揺 - みる会図書館


検索対象: 悪魔の揺りかご
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1. 悪魔の揺りかご

「カイ」 「ん ? 」 「あいつを : : : 殺して」 ディアの唇を見つめながら、カイは苦笑した。 「物騒なことを言うね。ボクにできるわけないでしよ。ごろっきが束になってかかってもかな わないのに」 「じゃああたしの器を殺して。そしたら他の器を探せるもの」 「ディアちゃん」 「初めて選んだのがこれだもの。これが死なないと、別の器に移れないから こんがん ディアが懇願する。 「だから殺せって ? カイがたしなめるように言った。 「そんなことできるくらいなら最初から助けようとしたりしないよー ひとめば 揺 . しかも一目惚れした少女に手をかけるなんてこと。 魔だがカイはその言葉はこらえた。 器だけに恋をしたのかもしれないと思うと、自分が浅はかな気がするからだ。 にら ディアは口惜しそうにカイを睨んだ。 うつわ だから」

2. 悪魔の揺りかご

つついまえあし 一対の前肢のうち片方の鉤爪を失ったその生き物は、箱の中でももがいている。 暗い部屋だが、箱の中から発光しているのが見える。 レオンは刃先を木箱に向けた。 「こいつだ : : : これを手に入れる : ・ レオンはとどめをさすつもりだろうか。 カイも息を殺してそれを見ていた。 「やめて : : : 」 カイの腕の中でディアが叫んだ。 「ディアちゃん ? 」 「殺さないで ! 」 ろうばい 彼女は狼狽したようにカイの腕をふりほどいた。 「邪魔するな」とレオンが言った。 ディアが飛び起きた。 強いカでカイから逃れ、レオンの背に飛びついた。 揺 魔「殺してはだめ ! 」 「邪魔するなと言うのに ! 眼球をえぐるが殺しはしない」 せんりつ 冷たい声に、ディアは戦慄したようだ。

3. 悪魔の揺りかご

ディアちゃん : ・ かんいつばっ 揺カイは間一髪だったと思った。 魔半開きの本尸から中をのそいた彼は、ディアの他に誰かがいるのを見た。 ディアは粗末なべッドに死んだように横たわっている。 その枕元にひとりの男が・」ー宿の亭主だーー背をかがめていた。 待たされるのはうんざりだ。 敵の存在が確実であれば、じっと待ちもしようが。 ふとレオンの表情が動いた。 目を開けて天井を見つめた。 彼の耳に人の声が聞こえたからだ。 少女の悲鳴とは違う気がする。 男女がじゃれあっているというわけでもなさそうだった。 レオンは肘をついて飛び起き、飾帯ごと長剣を握った。 素早く胴着に腕を通し、彼は客室を出た。 ひじ

4. 悪魔の揺りかご

わからない。こんなやつ。 寝首を掻いてやろうと思った。 でもどうすればいいのかわからなかった。 悪魔の揺りかごのふたを開けない人間の殺し方がわからないのだ。 レオンは決して開けない。 いくら目をこらしても、揺りかごの上に何の幻影も現れない。 レオンの欲しがっているものがわかればいいのに。 毎日一緒にいて、いつでもチャンスはあるのに、レオンの心は全く動かないのだ。 だからレオンの心は氷でできているんじゃないかな、と思う。 もしディアが人間でーーそして目の前に『悪魔の揺りかご』があって 欲しい物が入っているというなら、ディアはまんまと引っかかってしまうだろう。 絶対に見られないような気がするけど。 もうひとつ、見られないもので、見たいものは、カイの怒った顔だ。 揺カイはいつもへらへらしている。 魔きっと何も考えてないんだろう。 静かだな。暗い部屋だ 人の姿をしているとこんなことまで不自由だ。

5. 悪魔の揺りかご

やぎつの 山羊の角を張り巡らせた半透明の窓から月明かりが射して、ディアの寝顔を照らしていた。 寝顔とはいっても今は死人のように青ざめている。 カイはその枕元に立って彼女を見守っていた。 「あんまり見ると、情が移るそ」とレオンが言った。 「でも、レオン様・ : : ・このコ、すごく弱ってますー カイは、毛布だけではまだ足りないというように、自分の胴着をディアの肩のあたりに掛け ずいぶんこくし てやった。中身は悪魔でも、体は生身の人のものなのだろえあの調子だと随分酷使されたに 違いない。 こんな : : : 体は嫌だわ。全然役に立たない : ・ よみがえ そう言って悔しがったディアの言葉が蘇る。 揺そしてべッドの脇にある木箱にふと目をやった。 魔蓋には植物の模様に囲まれて、言葉が刻まれている。 よく見ないと気づかないくらいのものだ。 ご ふた

