に、と思ってしま , っ 尤も本人は真剣に悩んでいるので私がとやかく批判するつもりはない。 しかし、なぜ、罪悪感を感じなければならないのだろう。 部屋を閉め切ってしまえばうるさくないだろうし、見苦しいこともない。誰にも迷 惑をかけずにストレスが発散できるならば、別に罪悪感を持っ必要はないと思う。母 性はこうあるべし、といった既成概念にとらわれることはない 例えば茶髪。私は見苦しく感じるが、当人が茶髪で幸せならばかまわないはずだ。 「みつともないから染めるのは止めろ」と要求したら、要求する方が立派な人権侵害 幼児虐待に対し罪悪感を持つのはおかしいし、他人がとやかく言う筋合いではない と思 , っ 【「子供がかわいそう」は余計なお世話】 虐待をする親に対して必ず浴びせられる言葉 「子供は親を選べないのにかわいそう」 余計なお世話だ。虐待が悪いと思った子供は自分が親になった時繰り返さなければ
か、と考えたとしても、ジワッジワッとエスカレートする方向に行ってしまうものな んです」 再び『ありさの虐待日記』 『ありさの虐待日記』は、虐待は悪くない、という石を、一見静かな日本社会という 池に投げ込んでしまったために、世間から猛烈な反発をくらったのだろうと思う。 「ただね、会ったこともないひとのことをいうのはすごく苦手なんですが、もしこの 日記がほんとうだったとしたら、これが、亜里沙さんに今できる精一杯のなの 理かもしれないと思うんです、 床佐藤心理士は言葉を継いだ。 臨 一見、非常に挑発的な日記の記述をよく読むと、彼女の主張がいろいろな箇所で自 六己矛盾していることが容易に分かる。《虐待する親ってそんなに異端なのでしようか 第 ? 》と書き、《幼児虐待に対し罪悪感を持つのはおかしいし、他人がとやかく言う筋合 いではないと思う》と書いてはいるが、そういう物言いの裏には亜里沙さんの罪悪感
226 書いてきたことがある 《実はありささん、例のサイトを作った直後 ? または直前あたりから「王ロバ」に 出入りしていました。 その時のログは残って無いんですけど、 あ『ありさ』 * 子供を愛せないのは変 ? い『いかいか』 * あなたはどうしたいの ? アタシは愛せてるかわからないけど それなりに愛情を伝えようって思ってるよ というようなスレッド ( やりとり ) かでき、最後に 「じゃあ私は子供がキライだってメッセージを伝えて行く」って書き込み ( 未公開 ) があって、どーも怪しいと思い、彼女のに行って見たら あんなだった訳です。それでスレッドごと削除しました》 全くのボランティアとして、いかいかさんは虐待について考えるホームペ 1 ジ「王
2 解説 持ったといえるだろう。その意味で私が「面白い」と思ったのである。 ここに登場する意見を述べたひとびとも「聞き手ーになった。 このの中味は本当であるのか、どうか。それは聞き手が決める。 その意見にはそれぞれ「聞き手ーのポジションが映し出されている。、し かし「ありさ」との信頼関係がだれにもないから、どうしてもミステリ 1 の世界に入ってしまう。 私も『家族漂流記』で登場した虐待する母親のことを思い起こしなが ら『虐待日記』と重ね合わせてみた。インタビュ 1 した二〇代の母親は 「母に不幸では勝てないーと嘆き、「母が幸せになるまで自分の幸せを先 に考えてはいけない。それが母と娘のルールだった。そして私にも娘が 生まれた。娘の顔を見ながら、母より幸せになろうと思った。だけど気 がつくと、ピカピカに掃除した部屋を汚す娘をたたいていた。私が上に 立ち、下にいる娘たちを虐待する最低な母親になってしまった。母親の ようになりたくないと思った。それなのに・ : 」と自らを語り始めた。 そして最後には、六歳と四歳の二人の娘に「お母さんは私たちをたた いたね ? ーと言われたら何と答えればいいのか、自問自答しながら考え
ある救い 「結果的にイタズラであったということでしたが」 と所長はいう。 「子育ての発散方法としてこれ ( ホ 1 ムページに書くこと ) が適切かどうかは別とし て、 ( 亜里沙さんが ) ストレスを感じていて、家庭でも葛藤を感じているということを 自覚していて、その発散方法を知っていることはまだマシなのかもしれません。スポ ーツをしたり、お酒を飲みに行ったり、自分がどんな形でストレスを発散できるのか を知っていれば、救われると思います。こういうストレス発散法を持っていないひと は、不安感や葛藤がドンドン溜まってきて、知らないうちに子供にあたったり、老人 にあたったりすることになるのかなと思います」 現代の母親が子育てに感じている大きなストレスを、現場の関係者たちは痛感して いる。子育てへのイライラから『ありさの虐待日記』のようなホームページを開いた のだとしたら、かなり深刻なのではないか。だれにも相談できずに、コッコッとひと 、つカカ りでホームページを制作している姿から、非常な孤独感が窺える、と村上所長。
