そこまでさせてくれんかの。試し切りなんぞさせてもらえると、一一一一口うことなしだ」 「私はそれつくらい、全然いいですけどお」 「てめえは黙ってろっ , ばけ術士」 はさ 口を挟んできたシェリアークにカップの中身をぶつかけようとして、空になっているのにユ まゆ サは気づく。いまいましげに眉をひそめ、舌打ちした。 「俺がそんなことをあんたにやってやる理由、ないぜじじい」 カップをテープルに乱暴に戻し、彼は首をかしげる。足を組んでいて、胸を反らせぎみにし ているので、いかにも相手を見下しているみたいに見えた。 どうくつまも 「かわりに 。だから情報を提供しようと一一一口うのだよ。剣の洞窟を護っていたルウォット、ナイ ふうじゅ アスで〃封呪の術〃を模索していたリューネ。百五十年前にフラーナの術士リュォル・ディ・ じゅ フェロスに師事していた者は、他に見つかったかな ? ュサ。呪を持っているのはその連中ら しの前にシェリアークと話した時には、名前すらおばっかないということだったが」 組んでいた足を、ユサは外す。少しだけ、濃い青の目を見開いた。 「 : : : それで ? 」 「わしがフラーナの上の方と少々つながりがあることは、お前さんも知っておるな」 せきばら フレイエルはこほん、と咳払いを一つする。少しだけ厳しい目でユサを見直した。 「今、百五十年前のフラーナの塔の記録を、手に入れるよう手配しておる。あれを見ることが
「あのお、ごめんなさいアドル。こんな状況で、訊いていいのかわかんないんですけどお。ど うしてオルヴィの術が失敗したか、わかりますかあ ? 街道を一直線に駆けさせながら、シェリアークはおずおすとアドルに尋ねる。アドルはきっ く手綱を握りしめ、少しの間があってからロを開いた。 ほらあな 「俺が : ・ : ・洞穴を、崩したんだ。サーザを、巫女にしたくなくて。それで、祭りができなくな つきつぎ れば月嗣も流れるって思って」 「ええええ、んっ卩 「レアル師 : : : 昨日俺が、悩んでるのを、気遣ってくれて。それで、相談したら : : : そうしょ うって。ちょっと崩しただけなら、大丈夫だし、祭りを中止してから : : : もう一度、術は施せ るって : れ シェリア 1 クは声もなく、横を走るアドルの青ざめて血の気のない横顔を見つめる。 の「まさか : : : あんなに、なるなんて。入り口が完全につれてしまうなんて、思わなかった」 「そんな : : : こと。ォルヴィがそんな : : : ばかな : あえぐみたいな声が、シュリアークの唇から漏れた。手網をつかむ手が、知らす震える。 たづな ほどこ
「やめてよー。今の状況じゃ、それジョークしやすまないんだから。口に出しちゃうと、何だ か本当にそ、フなるよ、フな気がするしゃないー」 一番年かさの少女が、ちょっとだけ真顔になって怒った。 「ねー。もしこのまま当日を迎えたら、どうなるのかなあ ? 月祭り 先よりも少しばかり、赤毛の少女の声のトーンが下がる。 「みんなで月にお祈りしながら参道登るんしゃないのお ? ここまで魍魎が来ませんようにつ 「満月なわけだから、月は夕暮れにならないと姿見せないけどねー 「その辺、マジで笑えないって」 「やつばり術士が間に合うの、期待するしかないでしょ 天井を見上げて、溜め息が一つ。 「だけど本当にどうなったのかしら、術士を依頼するっての。村長とアドルが出発してから、 もう何日になる ? 」 れ「とんとんといってれば、昨日あたり帰ってきててもいいはずなのに、遅いわよね」 の「何か、事故でもあったのかな ? 「レアル術士がお忙しくて、なかなかコンタクト取れないとか ? 」 ュエシャン、依頼金ぎりぎりしか持ってってない 「ジュアンの王が渋ってんじゃないのー むらおさ
