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検索対象: 水の戯れ
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1. 水の戯れ

245 水の戯れ くちもと ロ許を手で覆い、アラインは息を呑む。 「あ : : : あ・ : : ・では : : : あなたは : : : 」 「セイ・リン・シェリアークって、言います。この月の呪を、剣に刻み込んだ者、貴女の、お そらくは師匠である方を : 〃月の化身〃を遺された方を、知る者です」 「、ンエリアーク : : : セイ・リン・シェリアーク・ : : ・やはり : しずく アラインの白い顔に歓喜の、そして安堵の表情が浮かんだ。閉じた瞼の下より、温かい雫が こばれる。 しょ おさ 「長からうかがった時、もしやと。まさかと思い、でも、と思い直して : : : 儀式への参列を承 うだく 諾したのです。銀の髪と緑の瞳を持つ、呪の使い手。もう : : : 待っ必要はないのですね。荷を ・ : 先に遺すことも。ェイルさまとの約束を : : : この手で果たすことが : さいだん サーザが、ロムスが、長老が呆然として立ちすくみ、ただ祭壇での出来事を見守ることしか できない中で。 めい 「我が師ェイルの命により、守りし剣の月を、その主人である方へお返しいたします」 ひざまず シェリアークの前に、彼女は跪いた。 おお ぼうぜん の のこ まぶた

2. 水の戯れ

114 たからね。その後がまとして、私が選ばれたのだ。幸いにも私の術は彼の紡いだ呪を抑え込む だけの力があった。被害を受けた町や村の人々は喜び、私と私を派遣した王に感謝し、謝礼を うるお 差し出した。王は潤い、己の欲望を満たし、私は : 少し皮肉つばい笑みが、彼の薄い唇に浮かんだ。 「この一件以来、オルヴィ・ク ー丿・レアルは超一流の『水使い』だと認めてもらっている。 ジュアン王の、筆頭術士の地位とともにね」 「わ、私はつ。ォルヴィには : : いえ、オルヴィなら、一年に一度術を施さなくてはならない しず ような鎮めしゃない、呼び覚まされ暴走する水を、完全に鎮める力を持っておられるって思う んですけどお」 とが ゆが シェリアークは唇をへの字に歪め、咎めるみたいな声を発する。 「多少買いかぶってるって気がしないでもないな、それは。私は元々、水の呪を最も得意とし ていたわけではないし みなもと 「ですけどお。ォルヴィには全ての呪の源である陽の光を、自在に紡ぐ力があるじゃありませ んかあ」 ォルヴィは苦笑を浮かべた。 「君が思っているほど、私は陽に愛されてはいないよ。まあでも、確かに全身全霊を込めれば 可能だろうね。ジュアンを流れる川は、どうにもならないほどには歪んでいないから」 ほどこ つむ じゅ

3. 水の戯れ

「五日。それで十五分待ってやる」 ちゅうちょ 返事はシビアだった。シェリアークは一瞬躊躇して、ため息混じりに「それでいいですう」 うなず と頷き、少女の方へと足を運んだ 「アドルっ、アドルしつかりして。目を覚ましてよ、ねえつ。魍魎はもういないのよ」 「大丈夫ですよー。その子、水を少し失ってるだけですからあ」 シェリアークは少女の肩に手をおいて、笑いかけた。 「セイ・リンっていいますう、私。水は使えないんで、そんなには役に立てないんですけど お」 身を堅くして赤くなった少女の肩を、ばんばんと安心させるように一一度叩き、彼はアドルと ひぎ 呼ばれた少年の傍らで立て膝になった。 ぐったりとして反応しない少年は、少女とそう変わらない年ごろだろうか。明るい茶色のく せつ毛は、魍魎に飲み込まれたためにべったりと濡れて顔にへばり付いていた。そのくせ浅黒 い肌と唇は、がさがさに乾いている。だが幸いにも、血は奪われていないようだった。 れ 戯確かにユサの見立てどおり、放っておいても一時間くらいで目は覚めるだろうが。 水 「ちょっと、失礼しますー じゅ てのひら シェリアークはゆっくりと、呪を一つ掌の中に紡ぎ始めた。柔らかな緑の呪。ここにある つむ

