「紡。覚えてるか ? 」 タケルが、やっと優しい表清になった。 「一緒に『フォレスト・ガンプ』観に行ったろ ? オレ、感動して泣いちゃ って。そしたら、紡、そっと、これ渡してくれてさ」 「優しいとこあるよなーって、すげえ感動してさあ。返しそびれてるうちに いきなり引っ越しが決まって、そのままになって。それから、ずっと、これ はオレのお守り」 「お守り ? 」 「これ持ってたら、また紡に会えるような気がした」 わたしのハンカチ、ずっと大切に持っててくれたんだ。 そう思ったら、ぐっと胸が詰まって、また熱い涙が瞳から溢れだす。 「ばか。泣くなよ」 タケルがそう言うと、ふいに、わたしを抱き寄せた。 「ちょっ。みんなが見てるって」 「そんなのかまってられるかよ ! 」 「ばか・ : ・ : 」 あふ

35 第一章 / 春薔薇色の明日 わたしの手は未練がましく、まだこの手の感触を覚えてる。 「オレのこと分かるか ? 覚えてるか ? 中学のとき同級だった。タケル」 覚えてるに決まってるじゃないー そう叫びたいのに言葉がでない。 戸惑いと困惑と懐かしさと胸の痛み。 くちびる 唇が震えて、ふいに泣きだしてしまいそうになったとき。 風に舞う桜の花びらが、わたしの目の前に降って来て、視線を遮る。 その瞬間。 記憶の底に追いやっていたはずの思い出が、突然、モノクロームから鮮や かなカラーになって、胸に迫ってくる。 暖かな日差しの差し込む教室。 中学の卒業式のあと、タケルから誰もいない教室に呼び出された。 わたしが教室に入っていくと、タケルは近寄ってきて、なにも言わずに、 わたしの制服の腕を引き寄せて、ふいにキスした。 唇が触れた瞬間、甘くせつない気持ちが胸いつばいに広がって、めまいが さえぎ

ほんとは、タケルとずっと一緒にいたいよ。 胸が、ふいにせつない気持ちでいつばいになる。 「紡。オレたちが初めてしゃべったときのこと覚えてる ? 」 ふいにタケルが沈黙を破った。 優しい瞳に、わたしは少しホッとする。 かだん 「中 1 のとき。朝、偶然門のところで一緒になったんだよな。花壇の前を通 うれ りかかったとき、紡がすごい嬉しそうに言ったんだ。『わあ、スノウフレイ クが咲いてる』」 「覚えてる ! タケル、不思議そうな顔して『なにそれ ? 』って」 「『あのスズランに似てる花の名前だよ』って紡が答えてさ。そのあと、得 意気に片っ端から花壇に咲いてる花の名前を教えてくれた」 「ムスカリ、アイリス、ミモザにライラックにチューリップ : : : わたし、そ んなに得意気だった ? 」 「かなり」 「やだ。恥ずかしい」

53 第二章 / 夏人魚姫の真珠 タケルは、いたすらっ子みたいな表情。 くしやっとラフな前髪の下から、わたしの大好きな強い瞳が輝く。 「紡。四歳の誕生日おめでとう」 しば タケルの言葉に、きゅっと心臓がレモンを絞ったように縮んだ。 「覚えててくれたんだ」 「よく言うよ。わざとなにも言わないで、今日、海に誘ったくせに。オレの こと試したんだろ ? 」 「バレたか」 「覚えてたよ。ずっと。いつも夏休みがくるたび、紡の誕生日、思い出して もら 「でも、真珠って高いんだよね ? いいの ? こんなもの貰っても : : : 」・ 「いいんだよ。 4 年ぶんまとめてだから」 タケルの言葉に、ほんの少しだけ胸がせつなく痛んだ。 4 年ぶん : ・ ほんとは、歳の誕生日も歳も歳の時も、タケルに隣にいて欲しかっ

