うで : : : だから、リエンカはそれに気づかぬふりしかできない。 ふう びくりとでも動けばそれだけで、優しい夢が駆け去ってしまいそうな気がして眠った風を装 ) 続けるしかないのだ。 しかし、今夜は少しだけ、違った。 いつもリエンカが眠る寝台のそばにまで近づいてくるのに、決してそれ以上歩を進めようと のり しないはすの安らかな夢の贈り主は、今夜に限ってその則を破ったのだ。 さらり、とリエンカの髪を柔らかく優しく指が梳く。 さらり、さらり、と何度も何度も。信しがたいことに、彼女がよく知る指が : すっかり覚えてしまった優しいひとのそれが。 うそ・ 間違えるはずがない それはレンバルトのものだった。 ど、つして。 混乱するリエンカの様子には気づかぬのか、命の恩人で現在自分を引き取り育ててくれてい しぼ る男性は、絞り出すような苦しげな声を洩らした リエンカの心臓を鷲擱みにするような、 その声 : : : そして、紡がれた言葉。 つむ わしづか : ここ数年で
210 、あどか医、 いかが この本が発売されるのは春風が気持ちいい頃だと思いますが、皆様如何お過ごしでしよう またたまこ こんにちは、前田珠子です。 はようつるぎ 実に久しぶりの『破妖の剣外伝言ノ葉は呪縛する』をお届けいたします。本編のほうはど うしたと思われる方も多いでしようが : : : すみません。次刊再開の予定を組んでおりますの で、どうかもう少しだけお待ちください さて、しばらく「うきゃー ! 」とか「ぎゃああっ ! 」とか叫ぶヒロインを書き続けていたも ので、想像以上に時間を取られてしまいました。 いえ、ヒロインが天然なのは一緒なのですが、相手となる男性陣の性格が違いすぎまして はっき かたまり かか ・ : 顔見せ程度にしか出てないにも拘わらず、赤い人が独占欲の塊ぶりを発揮してくれるのが 懐かしいやら呆れるやら ( 笑 ) 。 としみしみしながら書かせていただきまし そうだった、この人はこういう性格だった た。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 なっ カ あき
164 ああ、いつもの夢だ、とリエンカは田 5 った。 かて しやくねっ 一面の焦土、糧もないのに燃え続ける黒炎ーー灼熱に灼かれた人々の絶えることのない悲鳴 うめ と咄・医、 : レンバルトを苦しませる悲しい悪夢。 いつもいつも、何もできすに見ていることしかできない自分が情けなく悔しかった。何かで きればいいのにと、すっと田 5 っていた。 けれど今ならーーこの夢を終わらせることができると不思議な確信がある。リエンカは広が る地獄を正面から見つめ、そうして生まれ変わる世界を脳裏に浮かべた。 うるお 乾きひび割れた大地 : : : 潤す水があればいい。 リエンカはイメージするーーこんこんと湧き出る清水を。 あふ それは泉となり、たちまち溢れて川の流れを作ったーー彼女の脳裏に描いたままの光景が焦 リエンカの起こした奇跡は妹を案しる姉の言の葉によって、完全に覆い隠された。 知るのは魔性ふたりと妖女の魂だけだった : ・
われら れているとはいえ、その魂は数百年を生きた魔性のものと変わらぬ : : : そなたは年若いだけに わな 素直なところがあるからな、年経た妖女の罠などにかかりはしないかと心配してやっているの だよ』 『余計な世話だ』 短く吐き捨てるようにして、別れた 彼女があの折のことを忘れていなければ、この自分のありさまに遠慮なく突っ込んできてく れるに違いない。そして、ます間違いなく彼女は忘れていない : : : 短くはないっきあいで、そ こまで読めてしまうことが正直切なかった。 はたして、煌弥は組んでいた腕を解くなり、彼に不躾なまでの視線を投げかけてきた。 「一 = ロの葉姫の始末に向かったきり、戻って来ないと思っていたら : : : すいぶん愉快なことにな っているようだな」 来焔が恐れた嘲りの響きはなかったが、その声には確かに呆れかえったと言わんばかりのそ れはたつぶりと含まれていた。 : だから、この女にだけは見つけられたくなかったというのに : みち 思っても仕方ない。現に煌弥は自分を見つけ出してしまったのだから : : : 残る途は、何用あ っての来訪かを聞き出し、さっさと追い返すことだーーー炎を操ることさえ適わぬ今の状況で、 ぶしつけ あき
則田珠子 ( まえだ廱こ ) 1 明 15 日生まオ天秤日県召主。 198 煇り目覚める朝」で第 9 回コノ V レ ト・ノレイ圭作入コノ VJ レト文庫に 」ム「カル・ランシイの女王ム『ム 石、「天を支える者ノよどのシリーズ を持っている。 イラスト◎、 にじまさかき ) 8 月 1 旧生ま獅子鯨者 音楽とととミニチュアをこよなく愛す る浪イラストレーター 仕ー GM はもっぱら FM ラジオやインタ ーネットラジオ。ラジオ好き。 夢見る乙女の NO. 1 ・小説誌 ! 朝 t 2 月、 4 月、 6 月、 8 月、 10 月、 12 月の 1 日発売 ! 人気シリーズ最新作 & 読み切り小説がいつばい ! 隔月刊ですので、お求めにくいこともあります。 あらかじめ書店にこ予約をおすすめします。 cobalt.shueisha. CO. jp 集英社