4. 水の戯れ

火矢が、次々に放たれる。松明を投げつける者もあった。 アドルはユサに借りたフレイエルの剣を振るい、先頭に立って柵を越えようとする黒い魍魎 を切り裂いていった。 あいつの一言うこと、本当だ。 どちらかと言えば細身の、しなやかに強い刃を彼は驚嘆のまなざしで見つめる。〃こんびに〃 の剣を操っていたときとは全然異なる手応えを、すっと感じていた。 「アドル 叫ぶ声に呼ばれて、我にかえる。ゲルではなくゾルの、素早い動きをする魍魎が目の前に触 手を伸ばしていて、思わず息を詰めるが。 かまいたちに似た風の刃が魍魎を一瞬のうちに切り刻み、小片に変えた。 「だめですよお、柵のそばでばうっとしちゃあ。次々に来るんですからねえ」 最低で最悪の状況だというのにシェリアークの話し方は相変わらすのんびりとしていて、今 はそれがなぜか妙に力強く感じられる。 れ「ごめんつ。あんまり、こいつが凄いもんだから、感心しちゃって」 いっせん のアドルはぬる、とのし上がってきた黒いゲルを一閃し、二分割した。分断されたまま、また 水・うごめ 蠢き始めるそれを、再び一一つに裂く。 動きを止めたのに、ほっとして息をつく。すでに一時間余り、誰もが肩で息をして動きが鈍

5. 水の戯れ

登旧 ^ 物紹 フレイエル・レネユサ もとフラーナ皇国皇帝専属の鍛冶報酬を受けて依頼をこなす剣士。 師。剣に呪を封じる研究をしておツッコミ激しく冷淡な性格だが、 り、ユサの魔剣に興味を持つ。御シェリアークにはペースを乱され ている。呪力の効かない体質。 年ハ十歳の喰えないジジイ。 〈これまでのあらすじ〉 かって術士シェリアークはい自らが見 た減びの夢を断っために呪を封じた魔剣 を造った。、、、 = カ完成した直後に師・リュ ォルの手によって呪をはぎとられ、シェ リアークは剣の中に囚われてしまう。 百五十年後、ユサはある依頼を受け魔 剣の封印を解いた。一そこでリュォルの弟 子たちが剣の呪をひとつずつ保管してい るのを知り、剣のおまけとなったシェリ アークと共に呪を取り戻す旅に出る。 偶然からリューオルの弟子のリューネを 見つけだしたニ人は、戦った末に風の呪 を手に入れた。がいなぜ剣が封印された のか、】減びの夢とは何なのか、謎は深ま るばカりだった。 )

6. 水の戯れ

208 じゅ も、つりようえさ 「川鎮めの術が失敗した。レアル師の唱えた呪は川から生まれる魍魎の餌になって、今、冗談 みたいな数の魍魎が、うようよしてる。だから絶対に外に出ちゃだめだ ! 」 「何を言う、アドル。月祭りはこの日にしか : : : 」 がくぜん ロムスは息子の報告に咢然としながらも、首を横に振るが たいまっ 「今すぐかがり火を燃やして、松明という松明に火をともして、火矢を準備するんだ。あいっ じんじよう ら、尋常じゃない。ここにいても、安全かどうかはわかんないんだ。村に鎮めた護りが : かないかもしれない 「アドル : : : しかし : つくも やしろ 「月守りの社にも、アラインさまにもすぐに連絡しないと。俺が行くよ。月祭りとは別のこと だから、火と剣を持っていくよ。 しいよね」 「アドルっ。アドル さえぎ まくし立てるアドルを、ロムスは強い声で遮った。 「アドル。月祭りは先のばしができない。月のご加護を得るには、今日を逃すわけにはいかな いのだ」 つきつぎ 「そんなこと言って、それでみんなが襲われたら、月祭りも月嗣も何も、なくなっちゃうんだ よ ? それが、わかんないの父さんっ ロムスはロをみ、唇を噛んだ。集ま 0 た村人からどうするんだと幾つもの問い掛けが飛

7. 水の戯れ

言い兼ねない」 「それは、させない : ほらあな 呼び止めようとするが、ユサの姿はもう洞穴の外に出ていた。ばいばいと一一 = ロうみたいに、右 手が彼に背中を向けたまま一一度振られる。そうしてすぐに、ユサは彼の視界から消えた。 「すいぶん素早いな、彼は 少し大げさに、オルヴィはため息をつく。 だいじようぶ 「ま : : : 大丈夫だろう」 そしておもむろに、低く唇に水の形を紡ぎ始めた。 じゅ 微かな唇の動き。呪は台上の珠を揺さり呼び起こしはじめた。 もやかたまり ふう : : : っと、水色の珠から何かが立ち昇る。白い、靄の塊のように見えた。 かざした手がゆっくりと持ちあがると、導かれるように靄は広がりつつ球を作ってゆく。左 みなも うごめ 手と、右手との間に。珠の中に蠢いていたそのままのものが、揺れる水面のようにさざ波を立 てる。より大きく、より濃く。視界のうちにはっきりとした形となっていく。 かたち れ紡がれてゆく呪、靄は徐々に広がりを見せ、球からまた違った貌へと変形を始めた。 へび ゆが の真円が歪み、どろりと崩れてゆく。靄の球はうねりとぐろを巻く蛇をやがて形作る。 「 : : : 来い : : : ここへ」 ォルヴィの唇が、呪ではないものを発した。 たま つむ

