けお 圧倒的な存在感に気圧されそうになりながら、リウトにはどうしようもなく理解できてし まうことが・あった。 ( こいつがこれまでのすべての根源だ。思い違いなんかじゃねえー こいつだこいつなんだー こんな闇は感じたことがない : ・ ! 「目が、よく見えていないようだな」 男はそう言しノ 、、、ツと顔を向けたリュウトの目の前に右手をかざす。 王者のごとき存在感。男が手をかざした方から、光が、よみがえってきた。 「み、見える」 今やリュウトの目ははっきりとその男を映し出していた。 せいかん 若々しく精悍な青年の風貌。 顎の鋭角なラインはそのまま高くくつきりと浮き出した頬骨へと伸び、はるか彼方まで見通 す澄んだ瞳に続いている。 まゆ じだ 濃い眉は褐色の肌に吸い込まれて、三角の美しい線を耳朶へとつないでいる。 背丈はカナンも同じほどに高かったが、その体格差はほとんど大人と子供だった。 きやしゃ 鍛えられた屈強な肉体は、どこにもバランスよく筋肉を配分し、およそ華奢という言葉から はかけ離れた印象を与えてくる。 なんという魅力的な青年だろう。誰もが彼を振り返らずにはいないだろう。 なんという謎めいた男だろう。誰もが心を引き寄せられずにいないだろう。 あご ふうばう かなた
目リーター・リュウト。 ぶつかり合うときの原因はいつも同じ ヒメはスザクのほうなど見ず、そっ。ほ向いたまま言う。 「闇の連中、斬りに行くだけならいつけどね 1 。ショウヤがらみはパス。ぜってーパス」 アダム がんこに繰り返すヒメを、周りの光の聖剣士たちがはらはらして見つめている。 スザクはすっと目を細め、重々しい声で返した。 「ショウヤは、餌だぞ。リュウトが新宿に戻ってきているなら、兄がこちらにいると知れば食 いついてくる」 「へつヘー、せつけーやり方あ。闇らしーよなー」 ヒメの目がぎろりと動いてサナのほうをにらむ。ヒメはサナがスザクをたきつけていること を知っているのだ。 : 、 カサナ当人は我関せずといった調子で、長いウェープへアを指先にくる くる絡めながら、くつくっ笑うばかりだった。 「そんつなに許せねーんかよツー 翼せき の堰を切ったようにヒメが叫ぶ。 アダム 日「リュウトは今も光の聖剣士だぜ ! こないだ会ったヤツの話、聞いたろ卩リュウトだって 仲間を殺すんか がんばって闇と戦ってんだ ! 仲間じゃねーのかー ン デ「仲間 ? 殺人鬼と逃げるようなやつを仲間に持った覚えはない」 くちびるか 冷ややかなスザクの声が決定打になる。ギッと唇を噛んだヒメに、スザクは続けて言った。 エサ
大和はそっとまわりを見回した。 「だ : ・れ ? こ 小さな手を前に伸ばしてみる。指先が黒い闇に吸い込まれる。 闇は温かくて、なぜか大和にはなっかしい感じがした。と、ふいに。 《カナン》 ごく近くで声が響いた。 《待っていた》 耳のすぐそばで誰かがしゃべっている。大和はキョロキョロと辺りに目をこらしてみたが、 何も見えない。何の気配も感じられないのに、声だけが響く。 《私の、カナン》 重たくて、甘い、声だった。 ねっとりと温かい空気が大和の体を取り巻いてくる。 翼 ゆらゆら。ゆらゆら。 の へ 大和はなんだか眠たくなって目を閉じた。 明 両手だけがふわりと宙に浮く。 そうして両腕を伸ばしていても重たさは感じない。 誰かの大きな手に、自分の両手を包み込まれたような気がした。