130 牧村わたしは、この前、記録更新しちゃいましたよ。 6 時間 小林えー。すごい。誰と ? 牧村あゆみゆいちゃん。 小林あっ。それって、わたしとゆいちゃんが電話で話したあとでしょ ? あのあと久実ちゃ んとこに電話かけるって、ゆいちゃん言ってたから。そっかー。ゆいちゃん「わたしとも 1 時 間以上しゃべってたんだよ。すごいなあ。 牧村そうそう。その日、朝までしゃべってたの。気がついたら、白々と夜が明けちゃって ( 笑 ) 。耳が痛かった。 小林そんなに、なにしゃべってたの ? 牧村なんだろう ( 笑 ) 。漫画家どうしなので、もちろん漫画の話が中心なんですけど。でも、 早朝の会話は半分寝てたから意識モーローとしちゃってよく覚えてない。 小林でも、その次の日に 3 人で会ったんだよね ( 笑 ) 。だいたい、その電話って、待ち合わ せどこにする ? って、電話だったはず。 牧村そうそう。で、翌日、また朝まで 3 人でワイン飲んでしゃべってた。 小林あの日は、お疲れさまでした ( 笑 ) 。って、わけで、そろそろ本題に入ろうか ? この本のこと話さなくちゃ。 牧村は、ま、。 小林この本は、もともとは単行本に収録されてない、久実ちゃんのカラーイラストがいつ。

牧村お互い、学生のまま仕事始めて、そのまま就職もせず、今に至ると。 むばう 小林わたしは無謀でした ( 笑 ) 。最初の仕事でもらった原稿料で、なに買ったか覚えてる ? 牧村画材。スクリーントーンとか。 小林エライ ! わたしは当時のポーイフレンドとごはん食べに行っちゃった ( 笑 ) 。 牧村だって、最初は、そんなだから画材の知識とか全然なくて、画用紙に普通のカプラベン で描いてたから。そしたら、やたら、にじむしケバ立っし、どうしてーって ( 笑 ) 。ケント紙 とかインクの種類も知らなかったし。カラーなんか水性マジックを水で溶いたのとかポスター カラーで塗ってたし。無茶してたなあ ( 笑 ) 。 て 小林でも、最初の作品が載ったら、すぐにファンレター しばい来たんでしょ ? え うれ 牧村うん。百通近く。それもほとんど同世代の高校生の女の子たちから。すごく嬉しくて、 一通一通、手書きで返事を書きました。今は、数が多いんで、なかなかそれはできないけど。 でも、もちろん、今でも手紙はすごく嬉しい き小林本気で嬉しいよね ~ 。わたしも原稿に行き詰まったり落ち込んだときはファンレターを 読むことにしてる。そうすると勇気がわいてきて、書き続けよう、って気持ちになる。 つら 牧村原稿、描いてるときって辛いからね ~ 。スケジュールはキッいし。絵柄変えたいとかし よっちゅう思うし。仕上げは好きなの。トーン張りとべタ塗りは。誰か下絵とペン入れしてー って感じ ( 笑 ) 。

? らい、夏休 ー始っ ああ早く伝えなきや

from Autumn tO Winter カラーコミッワ 恋か目覚める瞬間・ シースン・ビンナップ コールの , 回こ一つ側 : 枯れ葉の色彩 : 雪に書いたラフレター 毎日がバレンタイン・ ノベル 第三章 / 秋枯れ葉の寝床 : 第四章 / 冬銀世界の恋人・・ 長電話、大好き ( あとがきにかえて ) イラストキャラリー 85 81 77 94 93 92 90

綿菓子みたいな薔薇色の桜並木 卒業証書を胸に抱いた帰り道 制服の胸にずっと秘めていた思い 結局、勇気がなくて伝えられないまま 大学も別々。これでほんとのさよなら 瞳から熱い涙が溢れそうになったその時、 卒業証書の筒でばんっと頭を叩かれた 「ほらつ、右手 ! 」 差し出したわたしの手のひらの上には、 ずっと欲しかったキラキラ光る宝物 世界を変える威力を持ったボタンは、 未来を淡い薔薇色に塗り替えていく 卒業式が 終わったら

コバルト文ロ く好評発売中〉 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆ るのため " ・ジオの剣かう , ま野梨原花南 ◆ イラスト / 宮城とあこ ◆ 海賊船であほうどり島 ◆ を目指すジオ。島でノヾ ◆ ロックヒートに会えれ ◆ 、ダイヤたちに再会 ◆ できるかもしれない・・・ だが、そのためには ! ? くちょー〉シリーズ・好評既刊 ちょ - 恋とはどんなものかしら ちょー美女と野 ちょー魔法使いの弟子ちょーテンベスト ちょー因われの王子 ちょー海誠 ちょー夏の夜の夢 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