8. 水の戯れ

ゅめみ 「あの : : : セイさま。できれば、七十年前にエイルさまがなさった夢見の預言を : : : 受け取っ のこ ていただけないでしようか。あれは、エイルさまが命をかけてセイさまに遺されたものです」 「あー : はい。ええ」 握っていた取っ手から手を放し、シェリアークは振り返った。アラインは両手を胸のところ うた で組み、静かに言葉を謳う。 はるか北の大地に、滅びの夢は目覚めき。鍵となるは、夢を生みし術士の魔剣。夢を 断っ剣は、また唯一夢を止める力を有するものである故に。最も貴き者はやがて黒く輝く夢を まとい、陽をかたわらに闇を求める。夢が闇に追いっきしとき、闇は夢のものとなり初めの夢 うつよ が現し世のものとならん。また闇が夢にたどり着くとき、陽は闇を得て新たなる現し世を創り ださん。夢の動く時、剣もまた目覚めん。もし異なりし現し世を望まば、かの剣を得よ。夢を 断ち新たなる夢を生む、ただ一つの剣をーーーー れ「はー の最後の一言がおわったところで、シェリアークはしみしみとため息をついた 「こうゆうのって本当に抽象的ですねえ。どうせなら、もっと具体的な名前とか地名とかで教 。けちだなあ えてくれればいいのにー

9. 水の戯れ

草だということだった。量的に少なかったのが幸いして命に別条はないが、今日明日いつばい は安静が必要と診断された。また吐くだろうし、熱も出るかもしれないということだ。 どこで食事をしたか知っているかと尋ねられ、わからないと、ユサは答えておいた。この二 人が〃ふあみれす〃で何を口にしたのか、その前にどこにいたのかを、知らないからだ。 うな 医者を見送り、ユサは時折唸るばかりの一一人の中毒者が目覚めるのを待ったのだが。 先に気がついた村長は、自分が丸一日近く眠っていたと知った途端に、役所に行くとか言い だして無理やり起き上がろうとした。 王より下されたレアルへの命令書を、是が非でも今日中に取りに行ってこなければならない などと言って。 おうと 言ってるそばから嘔吐した。 始末をしてやったユサは、それでも動こうとする男をうんざりといった顔で眺め下ろす。 「そりゃあおっさんがどうしてもつつーなら、まあ勝手にすりゃあいいけどな。どーせ十歩も 歩けばぶったおれるぜ ? 俺は、おっさんが役所にたどり着く前に意識不明ってのに賭けるけ ど」 上掛けを、乱暴にかけてやった。ロムス・シードは土気色に近い顔色で浅い呼吸を繰り返 ひじ し、尚も肘をついて身を起こそうとする。 しカん。今日中に : : : 王の命令書を術士の館に持っていかねば : : : 」 ぜひ っちけいろ

10. 水の戯れ

71 水の鼓れ 心から、村長とアドルをうらやましいと思う。伴侶にするなら料理上手が一番だ。何しろ日 に三度も、人生の至福を味わえるのだから。 「おいしいですねえ」 肉汁のソースで茶色のべたべたになったロにパンを一杯頬張って、彼は幸せそうに吐息を漏 らした。この食事の間だけで、一体何回同じ言葉を繰り返したか数えきれない。アドルの母親 にも料理の皿が出てくる度に「おいしいですう」と幸せいつばいの笑顔で言い、ふつくらとし うれ た彼女の頬を嬉しそうに染めさせていた。 「そう思いませんかあ ? ュサ」 「別に。腹の中に入れば、何だって同しだ」 ュサの方は手とロとを淡々と動かしつつ、目と耳とを最大限に使っている。 村の男たちの話を聞いているのだ。興味深そうに、時折またの奥の瞳と唇とが、笑った。 も、つりよう うごめ アドルが話してくれたように、この村の付近では、五年ほど前から魍魎が昼の光の中でも蠢 くよ、フになったようだった。 道に迷い込んだ旅人らしき変死体が見つかったのが、最初らしい。調べに出た村人が、次に 死んで。少し離れた地域でも、同しことが起こったという。それが付近の川の周辺にかたまっ ているのがわかって、そうして。 しわぎ 魍魎の仕業であることが、七つ目の事件の生存者の口から語られたのだった。 はんりよ ほおば も