コバルト文庫 く好評発売中〉 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ま桑原水菜 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ イラスト / ほたガ乱 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 猶で話題の「燃える ◆ ◆ ◆ 水」が怪異のしわざと ◆ ◆ かげとら ◆ 疑う景虎。その正体を ◆ ◆ ◆ 突き止めるべく里に侵 入するが囚われ、仲間い ◆ ◆ に入れと迫られて ! ? ◆ ◆ ◆ く炎の蜃気楼邂逅編〉シリーズ・好評既刊 炎の蜃気楼真皓き残響夜叉誕生 ( 上 ) ( 下 ) 炎気楼真皓き残響琵琶島姫 ◆ ◆ 炎の蜃気楼真皓き残響妖刀乱舞 ( 上 ) ( 下 ) 炎気楼真皓き残響氷雪問答 ◆ 炎の蜃気楼 真皓き残響外道丸様 ( 上 ) ( 下 ) ◆ 邂逅編 3 ◆ 齠楼真皓き残響 + 三神将 ◆ ◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 炎の蜃気楼邂逅編 真皓き残響 きめらへ / し ツ
叩途端に手首に走る痛みに、白煉は締めつける鞭の中心に自分のものではないカの気配を感じ 糸か しこん 借り物ではないと言いながら、紫紺の妖主のカの写しを使うのか 「笑止。このようなものー 糸は燃えるものーーたとえ燃えぬ物であろうと融かすことはできる。 炎の芯の糸など自分を脅かす切り札とはなり得ない。 燃やし尽くしてやる , 手首を無色の炎で包むーーー高温すぎて、すでに色彩を纏わぬそれはどこまでも高めることが 可能だ。 きよ、つがく が、次の瞬間白煉は驚愕に目を瞠った。 たやす 燃えないし、融けないーー・何より取り戻すことなど容易いはずの炎の鞭が、自分の支配下に 戻らない。 「何だと ? 」 くすり、と少女が笑みを零す。 「一一一口ったでしよう、わたしの力は借り物だけではない : みは ・ : けれど、本当にあなたは美しい。そ
解答の候補を絞った。 振動の凍結による炎の消去か、炎を奪われ支配下に置かれたがゆえの消失か 能性の方が高い ? 「なにを考えこんでいるのかしら ? 集中してくれなくては かす くちびるとが 拗ねたように徴かに唇を尖らせて、まるで人間の小娘のような顔をして、闇の化身が右手を 振るった。 ひゅん、と風を切る音とともに、何かが左の手首に巻きついた。 炎の鞭ーー自分のそれを写し取ったものに違いない どうけがらす 「どこまでも物まねしかできないのか : : : 借り物の力を纏うお前は昔話に出てくる道化鴉だ くじゃく な。他人の羽でいくら装おうとも、孔雀にはなれない」 あざけ 嘲りはない ただそれでは従えないと思うだけだ。 闇少女がに、と笑った。 うるわ の「その麗しい唇から洩れるのが憎まれロばかりとは嘆かわしいわね。けれど、ならば借り物で 鬱はないカで貴女を屈服させましよう」 言うなりその形の良い長い指が、くいと何かを引くように曲げられた。 どちらの可
おろ まばゅ の思かしいまでの誇り高さまでもが眩く輝く光の化身を思わせる : その声に宿るのは純然たる賞賛の響きだ。 しかし高見から見下ろすように言われたところで嬉しくも何ともない 「思かしくて結構だ」 言うなり白煉は右手で炎の鞭を擱んだ。 他者の支配する炎の熱は彼女の肌を襲ったが、構わすそれを引きちぎる。白焔の妖主ともあ やけど しようしせんばん ろう者が炎で火傷を負うなど笑止千万だが、仮にも全魔性の王たる運命に生まれ落ちた相手で あれば無理からぬこと。 その程度には少女を認める気になっていた。 しかし、引きちぎられた鞭はそのまま彼女の右手に絡みついた。先端が幾つにも裂け、皮膚 を破って内部に侵入し始めるー じわしわと肉を灼きながら鞭が伸びる先を自覚した瞬間、白煉は迷うことなく自らの右腕の 4 ひじ 闇肘から先を切り落とすー のしかし寒がりきれぬ傷口に、今度は漆黒の蔓が潜り込むーーーやはり、狙いは右の肘。心臓の 鬱ひとつがそこにある。 「させるものか ! 」 つか った
ひざまず 「跪きなさいー ごめんこうむ 「御免被る」 や その短い遣り取りが、戦いの始まりを告げる合図だった。 はくえん ようしゆえんぜんたたず 何物をも灼き尽くす白焔が満たす空間に、白焔の妖主が艶然と佇んでいた。 そうぼう 純白の髪は炎に揺れ、銀の双眸は余裕の色をたたえていた。 圧倒的なその美しさに、もしも今の彼女を目にする者がいたならばこれこそがカと美の化身 だと感嘆したに違いない たあい 「他愛もない や
「だから大丈夫だって ! あんたもミランスさまの話を聞いただろう卩彼女自身が紅蓮姫の 鞘になってるって ! 鞘が紅蓮姫に傷つけられるわけがないー 実際、血の一滴も流れやしな かった : : : 安心していし 。あんたは誰も殺してない」 震えるアーゼンターラの体を抱きしめ、安心させるようにスラヴィエーラの指が背中を撫で る。 少しすっ震えが治まるにつれ、アーゼンターラはゆるゆると現実が頭に染みこんでくるのを 感じた。 「 : : : あのひと、だった。彼女が : : : 三年前、あたしを助けてくれた : 「ああ」 うなず 抱きしめる腕の力はそのままに、スラヴィエーラが頷くのがわかった。 「炎そのものみたいに綺麗で強くて : : : 破妖剣士の中の破妖剣士だって思った。あのひとみた いになれたら : : : 自分がもっと強くなれたら、あの日失ったものも取り戻せるかもしれないっ お 闇て : : : だから、破妖刀に選ばれたくせに魔性の側に堕ちたひとなんて絶対に認められないと の ・言せなくて」 鬱「・ : ・ : わかるよ」 「なのに きれい
