妖鬼 - みる会図書館


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166件見つかりました。

1. 呼ぶ声が聞こえる

186 : ひすいようしゅわな え、以前翡翠の妖主の罠にまんまと嵌まったことがあるのだーーそういう気配は感じられな い。心配はいらないだろう。 もっとも、とラエスリールは田 5 う。 レントに近づくにつれ、気づいたのだが、今回の騷ぎの裏には、意外と手ごわい存在が隠れ ているかもしれない。魔性の力を利用することしか考えていない人間では、到底かなわぬ秩序 めいた気の流れが、感じ取れるのだ。 ようき まさか妖貴がからんでいるのか・ そう思ったものの、得心がいかない。魔性のなかでも上位に位置する妖貴たちは、一様にプ ライドが高く、ある種の美意識によって動くことが多いのだ。 ようき 人間を駒のごとく扱い、その様を見て楽しむことまでは考えられるが、そこに妖鬼たちを巻 しようき きこんだのが解せない。彼らは妖鬼や小鬼を自分と同格とは認めず、道具扱いすることも多々 あるわけだが、それはあくまで自分の手で扱う場合に限ってのことだったように記憶してい しえき かんか る。たかだか人間などに、雑魚とは言え魔性と呼ばれる存在が使役されることを看過するとは 思えないのだ。 過去何度も、対峙した妖貴にぶつけられてきた言葉がそれを証明している。 『雑魚とは言え、我等が眷属を手に掛けたその罪 : : : 』 彼らの認識がそう出来ているのだとしたら、今回の件はどうにもおかしい。 たいじ ましよう けんぞく ちつじよ

2. 呼ぶ声が聞こえる

みくらっ でも、あなたのやり方は、ずいぶん悪辣だと思うわよ ? 薄茶の瞳を参叉に向けて、サティンははっきりと言い切った。 「彼女の大切な相手を殺しておいて、それで絶望した彼女が眠りについたのを、無理やり叩き ようき 起こすだなんて : : : それに、話の流れから考えて、あなた、あの妖鬼の女のことも利用したで しよう。まあ、あっちはやったことがやったことだから、対決しなきゃならなかったでしよう けど : : : でもね。一段上の立場から、生きている者を駒扱いするその態度って、傍から見てい て楽しいものじゃないのよね」 ずけずけと、言いたいことを言うのは相変わらずだが、サティンの身に纏う空気はいつもと は違っていた。 心から、怒っていた。 くず だが、参叉の余裕は崩れない。 「仕方あるまいよ。一度封じられた存在を復活させるのは、そうたやすいことではないのだ。 る 誰しもが我が君ほどの力を持ってはおらぬ : : ・お前がどれほど不快に思おうと、彼女の復活に おろ 聞 あの愚かしい妖鬼は必要だったのだ。宿る命の格に見合うだけの器がな」 しやま ぶあの妖鬼にはー丨ー写磨には、それだけのものがあった。 呼 だから、『衣於留』の復活の道具に使った。 悪びれることなく言い切られ、サティンは改めて魔性と人間の意識の違いというものについ うつわ はた

3. 呼ぶ声が聞こえる

けれど、現実は、そうではなかった。 だからサティンはこだわらずにはいられないのだ。 駄目よ、駄目 : : : 今は仕事のことに集中しなければ。 必死に自身に言い聞かせ、その瞳でもって彼女は自らの護り手を見返した。 ようき すごしようき 「妻い瘴気というか妖気というか : : : そういうのが、西の方から伝わってくるのはわかるんだ けど。セスランが言ってた件と、繋がりはありそう ? 」 「あるだろうな」 あっさりと黒髪の青年は答えた。 「相当強い気だ : : : もしかしたら雑魚じゃないかもな」 めいすう ようき 妖貴である鎖縛はーーーどうやら彼に限ったことではないらしいのだがーーー命数が三以下 : ましようけんぞく しようきようき つまるところ、人間が小鬼や妖鬼と呼ぶ存在のことだ : ・ : の魔性を眷属とは認めていないらし 、雑魚呼ばわりする。 えその彼が、雑魚ではないと、その可能性を仄めかしているのだ。疑いようはなく思えた。 こ 「妖貴、が では、セスランの危惧は、あながち的外れというわけではないのかもしれないわ : あんたん 呼 暗澹たる思いでサティンはつぶやいた。 「そこまではわからないな。まだ距離があるし、気配が一定してない。雑魚にしか思えない時 つな はの

