だめ りくっ もうもの ふんいき ) 0 ゝゝ しいかもしれなし しし雰囲気になれれば儲け物だし、駄目でも、なんとか理屈をつけ て、中から窓を開けてもらえばいい。 居間の窓に近寄って、手をかけたところ、それは運よく開いていた。 ようせい 妖精のカの加護により、飛ぶことのできる今のキ 1 ツでもなければ、傾斜の急なこの屋 根を伝ってくるのは至の業だ。しかもこの建物は、忍びこもうなどと不届きなことを考 かぎ 鍵が開いていても、必ずしも不用心とは言いき えたくなるような、上等なものではない。 れない。 くっぬ 居間の窓を開けたキーツは、街の中を歩いて汚れた靴を脱いで、そ 1 っと居間に足をお ろした。雨ならまだしも、キ 1 ツの靴を汚したのは、血溜まりである。床が汚れてしまう ので、靴の裏が輯くまで、履かないほうがいい 物音をたてないように、注意して靴を置き、窓を閉めたキーツは、ほっと息を吐こうと かべぎわ して、すぐ近くの壁際に置いた椅子に、人影があるのに気づき、どきりとする。 「 : : : スエレン : 驚いてバイオリンを落っことしそうになったキーツは、暗がりで静かに顔をあげた娘 あいそわら をに、愛想笑いする。 かぜ 「どうしたのかな ? そんなとこでうたた寝してると、風邪ひくよ」 うそ よご けいしゃ ゆか
つく。 たよ 「 : : : 話なんか、通じる相手じゃないって、あたしは言いたいんだよ。力に頼る化け物 を、一一一一口うことを聞かせようと考えるのなら、それはカでねじふせるしかないのさ」 ゅうれつ けものりくっ 力の強弱が立場の優劣を決める。獣の理屈だ。 コンスタンスは、レイムのいるほうに顔を向ける。 「そこのところが、わかっちゃいないんだよ : だいじゃし からだ 大蛇に締めあげられ、みしみしとナイヴァスの身体が音をたてた。あまりの苦しさに激 ぐれん くろせいれい 昂し、身をよじって吼えるナイヴァスの口から、紅蓮の猛火が吐き出される。黒精霊の炎 に対して耐性のあるフィギーラは、炎にまかれてもそこらじゅう這いずりまわって、どう ぼうぎよいん にかしてナイヴァスを助けようと群がり、レイムは炎に対する防御印で、とっさに身を守 りながら奮闘する。魔道力で一気に大蛇をき飛ばそうとするのだが、大蛇のが特殊 者な術の紋様になっているらしく、術が滑ってナイヴァスを傷つけてしまいそうになり、 カ一つ十 6 ~ 、い力ない さよく ものすご をばきりと物凄い音をたてて、ついにナイヴァスの左翼が折れた。折れた骨が肉に突き刺 さる激痛に、砂澆がびりびりと震えるほどの声で、ナイヴァスが咆哮する。 だめ ( 駄目だ、このままじゃ : たいせい
104 「必要があるならば、協力要をとおっしやっておられました。レイム様を全面的に支援 まどうしとう むね する旨、各地の魔道士の塔に知らせが行き渡っております」 「わかりました。それで、あの : : : 」 「はい」 この街で、何がどうなっているのか、自分に何かできることはないのかと、気にしてい るレイムに、サミルはうなずく。 きのう 「昨日の午後、突然にだそうですが : 。プラン市住民の大多数、および、ここ五日間の うちにプラン市を訪れた、一部の者から、頭部が消失いたしました」 しまたた レイムは、サミルが言ったことに目を瞬く。 あまりに思いがけないことを聞かされたため、すぐに理解できなかった。 「異常事態に気づいた魔道士は、頭部を消失させて絶命した者の違を回収。プラン市外 そうどう もくげきそうぐう におきましては、事件を目撃、遭遇しました者が、いたずらに混乱して騒動にならないよ う、迅速に保護し、事件に関する廿腰を、一時、蜥じる措置をとりました。そして同時 はくしやく に、事件の元となっていると考えられるプラン市の領主、ルビナンタイン伯爵に連絡。 じたいしゅうしゅう へいさ 伯爵はプラン市を閉鎖して、女王に事態収拾の協力を要請しました。女王はリオナール はけん 将軍率います軍隊を、即刻、ルビナンタイン伯爵のもとに派遣いたしました。現在、リオ うかいろ ゅうどう ナール隊はプラン市を通過する隊商および旅客を、迂回路へと誘導、混乱が起こらないよ
