134 「うん」 リュウトはもうカナンを責めるようなことはしなかった。 「サンキ少なくともこいつらは闇に堕ちずに済んだし、やつらの餌にされることもなかっ エレメント エデン たってわけだよな。俺も助かったよ。やつらの聖剣に斬られてあんなに光の無幻力が落ちてた のに、やつらに乗っ取られずに済んだぜ」 リュウトの声は淡々としていた。 カナンの抱いてくる力が強くなって、リュウトはふとカナンのほうを見上げる。 瞳の宇宙。 満天の星空よりも見たい瞳。 リュウトはまぶたを閉じた。 カナンの長い髪がリュウトの顔を隠してしまう。 キスをした。 ずいぶんひさしぶりのキスだった。 「食えばよかったんだ」 「え ? くち第ひ 0 唇が離れるまぎわにぼそりと呟かれて、カナンが聞き返す。 リュウトの手がぐっとカナンの腕をつかみ返した。 「食っちまえばよかったんだよ。埋めてどーすんだよ。なんにもなんねえじゃん」 ひとみ えさ
重層化する闇のカーテン。 凄まじいスビードで追いっかれ、どの光の聖剣士も逃げようがなくなる。 エレメント 闇の聖剣が満月からの光を吸い込み、カナンの周囲にはあっという間に分厚い闇の無幻力の 層ができる エレメント 次の瞬間、カナンの前には、光の無幻力を奪われ無力化した光の聖剣士の山ができてしまっ しょ / 、り、っ エレメント ていた。 / 彼らはもはやなんの無幻力も持たない。闇の剣精たちの食糧となるだけの存在だ。 「カナン様 ! 」 アダム ようやく追いついてきた闇の聖剣士たちが、遅まきながらカナンの前に立ちふさがり、ポス をガードすべく周囲をびしりと取り囲む。 だがカナンが彼らを気にかける様子はなかった。 武装したその姿のまま、月の輝く夜空を見上げる。 の月の光を浴びて青白くかび上がる横顔。まるでこの世のものとは思えない。 日そのそっとするほどの美貌を一度でも間近で目にしてしまえば、日頃カナンを疎ましく思っ ている闇の聖剣士たちも黙り込まざるを得ない。 デやがてカナンが・ほそりと呟いた。 「まだ、足りない」 イヴ 「え ? あ、我々の剣精たちの食糧ですか」 すさ つぶや
なるほど。そのようだな」 の声は握りしめたこぶしと同じほどに震えている。 そうしてけっして自分のほうを見ようとしない人の横顔に、カナンは遠い過去の記憶を映し ていた。 まだはっきりとすべての記憶が戻ったわけではない。 けれど、この顔は自分の好きな人の顔だとカナンにはわかるのだった。わかってしまえば、 拒絶されるのは切ない。 「 : ・、なぜこんなことになったのか、なぜリ = ウトでなければならないのか、私にもわか らないのだ」 こく 「もういし : それ以上私に聞かせるのは酷というものだよ、カナン やはり拒絶は免れないのか。カナンはうつむき、しょんぼりと呟いた。 「でも、私は本当に、あなたを裏切るつもりなど少しもなかったのだ」 「これ以上の裏切りがどこにある ? うつ のその声はカナンをハッとさせるほど低く、虚ろだった。 この人は。 この人の内側は。 まぬが
284 世界一やさしいキスをして。 闇の剣精の唇は冷たく乾いていたけれど、リ = ウトが触れたら温かくなった。 「カナンー ゆっくりと唇が離れてゆく。閉じていたカナンの瞼が同じようにゆっくりと持ち上がった。 輝く青い瞳が現れる。 カナンの、瞳だった。 「生まれ変わっても・ : キスしようぜ。思いつぎりディープなやっ」 「リュウト : ・」 震える声。この声で名前を呼ばれたい。いつも。 リュウトの指先が最後に触れたのは、涙に濡れたカナンの頬だった。 「カナン、あんたを愛してる : ・永遠に」 永遠に。 いつの時代に生まれ変わっても、きっと出逢って、また、愛し合う。 何も、誰も、さえぎることはできない。 このふたつの光と闇の魂が出逢うことを。 であ まぶた
《 ? なぜ変わらない ? 》 陽の光に焼かれて変化するはずのカナンの体は、いつまでたっても闇の中にいるときのまま だった。カナンの体に何かが起こっていることはわかったが、それが何なのか、 hO には想像 がっかない。 太陽の光はさらに眩しく世界を染め直してゆく。 びく・・ カナンの膝の上でその手の先が小さく動いた。 リュウトの目が静かに瞬ノ \ 。 奇跡のように瞳が光を吸い込み、やがてリ = ウトはその体をゆっくりと起こした。 入れ替わるようにして、カナンの体がぐらりと倒れ、リュウトの腕に抱きとめられる。 のしかしそうしてリュウトがカナンの体に触れたのは、ほんの一瞬のことだった。 次の瞬間、リウトの手には一本の聖剣があって、カナンの体は彼の前から消えていた。 明 《なんだ、あの聖剣は ? 光でも闇でも・ : ない ? 》 ン せんりつ デ—.O はなぜか戦慄を覚えた。手遅れにならないうちにとリ = ウトを攻撃しようとする。 エレメント 《卩どういうことだ ? 私の無幻力がはね返される。近づけない : 攻撃できないだけではなかった。 まぶ またた