いるとは思えないが、ラキスの知らない紅蓮姫を知る自分こそが、現在の彼女を使うべきだっ たとい、つのか だが、そうだとしても ・ : だって、あたしはあのひとみたいに、破妖剣士になるために生まれて来たよ 「あたしには : うな人間じゃ : : : 」 「馬鹿も休み休み言え ! 」 かれつ 苛烈なまでの怒気が空間を震わせた。 向けられた怒りのあまりの激しさに、アーゼンターラは背筋が凍りそうになった。 「な、なにを : : : 」 あが 「生まれながらの破妖剣士だと ? そんなものがいるものか。あれは傷ついて足掻いて泥の中 はくえんようしゅ かて をいすり回って、そうしてお前が知る姿になったのだ。指の骨を白烙の妖主の炎の糧とされ しこん せんい ながらも紅蓮姫を放さず、紫紺の妖主に全身の神経と繊維を支配され指を折られてもなお紅蓮 闇姫を振るった : : : そうやって、あれはその破妖刀とっきあってきたのだ ! 自分に都合の良い 金言葉であれの血を吐くような努力をなかったものにするなど許さないー そうぜっ 鬱 その声の激しさよりも語られる凄絶な内容ゆえに、アーゼンターラは顔から血の気が引くの を感した。
浦さりげなく話題を変えたのは、あるいは自分を思いやってのことだろうか。 かん だとしたら癇に障ることだ。 かたむ しかし、新たな話題は彼女にとっても気になるものであったため、黙って流れに耳を傾ける 、」とにー ) こ。 深紅の青年は、さして興味もない様子でーー当然だ、この男が顔色を変えるほどの執着を示 しゆきん すく すのは朱金の炎を纏う娘以外にはあり得ないのだからーー軽く肩を竦めた。 ちから くちばし もうきん 「さてね。白煉の言葉を借りるなら、借り物の羽で装う道化鴉で終わるか、鋭い嘴を持っ猛禽 ( イけるか : : : 全ては雛鳥の覚語次第というものだろうよ」 せつな その、刹刀 きんせん ひとつの気配が彼ら全員の意識の琴線に触れた。 「おやおや」 つぶや 藍絲が徴苦笑を浮かべて呟いた。 「緋の片翼が飛び立っとは : ・ : ・何かあったかな ? 」 しんちょうまなざ 意味深長な眼差しを深紅の青年に向けながらの言葉に、しかし相手は応しなかった。 「さてな」 その声はどこまでも無関心に冷めていた
174 骨を妖主の炎に灼かれながら : : : ? 神経と筋を支配され骨を折られても : それでも紅蓮姫を放さなかったというラエスリールーー彼女がそんな傷だらけの姿で戦うだ なんて想像もしたことがない。あのひとは鮮やかに敵を倒すのだと勝手に思っていた。 そういえは、と彼女は田 5 い出した。 あれは紅蓮姫奪還の命を受け、ガンディア王宮を訪れていたときのこと、スラヴィエーラが 口にしたラエスリールに関する言葉 『汚らわしい ・ : とは言わないでちょうだい。彼女は決して不正な手段を用いて、「最強の破 妖剣士」の名を勝ち取ったわけではないのだから』 うなず あのときは、紅蓮姫の使い手があのひとだとは知らなかったから素直には頷けなかった。 けれど、今は : : : 今なら。 のうりよみがえ 連鎖的にスラヴィエーラから聞いた話が脳裏に甦る。 あぎ なお 彼女が湯場で見たという、ラエスリールの全身に浮き上がった赤い痣ーー・完治しても尚肉体 が忘れられぬはどの衝撃とともに受けた傷跡の数々。 そうた。 彼女が本当に自分が思うように軽やかに鮮やかに紅蓮姫を扱っていたのであれは、彼女がそ こまでの傷を負うはすがないのだ。 や
それは実にあり得そうな話であり、白煉は思わず口元に笑みをたゆたわせた。 「第五の御方 ? 」 いや、実にあの男らしい ・ : そう思ってな」 この言葉に少女は少しだけイヤそうに顔を顰めた。 どなた 「 : : : 何方も同し事を言いましたわ。嘆かわしいこと : : : あれが来るべき : : : で次位の座に就 くことになるだなんて : : : 」 深く息をつきながら、少女は何度かかぶりをふったーー・そうして、再び問いかけてくる。 「それで、貴女の選択は、五番目に生まれた炎の御方 ? わたしを認め、わたしに従ってくだ さいますか、それともーー」 最後の心臓ごとわたしに取り込まれることをお選びになる ? こんがん 懇願の響きすら宿した甘い声に、白煉はふっと全身の力を抜いた。 のち ゆっくりとかぶりを振った後に口を開く。 わらわ 「従えたくば膝を折らせて見せろと言い出したのは妾だ。この圧倒的敗北を認めす前言すら翻 お すようでは貴女が褒めてくださった我が矜持までもが地に堕ちる。貴女を認め、貴女に従おう : ・世界最後の魔性の王にして、新たなる世の全魔生に君臨する唯一の魔王よ」 戒めを解いてくれれば跪くのだが しか