくるとか、 全然そんなのなかったし : : : 、死んでるかもしれないなんて認めたくなかったんだけど」 「今は認めるのか : てんじよう たいき 勇帆はもう一度向きを変えて、天井を見上げる。小さく溜め息をつくと、仕方ないと ままえ いう微笑みを浮かべる。 あざ 「認める。実際、ばあちゃんの痣を見た時、もっと切実に死ぬなって思ったから。今、生 きてる人間のほうが大切だ」 高陽は長く重い息を吐いた。ずっと言おうと思いながら言いそびれたことを言わなけれ ばと思ったからだ。 「君には女の霊が憑いてる」 の 狐 妖 「君が今までた怪俄をしなか「たのも、その霊が守「ていたんだと思う」 やみ 勇帆はごくりと唾を飲み込んだ。高陽の静かな声が闇に溶け込み、あたりは静寂だけ が痛いほどだった。 せいじゃく

4. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

142 ほうちょう 再び規則正しい包丁の音が聞こえ始めた。 「俺はじいちゃんからもばあちゃんからも両親のことはほとんど教えられてないんだ。で も、なんだか母親のことをちゃんと知らなきゃいけねー気がするんだ」 「ふうん : ・ 湊は背を向けたまま、鍋とフライバンを取り出し、ガスレンジにのせる。 「何かあるんだ・ : つぶや 呟いた勇帆を振り向こうとせず、明るい声で湊は訊き返してきた。 「それで学校にも部活にも顔出さないで、吉舎くんとこそこそやってるわけね」 鍋にだし汁を作り、野菜を入れて煮込んだ。それから、ご飯をザルにうっし洗ってい 「べつにこそこそじゃねーよ。でも、高陽はりにしてる」 「うん : それはすごくわかる」 ご飯を鍋に入れ、味つけをしてから、やっと振り向いて、湊はにつこり笑った。 「船津くんと吉舎くんって一見似てないけど、じつはすごく似てるよね」 「そおかあ ? 俺はあんなに頭よくないぜ」 ぞうすい 「頭の良い悪いは違うけど、似てるよ。はい、 これ。おばあさんの雑炊。吉舎くんから具 合悪いって聞いたけど、これなら食べられるかな ? る。 なべ

5. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

「ど一つい一つことだよ」 「母親が君と暮らしたいと言っても、ばあさんと一緒にいるか ? 母親についていってし まわないか ? たんたん いらだ 淡々と疑問を投げつける高陽に、勇帆は苛立った。 「母さんは死んでんだよ。そんなこと、できるわけないじゃないか」 「だから、生きているとしたらという前提で訊いている」 たた だんっと机を叩いて、勇帆は立ち上がった。 「おまえの悪い讎だよ。意味深な行動や言葉は ! 俺には何が言いたいのかわかんねー よ ! 俺はおまえみたいに頭がよくねーから、謎かけは得意じゃね 1 よー ほお すず 高陽は頬を上気させている勇帆を感情なく見上げ、そして涼やかな目を伏せた。 「そうだな : : : 。僕の悪い癖だ。すまない : : : 」 思いのほか、謝ってきた高陽に喫驚して、勇帆は子にり直した。 夜「いや : : : 、俺のほうこそかっとなって : 舞「わかってしまったことでも口にしないようにしてたし、確信の持てないことをそうなん 妖だと決めつけるのは好きじゃないんだ。だからこんな言い方しかできなくて : ・ もくし せりふ その台詞に今までの生活が見えた気がして、勇帆は高陽を黙視した。 育った環境の似通っている二人だが、暴力やバスケットをすることなどの行動で発散し なぞ いっしょ

6. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

160 「それって : : : 、母さん : : : ? じゅそ 「たぶん。でもな、勇帆。君の家は呪詛されてる感じがするんだ ぐうぜん にじいさんとばあさんの痣、これは偶然じゃない」 おにあくりよう さんさろ 「君の家の前って、三叉路なっているだろ。三叉路は鬼や悪霊が集まる場所なんだ。 だから軒先に魔除けの鐘馗像があったのに、それがけていた。それから玄関脇の切られ きもん しんびてき ふなづけ た桃の木だ。船津家の門は東北、つまり鬼門にある。桃の木は神秘的な力が備わってい じやき て、悪霊や邪鬼を追い払うといわれている。中国古代の民俗信仰でも『桃は五木の精であ そろ り百鬼を制す』とある。その桃の木が切られている。この二つの条件が揃って、邪悪な念 れい の霊が出現するようになった と、僕は思う」 高陽は腕を枕がわりに組んで、頭の下に置いた。目は闇の一点を見つめているが、何を 見ているのかわからなかった。 いっしょ 「君の母親ってどんな死に方をしたんだろう : : : 。勇帆、僕と一緒に行動するようになっ てから、ますます霊感が強くなったんじゃないのか ? ほら、湊と行った時に僕たちが呼 び鈴を鳴らす前に出てきたり。 : : : 何か感じることがあったら教えてくれないか ? 僕に は狐かいてもなんでもわかるわけじゃないんだ。いくら狐に訊いても、今の僕のレベルに 合わせた情報しかくれないんだ。・ : ・ : 悔しいよな : : : 」 きっ 8 りん やみ みなと 。空気が重い。それ

7. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

まい、自分のに閉じこも「ていたから。 「俺たち、似てるよな : ・ いっか湊が、勇帆と高陽は似ていると言ったのを思い出し、もう一度高陽に向かって、 ままえ 枕を投げた。それをキャッチして高陽も微笑む。 「そうだな : ・ つぶや うれ 勇帆に枕を投げ返して呟いた高陽は、心なしか嬉しそうに見えた。 母親の愛情を知らないで育った子供は、その表現の仕方を誰にも習わなかったのだ。甘 さび えてはいけない、寂しくなんてないと思い込んで生きてきた。 ありかとうな : 「 : : : 俺はおまえにすごく感謝してる : ばそりと言うと、勇帆は高陽に背を向けて寝転んだ。その背を見つめ、高陽は目を細め ( 礼を言うのは僕のほうかもしれない : 奥多摩の夜は、静かに温かく二人を包んでいった。 「手がかりは掴めたかなあ : : : 」 インターハイに向けて部員たちはハ 1 ドな練習をこなし、湊は一人部室で、持っていく ものを点検していた。勇帆のロッカーにそっと頬をつけた。 おくたま ほお

8. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

ふなづ 「そいっ : : : 、船津勇帆・ : : ・ ? 同じクラスの少年の顔を思い出し、光の加減によっては金色に見える瞳を渋谷に向け ひとみ

9. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

178 ろつぼんぎ ふなづ 六本木の交差点を飯倉方面に下り、ほんのわずか歩いたガラス張りのビルに、船津コー ポレーションはある。フロアの 5 階から 7 階を占め、輸入雑貨の業界では 5 本の指に数え られる大手だ。 いさほこうよう 勇帆と高陽はエレベーターで 7 階に降り、受付を素通りして社長室に入ろうとした。 「すみません。どちら様ですか ? 社長に御用でしたら : : : 」 社長秘書のネ 1 ムプレ 1 トのある席にっていた女性社員が、慌てて立ち上がった。 「社長 ? 社長代行だろ。中にいるんだろ ? 冷めた視線を社員に向け、勇帆はドアを開けようとした。 オ目お ~ し、も

10. 妖狐の舞う夜 : 霊鬼綺談

早苗の憎の言葉がほとばしる。 「早苗っー 志摩がそれを制した。 「慈子・ : 『まったく、勇帆は慈子にやればよかったのよ』 早苗は瀬戸次の通夜の夜も『慈子』という人名を口にしなかったか ? 慈子のところに行く ? 慈子にやる ? 「それはもしかして、かあ : : : 」 「そんなことは今、関係のないことでしよう ! どな 勇帆の言葉も聞かず、志摩は早苗に怒鳴りつける。呼吸が荒れていた。 「勇帆はおじいさんにとっても私にとっても、かけがいのない子なんだからね ! あんた 夜に何も言う権利はないわ ! 」 舞志摩の実の子に向けた怒りだった。体を震わせてカのかぎり勇帆を守ろうとしていた。 「ばあちゃん ! 」 うずくまる志摩を勇帆は抱きかかえた。志摩はを押さえて、ひゅーひゅーと息を激し くしている。 ふる