タケル - みる会図書館


検索対象: 恋人たちの過ごした時間
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1. 恋人たちの過ごした時間

120 そこには見覚えのある後頭部。 せつこっぞう ィーゼルにバネルを立てて石膏像をデッサンしているタケルがいた。 わたしは意外なことにびつくりして立ちすくんでしまう。 「タケル」 わたしがつぶやくと、タケルがゆっくりと振り向いた。 「紡」 「ど : ・・ : どうしているの ? 」 声がもつれる。 「教授に呼ばれて、放課後、デッサンしないと留年だっていうからさ」 ほほえ タケルが微笑んでから、ゴホゴホと咳き込む。 「タケル。大丈夫 ? 」 息を呑んで、わたしはタケルの元に駆け寄る。 顔色がものすごく悪い や それに、少し痩せたみたい : 「タケル。・ とこが悪いの ? 」 「ここのところ、ずっと熱つばいんだ」

2. 恋人たちの過ごした時間

8 たんとうちよくにゆう 「単刀直入に言います。タケルくんと別れてください。わたしとタケルく ん高校時代っきあってたんです」 「え」 「わたし、中学時代の紡さんのことは、タケルくんからいろいろ聞いて知っ ています。でも、紡さんは、高校時代のタケルくんのことは、なにも知らな いんでしよう ? 」 彼女が勝ち誇ったように笑って、続ける。 ゅうべ 「わたし、昨夜もタケルくんの部屋に泊まったんです。昨夜も、わたし、タ ケルくんと一緒に寝たんです。この意味、わかりますよね ? 」 寝たって : ・ そのとき、通りの向こうからタケルが息を切らして走って来た。 「あれ。脱出するの、思ったより早かったね」 ほほえ 小雪さんがタケルにいたずらつばく微笑む。 「おまえ、人のこと風呂に閉じ込めやがって。もしやと思ったら : : : 。紡に なに言ったんだよ」

3. 恋人たちの過ごした時間

110 つきあえなかったのに : 。でも、タケルは平気で他の女の子とっきあって たんだ ! 」 「でも、それでかなり思い知ったんだ。オレは、やつばり紡じゃなきやだめ だって」 わたしはカッとなって怒鳴ってた。 「そんなこと言いながら、でも彼女と寝たんでしよう ? サイテー 「紡 ? 」 「タケルなんか汚いよ。不潔だよ。わたし、タケルのこと見損なったよ」 「待てよ。なに言ってんだよ」 けいべっ 「タケルなんか大ッ嫌い。軽蔑する。もう、わたしに話しかけないで ! 」 わたしはそう言い捨てると、家の中に飛び込んだ。 「紡 ! 」 タケルなんかサイテーだツー タケルの声がまた聞こえてきそうで、わたしは、ラジオのスイッチをオン にして、ヴォリュームを上げる。 飛び出してきたのは、聞き覚えのある旋律。 せんりつ

4. 恋人たちの過ごした時間

102 けんまく タケルがすごい剣幕で、彼女の肩を揺すった。 「だって、わたし、わざわざ札幌から来たのよ ? なのに、わたしを置い て、紡さんと会う約束なんかしてるから ! 」 「いきなり来たのは小雪だろ ? 」 「いきなりってなによ。去年まで誕生日は、すっと一緒だったじゃない ! 」 あふ そう言いながら、彼女の瞳から涙が溢れた。 「やだ ! わたし、タケルくんが好きなの。別れたくない ! 」 小雪さんがタケルにすがりついて、わあッと泣きだした。 わたしは、なにも知らなかった。 高校時代のタケルのこと わたしたちが離れていた 3 年間。 タケルにはいろんなことがあったんだ。 この女の子を好きだったんだ。 つきあってたんだ : ゅうべ それに、昨夜も彼女はタケルの部屋に泊まったの ? そして

5. 恋人たちの過ごした時間

118 ど , っしょ , つ。 タケルになにかあったら。 もし、万が一、タケルがこのまま消えちゃったら。 そう思いついたら、ふっと気が遠くなりそうなほど寂しくなった。 ああ、神様。 わたしは間違っていました。 タケルが病気で苦しむくらいなら。 自分のものにならなくたっていし タケルが死ぬくらいなら、両思いにならなくたっていし 生きていてくれるだけでいい。 神様。 わたしが間違っていました。 そう思ったら、不覚にも涙がこばれそうになった。 タケル ぼうぜん わたしは呆然としながら教室のドアを開いた。 と

