幽霊船 - みる会図書館


検索対象: 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4
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1. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

172 それを癒やすため、ライビュートは海の底にいたのだ。 だんまつま そこへ、オーディスの断末魔の叫びが届いた。 のぞ てんまっ 死に臨み、オーディスは事の顛末を瞬時にしてライビュートに伝えていた。 受け取り、理解し、怒りに全てを支配されたのは一瞬の出来事であった。 がんぐ 人間に玩具を奪われた このことは青の妖魔の理性を消し飛ばすのに十分だった。 怒りに身を任せ、妖魔は海の底に飛び出していた。 とら いまライビュートは、幽霊船を捉えつつある。 「ちくしよう ! 」 めずら 珍しく、グーリアスがロ汚くそう叫んだ。 また一人、亡者が吹き飛ばされる。 「体が消える ! 」 「なんだと ! 」 舵輪を握りしめ、門が開いたならすぐにでも飛び込まんとしている『案内人』が、そう叫び 返した。 満月を挟んだ三日に限られる彼の実体化は、その最終日のいつに効力が切れるかは、決まっ ゅうたい てはいないのだ。夜が明けてもしばらく持っこともあれば、夜半過ぎに幽体に戻ってしまうこ

2. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

「幽霊は昼間は現れられんーーーそこの兄さんは違うようだがな」 グーリアスは幽霊じゃないわ ! そう一言おうとしたルーナだったが、肩に置かれた彼の手が それをとどめた。 「昼間この船は、沈みかけたただの廃船だ。とても妖魔と戦うことなんかできねえ。だが、夜 は違う。この俺も戦うことができる」 「 : ・・ : どうして倒すつもり ? 」 、う・め・、よく 、い。後はそこの兄さんとでしとめる。や 「あんたは、オーディスの妖力を抑えてくれればし ーもり り方は鯨狩りと同じだ。銛を奴の体にたたき込んでやるのさ。妖力さえなければ、奴は変わっ : ところで、兄さんは鯨狩りの経験はあるか ? 」 た鯨にすぎねえ。 「ふうん。まあ、大丈夫だろう」 『案内人』は不敵に笑った。 城「とにかくも、明日の夜だ」 て 果 界『案内人』が言ったとおり、夜が明けると船は廃船に変わってしまった。 世 何とか浮かんでいるものの、いつなんどき沈んでもおかしくはない。事実、船倉は浸水して

3. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

だが、それが命運を分けた。 「行くぞ ! つかまれ ! 」 『案内人』が叫んだのと、放たれた矢のように船が飛び出したのは同時。 開き切っていない『門』に、幽霊船は吸い込まれた。 しんきろう やがて門はゆっくりと閉まり、蜃気楼のように消えた。 その前に、何かが波を蹴立てて門の内側に入っていったが、それを見ていたのは、ただ月ば かりであった。 『門』の中に入った途端、亡者どもは全て吹き飛ばされた。 残らす、全員、かけらもなく。 ふう まるで、そんな物は元からいなかったとでもいう風に。 ききいつばっ 「やれやれ、危機一髪といったところか。まったく冷や汗ものだったぜ。おまえたちが約束を 城果たしたのに、俺が果たせないんじや後味が悪いからな」 そうせん 果操船をしながら『案内人』は言った。 界前部マストにつかまりながら、ルーナは風の中にその声を聞いていた。 世 『案内人』が言ったとおり、『門』の中は闇の道という形容そのままであった。 まったく明かりはないのだが、しかしなぜか、幽霊船は昼間のようによく見ることができ

4. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

188 竜は中へと入った。 ずいぶん 洞窟そのものが白く輝いていて、随分と明るい。壁は濡れているように見える。 洞を抜けると、小さな港が船を待っていた。そこは巨大な広場のようで、ばっかりと穴を あわ 空けた天井から降り注ぐ、非常に淡い陽光が銀を撒いたかのように水面を輝かせている。 みちび 海竜の動きが止まると、船はその背を自然に離れ、導かれるように波止場へと着いた。 大理石のような船着き場に船体が当たった際、幽霊船は大きくかしぎ、木片がばらばらと水 に落ちたものである。 「そら、下りた下りた」 板を渡し、『案内人』は言った。 いや、おまえたちには始まりかな ? 」 「ここが終点だ 「ええ」 船着き場に下り立ったルーナは、幽霊船を振り返った。すぐ脇にグーリアスも姿を現す。 『案内人』は二人を見て、笑みを浮かべた。 「帰りは、」 の船がおまえたちを元の世界へと運んでくれる。安心して会ってくるがいいさ」 「ありがとう」 「礼を一言うことはない。おまえたちは資格を得て来たのだからな」 「それでも : ・・ : ありがとう」

5. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

「それでは、これで失礼します、賢者様」 少年は頷いた。 膝の上から白猫が下りて、道案内をするべく、きびすを返したルーナの前を行った。 ルーナが出て行き、扉が閉まると、部屋は輝きを失い、闇に落ちた。 「 : : : あの娘に、幸、あらんことを・ : : ・」 『全てを知る者』の口から、そう、つぶやきが漏れた。 城には再び、深い静寂が戻った。 はんせん ルーナが乗り込むと、賢者が言ったように、帆船は勝手に船着き場を離れた。 ゅうれいせん 入り江には、幽霊船の姿はなかった。 幽霊船に積んであったポートは、今ルーナがのっている船に移しかえてある。 どうくっ 船は洞窟を抜けると、みるみる城から離れた。 城ルーナは振り返らなかった 決して。 きり まわ 果やがて、周りに霧が立ち込めたかと思うと、船は『門』への道に入っていた。 むら一き とうとっ おだ 界紫の雷光が飛び交う中を船は進み、そしてまた唐突に、穏やかな海へと飛び出した。 ここで初めて振り返ったルーナは、巨大な門が閉じていくのを見た。 開くときと同じように、美しい歌が聞こえていた。

6. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

「まさか : : : 」 ルーナはいたずらつばく笑った。 「そうよ。世界の果てへの案内人は : : : 幽霊船よ ! 」

7. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

136 かんばんうごめ ルーナは甲板に蠢く、多くの姿を見た。さまよう、という一言葉がびったりなその動作は、下 手な人形使いの人形のような感じがした。 船が近づくにつれ、辺りを飛び回っていた光の玉は、ひとつ、またひとっと消えていく。 きやしゃ カカ グーリアスは屈み腰でルーナの側によると、彼女の求めるまま、華奢な手を握った。 まちが これこそが、白鯨の言った案内人だわ。 幽霊船に間違いない。 恋人の手の感触を確かめながら、ルーナは船が近づくのを待った。 。これほどの船が進め 幽霊船は音もなく進んでくる。しかし、少しの波も立ってはいない ば、それだけでルーナたちの船などひっくり返してしまうほどの、強い波が起きるものであ る。それがない。 れいたい 果たして実体があるのかしら。この船そのものが巨大な霊体だとしたら、波が立たぬのも道 理だけれど : ・ 見るうち、船はポートに横づけするような形になって停まった。 がけ 見上げれば、船の外壁は崖のように高い 手を伸ばし、触れてみるとじっとりと湿った木の感触があった。霊体などではない。きちん とした実体がある。 なわばしご と、上からこれまた腐り落ちそうな縄梯子が投げられた。 「登ってこいということらしいわ」 くさ へ

8. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

目次 世界の果ての城 難破 漂着 : ・ 無人島 4 楽園の正体 5 月下の幽霊船・ : 6 ライビュートの襲撃・ 世界の果ての城 167 182 129 8 絶望と希望と : ・ 9 解呪 川ルーナ、その後 : エピローグ : あとがき 249 260 272 202 227

9. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

約千年程前、いまは広大な大洋となっている海には、ルーナたちが住み暮らしていた大陸の それよりも大きな陸地が存在していた。 大陸の名をグラデュエーンといった。それは統一を果たした国家の名でもあった。いまでは 考えられぬほど魔法と技術が発達した国であり、大陸に伝わる技術のほとんどが、グラデュエ ーンからの物との見方もあるほどだった。 文献のひとつはルーナの城の地下書庫にも存在している。 このグラデュエーンはしかし、一夜にして滅んだ。原因はわからぬ。だが、大陸は海に呑み 込まれ、消えた。 ト - う・ま のろ 彼はそのグラデュエーンの民であった。だが彼は海の妖魔の一人に呪いを掛けられ、いまの ような体にされてしまったのである。 彼は死者でなく、生者にもあらず。 しよぎよう 幽霊のごとき存在で、幽霊の仕業のごとき所行をしてのけることができる体であるが、満 月を挟んだ三日の間のみ、元通りの肉の体を持っことができた。 この航海は、その呪いを解くためのもの。 ここより最も近い港町レゼントを出てより二か月が過ぎている。その間、これと言った事件 も事故もなく、航海は順調だった。 みちび 目指すは世界の果て。彼女らの行動の指針である、二枚の石版から導き出された古文書は、 もっと

10. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

頬を染めた彼女がグーリアスを見やると、空を映した青い瞳が呼んでいた。 たきびはさ いまだに少しくすぶっている焚火を挟んで、引き寄せられるかのように、ゆっくりと二人は 近づいていった。 「 : : : グーリアス : : : 」 優しく、熱く、二人のくちびるが重なった。 ああ : : : 空が高い : 再び夜が巡り来た。 陽が暮れるとすぐに、廃船は幽霊船に化けた。 午後のうちに、・、 オートは船の上に上げておいた。おそらくこの場所から移動するだろうと思 いそうしたのだが、正解だった。 『案内人』は船を東に向けて走らせた。 にお 「奴はすでに亡者どもの臭いを嗅ぎつけている」 「どこに行くの ? 」 もぐ 「水深の浅いところだ。深く潜られては手も足もでなくなってしまうからな。近くに島があ