いから想像して欲しかった : : と思ったサティンは、しかし次の瞬間、そこに居並ぶ めんっ 自分以外の面子を見て、無駄を悟った。 ようき よ、つき そこには妖貴とか妖貴とか、妖貴と人間の間に生まれ、しかも体内に妖鬼とか妖鬼 とか妖鬼の命やらカやらをため込んで、おかげで数十年というもの外見的にまったく 変化を見せない人物だとか、元は人間だったものの、人形づくりが趣味で得意な妖主 に作り替えられて、並の妖貴以上の力を与えられた人形ーすでに、そう呼んでいし ものかどうかわからない存在に変質してしまっていると思うのだがーー , ・・ ) かいなかっ たからだ。 そういう異常な面々と、平気でつきあいを重ねている自分もすでに、傍目には立派 じんがいまきよう な人外魔境であることを、サティンは実に都合よく忘れている。 闇邪羅の思痴はまだまだつづいた。 の「でもさあ、さすがにそこで打ち止めだろうって、思ったんだよ。もちろん、姉ちゃ ひすい はな んから話は聞いてたからさ、翡翠の妖主の力に関しては、最初つからその六人目とか いうやつがさっさと吸収して活用したんだろうなとは思ってたんだけど : はため
うとしないラエスリールの態度は、すでに慎み深いなどといえる範疇ではなく、その 事実が彼女の胸を焦がすのだ。 だが、この時のラエスリールの反応は、スラヴィエーラの想像をいい意味で裏切る ものだった。 「ど、フでも いいだなんて、思ったことはないぞ ? ずっと、一緒にやってきたんだ。 わたしだけのカじゃないし、紅蓮姫だけのカでもない。それなり以上にうまくやって きたと思ってたから、そちらには悪いが、彼女を浮城に返すつもりはなかったわけだ しな」 罪を罪と自覚した上での行動だったのだと、はっきりと言い切られ、スラヴィエー ラは軽く目を瞠った。 だいたん 以前のラエス リールにはなかった大胆さに驚かされたのだ。 そっちよく の が、まあ : : : それを率直に告白するあたりは以前のままと言うべきか。突っ込まれ 鬱た場合を想定しての逃げ道ひとつも作らない、不器用な性格は相変わらすらしい。仮 めまい にも数年、世間を渡り歩いてきた人間とも思えない馬鹿正直ぶりには、思わず目眩さ みは つつし はんちゅう
「意外な成り行きだな」 へだ 人間たちが存在し、住まう空間からは薄い膜一枚隔てられた特殊な空間で、腕組み こくはっこくど、つ をしてつぶやく黒髪黒瞳の青年の姿があった。 びぼう 人間にあらざる美貌と、その瞳に宿る光 ましよ、つ ようき 魔性のなかの魔性と呼ばれる存在ーー妖貴だった。 「そうか ? 」 のど のその隣で、くつくっと喉を鳴らしながら答える存在があった。 鬱 こちらも黒髪黒瞳の青年だった。 さがね 「てつきりお前の差し金かと思ったが ? 」 自分のなかの整理がつくなり、濫花は足どりも軽く扉に手をかけた。 その先に待っ運命を、当然のことながら、彼は知らない。 まく
いやおう 胸に開いた大きな穴ー否応なく感じる喪失感。 ひしひしとそれを感しながら、一フェスリールは自らを、抱きしめる。 たとえようもないうつろなこの感覚。自分の足場さえ確かめられない。 けれど、この現状こそが正しいのだ、と彼女は思う。 ましよ、つ 魔性の父と、人間の母との間に生まれた自分。 の美しく強い父に振り向いてもらいたいと一心に願った、幼いころの自分。けれど、 としんっ 鬱それはかなわす、ある日妬心に憑かれた父の配下によって、母が殺された。 むざん まいそ、つ 無残に引き裂かれた母を埋葬し終えた自分に、父は告げたー人間として生きよ、 「どういう意味だ、それは卩」 「言ったままの意味だよ ! わーん、おれのささやかな夢を返せー ! 」 邪羅の見た、自称『ささやかな夢』がいかなるものか : : : それは永遠の謎である。 そうしつ なぞ
ないと思ったのはサティンである。 面々中、唯一の純粋人間ならではのことと一言えるかもしれない。 もっとも、だから といって彼女が平均的な人間の感性の主かと問われれば、十人中九人どころか十人が 「とんでもない」と即答するに違いないのだけれど。 ここ数年、聞かなきやよかったとか、聞きたくないけど聞かざるを得なくて、それ こうかい で思いっきり後悔したりとか、それもその内順応して慣れちゃったりとかしてきたけ ・ : なんだか今回のやつは、その最たるもののような気がするわ : そんなことを考えつつ、サティンはそっと息をついた。 自分の対処能力がついていけるかどうかは別問題として、邪羅のばやきがこれだけ うれ に留まらないことを確信するからこそ、彼女の憂いは深く、重い 闇 なにしろ邪羅は「母ちゃんの場合は」と言ったのだ。 の ほかの誰かの場合もあるという前振りとしか思えないではないか。 鬱はたして、邪羅はサティンの気分をさらに落ち込ませるようなことを言い出した。 おやじ すいきよう 「信じられないっていうか、信したくねえのがうちの馬鹿親父 ! 酔狂にもほどがあ
