278 リク 「陸 ! 「なんだよ、中条って呼べよ」 結局、呼ばれ方を一番気にしていたのは中条だったのだとそのときになって、理久は初めて わかる。 あれだけなんともない顔を見せておきながら、理久がぐじぐしと気にかけていた以上に中条 は気にしていた。 茂みをかきわけ、すたすた歩いていこうとしている中条の背中に向かってどなった。 このポーカーフェイス野郎 ! 「待てよー そうだ、こいつはポーカーフェイスなんだ。ぜんぜんすなおじゃない。 欲しくなさそうな顔をして、実は欲しくてたまらなくて勝手に傷ついている。 ほんとにすなおしゃない。 でもすなおじゃないのが中条なら、それでいい。 理久は思った。 そのまんまでいいよ、陸。俺、わかってやるから。 おまえのこと、もっとわかるように努力するから。 「陸 ! 「そんな名前のやっ知るかよー 「陸 !
298 理久が中条の青ざめた顔を痛ましげに見上げたときだった。 あっし 「陸 ! 」 地獄の釜の蓋が開くときにはきっとこんな大音響が鳴り響く。 とどろ その声はちょうど理久たちが逃げ出した食堂のほうから轟いてきた。 「どこにいるんだ ! 出てこい ! 陸イイイイイイ かいじゅう 怪獣の声だ。 理久は思った。 ( 詩人の言葉の選択としちや最悪だとも思いつつ ) 俺の恋人を食らいつくそうとする怪獣の声。 理久は右手を持ち上げると、中条の手首をぎゅっと握った。 ひとみ 中条がその緑と灰色の混ざり合った妖精の瞳を向けてくるのがわかる。 その瞳を見つめ返しているうち、理久はつい一週間前、花姫を守りきったときと同しように 自分の内側から熱くあふれ出してくるものを感し始めていた。 この力。 中条に出会わなければ、自分の中にこんな力が眠っていることなんて一生気づきもしなかっ たにちかいない。 中条がいてくれるなら、どんな恐布にも立ち向かえる。 ( 陸。大丈夫だ。俺が守ってやる。俺を信しろ ) リク かまふた
283 全寮制男子校物語 ! 【蜜月篇】 らあス彼レヘ しいをがキー いつ交隠が ならわれ感 っすて動 てのいし 、をるた そ見木よ ー守立う なりかに のつらロ ? つはを 、絶開 レ妙け キのた は角 後度 ろで 立久 っと て中 い条 るの 菱 t 姿 田だが に見 訊きえ いて ふ た が 何 度 目 か の 下からすくい取るようなやさしいキスに、中条がまぶたを閉しる。 さらさらと落ちてきた中条の髪をかきあげて、理久がそっとささやく。 「陸、目を開けて。俺を見て」 「なんだよ」 「好きだ」 まっすぐに見つめてきた妖精の瞳の中に自分を映して、理久はやっとの思いでロにしたその 一一一一口葉をくり返した。 リク 「俺、世界で一番おまえが好きだ、陸
280 「他のやつにキスしないでくれ」 「あのな、夏目」 「俺のわがままだってわかってる。でも俺はイヤなんだ。どうしてもガマンできないんだよ」 あきれたことに、まったく感情のコントロールができなくなっていた。 涙はばろばろあふれだすし、だだっ子みたいにがんとして木の前から離れようとしないし、 吐き出す言葉ときたら自分勝手な〃お願い〃だらけ。 こんなみつともないのは生まれて初めてだった。 親の離婚のときにだって〃お願い〃なんてした覚えはない。 中条に愛想を尽かされたってしかたがないと思えるみつともなさだ。 その中条はもう体温を感しられるくらいすぐそばまで来ている。 理久は下を向き、一一の腕にまぶたを押しつけたまま言った。 「陸、陸、ごめん。俺、おまえに他の誰とも寝てほしくないんだ : 静けさがふたりの周りを取り巻く。 中条が理久の前に立ちつくし、そうっとその両手を持ち上げる。 理久は中条のくちびるが自分のひたいに押しつけられるのを感した。 どこかおずおずとしたロづけだった。
なつめあきひさ なかじト豸・あっし 夏目理久は、中条陸に恋をしていた。でも、 なぜか好きだと伝えられない。その上、陸は ~ 」とうれき 理久が今も後藤暦に恋をしていると信じてい はなひがし た。そんな中、レキが菜の花東高校から姿を 消す。彼の秘密をマスコミが取り上げたため、 寮に戻れなくなったのだ。心配する理久だっ おうか たが、レキは恋人であり桜花学院高校の生徒 にしのみやかずし 会長・西ノ宮和士のもとに身を隠していて 想いをカにかえ、少年たちが翫ぐ恋物語 恋気分いつはいの夢豊小説誌 ! 1 月、 3 月、 5 月、 7 月、 9 月、 11 月の 18 日発売 隔月刊ですの蕉お求めにくしにともありま魂 あらかじめ書店にこ予約をおすすめしま魂 集英社
なつめあきひさ なかじト豸・あっし 夏目理久は、中条陸に恋をしていた。でも、 なぜか好きだと伝えられない。その上、陸は ~ 」とうれき 理久が今も後藤暦に恋をしていると信じてい はなひがし た。そんな中、レキが菜の花東高校から姿を 消す。彼の秘密をマスコミが取り上げたため、 寮に戻れなくなったのだ。心配する理久だっ おうか たが、レキは恋人であり桜花学院高校の生徒 にしのみやかずし 会長・西ノ宮和士のもとに身を隠していて 想いをカにかえ、少年たちが翫ぐ恋物語 恋気分いつはいの夢豊小説誌 ! 1 月、 3 月、 5 月、 7 月、 9 月、 11 月の 18 日発売 隔月刊ですの蕉お求めにくしにともありま魂 あらかじめ書店にこ予約をおすすめしま魂 集英社