うす 日の傾き始めた森の道を、ユェシャン山の柔らかな姿を目印に四人は三人と一人といった風 あしもと 情で進んでいる。ュサは一人で先を行き、まだ足許のおばっかなげな少年アドルをシェリアー クが支え、サーザはアドルを気遣いながら歩調を合わせていた。 、も、つり・よ、つ ゾル状の魍魎を倒した後は新たな魍魎も危ない獣も現れることなく、目指す村まで後少しと いったところだ。 おさななじ ふもと 幼馴染みだという一一人が住む村は、目印の山の麓近く、茂る森のうちにあるという。美しい ところ すうはい 碓型の山はもう一世紀を超えて、月のカの降る処として崇拝され村人によって護られてきたと い、フことであった。 つくも やしろ 山頂には月守りの社があり、巫女が一人、長く仕えて暮らしているとか。昔語りでは、村の すみか 歴史は初めの月守りの巫女が洪水で住処を失った人々を救い、この地にいざない、社と村とを おこ 新たに興したことに始まるとい、つ。 月を祭る村のこど
110 ぶつ : : : っと、切っ先がアルジェの喉を突く 小さな赤い粒が見る見る盛り上がり、白い皮膚の上を流れた。 ・ : がっ」 も、つりよう はいかい じゅ 「お前らだろ ? 昼間つから魍魎を呼び出して、徘徊させてるのは。シェリアークの剣の呪 しず を、使ってさ。そしてそいつを鎮めている。金を受け取って」 ゆが 力を少し込める。アルジェの顔が恐怖と苦痛とに歪んだ。 つらぬ 「返事しないと、その喉貫くぜ ? 俺は別に事実を知っておきたいだけで、それでど、 2 」うし ようって気は全然ねえんだからさ。答えろよ ? 動けす、真っ青になってユサを見つめるアルジェに、彼は冷ややかな笑顔を向ける。 「わっ、わっ、わっわっわっわっ。なななな何てことしてるんですかあ、ユサっ とんきよ、つ かすかに、背中に振動を感じたかと思うや、後ろですっ頓狂きわまりない声が響いた やってらんねータイミングで、出てくんしゃねえよ : 全身から、カが抜けるのをユサは感した。 「そそそそういう乱暴なの、よくないっていつつも言ってるでしようがあつつ ' いきどお 憤りと心配とが入り交しった説教をまくし立てながら、シェリアークはユサの背後から手を 伸ばして剣をひったくる。同時にユサの肩をぐいっと擱んで、自分の方を向けさせた。 一三ロ のど
望みがかなって」 ュサはふん、と息をつく。 、も、つり・よ、つ 「明日にはオルヴィも来てくれるから、魍魎の方ももう安心ですし。あのですねえ、ユサ。 しず いですよねえ」 の鎮め終わってからだったら、オルヴィに私のことを、訊いてみても、 少しためらいがちに、シェリアークは言った。 「剣がなぜ封じられたのか、とか。私がどーして剣につなぎとめられちゃったのか、とか。そ れを今になって欲しがる方がいるのはなんでか、とか。ねえ」 うかが 肯定を期待して、窺うみたいな視線をユサに送る。 「オルヴィはレイディよりもすっと先生に近しい方だったですから、ご存しかもしれません」 「それ以前に、川を鎮めるってのが上手くいくのかどうかって気がするけどね、俺は」 まゆ / エリアークは少しだけ唇をとがらせ、眉を寄せる。 あまり気のない声であった。、、 「なんですう、ユサ。それはつ。ォルヴィの腕、信してないんですかあ ? 」 「見てねえもんを、信じられつかよ。少なくともあいつの弟子ってのは、ろくなもんじゃなか れらた」 の「すごいんですってばあ。私は知ってるんですから、信してくださいよお」 再びあお向けになったユサは、不服そうなシェリアークに、鼻先でせせら笑うみたいな笑み を見せた。
