犬形と ロンドンの怪 売 世紀末・ロンドンの危険な恋。 ト本格ロマンティック・ミステリー ! ロンドン蒸気奇譚
もちろん、外に出 「下水道を歩いているとき、俺は自分がどこにいるのかわかっていた。 るまで、確信はなかったが。あの街が谷間にあるなんてのは、真っ赤な嘘さ。あれは : : : あの 街は、俺たちの足元、このロンドンの地下にある ! 」 ・ : これが、ポート・イングマンの語った《真実》である。 とうち だが、彼は全てを語ってくれたわけではない。例えば、その街を統治しているのが誰か、と いう事に関しては、ただ「王政が敷かれている」という事以外は言わなかった。 ヒューリイが、彼を守ってやると言ったらしい。だが、それも情報があるうちだけだとわか っているのだろう。だから、情報を小出しにするつもりなのだ。 スコットランド・ヤード ( ロンドン警視庁 ) には知らせなくていいのか、と問うと、色々と 困るんだよ、と言った。どうやら、すねに傷を持っ身であるらしい それにしても リリアはコーヒーカップを置くと、また、ため息をついた。 こんなの、記事になんてできやしないわ : : : 誰が信じてくれるっていうのよ。 なぞ せいかん 『ロンドンに謎の地下都市 ! 生還者は語る。恐怖の日々 ! 』 見出しはこんな感じ ? 編集長は喜ぶかもしれない : : : けれど、わたしはいや。こんなのが、初めての記事だなん
怪事件が頻発する世紀末のロンドン。身寄り のない才の少女、リリア・クレイヴはゴシッ プ紙の記者見習いをして暮らしていた。ある 日たまたま取材で訪ねた掘削技師ポー ングマンの口から、 リリアは大スクープを聞 かされる「 - ロンドンの地下には秘密都市があ 彼はそこからの生還者だというのだ " ) ア。しかしふと 驚愕のあまり家路を急ぐ 気つくと馬車は漆黒の闇の中を走っていたリ 恋気分いっぱいの夢曽小説誌 朝 t 1 3 5 7 9 11 月の 8 日発売 隔月刊ですのでお求 z< いこともあります あらかじめ書店にこ予約をおめします。 集英社
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302 十九世紀を舞台にしたお話の一一本目はいかがだったでしようか ? 前作『蒸気人形とロンドンの怪』と本作は、シリーズ物ではありません。 まあ、同じロンドンなんですけどね。 今回、もっとも作者が気に入っているのは、やつばり蒸気科学の王、スティーマ様です ! あや 怪しい仮面の怪人 ! 科学の天才 ! どれい 復讐の奴隷ー ゆが ふつふつふつ : ・ : ・歪んでる歪んでる。怪しいなあ。 あのころの時代には、まだそうした怪人を信じさせる何かがあったような気がします。 めいじたいしよう 日本でいえば明治・大正時代でしようか : : : 似たような雰囲気があるのは。 怪人 : : : 好きなんですよね。 二十面相とか、アルセーヌ・ルバンとか、モリアーティ教授とか。 、あどか医、 めんそう
信じていないのだ。永久にここから出られないなどということを。 世の中に、絶対ということはない。 今日は雨でも、明日は晴れるかも知れない。 きっと、明日ま をいいことがあるーー・それが母親の口癖であった。そしてリリアもそれを信じ ていたからこそ、イーストエンドで絶望もせず、毎日を生きて暮らせたのだ。 ・ : 昨日の夜は、取り乱してしまったけれど。 リリアは肩をすくめた。 ゴーは眉を少し動かすと、それでも答えることを許された範囲で、この街のことを教えてく れた。 この街の名は、『シャドウ・タウン』 誰も知らない、気にするものもいない、影のごとき存在の街、という意味で、スティーマ王 が研各したとのこと。 なるほど、しかしリリアは、そのまま『ロンドンの影』という意味もこめられているのでは のないかしら、と思ったーー本当にこの街がロンドンの足下にあるのだとすれば。 の一体何が目的で、こんな街を造ったのかという問いには、 影 「芸術の、文化のためですよ」 とゴーは答えた。 くちぐせ あしもと
