頷い - みる会図書館


検索対象: 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4
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1. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

出した。午後はすっかり遊んでしまったので、数はなかったが、それでも昨日の一日分よりは ある。 袋を手に取り、縫目などを確認すると、グーリアスは満足そうに頷いた。 ねずみ 「よくできている。これなら鼠も歯がたつまい まあ、鼠が住めるような船にはならないだ ろうが」 「本当に、よくできていて ? 」 がんば 「本当だとも。ほら、こんなに引っぱってもびくともしない。 頑張ったな、ルーナ」 グーリアスはにつこりと微笑んで見せた。 背筋を何かが駆け上がるような感じがあった。思わず笑い出してしまいたくなるような、踊 り出してしまいたくなるようなそんな心地である。 『頑張ったな、ルーナ』 : : : どうしてそれだけの言葉がこんなに嬉しいの ? 震えるような喜びがどうしようもなく湧き上がり、こらえるのに一苦労した。 胸のうちでわだかまっていた、どろどろとした黒い何かが溶けていくのがはっきりとわか ルーナは、自分の両手を見下ろした。 たきび 焚火の火がゆらゆらと、影の舞踏を掌で踊らしている。 この手が、産み出した。 る。 てのひら

2. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

食べおさめの南方の甘い果物で朝食を取った二人が、積み残してあった荷物を船に積み終わ ったのは昼に少し時間を残す頃であった。 小屋はそのまま残して行くことにした。いずれ誰かが漂着したとき、役に立つかもしれな ー ) るしば 。それにグーリアスは、木の板に葉の汁を搾ったもので書いた、この島の地図を残した。理 由は小屋と同じである。 「では、、 しこ , つか」 ルーナは力強く頷い 船はいま、砂の上に並べられた木の棒の上に乗っている。こうしておけば、船を押したとき やす に棒が転がって海に押しだし易くなるのだ。 二人は真ん中のポートに手を掛けると、腕に力を込めた。 その時である。 「ああっ ! 」 あた 城見えない力に二人は弾き飛ばされ、小屋の辺りまでも飛んで、悲鳴を上げた。 果車がり、ルーナは頭をうった。 界動けな、。 世 体力の力が抜けていく気がする。 思うように急もできない。

3. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

「おい ! 奴の始末を任せるぞ ! 」 『案内人』が突然言うのが聞こえた。 「俺は後部にいって船を操る。だから、おまえが奴を倒してくれ ! 」 グーリアスは頷く。余計なことは言わぬ。 ひるがえ 『案内人』は身を翻すと、落ちかかる稲妻を避けて走り去った。 無論、ルーナも援護をする。 グーリアスは再び銛を放る。それはオーディスの鯨のほうの目に刺さり、妖魔をのたうたせ 『案内人』が舵輪に取り付くと、船の速度が急激に上がった。 しりもち 危うく尻餅をつくところ。 、いっかな縮まらなかった両者の距離が見る見る縮まっていくのがわかる。 後手に回り そうせん オーディスが起こした局地的な高波が、すぐ脇を過ぎていく。『案内人』の操船の腕のおか かみなり 降り注ぐ雷はルーナが《カ》で中和を続ける。 わかってきた。効率のよいやり方が。 余裕の出てきたルーナは、オーディスの妖気そのものを抑えにかかった。 うまくいけば、放たれる雷をひとつひとっ潰していく、といった手間はいらなくなる。 ? ) 0 つぶ

4. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

ルーナは一一一一口いかけた一言葉を飲み込んで、ただ彼を見つめた。 「この島もおかしい。 この数日で気温もずいぶんと下がった。まるで冬に戻っていっているよ うだとは思わないか ? 」 かんもど 「確かに寒くはなっているけれど : : : 寒の戻りじゃなくて ? ないことじゃないわ」 「そうかもしれない。だが、そればかりじゃない。たとえば植物のことがある。この種々雑多 せいそくいき な植物群は普通じゃない。棲息域が別々なものが、混じりあうように生えている」 「確かにそうだけれど : : : でもそれは、流れついてすぐにわかったことだったでしよう ? 今 になってどうしてーーー」 「気づいていたさ。ただ、君によけいな心配をかけたくなかったからーーー」 さつ、とルーナの顔が青ざめた。 あわ グーリアスはそれに気づくと慌てて言った。 城「いや、違う。君を責めているんじゃない。 : : : 心配をかけたくなかったのも事実だが、実の てところ、久しぶりのこの体の感覚が面白く楽しく、あまり深くは考えなかったんだ」 の ルーナは、小さく頷いて見せる。 界 世「ねえ : ・・ : 見慣れていたということもあったんじゃないかしら」 「え ? 」

5. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

: グリーアスのことはつらいでしようけれど、だからこそ、今度はわたしを頼ってく の ? れればいいのに : : : あの子には、何度も助けてもらったわ。だから、今度はわたしが、あの子 を助けてあげたいの : : : 」 ラザーランドは膝の上で眠る息子の頭を撫でながら、ゆっくりと。ハイプを吸った。 「一日くらい、ゆっくりしていってもいいでしょ , つに : 「何か、心に決めたことがあるのかもしれん。いまは、ルーナの思うままにさせてやったほう 。会いたければ、もう少し落ち着いてから、人知らずの森に出かけて行けばいい 「 : : : そうね おおかみ かたわ ソレイユは、傍らで寝そべっている巨大な狼の背中を撫でながら、頷いた。 「いまは、そっとしておいてあげたほうがいいのかもしれないわね : : : 」 「行くのですね、クラーク」 城の、巨大な格子門の前でたたずんでいた女は、小さな荷物を肩にした青年が立ち止まった のを見て言った。 あるじ 女は、この城の主である。 ひぎ

6. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

「しかし、大丈夫かこの梯子は ? 」 ルーナは、ぐいと弖いてみた。確かな手ごたえがある。 「大丈夫みたい」 「ならば、登ろう」 「あ、船はどうしよう。 : グーリアスはここに残ったほうがよくはなくて ? 」 「冗談じゃない。君を一人でやれるものか。 とにかく私が先に登る。それから登ってくる んだ。いい ね。あ、そうだ。ちょっと待っていてくれ」 一一 = ロうなりグーリアスは部屋に入ると、一本のロープを持ってきて、互いの腰に結び付けた。 「これで、まんがいち君が登っているときに縄梯子が切れたとしても、わたしが上から引き上 げることができる」 ルーナが頷くと、グーリアスはするすると梯子を登っていった。 じようぶ 梯子は見た目よりも、ずっと丈夫なようだ。 城甲板に下りたったグーリアスの合図を待って、ルーナも梯子を登った。右に左にと揺れるの 果で、登り難いことこの上なかったが、最後には彼に引き上げてもらって、登りきることができ の 世 「誰もいない : 最初にルーナが言ったのがそれである。朽ちてあちこち穴の開いた甲板には、確かに見えた がた

7. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

132 「霧が出てきたわ : : : 」 べつだんめずら 「別段、珍しくもないだろう ? 」 あくびか グーリアスは欠伸を噛み殺して言った。 「ばか。ただの霧なら起こしたりしないわ。普通の霧じゃないのよ」 のぞ それを訊くとグーリアスは、がば、と体を起こして、部屋の外を覗いた。 ずいぶん へさき 「確かに霧が出ているが : : : 随分と濃いな。ここから舳先が見えないぞ」 「自然なものじゃないわ」 「それじゃあ : : : 」 うなず ルーナは頷いた。そのロには薄い笑みが浮かんでいる。 二人は手早く服を着ると、外に出た。グーリアスはいつもの古代帝国の服にマント、ルーナ すいふ は動きやすい水夫の格好である。 外はやけに明るかった。もう夜明けが近いのだろうか ? だがルーナの感覚は、それはまだ先のことだと告げている。 探るようにルーナは舳先に行くと、手を広げ、感覚を木の根のように伸ばしていった。落ち ぬようにその腰をグーリアスがすぐさま支える。こうしたときのルーナは、無防備だというこ とをよく知っているのだ。船が少し揺れただけで海に落ちてしまう。そして、この霧ではいち ど落ち込んだら捜すことは無理であろう。

8. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

「とうてい、腹を満たすものじゃない。人間は、本能に根ざした欲望には弱い。 解るか ? 」 うなず ルーナは頷いた。 「食欲はその本能のひとつだろう ? ないのならともかく、目の前に山と食糧が積まれた状態 ′一うもん でおあすけをくうのは、拷問にも等しい。だが、袋に詰めてしつかりそのロを縛って積んでお けば、少しは我慢ができようというものさ」 「ふうん」 なるほどそういうものかもしれない。十六年も人知らすの森から出ることなく暮らしてきた わたしと違い、グーリアスは波乱な人生を送ってきたのだもの。今度のようなことを、前に体 験したことがあるのかもしれない。 : 詳しくは話してはくれないけれど。 それからグーリアスはルーナにどのくらいの袋を作ればよいかを指示すると、また自分のし ていた仕事に戻った。 めいもの 城縫物ならば、ルーナにもできた。得意とまではいかなかったが、袋を作る程度であればなん の てとい , っことはない。 はんぶ の材料は、破れて使いものにならなくなった帆布である。大きく切り取られているのは、、 世 の出入り口に使ったのだろう。 だいたいの見当をつけて、ナイフで布を裂くようにして切り、意気込んでルーナは袋作りに

9. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

みずか グーリアスはそれを見て小さく頷くと、自らも手にした椀を傾けた。 「ところで、昨夜のことなんだが : ・・ : 」 「君は、我から獣たちにその体を与えようとした。憶えているか ? 」 再びルーナは頷いて見せた。確かに、そうだ。あの時はあれが自然なことのように思えたの 「なぜだ ? 」 ずばり、とグーリアスは訊いた。 「よく : : わからない」カなく、ルーナはかぶりを振った。「ただ、誰かが頭の中で、それが 自然なことだとささやいたような気がしたけれど : : : 」 「聞き憶えのある声だったか ? 」 : ごめんなさい、わからないの。声がしたような気がしただけで、それも本当であったか 城どうか、自信がないの」 て「自信がない、か : : : 」 の「ごめんなさい、本当に」 世 つぶやくがごとく言って、ルーナはうつむいた。己のあまりの不甲斐なさに、涙が出る思い オオ 、、つ ) 0 おのれ ふがい

10. 世界の果ての城 : 人知らずの森のルーナ4

あわ 視線に気づき、ルーナは慌てた様子で、 「あ、ここにいつまでもいたいと一言っているんじゃないのよ。ただ、急ぐのは必要だけど、あ せっては駄目じゃないかと思って : : : 果物も集めておいたほうがいし 、と思うの。それに、太陽 が逆から昇ったからって、これといった害があるわけじゃないし : : : 」 「今まで害がなかったからといって、これからもないとは限らないだろう」 「 : : : それはそうだけど : : : 」 「わかった以上は、早いほうがいし ただ、君の言うことも一理ある。新鮮な果物は必要 だな。それじゃあ、午後は二人で果物を狩りに、 しこう。そして、明日にでもここを離れるん だ。何が起こるかわからないからな。今は太陽が逆から昇っているだけだが、突然にこの島が 消えたりすることもあるかもしれない」 ルーナは頷いた。頷いたが、その後でこう言った。 「でも、空間そのものがおかしいのだとしたら、ここから抜けられるのかしら : : : 」 城グーリアスは答えぬ。答えられるはずはなかった。答えを彼が知るはすはないのだから。 ずいぶん あかし 果それでも訊いてしまったのは、知らず随分と彼を頼っている証にほかならない、とルーナは 界あらためてグーリアスの存在の大きさを思い知った。 ろう 食事が済むと、二人して荷物と船に、帆布の切れ端に蝦を塗った物をかぶせて果物を取りに 森へ出かけた。 うなず