Ⅲはたしてこのような場合、なんと表現すればよいのかな ? 」 そう・はう 淡々とした口調で答える芝牙尖の双眸には、微かに面白がるような光があった。 にら まなじり 眦をきつくし、リメラトーンは相手を睨みつけた。 だが、それ以上できることはなかった。リメラトーンは芝牙尖に救われ、その妖貴 かんしよう の干渉ゆえに、多少の力を持つに至りはしたものの、元々は人間にすぎぬのだから。 ようき 妖貴である彼に爪をたてるほどの害すら、与えることはできない。 「でも、まだ方法はあるはすだ : : : 」 唇を噛みしめ、少年が固く目を閉しる。 必死になにかを思いめぐらせているらしいその姿を、芝牙尖は興味深げに眺めてい むじゅん 「人間というものは、なんと矛盾に満ちているのだろうな。そなたは確かに姉である うら あの娘を恨んでおったはずだというのに、不幸になる種を抱えていると知った途端 やっき に、今度は躍起になってその運命を変えようと足掻き出した。わたしなどにしてみれ ば、そう悪い運命とも思えぬものだが : : : 」 かす あが
122 えたい 『六人目』と呼ばれる得体の知れぬ何者かに盗まれたというのだから。 いや、正確には盗まれたわけではない。ただ、白焔の妖主そのひとの持っカそのも えとく のと、まったく同しそれを、相手が会得してしまったわけなのだから。 ぎようしゆく 誇り高さと美とカーそれらを凝縮してひとの形を作ったら、正しくこうなるに はくれん 違いないという白焔の妖主白煉は、魔性間にあって絶大な人気を誇っていたりする。 が、それを人間に当てはめ、同じことを求めるのは難しい。 魔性の王たる妖主にとって、人間など虫けら以下の存在にすぎないのだから。気分 たとえ、浮城の住人であろうとだーー身として 次第であっさり殺されてしまう けだか は、 ) かに美しく気高ろうと、単純にむ酔などできはしないのだ。 それに加えて、邪羅の告白にはもうひとつ、恐ろしい意味合いがあった。 『複写』されてしまったということは、現在、この世界 白焔の妖主の力がそっくり きようい に、大きすぎる脅威がひとっ増えたということを意味する。 そんなとんでもないことを、あっさりとーーまるで「今朝、母ちゃんってば飯炊き 忘れてさあ、朝飯食えなかったんだ」とでもいうような気軽さで、ロにしては欲しく めした
いよう りがんじよう 璃岩城ーその威容に満ちた存在を目にするとき、人間はなにを思うだろう。 加工のなされていない岩石や、宝石や貴石の原石で築かれたその城は、しかし優美 まと としか呼びようのない空気を纏っている。 よくよく見れば、岩石も原石も、決して未加工のまま用いられているわけではない ことがわかるかもしれない。 自然に見えるよう、最小限の加工を施された岩や石が、これ以上はないというほど かんべき の完璧なバランスで配置されている。 美しい : : : 美しい城であった。 それも当然のことと言えよう。 ほどこ きせき もち
大惣けな対応で、すっかりスラヴィエーラを怒らせてしまったラエスリールである どうりよう が、実のところ元同僚が感じたほどに平気でいたわけではなかった。 別に見栄を張ったわけではない。彼女は思ったままのことをスラヴィエーラに語っ うそいつわ たわけであり、嘘偽りは一片もなかった。 だか、だからといって、それが平気であるという証拠にはならない。人間、わかっ 丿ーレにしても、そ ラエスー ているからといって、必ずしも割り切れるものではない。 はた れは同じことで、傍からはそうは見えずとも、かなり落ち込んでいたりするのだ。 ーヴシェランがいれば、たちまちの、っちに彼 もしこの場にサティンやセスラン、 女の異変に気づいたことだろう。そうしてなんやかやと世話を焼きーー年長ふたり組 おおぼ
なっ 「紅蓮姫がターラに懐いてるのは、あの娘がかってラキスだった人間の魂と、幾ばく かの記憶を持っているからよ」 「生まれ変わりってやっか ? 」 「そう」 まなざ こくりとうなすき、スラヴィエーラは熱を帯びた眼差しで語りつづける。 「でも、生まれ変わった時点で、ターラはターラとしての人生を歩み始めた。前身が なんであれ、いまの彼女はアーゼンターラなのよ。それ以外の何者でもないの : : : た とえ、魂の奧底に、かっての生の記憶の一部が残っていたとしてもね」 なんとなくではあるが、スラヴィエーラの言いたいことがわかったような気がし て、マイダードは問いかけた。 「だが、紅蓮姫はその記憶に惹かれている : : : と ? 」 スラヴィエーラがうなすいた。 の 鬱「正確には、 引きずられてると言ったはうが正しいかしら」 「その証拠は ? 」 たましい