144 「俺たちの明日のために戦おうぜ。俺はぜんぶ捨てた。仲間も。家族も。だからもうあんたし か残ってねえんだ。あんたのためにしか戦えねえ」 「リュウト」 「だめだな俺は。あんたしか見えねえ。あんたしか欲しくねえ」 「リュウト」 「別れたっておんなじだ。世界中が俺を憎んでも、俺はあんたのためにしか戦わねえ」 見つめる眼。 じっとカナンを見つめていたその眼から。 「リュウト : 「来るな ! 」 リュウトはこ・ほれた雫を拭きもせず、身動きだにせず、ただカナンを見つめ続ける。 カナンは息をのみ、恋人の濡れた瞳に心を奪われていた。 ここに 0 今、ふたりでいる奇跡。 「カナン、あんたを取り戻すためなら俺はなんでもするぜ。これが—O が仕掛けてきたゲーム だってんなら、 hO を倒すために俺は生きる」 その名にカナンがぎくりとした顔をして、リュウトはスッと眼を細めた。
「なんなんだよ、それ」 ゆらり、と蒸気が立ちのぼる。によって創り出された不自然な闇の明るさの中で、それ は黒い煙となってカナンの目に飛び込んできた。 ・リュウト : ・ ? ) エレメント 引き抜かれた聖剣と共に残り少ない闇の無幻力を持ち出されて、カナンはほとんど気を失い かけていた。 そんなカナンの瞳にさえ、その光は映ったのだ。 アダム エレメント リュウトという新宿最強の聖剣士が放った光の無幻力。 ( な : ・ぜ。おまえは光の聖剣を持たないのに ) 自分を支える力をなくしたカナンがリュウトの足許に崩れ落ちる。リュウトは途中まで片腕 でカナンを支え、ゆっくりとその体を地面に横たえさせた。 「くく ふたりの様子を眺めていたが、おもしろそうに笑う。 前へとかざされた彼の手のひらでは、今、光が乱反射して黒い点を散らしていた。 エレメント エレメントきっこう 片手の宇宙。光の無幻力と闇の無幻力が拮抗している。 カナンから引き出した闇の聖剣は、のもう片方の手にしつかりと握られていた。 光り輝く闇の聖剣。 つく
「ではカナンに訊いてみるかね ? リュウトはぐっと黙り込んでしまう。カナンが誰を選んでいるかは、まさしく今目の前で見 せられたとおりだ。何も言えなくなったリュウトに、が余裕たっぷりに言った。 はじめ 「カナンは私のものだよ、リュウト。それはもう太古から決められていることだ。残念だが、 わずら きみに割り込む隙はない。あまり私の手を煩わせないで欲しいものだね。こちらも今は新宿の ことで忙しい」 リュウトの顔色が変わった。 「新宿に何をする気だ ? 「知りたいのかね ? 本当に ? 聞き返されて、リ、ウトが目を瞠る。—O はじろりとリュウトの顔を見やって言った。 アダム 「きみはもう光の聖剣士でいることをやめたのではないのかね ? カナンのために。いまさら 新宿がどうなろうと、きみには関係あるまい ? 」 返す言葉もなく立ち尽くす。 そうだ、自分はカナンを選んだのだ。世界よりも。 「リュウト」 みは
何を言っても離れそうにないカナンを、もうこれ以上傷つけたくなかった。 エレメント 体こそ巨大だったが、彼からはほとんど無幻力を感じられない。 アダム 無理もなかった。自分の聖剣士に聖剣を引き渡した剣精は、たいていの場合、著しい体力の 低下を一小すのだ。 その上、カナンは飢えている。これ以上の戦闘はおそらく不可能に近い 「よせよ ! もうやめろ ! あんた、カナンが好きなんだろ ! 」 押してもびくともしない怪物の体をそれでも押して、リュウトは—0 のいるほうに向かって 叫んでいた。 「好きな相手を苦しめるなよ ! やるんなら俺だけにしろ ! カナンはもう限界なんだぜ ! 」 かわい 《好き : ・ ? またずいぶんと可愛いことを言う》 ハッと気づいたときにはもう hO の体が、自分のすぐ前に立っていた。 ( は、速い ) 翼 地上へ降り立ったは、すっかり普通の人間のように見える。それも相手を赤面させそう の 日なとびきりのハンサムマンだ。 明 リウトは間近に迫ってくる—.o の清々しい目に気圧されそうになりながら、なんとか言い 返した。 工 「お、俺とおんなじだって言ったのはあんただぜ。だったらあんたはカナンが好きなはずだ。 行だからこんなとこまでカナンを追っかけてきたんだろ」 いちレ” 0
202 「に聞いたところによれば、きみの魂は何度も転生を繰り返してきたそうだよ。ただ *(0 とめぐり会うために」 「リュージ、やめろ」 自分の体の上を這う指先の意図を知って、カナンが体をよじる。 すぐに反応を返してしまう感度の良さに感嘆の溜め息を吐きながら、龍司はさらにカナンの 耳の中に舌を這わせ、欲望に掠れた囁き声で命令した。 「翅を見せて」 「きみの翅を僕に見せて。そうしたらやめてあげるよ」 嫌だと言おうとしたカナンだったが、声にはならなかった。 暴力的な仕草で、耐えがたく誘惑される。 次の瞬間、カナンの背にバッと四枚の透きとおった翅が現れた。 りんぶん きらきらと床に銀と青の鱗粉がこぼれ落ちてゆく。 それはカナンの背中と壁との間にはさまれて下へと垂れていたが、そんな状態でさえ、予測 していた龍司が息をのんだほど美しかった。 しかん まじまじとその翅を視姦されてゆくのがわかって、カナンはさらにきつく唇を噛み、視線を そらしてうなだれる。龍司がひそりと言った。 はじめ 「»--•O はきみのことを″太古の青〃と呼んでるんだ。知ってた ? した ささや