215 影の中の都 「俺は、イングマンと一緒にここを逃げだそうとした者だ。あんた、あいっと会った新聞記者 だろう ? この街の秘密を奴から聞いたか ? こ イングマンー よみがえ その名前は、錆びつきかけていた記憶を蘇らせた。 確かに彼は言っていた。仲間がいたと。それにゴーも。では、この人は王が自ら連れ戻した 人 ? でも、なぜ壁のこちら側にいるの ? 「秘密ってなんです ? 」 リリアはとぼけて訊いた。いかにも好奇心が刺激されたような顔をして。 この街がロンドンの地下にあることなら知っているわ。後ろだてにケーン財閥がいること 「ここじゃ駄目だ。とにかくどこかに入ろう。俺はここでは買い物は出来ないから、あんたに 任せる。とにかくどこか落ち着いた場所で : 「わかりました。それじゃあ、ついてきてください」 リリアがそう言うと、男は素直に頷き、彼女のあとを影のようについていった。 「俺は、ラック・ハッシ = 。生まれも育ちもロンドンだ」運ばれた紅茶を前に、男は自分の名 前をそう告げた。「ここにもう三年いる」
しかし、リリアはイーストエンドの生まれではない。 彼女が生まれたのは、この街から北へ五十キロほど行ったところにあった、小さな村であ る。 彼女が母親とロンドンに流れてきたのは十年前の今月ーー一八七九年の一一月に起きた、ある 事件がきっかけであった。 リリアが七つのとき、彼女の住む村が裳したのである。ーー広範囲の落磐と、火事のため 四十五人の村人のうちで、助かったのはわずかに五名。リリアとその母が、その内の一一人で あった。 今も繰り返し見る、あの悪夢の内の半分は、父が死んだ、その事故の光景である : : : いま半 分には覚えはなかったが。 おば 事故のせいか、七つ以前の記憶は、断片的にしか憶えてはいなかったーー子供の頃の記憶な ど、誰しもそうなのかも知れないが。 それはともかく、家もろとも働き手をなくした母娘は、新たな生活の場をロンドンに求め もともと移民であったクレイヴ家は、イギリスで他に縁者もなく、流されるように大都会に やって来るしかなかったのである。 えんじゃ
「あんたはここの連中と違って、自分から世間を捨ててきたんじゃないからだ。あんただって ロンドンに友達はいるだろう ? ・」 ふいに、娼婦たちの顔が浮かんだ。懸命に、けれど楽しみながら、一生懸命生きている彼女 たちの秀か。 「俺は、友達を救いたい。あんたは違うのか ? 帰りたくはないのか ? 」 きさつがく 帰る : : : ? リリアは、いつのまにか自分がそんな事を忘れていたことに驚愕した。 そうだ : ・ パとママの骨・ : ・ : アパートに置きつばなしだった。ああ ! なんで ? どうし て思い出さなかったの ? 「俺はあんたが協力してくれようと、そうでなかろうと、ここを今度こそ出て、ロンドンに帰 る。そして、スコットランド・ヤードでもイギリス陸軍でもなんでもいい。説得して、この街 の恐ろしい野望を潰してみせる。 ・ : だが、あんたが協力をしてくれれば、事は容易になる」 ・ : この街は、溿ほされるわ」 「その方がいし どういうつもりかわからないが、王のしようとしていることは大犯罪だ。未 の然に防ぐことが、王のためでもある」 の王のため : : : それが、彼のため・ : 影 「とにかく明日だ。一晩考えてくれ。そして、協力する気があるなら、写真機を持ってギロチ ンの前に来てくれ」
「これで、これがこの街ぐるみの計画だという事がわかったろう ? 」 どくだん 「でも ! あの男の独断ということは : : : 」 「馬鹿なー この街で、王の目を盗んでこんな事が出来るものかーーしつ ! もうひとり来 た」 彼の言葉通り、ホールデンを追うようにして男がひとりやってきた。 そちらにもリリアは見覚えがあった。ホールデンのすぐ後ろに、影のように控えていた男 「こちらでしたか」と男 : : : ページは言った。「捜しました。王がお呼びです」 「またか : : : 」ため息混じりにホールデンは言った。「生産を急げと言うのだろう ? せかされた所で、これ以上は無理と申し上げているものを」 「決行の日が近いということでしようか ? ロンドン攻撃の」 ロンドン攻撃ー リリアは耳を覆いたくなった。本当に、そんな事を考えていたなんてー 「ああ、そうだな。そろそろなのかも知れない」 の「どうだ、わかったか ? こ小声でハッシ = が言った。「これが王の正体だ」 中 の だが、リリアは首を振った。それしか出来なかった。 影 「ホールデン様」流れていく機械を眺めつつ、ページは言った。「あの芸術家もどきの連中を、 王はいったいどうなさるつもりなのでしよう ? 戦闘にはじゃまではありませんか ? 」 いくら