「この日記が真実であるかないか、という問題は判断の手掛かりがないので保留して おきますが、虐待という問題を考えるキッカケとしては大きな意義があると思います ね。 今度の決議文を作るときこ、、 。しろいろ議論しました。それぞれの党がそれぞれ持ち 寄ってまとめたものですから、まだまだ不十分だということは分かっていますが、こ れが今の国会の総意なんです。虐待を許してはいけない、虐待を防ぐために、できる ことは何でもしなければならない、という強い決意表明なんですー 漏れ聞くところによれば、「青特委」を解散させようという動きもあったという。国 会議員たちが児童虐待問題を取り上げて議論し、虐待防止法を模索することを快く思 わない″勢力〃があるようだという。臨時国会の終了にともなって開かれた「青特委 議の最後の理事会では「来年も頑張ってこの委員会が続くようにしようねと言い合っ 議たと笑う肥田議員である。 衆 章 しつけと虐待に区別がつけられないこの国の大人たちは、謝礼と汚職の区別がつけ 四 第 られないこの国の官僚や″選良〃と同じ精神風土にいるのではないだろうか。なんと、 皿この国には父親による未成年者への性的虐待を罰する法律がないのだ。性的な虐待を
防止に関する広報活動を始めようとしているのではないだろうか。前橋専門官は報告 書を手にした。 ふたつの報告書 ここに、二冊の報告書がある。タイトルは『平成一〇年度厚生省報告例年度報告』と 『児童相談所の虐待相談処理状況』。 厚生省に報告された児童福祉関係の事例をまとめたものだ。これらを読めば、児童 相談所でどれだけの虐待問題が処理されたか分かるようになっている。 相談受付総数は三三万六二四一件にのばり、処理総数は三三万五一八二件。そうし て、児童虐待に関する相談処理件数は、六九三二件となっている。 その内訳は、身体的暴行三 , ハ七三件、保護の怠慢ないし拒否 ( ネグレクト ) 二一〇 九件、性的暴行三九六件、心理的虐待六五〇件、登校禁止一〇四件となっている。相 談者は、家族が一八六一件、親戚が一三四件、近隣や知人が六一六件、児童本人が一 五九件、福祉事務所九三九件、児童委員からが一四二件、保健所二九二件、医療関係
と西澤助教授はいう。そこに、臨床心理士やカウンセラーなどによる側面からの援助 があれば、もともと回復する力をもっている子どもは、回復していく。一〇〇 % 回復 するかどうかは分からないが、かなり正常な人間関係を取り戻すことができる。 学歴などという曖昧模糊としたものが、未だに自分を測る指標として通用している がぺい この国で、思いやりのある、優しい人間に育ってほしいというのは画餅に過ぎないの かもしれないた力いい学校、いい会社、い、 し人生などという幻想を脱却しない限 り、この国の歪みは子どもに集中し、虐待という形で表れ続けるだろう。 そうした幻想から自分を解放しない限り、この国の子供は親の期待という「ソフト さら な虐待」に晒され続けるに違いない。それはさまざまなトラブルとして、もっとも弱 い子供の上に表れるのだ。 「むずかしい。けれど、何かから始めなければならないんですー それには、親からの「愛している」というメッセ 1 ジが有効なのだという西澤助教 授の言葉は勇気を与えてくれる 亜里沙さんが「間違っていた、自分の問題だった」と認めるためには、それまでの 考え方を一八〇度引っくり返さなければならない。だから、雄介くんに謝るためには 彼女自身が何らかのケアを受けないと、なかなかむずかしいだろう、と助教授はいう。
