カナン - みる会図書館


検索対象: エデン : 明日への翼
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1. エデン : 明日への翼

カナンはうつむいたままびくりとも動かない。まるで凍りついてでもいるようだ。 そして、声はふたたびカナンに呼びかけてぎた。一三年前と同じように愛おしげに。 《私の、カナン》 かこうがん すき間なく重ねられた花崗岩の一部が、どろりと黒く歪曲する。 みし : ・つと圧力を感じさせる音がした。 ぎようしゆく 闇が凝縮する。 「ああッ ! 」 悲鳴をあげたのはカナンだった。 「カナン卩おいカナン ! しつかりしろ ! 」 胸を押さえて石の床に突っ伏してしまったカナンの気配を察して、リュウトがあわててしゃ のがみ込む。 へ 「う・ : ぐ・ : ツ」 ゆが 明 カナンは苦痛に顔を歪め、全身がバラバラになりそうなその痛みに耐える。 誰が自分にこれほどのダメージをほしてくるのか、わからないカナンではなかった。 「やめ : : : ジェイ・ : シ : ・」 「カナン ! くそうツ、闇か : わいきよく

2. エデン : 明日への翼

長い前髪の下に隠されている片眼の傷は、愛の烙印だ。 *O は二度とカナンを手放さないだろう。 エレメント の強大な無幻力はカナンから記憶を奪うことができる。だがそうはしなかった。 がカナンからリュウトの記憶を消さなかったのはただ、プライドのためだ。 カナンの内にリュウトの記憶が色濃くはっきりと残っていればいるほど、 hO はカナンの体 に傷をつけたがった。カナンが闇の城の外へ出るのは狩りの許可が下りたときだけだ。 それ以外の時間のほとんどは、—O と共に過ごすように強要された。 アダム エレメント 多くの闇の聖剣士は、との無幻力のやりとりのために疲弊し傷ついたカナンの姿を目に 映していたが、そのことについて論じる者はいなかった。 エレメント 肉体は伴っていても、その圧倒的な無幻力を自由に行使する—o は今や絶対的な神であり、 いっかい アダムぜひ 一介の聖剣士が是非を問える相手ではなかったのだ。 じしつきし のカナンへの思い入れは他の誰が見ても常軌を逸していた。 は の誰もがカナンを腫れ物のように扱う。しかし一方で、光の聖剣士リウトと逃げた裏切り者 らくいん 日という烙印も常についてまわり、カナンを見る周囲の視線は冷たかった。 アダムイヴ 闇の城の中でも、カナンに声をかける聖剣士や剣精はほとんどいない。カナンは孤立し、妬 ン デまれ、疎まれた。 城の内部でもそんなふうだったが、外ではさらに孤立する。 アダム 新宿の光の聖剣士たちにとって、カナンの名は憎むべき殺害者の名だ。 ともな らくいん ひへい ねた

3. エデン : 明日への翼

ェデン《明日への翼》 リュウトは迷いを断ち切り、カナンのほうへと向かう。 カナンは石壁の前から動こうとせず、リュウトが近づいてくるのを待っていた。 かたず 固唾をのみ、失われてゆくものを抱きとめるように自分の両肩を抱いて。 「カナン」 リュウトの両手がカナンのその肩に触れ、やがてそれを自分のほうへ引き寄せた。 「カナン」 名前を呼ばれるたび、熱くたゆとう空気の波がカナンの胸まで押し寄せる。そうして鼓膜を 震わされた耳の奥は宇宙になる。カナンは上背のある体を、なかば折るようにしてリ = ウトに きやしゃ もたれさせた。リュウトより背こそ高いが、体型はカナンのほうがずっと華奢だ。 リュウトはカナンを抱き返し、その背中をやさしくぼんぽんとたたいてやりながら、乱れた しず 呼吸が鎮まってゆくのをゆっくりと確認した。 そうしてカナンが落ち着き、自分から話をしたくなるまで何も問わずに待っことにする。 こんなふうにそばにいさせてくれるなら、いくら時間が過きてゆこうと惜しくはなかった。 古い遺跡の地下は当然のことながら暗く、外の様子がまるでわからない。 リュウトは腕時計の点灯スイッチを押して時間を確かめた。 午前十時。すでに太陽が昇っている時間だ。カナンはもう地上には出られない。 闇の剣精の宿命だ。 こまく