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こら エンランドは口元が引きつりそうになるのを必死に堪えた。 「いや、少し違うか。深すぎて一見黒に見えるほどに濃い赤 : : : かな ? 」 ますます悪い いや、待て。大丈夫だ、黒赤色の薔薇には確かふたっ花言葉があったはす。 「 : : : あー、それはご本人には言わないはうがいいかもしれませんね。何しろ花一言葉が『死ぬ まで憎みます』でしたから そう忠告を装って彼女のロを塞ぐ。 相手の男が花一言葉に詳しいかどうかは知らないが、調べれば必ずもうひとつのほうも見つけ てしまうに違いない。そうさせないためにも、ここはラエスリールに釘を刺しておくべきだろ うーーー彼女は自分の運命の人なのだから。 自分だけが彼女に運命を感じているわけではないはずだ。 何度も自分に言い聞かせる程度には、エンランドの胸に不安が湧き起こっていた。しかし、 葉 のそれは束の間のことだった。 の ラエスリールが、不意にこんなことを言い出したからだ。 たと たんぼぽ ア 「あなたを花に喩えるとしたら蒲公英かな」 彼女の視線が自分の頭部ーーもっと正確に一一 = ロうなら、常々おばちゃん連に『ひょこ頭』と評 つか
183 アイの言の葉 その方が花王が欲しいと仰ったのなら、恐らく色は赤ですよ。昔は牡丹 「待ってくださいー は赤が最高だとされていたんですからー 赤ーーと聞いた途端、彼女はなぜか深く息をついた。 あき まるで何かに呆れているかのようだった。 「なにか ? 」 気になって尋ねた彼に、彼女は「いや、なんでもないんだ」と苦笑混しりに頭を振った。 ぶしつけ ますます気になったが、まだ出会ったばかりの相手に不躾に踏み込むわけにもいかず、そう ・あいまい ですかと曖昧に笑った。 「それで、赤い牡丹を取り寄せることはできるだろうか ? できるとしたら何日ぐらいかかる かわかるだろうか」 「三日はど待っていただければ : : : 一番大きな蕾のついた株がちょうど赤なんです。咲き始め たらすぐにお届けしますから、連絡先を教えていただければー - ーー」 にこやかに告げながら、エンランドは花屋でよかった、と自分の職業にむ底感謝した。 これなら警戒されることなく彼女の名前と住所がわかる。 果たして彼女は迷う素振りも見せずにすらすらと連絡先を書いてくれた。 住所は街の一一番目に大きな宿屋のそれで、旅行者なのかと少しだけ残念に思ったが、それ以 おっしゃ
130 ぼ , つきやく だが人間は忘却の存在でもある。 あんねい 代を重ね、安寧の時代が当たり前であると感しるようになった者たちが次第に増えたとき、 言の葉姫の存在もまた変質させられた。 まぎ 紛れもない奇跡の具現だと。 あんたい 彼女さえいれば、マヤフは安泰なのだと。 そうして彼女は絶えず生まれ変わり、永遠にマヤフを守るのだ、と それが大いなる怠惰の果てに生まれた誤解であることを来焔は知っている。 言の葉姫は、魔性にすら妖女と呼ばれる存在であるが、その心の有り様はどこまでも人間の それに外ならない。 愛する王のために全身全霊の力を尽くす女であると同時に、信じた者の裏切りに血の涙を流 えんさ し怨嗟の声を上げる女でもあるのだ。 七年前。ー・・王都クタハが炎上したあの日、王家に忠誠を誓う者たちの誰かひとりでも、我が なげう 身を擲ち彼女を救おうとしたならば、言の葉姫は迷わす新たな生を選んだに違いない。 しかし現実は違った。 安寧と変わらぬ彼女の加護。 こ狎れ切った者たちは、『どうせすぐに生まれ変わってくるのだ あんい かんか から』と、安易に彼女の死を看過した。 たいだ
118 「すまない」 よくよう ものう 幾分抑揚に欠ける声で謝ってくる女性の瞳には、物憂げな光が宿っていた。 くちびる ますいな、とその唇が声なく呟くのが見えた。 か 少しだけ思案する気配を見せたそのひとは、なにかを決意するかのようにく、と唇を噛みし めた後、リエンカの顔を覗きこんできた。 かくま 「近くに誰か匿ってくれそうなひとの家はないか ? 切迫した様子に、リ エンカは考えるより前に「それならわたしの家が」と答えていた いやおう 女と一緒に帰宅すれば、否応なくレンバルトに紹介することになるというのに、だ。 さら 自分を攫うために人垣を構成していた男の数は十人はいた。昏倒させられたのはひとりだけ だ : : : 最低九人が今自分たちを追いかけている計算になる。そんな状況で、どうして自分の勝 手な不安を優先させることができるだろう、しかも相手は通りすがりに純粋な好意で自分を助 けてくれただけのひとだというのに , 「そうか」 うなず ほっとした様子で頷いたそのひとに、「すぐ近くです」と告げて案内しようとしたリエンカ あぜん は、しかし次の台詞に唖然とした。 「すまないが、ここで別れても ) しいか ? 数が多すぎる : : : あなたが家に着くまでぐらいなら