172 孤独な親 『ありさの虐待日記』の亜里沙さんというひとは、ソーシャルワーカーである法主任 の立場からいえば、いろいろ気になることがあるとい、つ 「お金のことも気になってるようですしね、ご主人との関係も心配ですね」 亜里沙さんの夫は、雄介くんの子育てを亜里沙さんに任せきりのように見える。仕 事人間で、《残業がキックたいてい翌日になってからの帰宅である》。《元々短気なほう だから、気に入らないとすぐ雄介をなぐっている》ようだ。亜里沙さんが雄介くんを 虐待していることについては《主人の前ではやらないから、私が雄介を虐待している 雄介くんのこともさることながら、なにより ことは知らないはずだ》という。だが、 も亜里沙さん自身がほとんど夫から構ってもらっていないのではないか。 典型的な日本の夫がいる。育児に無関心か、あるいは妻に任せきりで、むずかしい 問題は避けて通りたい。だから、雄介くんの心理状態に気づかないか、気づいてもど う対処してよいか分からない。あるいは、意識しないようにしているのか 「ずっと村社会で培ってきた共同意識を、戦後になって、もう時代遅れだとして切り 捨ててきましたよね、この国は。全国的に都市化が進行するなかで、人間はどんどん
たしかに、いわれてみれば、インターネットの虐待ホームページでも同じような書き 込みや告白をよく目にするように思う。加害者には、虐待を止められない。なんとか 止める方法を教えてもらえないかと、虐待ホームページに自分の経験を投稿したりし ているよ、つにも田 5 、んる 「最初は、加害者と被害者がはっきりしているんです。親が自分の感情をコントロー ルできなくて、子どもに虐待を加えてしまいますよね。それは、身体的な暴力でも、 精神的な虐待でも同じことですが、そのうち、子どもには必ず、心理的な反応として ある特徴が出てくる。被虐待児童特有の行動というものです」 もちろん、その表れ方にはいろいろ個人差がある。だが最も顕著に見られるのが、 はいせつ 食事と排泄の問題だと佐藤心理士はいう。たとえば、食べない、盗んで食べる。おね 理しよ、昼間でもおしつこを漏らしてしまう、嘘をつく、盗みをする。とくに食べ物を 床盗む。盗みは、その子の年齢に関わらないという。 いらだ 臨 そういう子どもの反応に、親はなおさら苛立っことになる。あれだけ叱ったのに、 六まだ分からないか、と逆上する。自分が馬鹿にされたと感じるのだ。 第 も、つ少しカウンセリングが進んでいくと、お母さんも自分のいろいろな気持ちを細 やかに見られるようになるのだけれど、と佐藤心理士。
「これを読むと、《誰にも迷惑をかけずにストレスが発散できるならば、別に罪悪感を 持っ必要はないと思う》とあります。一般にも、ひとに迷惑をかけなければ何をやっ てもいいという考え方がありますが、それが大きな間違いなんですー 人権の問題に詳しい木下弁護士は、銀座松屋裏手のビルにある事務所で眼鏡を光ら せるよ、つにしながらロを開いた 一七年前に脱サラして弁護士になった氏が、最初に担当したのが少年による殺人事 件だった。この犯人の少年が、殺人という罪に全く無感動、無表情だったことを疑問 に思った木下弁護士は、生育歴などの背景を調べてみたという。すると、少年が実は 小さいころに虐待を受けて育ったことが分かったのだ。そして、〃正義〃や〃反省″な どという言葉では割り切れない問題に、木下弁護士は直面する。虐待問題との関わり 士 は、この事件から始まった。 護 弁 木下弁護士は子どもの虐待防止センター発行の『親権について』『児童の虐待につい 五て我々は何をすべきか』 ( 児玉勇二、泉薫氏と共著 ) などのテキストを執筆している 第 スラリとした体型にグレーのスーツをまとい、眼鏡の奥の眼差しが優しい木下弁護 士は大学生二人と高校生の親でもある