4. エデン : 明日への翼

「ああっ ! 」 「カナンー 悲鳴をあげて飛び起きたカナンをリュウトが抱きとめる。 カナンの肩は大きく上下して止まらない。 青く透きとおったその瞳はどこでもない場所に囚われたまま、まだ戻ってきてはいないよう かす だった。長い髪がリュウトの腕をさらさらと擦って落ちる。 リ、ウトのその力強い腕に抱かれたまま、カナンは自分が誰でいったい今どこにいるのかを 必死に思い出していた。 の へ 「カナン、おい大丈夫か」 ( カナン : ・、そうだ、私の名は・ : カナンだ ) 「真っ青だぜ。悪い夢でも見たのかよ ? こ そう言って、リュウトは少し体を離すとカナンの長い髪をかき上げ、心配そうに顔をのそき こんでくる。 X X X X ひとみ とら

5. エデン : 明日への翼

「はうツー —O の体はまるで瞬間移動でも行ったかのように、ほんの一瞬のうちにカナンに重なりそ うなほど間近にあり、その手はカナンの中心部を深く抉っていた。 「やめろ ! 」 リュウトが叫ぶ。だがその叫びはすぐにの声でさえぎられた。 「動かないほうがいい。カナンを傷つけたくはないだろう ? リュウトがガッと目を瞠る。悪夢のようだった。 カナンはすでに t---ao の手を受け入れてしまっている。この状態で体の位置をずらせば、カナ ンにかかるダメージが大きくなってしまう。 リュウトは身じろぎもできず、ただカナンの カナンはどうやら hO を拒むことができない。 体を支えたままの好きにさせるほかはないのだ。 翼 リュウトは—.O と向き合い、互いの体の間にカナンをはさむ形になったまま、その場に立ち の へ 尽くした。 明 「う : ・」 カナンの髪がはらりと落ちてリ = ウトの腕にかかる。 エレメントおとろ 無幻力の衰えた体にはよほど負担が大きいのか、カナンはの腕を半分ほども受け入れた かぶり 時点で激しく頭を振った。 テレポーテーション えぐ

6. エデン : 明日への翼

「だったらそんなことカナンにさせなきや いいだろう ! あんたがカナンのためを思ってやっ てるなんて信じらんねえ ! あんたは自分の目的のためにカナンを利用してるだけだ。あげく カナンが自分から逃げ出さねえように記憶を消してるんじゃねえか : ・」 「ではきみと同じなのだろう」 ぎくっと体を硬くしてリュウトが—o を見つめる。 「な、なんだって ? あんたと俺のどこが同じなんだ ? しゅ、っちゃく 「きみはカナンに執着し、カナンが自分から離れてゆかぬよう彼を自分の魅力で縛ろうとして いるのではないのか ? カナンの体は繊細だったろう ? 皮肉な言い方だった。リ = ウトがカナンを抱いたことをこの男は知っているのだ。 いや。それだけではないのだろう。自分こそはカナンのすべてを知り尽くしていると言いた げなその口調に、リウトは激しい反発を覚えずにいられなかった。 「俺は、あんたとはちがう・ : 「そうかね ? 」 の魅力的な風貌は強い説得力を伴ってリュウトに迫ってくる。 リュウトはその強いイメージを振り払うべく 、パッと首を横に振って言い返した。 エレメント 「俺は世界を闇の無幻力で満たそうなんて考えてねえそ ! 」 「ほう ? こ せんさい