4. 呼ぶ声が聞こえる

『なるほど : : ・確かに強い力を持っているようね』 自らの動揺を男に悟らせたくなかった写磨は、冷静を装い、そう告げた。 男は幸いにも気づかなかったようで、『そうですとも』とうなずいた。 『浮城から差し向けられた五人もの捕縛師を相手に渡り合った妖鬼です・ : ・確かに結果的に封 じられはしましたが、捕縛師たちも無事に浮城に戻ることはできませんでしたよ。だからこ そ、わたしが手に人れることもできたわけですがね』 あいう 要するに、この礫に封じられた妖鬼と五人の捕縛師は相討ちになったということだ。 そうでなければ魔性の命を宿す封魔具が、浮城の外部に存在するはずはない。 強い : ・・強い力と命。 これを取りこめば、より強い力を手に人れることができる : : : そう、出来損ないの妖貴など 葬り去れるほどの力が 誘惑の波が、写磨の心に押し寄せた。 えそれでも気にかかることがあって、彼女は男に問いかけた。 『なぜ : : : それをわたくしに ? 自分で取りこんで、力を得ようとは思わなかったの ? それ そそのか アに : : : それに、どうしてわたくしを唆すようなことを言うの ? 』 呼『唆すなどと人聞きの悪い : 男は気を悪くした風もなくあっさりと答えた。 ほうむ

5. 呼ぶ声が聞こえる

そんな写磨に、男は懐から白木で作られた第のようなものを十粒ほど取り出し、差し出した のだ。 『これは : : : ? 』 なに、と問いかけた写磨に、男は答えた。 ようき ほばくし 『かって浮城の捕縛師に封じられた妖鬼の命ですよ』 A 」 取りこめば、相当な力が手に入るはずだと、男はささやいた。妖鬼とは言え、若い妖貴が相 手であれば出し抜くほどの実力と才知を持っていた者だから、と。 そう聞いても、写磨の心はさほど動かされなかった。 『だって、結局は人間ごときに封じられたのでしよう ? 』 侮蔑もあらわに言い切った彼女は、しかし次の瞬間全身が凍えそうな感情の嵐を受けた。 この男・ のど 振り返った写磨は、しかしそれが男から発されたものではないことに気づき、思わず喉を上 ましよう ふうまぐ : というのが常識とされていた。だ 下させた。封魔具に封じられた魔性の命は眠っている・ が、男の差し出したそれからは、明らかに怒りの波動が放たれていたのだ。 封じられてなお、眠らずにいられる精神力の持ち主など、聞いたこともない。 つまりは、それだけ強い力を持っ存在であるという証明になる。 ぶべっ こご ようき

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どくん、と彼女の三つの心臓が同時に脈打った。 大きく : : : 苦しくなるほどに、決定的に。 どくん、どくん、どくんーーと。 なにかが、目覚めようとしていた。 写磨の意識を押しつぶすほどの圧倒的な力と意志を持つなにか、が。 「嘘よ : : ・」 呆然として、写磨はつぶやく 「嘘よ、嘘よ、嘘よ : ・・ : っ ! どうして・ : ・ : なぜ、こんなことが : 自分が自分でなくなるーーー自分が誰かにむさぼり喰われてしまう。 外側からではない。 内側からーーー『消化』したと信じていた命と意志と力によって ! 「嘘よおおうつつ ! 」 きぬ 絹を引き裂く音にも似た悲鳴を残して。 ようき 聞 彼女ーー『写磨』という名の妖鬼は消失した。 そうぼう ぶ代わりに現れたのは、漆黒の髪と双眸を持っーー写磨に『喰われた』はずの存在だった。 妖鬼などではない。 膝までも届く真っ直ぐな黒髪、濡れるかのごとき漆黒の双眸 ぼうぜん ひざ

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「呆れた : : : 」 へだ 界を隔てた閉じられた空間で、一部始終を見ていたサティンは肩をすくめながらつぶやい ようき さんさ そばに、ひとりの妖貴ーーーそう、『散叉』を名乗っていた妖鬼ではない。 しつこく 漆黒の髪と瞳を持つ、まぎれもない妖貴だーー害意を向けられずとも、そばにいるだけで全 あわだ 身が粟立つほどの力を秘めた青年だった。 さんさ 彼の名が『参叉』であることを、彼女は確信していた。 え そして彼の狙いが、いまのこの状況であったこともわかってしまったから、彼女はため息を つかずにおれなかったのだ。 ふうまぐ ぶ参叉の目的はただひとっーー封魔具に封じられていたあの女性 : : : 衣於留の復活だったのに てまひま 違いない。そして、そのために面倒な手間隙をかけ、機が熟すのを待っていたのだ。 「眠ってる相手を無理やり起こすのは感心できることじゃないわね : : : 」 こ 0 あき ようき いおる