動機は本人にしか分からない。いや、おそらく本人にも明確に意識されていたわけで はないのではないか。『ありさの虐待日記』をめぐる関係者の反応は、その切実さによ って大きく異なっていた。 神戸市家庭児童課の職員の証言によれば、亜里沙と名乗った女性は東京に住んでい ると述べている。だが、それでは、東京の児童相談所はどう対応したのだろうか。 「まず、東京在住であるかどうか確認できていません。そして、その件に関しては何 も報告を聞いていません」 前橋専門官はいう。 巻末資料にあるように、東京都には、子ども家庭部から事業を全面的に移管した東 京都児童相談センター ( 新宿区戸山 ) を中心に、台東児童相談所、墨田児童相談所、 品川児童相談所など一一の相談所がある。だが、問い 合わせしたところ、神戸市から 東京都児童相談センターへの連絡はなかったという。 なお、都内の保育所は公立が一〇一三、私立五七〇の一五八三カ所である。なぜ、 神戸市は東京都に連絡しなかったのか。また、東京都児童相談センターも、ホームペ ージの作成者が都内在住の女性だと新聞が報じても、該当する子どもがいるか否か確
186 小児科科長を委員長に、救命救急センター小児科医、同脳外科医、同看護婦、小児 科医三名、精神科医、臨床心理士、小児科病棟看護婦四名、同外来看護婦一一名、総合 相談部保健婦、同ソーシャルワーカー、医事調査課課員の一八名のスタッフで構成さ れている。虐待の問題は、短期間の治療で済むものではない。長期的に関わっていか なければならないので、ソーシャルワーカーや臨床心理士などの役割は大きい、と大 田医師はいう。 子どもへの虐待に関わるようになったのは、ある子どもの死亡事件がキッカケだ。 「再発例でした。前から、虐待だろうと疑ってはいたんですが、親は虐待を否定しま した。その子を治療して、元気になって、退院して、来なくなった。そして次に外来 に来たときには死んでいたんです。電話で外来に来てくださいと連絡したときに、実 は : : : と親が虐待を仄めかすような話を始めていたので、なんとか援助できるのでは ないか、と思っていた矢先でした」 この子の他にも、病院に連れてこられたときには、蚤我の状態が悪くて死にそうな 子どもか続いた 「せつかく治療して元気になっても、子どもへの虐待の問題が解決しなければ、また、 いっ入院してくるか分からない。怪我の後遺症も残る。これは、親の問題にも早期か ほの
当然のことだろうが、どこからも反応はなかった。 児童虐待は、けっして遠い世界のことではない。虐待してしまう親も、けっして特 所殊な存在ではない。虐待されている子どもは、すぐ目の前にいるかもしれないのだ。 榧ただ、その事実を直視する眼差しがあるか否か、ではないのか 童 児 市 戸 神 第ニの電話 日 五 午後五時ごろになって、再び電話がかかる。これは、直接、神戸市保健福祉局児童 、り 家庭課にかかってきた。 日 四 一回目の電話を受けた男性職員が語る 月 「同一人物だと思われる声でした」 〇 そのやりとりは次の通りだという 章《女性さっきも申し上げたように、ホームページについては事実ではありません。 第 兵庫県庁にも電話をしましたが、管轄は神戸市ということでした。今日の夜に、プロ バイダーにメールを送るつもりです。 まなざ
既に身構えて「わからない」と言ってとぼけようとしている姿が見え透いてムカッい 「わからないなら教えてあげるね。」といって布団たたきの棒で雄介をつついてやった。 「〇〇ちゃんはアンタにやられてこういう思いをしたんだよ。」と話かけてやると、 「お母さんいじわる。」と言うから、それにつけこんで「いじわるっていうのはこう いうことだよ。」って思いっきり棒を腹につきさしてやったらひいひいかすれた声で泣 いていた。 一時間ほどやった後風呂場に閉じ込めた。あとで見に行ったら脱衣場で寝ていた。 一 0 月一五日 夕食のカレーライスを服にこぼした。手洗いしなければいけないのでこらしめること にした。「この手がいけないんだね。」と右手の腕部分をしつべをした。なぐられなれ ているので、しつべぐらいではこたえない様子だった。だから、同じ場所を一〇回ほ ど続けてしつべした。五回を過ぎるあたりから泣き始めた。かなりこたえた様子だっ