方向違いもはなはだしかった。 ク々外で話すにははばかられるものがあるから、ここまで 「まあまあそう文句を一一一一口うでない。ト 来てもらったのだ」 「えー、それってなんですかあ ? すごく気になりますう」 「俺はそんなもん、どうでもいい」 シ土リアークの少し高い間延びした声とユサの低く鋭い声とが、ほとんど一緒に答えた。 「なあにユサ、お前さんにとっても、それ相応に興味を引くことのはずだぞ。後になって知っ たら、絶対に話を聞いておくんだったと後悔する」 フレイエルはユサに向かって少しだけ胸を反らす。そして。 「まずは茶だ。茶でも飲んで、心身共にリラックスしてから本題に入ろうじゃないか」 右足と右肩を引いて、一一人に館の中に入るよう促した。 一一つ返事でいそいそと歩きだすシェリアークの後ろで、腕を組んだュサは動こうとしない。 その気配を感じて、シェリアークは足を止めて顔だけふり返った。 「ほら、せつかくのおよばれなんだからユサも行きましよう。あんまりかりかりしてると、若 ハゲになっちゃいますよー」 じやき 邪気のない、笑顔。そこに。
180 ほらあな アドルが馬を止めて、二人をふり返った。その向こう側に、つい二日前に一度入った洞穴の 、フろが見える 「さて。着いたようだ」 ォルヴィはアドルの傍まで馬を寄せたところで、手綱を引いた 彼らとは少し離れた位置に馬を止め、ユサは地面に降りる。少し遅れて、一一人の弟子も同じ 場所にやってきた。 ォルヴィは一一人の青年に、このまま指定の場所まで行って作業に取りかかるよう指示を出し とどこお じゅ みちび 川際の一番水の滞る場所で、オルヴィが生み出した呪、その術を導く役をするのだとい 「頼んだよ」 「お任せください」 一一人は馬上で深く一礼し、そのまま道を下っていった。そのうちに、この場所からも見える 川岸に、再び姿をみせるだろう。 「君たちはどうする ? 外で終わるのを待っているかい ? それとも中で見物でもしてい る ? つな 馬を木に繋ぎながら、オルヴィはアドルとユサとを順番に見やった。 も、つり・よ、つ 「お、俺は、外で待ってます。万一腹を空かせた獣とか魍魎が迷い込んできたら、洞穴に入ら たづな
210 やった。 「ごめんな、サーサ。これ全部、俺の : : : せいなんだ」 少しだけ、笑ってみせる。 「後でさ、責任取るから。今は、今頑張るのを許してくれ、な」 「何、それ。いったいどういう・・ : : 」 「アドルっ。お前の分だ」 尋ねようとした言葉は、ロムスの意気込んだ声に呑まれて消されてしまった。 「うん」 たいまっ アドルはロムスの手から松明を一本受け取り、立ちすくむサーザに笑いかける。 「しや、ちょっと行ってくる」 「アドル、待ってよ。私まだ何にも聞いてないっー つくも 松明を軽く振って、彼は父親の後について月守りの社への参道へと入っていった。 ざば : : : っ やしろ
186 「 : : ・うわ のぞ のぞ 現場の様子を覗いてこようと坂道の途中から川を臨んだュサは、呆れると一一一一口うかあっけにと たづな られて絶句した。思わす手綱を引き、その光景に見入る。 「こりやそーとー根が深いや・・・・ : 」 もうりよう 川の一角に、魍魎の広がりがあった。川の底に沈む古い呪が解放され、また少し離れた位置 よど より二方向から水を活性化させる陽の光の呪を注ぎ込まれて、深くたゆたう澱んだ水の気のす 「我が身の内へ来たれー 強い命令に、眼のない頭をもたげ、蛇は大きくらせんを描き己を生み出している術士の身体 を取り込んでゆく 「我と一つとなれ。水の王よー 水の蛇は、形を崩してかき消える。 へび じゅ あき