6. 恋人たちの過ごした時間

「うん。本物の真珠だもん」 「ばか。キレイって言ったのは紡のことだよ」 タケルが、わたしの顔をまっすぐに見つめて言った。 まぶ 強い夏の光がまっすぐに差し込んで来たみたいで、眩しくて、タケルの顔 がよく見えなくなる。 「紡にまた会えてほんとによかった。オレ、 3 年離れて、はんとに身にしみ てわかったんだ」 「タケル : 「紡のことが好きだよ。 3 年間、ごめん。たくさん泣かせたこと謝るよ。で も、あれから 3 年。オレも少しは大人になったから」 「タケル : どうしようもないくらい熱い気持ちが、胸から溢れてくる。 タケルが、ぎゅっとわたしを抱きしめて。 アスファルトの上で、ふたりの影がひとつになる。 タケルの心臟の音が聞こえる。 あふ

7. 恋人たちの過ごした時間

61 第二章 / 夏人魚姫の真珠 タケルは少し困ったみたいな顔で微笑んでから、手の平のコインを、乱暴 に切符の自動販売機に押し込んだ。 乗り込んだ電車の中。 ふたりともなにも話さない。 気ますい沈黙。 タケル、さっきの一一 = ロ葉、どういう意味 ? 冗談 ? それとも、本気 ? コインが裏だったら そしたら、タケル、どうするつもりだった ? タケルの横顔をチラリと盗み見る。 わたしが笑ってごまかしたから、もしかして、タケル怒ってる ? タケルの言った言葉の意味。 ふたりの乗りこんだ恋っていう名前の電車が、どこに向かっているのか。 もちろん、わたしだって、わかってる。 いられないのはわかってる。 ふたりが、いつまでも、今のままじゃ、 わたしだって帰りたくない。 ほほえ

8. 恋人たちの過ごした時間

8 「よしじゃあ、表だったら、このまま、まっすぐ帰って、紡の家の前まで送 ってく」 「裏だったら ? 」 「帰らないで、このまますっと一緒にいる , ーー」 タケルの言葉に、自分の心臓がどきんと耳元で響く。 ほお カッと頬が熱くなる。 タケルがスロウ・モーションみたいに、ゆっくりと手を開く。 手の平のコインは 表。 「ちえつ。、・ ノスレか。神様は家に帰れってさ」 タケルが、そう言って笑った。 「や : : : やだなー。タケル、ヘンなこと言わないでよ」 わたしは、ぎこちなく笑いながら、タケルから視線を逸らした。 「ごめん」

9. 恋人たちの過ごした時間

生まれて初めてのキスだった。 キスした瞬間、わたしの中で、タケルが友達じゃなくて、ひとりの男の子 っ ) よっこ 0 十 / 子′ だから、タケルの顔を見るのも恥ずかしくて、わたしは教室を飛び出して でも、それが、タケルを見た最後だった タケルは、中学時代、いちばん仲のよかった男友達。 えんりよ しつも一緒で遠慮なく悪口をぶつけあっ 妙に気があって、わたしたちは、、 て、子犬のようにじゃれていた。 一緒に勉強して、一緒に遊んだ。買った漫画やゲームソフトや OQ は、全 部お互いに貸し借りした。ささいなことで、気の強いわたし達は、ケンカも よくしたけど、でも、翌日には、すぐに仲直りをしていた。 「好き」なんて、言ったことも言われたこともなかったけれど、わたしは、 ほんとうにタケルのことが大好きだった。 へきれき でも、まさに青天の霹靂。中学最後の春休み。「さよなら」も言わないで、 タケルは、突然、わたしの前からいなくなった。

10. 恋人たちの過ごした時間

も時がたてば忘れられるだろうって。高校の 3 年間、忘れようと努力したけ ど : : : でも、紡だけはダメだった」 「ごめんね。離れたら終わり、なんて、わたし、ひどいこと言ったね」 タケルの言葉に、わたしは、そっとタケルの手に自分の手を重ねた。 「タケル、電車、下りようか ? 」 小声でそう言うと、タケルがばんっとわたしの頭を叩いた。 「やめやめ。今日は家までちゃんと送るって」 「どうして ? 」 「肥歳の紡が、いつもオレの気持ちにプレーキをかけるんだよ。でつかい目 にら でオレを睨んで、簡単に手工出すなよ。大切にしろよって、言うんだ」 タケルがそう言って、わたしたちは、くすくす笑いだしていた。 「紡の気持ちを大事にしたい。それに、別に急ぐ必要なんかないんだし」 うなず タケルの言葉にわたしは頷く。 それより先に、わたしたち。 心の中に、決して消えない、美しい真珠を育てよう。 決して壊れることのない、信頼という名の真珠を