6. 悪魔の揺りかご

ーー呆れたおっさんだな・ : どうやって阻止しようか。 部屋から出て来たところをつかまえて反省を促してやるのがいいのか。 みすい それとも未遂のうちに思いとどまらせるか 思案していた時、後ろから肩をつかまれてぎくりとした。 「 : : : レオン様・ : : こ カイは声を殺して言った。 何をしているのだ、という顔でレオンが見下ろしていた。 事情は見ればわかるだろうと、カイが目で部屋の中を示した。 その時、中からまた奇声が聞こえた。 レオンがもどかしげに木戸をいつばいに開いた。 かたわ 宿の亭主がべッドの傍らにひざをついて両手を高く掲げていた。 天を仰ぐように歓喜にうち震えて。 揺一液体をすするような音が聞こえた。 の 氷が割れるような破裂音も混じっている。 カイは息をのんだ。 今まで見えなかったのに、亭主にのしかかるように白い影が浮かんで見えた。 あき

7. 悪魔の揺りかご

かけたりしたらーーどんな娘もひとたまりもないだろう。 りん′」 レオンは何事もなかったように食卓に戻ると、林檎酒をあおった。 彼は食事の途中だったのだろう。食卓には欠けたチーズの塊やパンが残っている。 悪漢退治は食事の間の軽い運動に過ぎなかったみたいだ。 レオンは一ハンの残りを口へ運んだ。 カイは・ほんやりとそれを見ていた。 助かったという実感がようやくわいてきた。 あの情況でどうやって三人とも無傷で、と思い返す。 おど ディアを取り返した時ーーーレオンは頭目を剣で脅かしていたのだ。 あれでは誰も手が出せなかった。 れいり 怜悧な瞳で彼はならず者たちの中核を見定めて討ったのだ。 最も効率良く闘うために。 、この人。 なんか : : : すごいなー 揺カイは木皿に残った肉汁に悪心を覚えながらも、清冽な予感にひそかに心を躍らせていた。 の せいれつ かたまり

8. 悪魔の揺りかご

「誰か、手を貸して ! 」 女が叫んでいるのが聞こえる。 ディアが真っ先に部屋を飛び出した。 レオンが舌打ちしてその後に出ていった。 カイも後を追おうとしたが、ふと足を止め、部屋の中に瞳を巡らす。 ディアの眠っていたべッドの奥に取り残された木箱を見た。 「おっと、いけない」 悪魔の揺りかごを放置するのは危険だ。 カイはべッドの奥からそれを取り出して、脇に抱えた。 しよっかん 廊下を出て左奥の部屋では、娼館の娘が何人か集まっていた。 ある者は不家けに中をのそいており、ある者は壁の方を向いて涙をぬぐっていた。 レオンとディアが彼女らの間を通り抜けて中に入ると、フラやその下女らしい若い女が病人 揺の世話をしていた。 けんめい 魔苦痛の極みに達しているらしく、暴れてもがく娘をフラが懸命になだめていた。 ディアは足がすくむ思いだった。 人間は、 : ・ : ・沛い ご

9. 悪魔の揺りかご

褐色の煉瓦造りの屋敷には、冬でも色あせない蔓草が覆い被さっている。 レオンは今夜はこの町で投宿しようと決めているようだ。 まゆ カイは眉をひそめた。 先刻からやたら女が目について、レオンに色目を使ったりするのだが、むろんレオンは無視 そ して通り過ぎ、カイは何となく目を逸らしてやり過ごしている。ディアは無邪気なもので、空 腹を訴えてぐずついているのがカイにとっては救いだった。 あの女性はなぜあんなところに立っているのか、などと問われたら答えに困るからだ。 カ いろまち 揺どう見てもこれは色街ではないか。 ふんいき おび 魔華やいだ雰囲気があって、女がひとりでも怯えずに街角に立っているところなどは、先日あ とにしてきた海沿いの町に比べれば平穏だが。 たづな 「着いた。降りよう」とレオンが馬の手綱を引いて言った時にはカイは耳を疑った。 かっしよくれんが 第三章崇高な魂は甘美な味 つるくさおおかぶ

10. 悪魔の揺りかご

やったことを言づているのだ。 はね 「レオン様が今度は本当の羽ぶとんを用意してくれるよ。人間の女の子には優しいから、きっ と。きみを死なせないために自分がけがをしただろ : : : そんなふうだから、心配するなよ」 けげん ディアが怪訝な顔をした。 「すぐには無理だと思うけどーー・・本当に、レオン様と仲良くしなよ」 「どこ行くの ? こ 「さあ、どこと決めて出かけたことはないけど」 いちまっ カイは一抹の寂しさを隠して微笑した。 レオンがディアをどうするのかはわからないが、少なくとも少女のほうに関しては優しく扱 ってくれると思うのだ。 「やだ : ・ カイが戸口へ向かおうとした時 1 ディアが叫んでべッドから降りた。 はだし 彼女は裸足のまま、床に降りてカイの腕にしがみついた。 揺カイは驚いてディアを見下ろす。 魔「あたし、まだ爪が痛い。早く治して : : : 暖かくして治してよ」 「ディアちゃんーー ? 」 「人間はこうやって治すんでしよう ? ふとんみたいにくるんで治すんだよね ? 」