力アッと首が熱くなった気がして、理久は必死で視線を古典の教科書に集中させた。 「へんなャツ。詩は書くくせに」 「えつ」 かす 思わず声がひっくり返る。中条が微かにしまったという顔つきを見せた 「陸、おまえ」 「偶然見えただけだぜ。おまえのノート、隅にいろいろ書きこんだ跡があってさ」 「ぜんぶ消してるよ ! 」 「だってシャーベンて跡つくじゃん」 リク 「陸 ! 」 篇 こいつ、読んだな ! はがじ 蜜理久は真っ赤になって中条の頭を羽交い絞めにする。中条は笑いころげて、そのまま理久の ひざの間にダイプした。 物このシチュエイションはマズイだろうと理久は即座に思う。 あば 子中条の両手は椅子に座っている理久の太ももの上に置かれ、暴れたために荒くなった呼吸を 贐整えるために、その手の上にほおを預けていったん休憩だ。 全 中条の手のひらの熱を感しすにいられない。 このまま休憩時間が続いたらどうなることか 「悪かったな。もう読まねーよ。ああいうの、オレは嫌いじゃねーけど」 すみ あと
だがそれも、中条の、実は潔癖で純情でしかいられない部分が作用しているせいとわかれば とりでくず そのかわいらしい砦を崩す作業も、理久には苦でもなんでもなくなるのだった。 リク 「陸 ? 中条の首の裏に自分の腕を敷き、包みこむようにして真上から中条の顔を見下ろす。 「大丈夫 ? 「ふ : ・ん、ヘ ! : き」 うる 中条はうっとりとつぶやいた。声は潤んだままで、まだ完全に目覚める気配がない。 ぜんぜん平気しゃないな、と理久は頭上にあった目覚まし時計を手に取った。日曜日だから 早起きする必要はなかったが、もう昼過ぎだ。 篇「なあ陸、腹がヘらないか ? は「んー、なに : ・ ? またオレのこと食べんの ? なまつば 疆そんな目で見あげられると、また生唾が込みあげてくる。もはや回数を数える気にもならな 校いほど情熱的だった昨夜のことを想って、理久はげつそりした。 男「それもいいけど、マジで腹へりすぎて、俺はもうやれないよ」 「ふふ」 「笑うなよ。しかたないだろ」 中条が両腕を伸ばして甘えてきて、理久は中条のくちびるに自分のくちびるを重ねる。 けつ。へき
118 ほりうち 「へーえ。あんたに仲のいい教師仲間がいたとはね。堀内ってゲイ ? まさかね ? あっし 「ヤツはストレートだ。ちやかすな。陸、俺はきみの保護者しゃないが、それでも他の生徒よ りはきみのことを気にかけていたよ。信してほしい いつにない国府田の真面目くさったロぶりに、中条が体を折って笑った。そうしてそのまま 地面に向かって言った。 「そんなの、知ってるよ。わざわざ一一一〔うなよ」 わすかだが中条の声の端がふるえていることに気づく 国府田はそれで十分だと感した。 のこ 自分はとうとうこの少年に愛を伝えることはできなかったが、それでも彼の内側に何かは遺 しただろ、フ。十分だっこ。 中条陸は鈍感な人間ではない。むしろ繊細すぎて、愛を受け取ることを拒絶している生徒だ から たたかいつまでも殻に閉しこもっていられないことは、彼自身が一番よくわかっている。 だからこそ今、ひとつの関係を乗り越え、新しい関係を築こうとしているのだ。 国府田にはそれをしやまするつもりはなかった。 しばらくして、もう一一度ときみを抱けないのかと思うと残念だよ、とだけ言った。あまり展 みがましく響かなかったらいいカ、とつけ加えて。 まじめ うら
中条はあっさりあやまった。あんまりあっさりしていたので、理久は何も一一一一口えなくなってし まった。中条はほんと、フのことしか言わない。口にできないことはロにしようとしない。 「べつに、読んでもいいよ。消し跡くらい」 「そ ? 」 中条は理久のひざの上でくつくっ笑う。幸せな感じがして理久は胸が痛くなった。 リク 「俺は宿題のほうはだいたい終わったけど、そっちは ? 陸 ? 「オレは夏目ほど時間かかんねーもん。一回やってるしな」 中条陸は本来なら高校一一年。家庭の事情で留年して、今は理久たちと同し一年生をもう一度 やり直している。ふだんは意識もしていないことが ( 実際、理久は初めて顔を合わせたときに は中条が年上だとは思いもしなかった ) 、こんなふうにロに出して言葉にされると、急に意識 されて妙な具合だった。 中条が理久の変化を読み取って、くるんと顔を上げてくる。 こういうところは中条は実に敏感だった。人の感情の移り変わりにすばやく反応する。それ はもしかすると彼の生い立ちによるところが大きいのかもしれない。理久はあわてて返した。 「あ、いや、なんでも。ただいいなって」 ダブリが ?