しまい、激しく咳きこむ。 大丈夫ですか ? 「ああ、慌てなくてよかったのに : 苦しそうにむせるキーツを助け、レイムがキーツの背をさすった。 「だ、大丈夫だ : : : っ ! 」 キ 1 ツはレイムの手を避けるように腕をあげ、レイムに肥を渡した。 「そうですか ? えんりよ 助けられたくない感じのキーツに、レイムは遠慮する。意地っ張りでひねくれたところ があったから、しつこくしないほうがいいかと思う。 をおさめ、ぜいぜい言ったキーツは、ぐったりとうつむく 「もう少し、飲みますか ? ねたレイムに、咳をおさえるようにロに手をあて、キーツはうつむいたまま、首を振 「・ : ・ : いらねえ : もしもう少し欲しかったと言われても、むせてしまった物より、別の物のほうがいいだ まどう ろう。まだ数本、清涼飲料水の瓶はあるし、魔道で水も呼べる。 「そうですね」 ひとつうなずいて、レイムは残りをいただくべく、瓶に口をつけた。 る。
まどうしとう 「僕とサミルさんは、魔道士の塔にいると思います。もし、何かありましたら : ・ さが 「適当に捜してくれー キーツは自分から何もする気はないからという態度で、レイムの言葉を最後まで言わせ なかった。キ 1 ッらしいと、レイムはうなずく。 「はい 気を読めるレイムが、キーツを捜しあてるのは簡単だ。 自分勝手でどうしようもない奴だと、キーツを見ていたルドウィックだが、子どもに優 しい姿を見て、案外悪い人間でもないのだなと、少し見直した。レイムは北の賢者、イラ クス・ローザに逢ったあとのことを、思い出す。あのとき、ロを開いたキ 1 ツが最初に ねたのは、ウリデイケのことだった。悪人を気取ってはいるが、自分より弱い者に対し て、キーツは優しい レイムとルドウィックに、それじゃあなと軽く手をあげて、キーツは男の子に尋ねる。 者「家、どこだ ? る 「あっちのほう : ・ を指さした男の子の言うほうに目をやったキーツは、裏通りの向こうの広い通りも、やっ よご ばり血でずくずくに汚れているのを見て、うんざりする。 それでも、連れて帰ってやると約束したいじよう、子どもを裏切るわけにはいかよ やっ けんじゃ
これはどうだろうかと、次に目をつけた物に手を伸ばそうとしたコンスタンスの肩の上 ふる くろねこ いつばくおく で、びくりと黒猫が背を震わせた。一拍遅れて気を感じ、コンスタンスが振り返る。 まどう ぜっきよう じゅじゅっし 死に見放された者が絶叫する、まわしい呪術師の店の中、魔道の冷たい灯の光を浴 にじいろ ほうい びて、虹色に輝く法衣をまとう者の姿があった。 どくろ すいしようきゅう 髑髏の台座に置かれたゼグ・ダの水晶球の横、卓に腰をおろしていた魔道王は、振り うやうや 返ったコンスタンスに恭しく頭を下げる。 「ごきげんよう」 すず まゆ 涼しい声で言われ、むっとコンスタンスは眉を動かす。 「今度は何の用だい ? 」 ふきげん あからさまに不機嫌な声で問われ、魔道王クシュフアは、くすくすと笑う。 「お見舞いですよ」 レイムに敗退した、呪術師ゼグ・ダの。 かわい 者可愛らしいことを言われ、コンスタンスは辟易して息を吐き捨てた。 いっしよじごくお る カ 「だったら、あんたも一緒に地獄に堕ちな」 さび をそのほうが、ゼグ・ダも寂しくなくて喜ぶだろう。 「ひどいことを言いますねえ」 もてあそ コンスタンスの物言いに、手を伸ばしたクシュフアは弄ぶようにゼグ・ダに触れなが へきえき