165 第七章ソーシャルワーカー 凸インターネットでの繋がり そう、たしかに法主任のいうとおり、インターネットを介して深くコミュニケート するのは非常にむずかしいことだろうとは思う。だが、その操作に慣れたひと同士の 間では、それなりに話し合いが持たれているらしい。 インタ 1 ネット上に開設されている虐待に関するホームページにメ 1 ルを送った。 虐待を考える母親のためのホームページを開設していて、いかいかと名乗っている女 性宛てに。以下は、『ありさの虐待日記』に関する質問への回答メールだ。 《一ありさの虐待日記をいっ読みましたか。 ( 答 ) ネットで評判になるニ 5 三日前カウンターは四六だった。 ニ読んだとき、どんな気持ちでしたか。 ( 答 ) 大変不愉快だった。ホントかウソかわからなかったけど、一番はじめは書い てあるそのまま、真実として受け取った。 犯罪者、異常人格だと思った。
「相談は、ソフトな心と強い決意が要ります。そして、耐えることに繋がりますね、 悲惨な話が多いですから。だから、援助者がひとりで抱え込まないで、うちみたいに 多くの職種のひとが集まって、チ 1 ムを組んで対応する必要があると思います」 虐待への誤解 ただ、佐藤心理士には、気がかりなことがある 「亜里沙さんなりにこういうことを書く一定の心理的な背景があって《虐待は悪くな い》と書いたのだとしても、一般のひとが字面だけ読んで、虐待する親はこういう考 理えをもっているんだ、虐待を楽しんでいるんだ、と誤解してしまうとしたら、私が担 床当させていただく他のお母さんたちのことを思うと、すごく辛いです」 臨 『ありさの虐待日記』のせいで、そういう世間の誤解が広まるのは防がなければなら 章 第 一 0 月二五日前後の新聞の論調がまさにそうであった。たしかに、虐待はよくない、 ということを一般に訴える力はあっただろう。だが、あたかも虐待するひとがみんな
148 いうようにしています。それも、すぐにでも実行でき、手間暇がかからなくて、しか もそれを実行したことで、確実に効果があるようなことを、勧めるようにしています。 これがだめだったら、他にも方法がある、ということを、お母さんとよく話し合って、 お母さんが納得して自分で選んでもらえるように気をつけています」 そうしないと、自己評価の低いお母さんは、ちょっとうまくいかないだけで「やっ せん ばり私はだめだ」と思い込んでしまう。自分を責めてしまいがちなのだという。煎じ 詰めれば、自分なんか生きていてもしようがない、 と思い込んでしま、つことが多いか ら。 「でも、親が子どもと一緒の家庭にいたら危険だと思う場合は、最初にハッキリいし ますよ。『それは子どもを守るためだけではないんです、お母さんを守るためでもある んです』って。もしかすると児童相談所に相談しなければならないことがあるかもし れないから、そのときは守秘義務が後回しになる可能性もあります。『できるだけあな たの了解を得てから児童相談所に行くようにはしますけれど、場合によっては一時保 護をしなければならないこともあるかもしれません』って」 親子分離は、親子を助けるための、援助の一環なのだ。ほんとうに、そのひとのた めになるのだと思えば、何も引け目を感じることなどない、と佐藤心理士は断言する。
155 第六章臨床心理士 もちろん私たちは、そのときには生きていないでしようから、おそらくその孫の子ど もにも会えないでしようけれど。でも、孫から繋がる子どもやその孫などの多くのひ とが、今、私たちが努力することで幸せな方向に行けるかもしれないんです。そう考 えたら、虐待を防ぐ努力には取り組む価値が大いにあると思うんですー 「たとえ一粒の麦でも」とキリスト教では教えるという。たとえ一粒の砂でも、巨大 なピラミッドのキャップストーンになる可能性を秘めている。ある援助者の集まりで そう話したら、「なんと前向きなんだ」といわれてしまったと笑う佐藤心理士は、しか し、とてもいい表情をしていた。
報道を見ると、児童相談所の所長が、保育所等に連絡をし、「該当児童がいるかどう か調査したいーとおっしやってたようですが、これは「この児童を探せ」ということ で調査しているんですか ? 職員このホームページに該当するような名前の児童がいるのかいないのかという点 について、調査をしています。メールが送られたかどうか、プロバイダーに確認を したいが、。 シオシティーズの連絡先は分かりますか ? 女性メールでのやりとりがほとんどなので、電話番号は分かりません。 職員東京から電話しているということだったが、なぜ神戸市在住と名乗ったんです 女性知人が神戸市にいただけの理由で、特に深い意味はありません。 これだけの騒ぎになってしまったので、早く何とかしたいんです。また、神戸市を はじめ、各方面にご迷惑をかけており、謝罪もしなければいけないと思っています。 職員先ほど連絡をいただいた直後。 こ、この件について記者発表をする機会がありま して、「事実かどうかは分からないが、たったいま本人と名乗る女性からの電話があっ て、イタズラのホームページである旨の電話があった」ことを発表しました。 女性ありがとうございました》