少年たち - みる会図書館


検索対象: 全寮制男子校物語! 蜜月篇
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1. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

196 三人の視線がドアのほうへ集中する。そこに彼らが見たものは。 「え こんわく 最初は誰もが困惑した。そこには車椅子に乗った長い三つ編みの少女と、それを押してきた らしい少年の姿しかなかったからだ。 だが理久は、車椅子を押している少年の顔には見覚えがあった。 にしのみやかずし おうか 西ノ宮和士だ。桜花学院高校の生徒会長。ということは。 理久の瞳はみるみるうちに大きくなった。 「レッ、レキ先輩卩」 「ええっ 周囲の動揺をものともせす、車椅子の少女はレースがいつばいのひらひらふりふりのドレス のすそをひるがえして立ち上がると、三つ編みのヘアウィッグを放り出して駆け出した。 「槙ィッ ! 槙、槙、槙 ! オレ槙に会いたかったー まき

2. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

たか、今はちがう。今は、これ以上少しも広くなくていいと思う。 あきひさ 理久はノートから顔を上げた。下段べッドのカーテンの向こう、シーツの上に長い脚を投げ 出し、猫背になりながら一心不乱に読みふけっているスエット姿の少年に目をやる。 肩につきそうな長さの髪がほおにかかって彼の横顔を隠している。照明はべッドの影になっ あんばい て薄暗く、中条は今にも自分の顔を本に突っこみそうな按配だ。目を悪くするんしゃないのと 軽く忠告したことがあったが、彼はどこ吹く風だった。明るすぎるのは好きではないらしい。 あっし 中条陸。 理久は彼をふたりきりのときにはリクと呼ぶ。それはも、フそろそろ、クセだ。 毎日少しすっ、ふたりで共有するクセが増える。少しずつ。 「なに ? 篇 月 ふいに中条のくちびるが動き、理久が目をみはる。もっとも、中条の顔はあいかわらす本を 蜜 見下ろした角度のままだ。 枷どう答えたものかわからなくて理久が黙っていると、ふたたびその薄い色のくちびるが開い 校 子た 制「視線がうるせー」 どくぜっ 全中条の毒舌はいつものことだ。と言っても、理久はいっこうに慣れないのだけれども。 「ごめん。でもそんなに見てないと思う、けど」

3. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

ほっそりとした腕は布団の上にばんやり投げ出されていたが、その腕に男の子らしいところ はかな はどこにもない。生まれて一度も陽に灼けたことのない青白さが、彼を少女のように儚げに見 せていた。といっても少年の髪は生まれたてのヒョコのように短く刈られていたから、少女と いう言い方も当たらないかもしれない。 痩せ細った顔は子どものそれではなかった。それが見る人に違和感を与える。 整った目鼻立ちはレキというよりはそばにいる父親の形を想わせた。一一卵性なのだろうか 双子でも一卵性でなければ顔立ちはまるで違うと聞いたことがある。 ぎようしゆく すべてが小さく、内側に凝縮されている感しだった。 うる そんな小ささの中でただひとっ印象的だったのは、潤むように大きな瞳だ。痩せ細った顔の 篇中でただその瞳だけが輝きを失わず、何かをそこに映すために生きていた。 彼ま理久たちの姿にもこれといって はしかし今、その瞳にはなんの表情も表されてはいない。 , ー 疆反応を示さす、視線を上げようともしなかった。 物 べッドのそばに近づいて彼を見下ろしていた理久が訊いた。 校 男「あの、すいません、槙くんはどことどこが悪いんすか ? 」 「夏目 ! 」 理久のぶしつけさに中条が目を丸くする。だが、静は微笑んだだけで理久を非難するような 目は向けなかった。

4. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

「先生 : かな 欲しい物を欲しいとは言えない少年の哀しさが、それきり国府田を沈黙させた。 中条も国府田に寄りかかったまま静かになる。 もともとあまり言葉を交わした覚えはなかった。会えば熱烈に抱き合うことだけで十分で、 どちらからもそれ以上の関係を持と、フとはしなかった。 踏みこむことを怖れていたのはお互いさまだったのかもしれない。 せんさい それでも国府田には教職という立場がある。すなわち、この繊細な生徒の周辺環境について の情報を自動的に入手できる立場だ。 国府田は少しばかり舌を動かしてためらった後、それを口にした。 あっし 服「陸、学校をやめるなよ」 ー ? なに言ってんのー 中条はそう言い返したが、その口調にはさほど驚いた調子はない。国府田が言おうとしてい 校ることが彼にはよくわかっているのだろう。 男国府田は硬質な声になって言った。 寮「お父さんの件は耳にしている」 「なんだ、もう知ってんの ? さすがだね」 「気にしていたからね。それにきみの担任とはこれで案外仲がいいんだ」 した

5. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

なぐ かたく 殴られても蹴られても頑なに自分を見失わす、むしろ自分自身を強化することに努め、真っ すうはい 向から暴力に立ち向かおうとしてきた理久という少年の不屈の姿は、あるときから崇拝の対象 へと切り替わる。むろん沢田というポスの方針変換が作用しているのは一一一一口うまでもない。 かって自分をからかい、痛めつけてきた少年たちが、今や自分をアイドル視し始めていると いう事実を理久自身はいまだ知らない。 そうして知らないままに、この日も彼らの前から立ち去ろうと背を向けた。と、そのとき。 「うおおおー すみ 洗面所の隅にたむろしていた少年たちのひとりが雄叫びをあげ、周囲の注目を集める。 「おい、見ろよこれ ! レキ先輩じゃねえか卩 並んだ洗濯機を背にしてしやがんでいた少年は、さらにすっとんきような声でさけんだ。 「なんだあ ? レキ先輩がどうしたって ? 「だから見ろって ! これつ ! この写真だよ ! 」 レキの名に反応して、理久もその少年の周りにできた輪の中に参加する。 どうやら寮を抜け出してコンビニに行ってきた者がいたようだ。床には真新しいコンビニ袋 が放り出されていた。 その場に広げられた写真週刊誌は本日発売の最新号だろう。と。 理久は息をのますにいられなかった。 おたけ

6. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

校長室の彼の椅子の後ろには、三〇年前彼みずから墨で大きく書ききった座右の銘が、古び た額の中で異彩を放っている。 〈反〉〈骨〉 「お散歩ですか ? 」 ほほえ たず 菱田が微笑みながら訊ねる。時間があるときは散歩と称して校内をめぐり歩いては、様々な 一時期は菱田 生徒たちと話しこんでしまう山彦校長に、菱田は少なからず好感を抱いていた。 も彼の存在に助けられたものだ。 全寮制の菜の花東高校では、それぞれに深刻な理由によって親元から引き離された少年たち が多く生活している。彼らにとって山彦校長は、どこか父親めいた役割を果たしているような 引部分がたしかにあるのだった。 蜜「む。いえいえ、少しきみたちに聞きたいことがあるんですが」 「俺たちにですか ? 」 語 物「む。ちょっといいですか」 子「あ、はい。 制 いきなり両手を窓枠に置いたかと思うと、そのまま壁をよし登り、窓から生徒会室に入りこ 全 もうと奮闘し始める。これには菱田もさすがに目をむいた。 こし 「校長先生やめてください。腰をやられますよ」

7. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

菜の花東高校はその費用的側面から一学年百名に満たない少人数制の高校だったが、学部は 普通科と専科 ( 音楽専攻・美術専攻 ) の両方が設けられ、生徒たちは途中からでも科を移るこ ーしりよ とができる。芸術が人にもたらす力の重要性を認めている山彦校長ならではの配慮といえる。 もさく このシステムの採用によって、少年たちは在校中にも独自の得意分野を自由に模索することが できるよ、フになっていた。 「なあ、その話、もう決まり ? ドンちゃん」 かんはっ 新藤が後ろから木下の肩を抱き寄せて訊く。木下が間髪入れずにその手を振り払った。 菱田がふたりのほ、フにちらりと目をやる。このふたりは今、ちょっとした緊張下にあるよ、フ だった。それはともかく。 「いえ、まだ本決まりというわけではないんですが。ただどういうわけか、あちらがずいぶん 乗り気で、一刻も早く実行に移したいようなんです。私もそれが心配で」 「校長先生」 ふいに真剣みを帯びた声で、菱田が校長に呼びかけた。 山彦校長もまた、その迫力のある副会長に真剣なまなざしを向ける。菱田は言った。 「ここにいるだけで、一方的な判断はできません。俺、向こうの校長先生に直接話を聴かせて もらってきてもいいですか ? 菱田の声はしつかりとして、けっして曲げられることのない信念の力に満ちている。

8. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

もっとも今日は風が強く、風通しのいい校内は窓を開け放てば、さほど居心地が悪いという こともない。 うちわは主に意見を主張するための旗代わりに使われていた。 「けどなんで今さら中条なのよ ? 一年坊主どもにも人気あんのかあいっ ? 」 しんどう ド 1 ル 花姫の投票率はどうしても比較的時間に余裕のある一年が高くなる。新藤はそのことを言っ たのだが、 この発言は現生徒会メンバーの何人かには引っかかるものだったようだ。 「待てよおい。中条は上級生にも人気あるんだぜ。そりゃあいつはあのとおりアイソねえから 反発も買いやすかったけどよ」 「けどあいつの人気が復活してきたのはここ最近だぜ。留年した後しばらくはこっちとも口も きかねえしよ。みんな怖がって近づきやしなかったじゃねえか」 篇「最近はわりと話しかけやすいってよ。心境の変化かね ? は一一年生を中心とする生徒会役員たちはみな、中条のことをよく知っていた。中条が留年しな ければ同学年だった面々だ。しかも昔はよく中条とつるんで遊んでいたらしい 校理久はそのあたりの事情にはうとく、常々それを知りたいと思っていた。 子 男 だが、今の理久にはそんな昔バナシよりも気にかかっていることがありすぎた。 指の先につかんだ黄色い菜の花の造花を、生徒会室の机の上でくるくる回す。 新月の夜、次の花姫に選ばれた少年のネームプレートに挿される花だ。それは一昨日の夜、 自分たちの部屋の扉に挿されていたものだった。 おとと

9. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

実のところ、すでに何個か、この部屋に備え付けられていた貴重品を残骸に変えてしまって いるレキだった。 ぶつぶっと自分をののしる一言葉を吐きながら、なんとか片付けようとし始める。とりあえず 絨毯に染みこんでゆく水をなんとかしたかったが、この部屋にあるものときたら、タオルから なにから汚すのは申しわけないようなものばかりで、レキはついうつかり自分のパジャマ ( こ れも和士から与えられたものだったが ) を絨毯に押しつけてしまっていた。新しいものよりは まだ使った後のもののほうがマシな気がしたからだ。 そのときふいに背後に人の気配を感して、レキはハッと後ろを振り向いた。 篇白いカッターシャツに薄いべージュのベスト、同じく薄いべージュのズボン。桜花学院には 蜜二種類の制服が用意されていたが、その少年が着けているのは和士とは別の制服だった。 ヤ」は′、 ひとみ 微妙な色の制服が彼の薄茶色の髪にはよく似合う。瞳の色も独特な琥珀の色。着やせして見 語 物えるほっそりとした体つきは、見る者を惹きつけずにおかない魅力で満ちている。 子 レキには見覚えのある少年だった。この寮に着いたその晩のうちに紹介されたからだ。 男 えのもときようや 贐彼の名は榎本京夜。桜花学院高校の生徒会副会長だというその少年を、和士は自分だと思っ 全て頼ってくれていいとまで言って紹介したのだった。 「手伝いましよ、フか ? ざんがい

10. 全寮制男子校物語! 蜜月篇

コハルト文庫 花衣沙久羅の本 《蒼》シリーズ 蒼のソナチネ / 蒼のプレリュード 蒼のラブソディ / 蒼のノクターン 蒼のアリア / 蒼のルフラン / 蒼のトッカータ 蒼のカデンツア / 蒼のスケルツォ 《ラフユー》シリーズ ラブュー / わくわくドットコム びかびかドットコム ヴァンノヾイアと朝ま下 初恋レポリューション 《工デン》シリーズ 少年たちの創世紀 / 明日への翼 《恋愛少年》シリース 星の彼方のラヴマシ 愛と死のラヴメカニ きみがほしい ~ Wish さくらのリプロデュース・クラ 伝説ーレジェンドー 孵化ーインキュべーショ、 きみが魔法使い 全寮制男子校物語 ! 【初恋篇】 全寮制男子校物語 ! 【蜜月篇】 丁 / 藤川覚 (Turtle カバー絵 / みなみ遥 装