161 星を授かる者 「だったら、お運びして、よろしいのですよね ? まゆ 眉をひそめるサミルに、階段を下りながらレイムはようやく、何がどう食い違っている のか、理解した。 「自分で運びますから、 しいですよ」 貸してくださいと言って手を出すレイムに、サミルは首を振る。 「とんでもありません ! そんなことをしたら、わたしがほかの者から叱られますー 「は ? レイムはきよとんとする。 どうしてそうなるのか。 まぬ お間抜けな顔をしているレイムに、サミルは少し嫌な顔をした。 「レイム様・ : と、何事か言おうとしたサミルは、一度息を詰めて、言葉をみこみ目をつぶってうなず まど、つしさま 「魔道師様の小部屋まで、戻りましよう」 ろうか とびら 背を向けたサミルは、すたすたと階段を下り、廊下を曲がって魔道師の小部屋の扉を開 追いつくかと思ったところで、サミルに先に行かれたレイムは、開いてくれた扉に、何 しか
る。ここでやって見せてくれと言われても、お手上げだ。 「あれはもう、タネぎれだよ」 くぎさ 釘を刺したキ 1 ツの前に、姉を押し退けて、少年が顔を出す。 「じゃあ、ほかのは」 「ほかのならできるぜ」 「勝手ばっかり言わないのー 弟の恩人を休ませる様子のない少年に、娘は怒った。首をすくめ、小さくなった少年 、一一一一〕うことをきかないならと、娘に製振りあげる。男の子は活発で、腕だ。弟二人 めんどう を面倒見ようとすると、どうしても暴力的になってしまう。 「俺なら、 しいって」 顔を向けた娘に、キーツは笑う。 かわいこ しか 「あんまり叱ってやるなよ。可愛子ちゃんは、ってるのが一番だぜ」 者キ 1 ツは気障に片目をつぶってみせながら、握った左手をくるりと引っくり返し、娘に 差し出して広げた。ばんと音をさせて、色やかでいい匂いのする、小さな花束が現れ しまたた 星た。驚いて目を瞬きながら、本物の花を受け取って、娘ははにかむように、うつむく。 「あ、ありがとう : どうやったんだ ? な、俺もできるかな 「すうつげー
120 そうさく 第七章捜索 娘の名はスエレン、お兄ちゃんの名前はロプといった。 たいしたものはないと言ったスエレンの一一 = ロ葉どおり、出された料理は、温かく、心がこ もってはいたが、つましいものだった。 なべ 圧力をかけた鍋で、しつかりと煮こまなければ、とても食べられたものではない安い肉 めざとさが を、シチュ 1 の具に目敏く探しあてた少年たちは、極上の食材であるかのように、喜んで きそ 競うように食べていた。 ( 金があるから、豊かなんじゃない : 兄弟も妹もいたが、自分はこんなに楽しそうに、奪いあうかの勢いで、食事をしたこと こうしやくけ があっただろうかと、キ 1 ツは思った。侯爵家に生まれ、何不自由なく育てられたキー ツだが、いつも何か、満たされないものを感じて、しかしそれがはっきりわからず、もど あせ かしさにただ焦っていた。あのころのキーツに比べれば、この小さな少年たちは、ずっと 幸せであるようにみえる
どんな姫君かは知らないが、極論を言ってしまえば、たかが女一人だ。世界でただ一人 せいまどうし の、救世の勇者たる聖魔道士が ほこ 「美しい姫君のために戦うことは、誇り高き貴族として当然の行為だー ほおこうちょう 頬を紅潮させ、断固としてルドウィックが声をあげた。 ささ プラトニックな恋愛感情を抱き、命を捧げてつくすことは、貴族としての理想である。 ロマンチシズムに燃えるルドウィックに、けっとキーツは息を吐く。 かか びき たおやかな美姫ではないが、理想を掲げるルドウィックならば、レイムのために命がけ ようし で戦うことを本望と感じているはずだ。麗人とよんでさしつかえない容姿のレイムに対し て、ルドウィックは確かに、特別な好意を抱いている。もちろん、よくわきまえていて行 儀のいいルドウィックのことであるから、自分のものにしたいとか、特別な関係でありた はれんち いとかいう、不届きで破廉恥な感情ではないが。 胸の内をすべて見抜くかのようなキーツの視線に、レイムは少しうつむく。 くろせいれい けんじゃとう 者「 : : : 賢者の塔で守られねばならないような方です。それに、黒精霊とかも、あの姫を るねら 狙っているようですし : : : 」 を「だったら、なおさら、塔にいたほうが安全なんじゃねえの ? それは北の賢者、イラクス・ローザにも言われたこと いつでもキーツの問いは、核むを魲いてくる。 ひめぎみ れいじん