戻っ - みる会図書館


検索対象: 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4
214件見つかりました。

1. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

「《カ》が戻ってきたのか ! 」 満足そうな笑みをルーナは浮かべ、頷いオ 「《カ》が使えなくなったのは、白鯨の試練だったのーーありきたりな話だけれど、自分の身 にふりかかってみれば、そうは言っていられなかったわね」 ふふ、とルーナは笑って見せた。 「ライビュートの仕業ではなかったのか」 「世界の果てへ行くには、資格が必要なの。《楽園》はそれを見極める場所」 のぞ 上から覗き込むように、グーリアスはルーナを見た。青い瞳が期待と不安に揺れている。 「合格したかって ? ええ、もちろん ! ちゃんと許しは得られたわ」 「よかった : : : 本当に」 「ええ : : : さあ、案内人のところへ行きましよう ! でも、その前にグーリアスは人化の指 城輪を外さなくてはね」 果「わかってる」 ひたい 界言って、グーリアスはルーナの額にくちづけた。 「で、その案内人というのは、どんな人物なんだい ? 」 「ーー・・あら、グーリアスにも石版は読んで聞かせたでしよう ? 」

2. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

豊かな黒い髪と漆黒の瞳をした女は、三十を越えていないように見えるが、そうではない。 母さん」 荷物を下ろした青年は答えた。 サファイア 栗色の髪が風に揺れた。背が高く、すらりとして、青玉のような瞳が、印象的であった。 むだ 「止めても無駄ですよ。僕は十五になったんだ。この森を出て、世界を見てきます」 「 : : : あなたは、ここへは戻ってこないでしよう」 クラークは入った。 「また予言ですか ? ばくは信じてませんよ。そのうちに、何年先かわからないけれど、いっ みやげ ばいのお土産をもって帰ってきますよ」 「いいのですよ。戻らなくても : : : 今は。遠い、遠い未来に、きっと帰ってきてくれれば」 「まいったなあ : : : イエナ姉さんもおんなじことを言っていましたよ。わたしと母さんを捨て るのね ! って、すねられて、困りましたよ」 城「まあ : : : 」 「僕も、姉さんと離れるのは寂しいけれど、でも、行きます」 界「あてはあるのですか ? 」 「まずはレゼントへ行って、ラザーランド叔父さんを訪ねるつもりです。ほら、いっか船乗り あいさっ になりたいのなら、来いと言ってくれてたじゃないですか。ただの挨拶だったのかもしれない くめ・ しつこく

3. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

かんけっせん 間欠泉のようなものだったの、あの山は ? ーー体を水に打たれるに任せ、ルーナは山を見上 げたーー・すると、グーリアスが見たというあの噴火口は、水の通り道だったのね。 顔を雨が流れ、ルーナのロに入った。 しおから 「塩辛い : : : 」 思わず言葉が口をついて出た。 真水じゃないーー・海水だわ ! あの山は、海水を吸い上げて吹き出しているんだわ ! も、どうやって ? 考えたが、その理由には思い至らなかった。 雨がやむと、鳥たちが戻ってきた。先と同じく空にひととき原色のタベストリーを織り上げ ると、森に吸い込まれるようにそれは消えた。 陶然とした心持ちでルーナはそれを見上げていた。 あわ グーリアスが息せき切って戻ってきたのはその時である。相当に慌てたらしいというのは、 城髪のほっれ具合を見ればわかった。頭から、によっきりと木の枝が生えている。 て「大、丈夫、か : の呼吸を整える間もないままに、彼は訊いた。 世ルーナは答えの変わりに微笑みを投げ、手を伸ばして髪の枝を取ってやった。 四グーリアスは照れたような笑みを浮かべると、ルーナを軽く抱きしめた。 とうぜん

4. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

けれど、とりあえずは行ってみます」 「クラーク : : : これだけは忘れないでね。あなたの故郷は、ここだと : : : 人知らずの森である とい , っことを一 「忘れるわけありませんよ、母さん」 青年は荷物を肩に担ぐと、門を押し開けた。かっては錆びついて動かなかったものを、クラ ークが直したのだ。 : でも、帰って 「姉さんによろしく。お土産を楽しみにしてるように言っておいてください : くる頃には、結婚して子供の一人もいるんだろうなあ : : : 」 快活な笑いを残して、クラークは森の中へと出ていった。 青年は一度だけ振り返ると、それきり見えなくなってしまった。 ルーナは門を閉め、きびすを返して城に戻った。 女主人は ふくろう 広い薔薇園を抜けるとき、どこからか黄金の梟が飛んできて、その肩に止まった。 ルーナは梟の頭を撫でると、塔のひとつに入った。 古びた石の階段を昇り、てつべんに着くと、ひとっしかない扉を叩いた。 返事はな、。 しかし、彼女はかまわず中に入った。 小さな部屋では、娘が一人、窓際の椅子に腰掛け、外を眺めていた。 かっ

5. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

ディス」 もり 言って、『案内人』は手にしていた銛を振りかぶった。骨の透けた背中に、筋肉が盛り上が る。 と、しなった枝が戻るがごとく、弾けるように腕が振り下ろされ、銛が矢のように闇を裂い て走る。 妖魔の叫び声が上がる。 見事に命中したのだ。背に生えた男の根元辺りである。 男は銛をつかんで引き抜こうとして果たせないようだ。むしろ、めりこんでいっているかの ように見える。 後を追うかのように、、 しま一本、銛が突き刺さった。 今度はグーリアスが投げたものだ。 だが、オーディスにひるんだ様子は見られぬ。むしろその逆。赤い瞳は怒りにぎらぎら輝 き、理解不能な言葉で何かをわめき散らしている。 ののし きっと、わたしたちを罵っているのだろう。弱者と信じる人間に、体を傷つけられたのだか まひとっ切れがな 鯨は左から後ろへ回ろうとし、幽霊船も後を追って回頭する。だが、い く、・後王。に回ってしま , つ。 ら。

6. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

110 とどろ ライビュート が笑った。それは四方に轟き、島を揺らした。 グーリアスはルーナの体を抱きしめた。しかし、理性のたがの外れたルーナの力はすさまじ こんしん く、グーリアスは渾身の力を込めねばならなかった。それでも彼は、素早く布切れを彼女のロ したか に押し込んで、舌を噛まぬようにした。 「愉快 ! 愉快だぞ人間よ ! ちつばけな《カ》で守られていたそのおまえがのたうつのはな んと愉央な姿であろう ! もっと踊れ ! 踊るのだよ ! 」 強い妖気が放射されて襲い来るのを、グーリアスははっきりと感じた。 彼の腕の中でルーナは跳ね、くぐもった悲鳴を上げた。 自分ではどうしようもなかった。意識ははっきりしているのだが、肉体が思うようにならな 。四方から無数の手が伸びてきて、体をむしり取られている感じだった。 「なんのつもりだ、ライビュートー ここで遊びをおしまいにするつもりか , ルーナを殺せ ば、退屈な日々が待っているだけだぞ ! 」 だいおんじよう グーリアスは叫んだ。空気が震えるほどの大音声であった。 途端、びたり、妖気がやんだーーー台風の目にはいったときのように。 苦しいの下、ルーナは五体の感覚が戻ってくるのを感じていた。肺が空気を求めて喘ぐ。 「ル、ルーナ : あえ

7. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

よっこ。 あの人を呼ぶこともできない : ようひし 絶望が、羊皮紙に落としたインクのように広がっていた。 これより少し前。 グーリアスは船の中から無事であった荷物の全てを運び出すと、砂浜に積み上げていた。 ルーナを捜しに出かけたかったのは山々であったが、荷物を上げぬうちに船が沖へと運ば れ、沈んでしまえば取り返しがっかぬゆえ、こちらを優先したのだ。 彼女も私を責めはすまい。たくましい肩に荷物をかかえながら、グーリアスは自分を納得さ せんがためにそう考えた。 全てを運び出した頃には、陽は傾き、うっすらと血がにじむがごとく、空が染まり始めてい グーリアスは横目でちらとタ空をみると、荷物の確認をした。 さまギ、ま ルーナのそれは全て無事である。服も、杖も、本も、様々なまじないの道具も。 ぶどうしゆたる だが、食糧の半分は海水に浸かるかどこかに流されてしまっているかしていた。葡萄酒の樽 みずがめ にわとり かんい がひとっ残ってはいたが、 水瓶は全滅。鶏は二羽だけが見つかり、牝牛とともに、簡易の柵 の中に入れておいた。 っ ) 0 っ 0 っえ

8. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

ないならば、こうするのが一番。大地の気を吸い取り、あとは肉体の、生きようとする意志 に、任せるのがよい これは魔法でもなんでもない。誰しもが等しくあずかれるもの。 何も考えす、何も思わず、ルーナは空をいくうみねこの姿を目で追った。風にのってほとん どはばたくことなく飛ぶ彼らは優雅で、美しかった。 ときおり矢のように視界から消えたかと田 5 うと、細いくちばしに魚をくわえている。 遠くないところに魚がいるらしい。すこしばかりお腹が空いてきた気がした。 これなら大丈夫、とルーナは見極めた。食欲があるうちは、まだまだ死にはしない。 ころあい うみねこの白い羽根がタ陽に映えて燃え出す頃になって、ルーナは頃合と見て体を起こし おそるおそる頭に手を伸ばしてみると、痛みはあったが、前の時のようなひどいものではな つつ ) 0 、刀チ′ 息をつき、あたりを見回す。なにもかも燃え立つような海岸には、自分の他に人の姿はな ええと : : : 。軽く眉根を寄せ、ルーナはなにがあったかを思いだそうとした。微かに頭に痛 みが走る。 先の激痛を思い出してルーナは息をのんだが、それ以上はひどいことにはならす、どうにか かす

9. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

野鼠は、名をナノフエウスと言った。 せいれい こんな姿をしてはいるが、彼は精霊である。 人知らずの森に建つ、古びた城の精霊なのだ。 あるじ 今は、野鼠の姿を借りて、この街で主の、ルーナの帰りを待っているのだった 9 つか かんぶつ 乾物屋の前で、ソレイユはようやく息子を捕まえた。 きやっきやっと腕の中で笑い声を上げる急子に、ソレイユはため息をついた。 「まったく、やんちゃなんだから : : : あの人に似たのね、きっと」 ナノフエウスは、突き出されたジムの指のにおいを嗅いだり、小さな手で掴みかかろうとし てよろけたりして、ジムを喜ばせた。 「さあ、帰りましようね。父さまも、もうじき帰ってきますからねえ」 ばんばんと背中を叩いて、ソレイユは息子を抱き上げると、家のほうへと歩き出した。 ここからだと、波の音がよく聞こえた。 秋の空はどこまでも高く、吸い込まれてしまいそうだ。 そうだ。港へ行ってみようかしら ? 思い立ち、ソレイユは散歩がてら、桟橋のほうへと足を向けた。 入り組んだ路地を抜けると、目の前に海が広がった。 みやげ まわ ほひるがえ 青い水面に、白い帆を翻した船が、いくつも見える。錨を下ろした船の周りには、土産も さ、んばし いかり つか

10. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

130 舳先に立って闇を睨むがごとく見ていたルーナは、緊張を解くとグーリアスの元へと戻っ 防火は万全なかまどの火が、彼の顔をあかあかと照らし出している。 「寒いわね : : : 」 つぶやくようにルーナは言った。 あた ここがどの辺りなのか、見当もっかなかった。何もしなくても船が勝手に、風もないのに飛 ぶように走り、ここまで彼らを連れ来たのだ。 みちび ルーナはそれに逆らわなかった。あの白鯨が、案内人の元へと導いてくれているとわかった ゆえ。 船がこの場所で止まったのは二日前。 人化の指輪はすでに外したグーリアスだったが、満月の影響ですぐに肉体を持つに至った。 指輪の影響は思ったほど、彼の体に現れてはいなかった。 すいじゃく 前に使用したときは短時間であるのにかなりの衰弱が見られたものだが、強がりかどうか はわからぬが、とにかくもグーリアスは平気な顔をしていた。 「変に気をつかっているのじゃなくて ? 」 と日旧 , っと、 「そんなことはない。まったく平気なんだ。 : : : 体が慣れてきたのだろうか ? 」 っ ) 0 へさき にら