7. エデン : 明日への翼

222 はつ、とカナンが短く息を吐いた。 花が開いたかと思う。 ほほえ につこりと微笑んだショウヤの顔。 赤ん坊のそれと同じで、誰もが目をそらせなくなるような顔。無垢。 カナンはリュウトが動物たちを見つめるときの顔を思い出さずにいられない。 「お、驚いたな。ショウャくんが笑うなんて、僕がここに来てから初めて見たよ」 衝撃を隠せない早川医師の前で、ショウヤはさらに積極的な行動に出る。 カナンがどうしてもノートに直接ふれるつもりがないのだとわかると、今度はカナンの手を 引いてテーブルの近くまで行き、そこでノートを広げてみせたのだ。 ひんやりと冷たいショウヤの手はカナンを戸惑わせたが、ショウヤはカナンの手に血が残っ ていようがどうだろうが気にする様子はなかった。 開かれたノートには、兄以外の誰にも見せたことのないリュウトの詩。 カナンの目に飛び込んでくる言葉、言葉、言葉。 文字はすべてリュウトの手で書かれたものだった。 カナンは声もなくその場に立ち尽くす。 祈り。 リュウトの書き散らした文字はすべて、カナンがいちばん欲しい祈りの言葉だった。

8. エデン : 明日への翼

リュウトはカナンの瞳が千の言葉を持つのを知っていた。 カナンはリュウトの両腕に自分の両手を置いたまま、やがてつぶやくように言った。 「私はここで、この遺跡の下で初めて o に出会ったのだ」 「ジェイシー ? 」 リュウトが聞き返す。 リュウトの耳には慣れない響きだった。それは不吉な響きを伴っていた。 次にカナンがロにしてきた言葉は、少なからずリュウトを動揺させた。 ジェイシー 「は、私の聖剣士だ」 「聖剣士 ? あんたの ? 」 みは それこそ初耳だと目を瞠って、リュウトはカナンの顔をまじまじと見つめる。 カナンは目をそらしたままだ。リ、ウトはふいに激しい不安に駆られた。 「カナン、俺を見ろよ」 の 〈「なんで見ないんだ。カナン : 明 リュウトの声に混じる不安が大きくなってゆく。 カナンはうつむいた顔を上げることができない。 別れたくはなかった。 それでも別れの予感は訪れる。 ジェイシー ともな

9. エデン : 明日への翼

「いいだろう。あなたの美しさに免じてこの場は退こう」 掠れかけた声でそう言って、はきわめて優雅な仕草でカナンの前に腕を差し出す。 カナンはわずかにたじろぎ、それでも空いているほうの手をなんとか差し出した。 残っている手はリュウトにつながれている。 そのリュウトはカナンの手を握りしめたまま、鋭い眼でじっとふたりの様子を見守ってい る。カナンに何かあれば、すぐにでも飛び出してゆく心づもりで。 hO はカナンの手を取ったが、しばらくはそのまま無言でいた。 戸惑うカナンの様子が伝わって、リュウトが抗議しようと口を開きかける。が、それは—•O の声にさえぎられた。 「だがカナン、覚えておいて欲しい。私の望みはあなただけだ。あなたしか望まない。あなた しか見えていない。あなたは私を裏切ったことをすぐに後することになるだろう」 「逃げるがいい。世界中どこへでも」 はげ おび の烈しさがカナンを怯えさせた。こんなは見たことがない。 不吉な予感が駆けめぐる。 は自分の手の中のカナンの手を見つめたまま続けた。 「この先あなたに安息の地はない。なぜなら、私があなたを狩らせるからだ」 かす

10. エデン : 明日への翼

ばしん。 のカナンの背に銀青の輝く翅が現れ、カナンの体をふわりと浮かせた。 日「カナン様 ! 」 月はまだ丸い。狩りの直後だった。 ン デカナンの両手は血の色に染まっている。 たった今引き裂いてきた獲物の血がはねて、黒い鎧の胸当ての前にもべっとりと濡れた跡を 213 残していた。 元に戻るだけだ。 リュウトを知らなかった自分に戻るだけ。 「カナン様、お時間です」 アダム そのとき、一人の闇の聖剣士がカナンの部屋を訪れ、—o の次の指令を伝えてくる。 カナンは体を起こし、乱れた髪をひとつにまとめる。 訣別の時はカナンを泣かせてもくれない。 イヴ よくよう こた カナンは最強の闇の剣精の顔を取り戻し、抑揚のない声で応えた。 「ああ。今行くー けつべっ ハネ よろい ぬ