「ではカナンに訊いてみるかね ? リュウトはぐっと黙り込んでしまう。カナンが誰を選んでいるかは、まさしく今目の前で見 せられたとおりだ。何も言えなくなったリュウトに、が余裕たっぷりに言った。 はじめ 「カナンは私のものだよ、リュウト。それはもう太古から決められていることだ。残念だが、 わずら きみに割り込む隙はない。あまり私の手を煩わせないで欲しいものだね。こちらも今は新宿の ことで忙しい」 リュウトの顔色が変わった。 「新宿に何をする気だ ? 「知りたいのかね ? 本当に ? 聞き返されて、リ、ウトが目を瞠る。—O はじろりとリュウトの顔を見やって言った。 アダム 「きみはもう光の聖剣士でいることをやめたのではないのかね ? カナンのために。いまさら 新宿がどうなろうと、きみには関係あるまい ? 」 返す言葉もなく立ち尽くす。 そうだ、自分はカナンを選んだのだ。世界よりも。 「リュウト」 みは
「ショウャ : ・ ! 」 カナンの腕の中で、ショウヤの両手はこれ以上はないほどきつく握りしめられ、瞳はかって 父親だったものへ向けてカッと見開かれている。 その様子を見ていた龍司は、ピウとロ笛を鳴らして肩をすぼめた。 「まるで生まれたばかりの赤ん坊だね」 「それ以上、こちらへは来るな」 うな カナンがショウヤを背後から抱きしめ、唸るように言う。 かす 目の端に微かに光るものがある。龍司はそれを認めてせせら笑った。 「めずらしく感情的になっているんだね、カナンくん。無意味だよ。—O のように混乱したい かい ? さあ、ショウヤを返してもらおう 「返さない」 「そんなわけにはいかないだろう ? 僕はこれでもいちおうその子の父親なんだし」 の「おまえが父親であるはずがない」 日「まあそれは血縁的にはね。でもこう見えても一緒に暮らしてたんだよ ? その子の目の前で 怖がらせてしまうようなことをして、悪かったとは思っているよ。今度からは食事は別にする ン デさ。ね ? ・ 「来るな」 カナンの声は低かった。 ひとみ
リュウトはカナンの瞳が千の言葉を持つのを知っていた。 カナンはリュウトの両腕に自分の両手を置いたまま、やがてつぶやくように言った。 「私はここで、この遺跡の下で初めて o に出会ったのだ」 「ジェイシー ? 」 リュウトが聞き返す。 リュウトの耳には慣れない響きだった。それは不吉な響きを伴っていた。 次にカナンがロにしてきた言葉は、少なからずリュウトを動揺させた。 ジェイシー 「は、私の聖剣士だ」 「聖剣士 ? あんたの ? 」 みは それこそ初耳だと目を瞠って、リュウトはカナンの顔をまじまじと見つめる。 カナンは目をそらしたままだ。リ、ウトはふいに激しい不安に駆られた。 「カナン、俺を見ろよ」 の 〈「なんで見ないんだ。カナン : 明 リュウトの声に混じる不安が大きくなってゆく。 カナンはうつむいた顔を上げることができない。 別れたくはなかった。 それでも別れの予感は訪れる。 ジェイシー ともな
の声は自信に満ち、誰にも有無を言わせない強さにあふれていた。 「きみたちもその目でたしかめるといい。世界的な規模での変化となる。逃亡先でもなんらか の現象は目にすることができるだろう。きっとね」 けいべっ 皮肉めいた言い方だった。というよりはむしろ軽蔑を含んでさえいるような。 「さあ、ふたりで好きなところへ行きたまえ。ふたりで手をつないでいれば、いっかは世界の 果てまでもたどり着けるかもしれんそー いきどお ぶじよく あまりに侮辱的な一一 = ロ葉をぶつけられたことに、リュウトは憤っていたが、カナンはただ驚い ていた。自分の前でがこんなふうに一 = ロ葉を使ったことはなかったのだ。 ゆが 茫然と見つめてくるカナンの視線に気づくと、はフッと唇を歪め、視線をそらして呟い 「嫌味のひとつも言わせてくれ。しかたがないだろう ? よもやこの期に及んであなたに裏切 られるとは思わなかったのだ」 思わず前のめりになりかけた体を、リウトの握る手の強さに引き戻される。 カナンはリュウトを振り返り、また、—O のほうを見つめた。 長い髪がさらっと宙を舞い踊る。