8. 呼ぶ声が聞こえる

きたくなって」 さしものサティンも、困惑した。 ましよう じようきいっ 魔性が、浮城の捕縛師に向かって、封じてくれてありがとう・ : とは、かなり常軌を逸した 発言ではなかろうか。 ちらりと鎖縛に目をやると、こういうやつなんだとでも言わんばかりに肩をすくめて見せ た。衣於留とは、かなり変わった女性であるらしい。 「はあ : : : でも、彼 : : : アスラッドって方なんですけど、もうお亡くなりになってますよ ? 」 つぶて あの白木の礫に関しては、不思議に思うこともあって、サティンは浮城に帰還してすぐに、 あの持ち主について調べたので、これは確かだった。 ようき 浮城の記録に、かって妖貴を封じたものは一件しか残されていない。ラエスリ ールが鎖縛を 封じたやつだ。それ以前に、そんな記述は一切なかったのだ。 ひむろ ふうまぐ なのに、浮城の氷室から盗み出された封魔具に、妖貴の命が封じられていたというのはどう る にもおかしいと、調べてみる気になったのだ。 聞 あの封魔具の持ち主はアスラッドーー中堅どころの捕縛師で、単独での任務は受けない : ぶ言葉は悪いが、特出した実力を持っているわけではない人物だった。 そんな彼が、なぜ妖貴を封じることができたのか、サティンは疑問に思ったわけだが、不審 な点はそれだけではなかった。彼は封じた魔性は妖鬼だったと報告していたのだ。どんな意図 しらき

9. 呼ぶ声が聞こえる

「きゃあああつつ ! なんなの、なんなのよ、これつに」 ラーヴァンクの気配をたどり、行き着いたのは森だった。 それは : : : いい。別に意外に思ったわけでもなんでもない。 姿を自在に変えられる妖貴ならともかく、、人間に近い姿を持っとはいえ、完全に同じとは言 ようき まちなか い切れぬ妖鬼などは、人間の皮を被る以外の方法では町中で暮らすことはできないこともあっ て、人里から離れた場所に居を構えることが多いからだ。 だが、しかし。 そうぐう よもやまさか、この地方で、こんなものと遭遇するとは想像だに出来なかったモノを目にし たものだから、サティンは悲鳴をあげてしまったのだ。 人間、予想もっかない事態を前にすると、どうしたって動揺するものだ。 ポトリ、ポトリ・ : : ・ポト、ポトボト : : と、『それ』は際限なく上から降ってくる。 「ヒルだな」 冷静に『答え』を口にしたのは鎖縛だった「 「そんなことはわかってるわよっ ! わたしが言いたいのは、なんだってこの森にヒルがいる ようき さばく かぶ

10. 呼ぶ声が聞こえる

鎖縛である。 が、彼だけではなかった。 「相変わらず口が悪いわねえ : : : そんなことばっかり言ってると、嫌われてしまうわよ、用心 なさいな」 ましよう その声は衣於留のものーーそれだけでも護り手でもない魔性が浮城の結界内部に現れたとい うことで一大事なのだが、それ以上にサティンを驚かせたのは、彼女のその姿だった。 きんかっしよく ひすい その髪は金褐色、瞳は翡翠にも銀にも見える不思議な色彩ーーー耳だけが猫科の動物を思わせ びぼう る形をしているが、大変な美貌の主であることに違いはなかった。 ようき 写磨と呼ばれていたあの妖鬼だ。 「な : : : まさかつ」 がたん、と音をたてて立ち上がりかけたサティンに、「ちがう、ちがう」と彼女は手をひら ひらさせながら近づいてきた。 る 「ちゃんとわたしだって : : : さすがに黒ずくめのままじゃ、ここに来るわけにもいかないでし 聞 よう ? 護り手が多くったって、黒ずくめは鎖縛ひとりだって話だし」 ぶ「く、黒ずくめ : : : 」 いくら妖貴という言葉がまずいといっても、黒ずくめはなかろうに : : : と言わんばかりの顔 リーヴシェランがつぶやいた。 で、 しやま いおる まもて