226 スザクは車道側のガードの上に腕を組んで立ち、車道にも歩道にもあふれている仲間たちを 見回した。 ひろう 闇との戦いはすでに何カ月にも及んでいる。どの顔も疲労の色が濃かったが、それでもリー ダーを見上げてくる目はどれもまだ死んではいなかった。 新宿バビロンのメイハーは、そもそも社会や学校からはみ出した経験の多い少年たちだ。 あきらめることには慣れていない。 「 : ・二丁目か。近いな」 ・ほそりと言ったスザクの言葉に、チーム内がわっと沸き立つ。 「行こうぜリーダー ! やつらにこれ以上俺たちの街を好き勝手されてたまるかよー 「そうだな。だが都庁にも人員を回したい。 「おいらパス」 と不意打ち。 見れば、モザイク通りの階段の上に両脚を投け出して座っていたキンパッロンゲの少年が、 へらりと手を挙げている。 「ヒメ」 スザクがちらりと彼のほうに目をやる。冷ややかな視線。 幹部どうし。近頃このふたりの間には、キレツが、あるいは、ナカタガイが、などという噂 が絶えなかった。 うわさ
222 はつ、とカナンが短く息を吐いた。 花が開いたかと思う。 ほほえ につこりと微笑んだショウヤの顔。 赤ん坊のそれと同じで、誰もが目をそらせなくなるような顔。無垢。 カナンはリュウトが動物たちを見つめるときの顔を思い出さずにいられない。 「お、驚いたな。ショウャくんが笑うなんて、僕がここに来てから初めて見たよ」 衝撃を隠せない早川医師の前で、ショウヤはさらに積極的な行動に出る。 カナンがどうしてもノートに直接ふれるつもりがないのだとわかると、今度はカナンの手を 引いてテーブルの近くまで行き、そこでノートを広げてみせたのだ。 ひんやりと冷たいショウヤの手はカナンを戸惑わせたが、ショウヤはカナンの手に血が残っ ていようがどうだろうが気にする様子はなかった。 開かれたノートには、兄以外の誰にも見せたことのないリュウトの詩。 カナンの目に飛び込んでくる言葉、言葉、言葉。 文字はすべてリュウトの手で書かれたものだった。 カナンは声もなくその場に立ち尽くす。 祈り。 リュウトの書き散らした文字はすべて、カナンがいちばん欲しい祈りの言葉だった。
「の目にはもうきみだけしか映ってないみたいだよ。かわいそうにね。のべッドでは ひど いつも酷い目に遭わされているんだろう ? こ 同情しているようで決してそうではない声。カナンは言い返した。 「—O に何をされても酷いこととは思わない」 「ふうん、そうなの ? hO を愛してるんだ ? 僕の息子より ? 意地の悪い視線がカナンを嬲る。龍司はくすくす笑ったが、それ以上は追及しなかった。 ど、つき ただひとことリュウトのことを持ち出されただけで、カナンの胸は熱くなり、激しい動悸を 打つようになる。 龍司は息が吹きかかるほど近くにいる自分の前で、顔をそむけ、じっと唇を噛んでいるカナ ンの顔を見つめた。 赤ワインで染めたような唇の色。 のどうしようもなく不安定な唇だ。 こじ開けて、この世の悪徳という悪徳を注ぎ込みたくなる。 明 「カナンくん、きみは不思議な存在だね」 ン デ龍司の指はカナンの長い髪の先に触れ、その先にあった腰骨に触れた。 非難めいた相手の声にも布じることはなく、龍司は続けた。 なぶ