に過ぎない。 歯噛みしながら、レイムは必死に自分の理性に呼びかける。 あの姫はたしかにこの世に一人、ただ一度の存在であるのかもしれない。 しかしメイビクを本当に救いだすことができるのは、救われた世界でのことだ。 世界救済なかばである今、どんなことをしてもメイビクが救われることはないのだ。 救世の聖戦士であるレイムは、世界すべての希望をう一人である。 決して一人の意思で先走ったり行動したりしてはならない。 もろ 一見物静かで、脆くあるともとられるレイムの優しさは、彼のもっ誠実さそのものであ まじめ かたく ゅうづう 実直で真面目な分だけ融通がきかず、誰よりも頑ななのだ。 おのれ おぼ いさぎよ 決して己の情に溺れ、周囲の状況を失念して流されることを潔しとはしない。 しかしこれがもしレイムでなかったのなら。 迷愛しい者の無残な姿を目にしようとした者は、我が身の危険もかえりみず、そこに足を向 いや 色けるに違いない。嫌でもそうせずにはいられないものを、この氷は映すのだ。 玻むかむかむかとレイムの内に怒りがこみあげた。手段の汚さに心の奥底から懾した。 まどういん 念をこらしたレイムは、聖女の波動を追うために魔道印をきる。 同じような目にあっていたとしても、ファラ・ ハンならばそれを乗りこえられる強さを る。
138 ての発熱であるかもしれない。応するものなら皆が注意すべきだが、原因を探る手段がな まどう ようだ、 おろおろするシルヴィンをなだめ、ファラ ・ハンは魔道でレイムの容体を探ってみた。 外的要因はない。すっかり周囲のなりゆきを話し、緊張がゆるんだのだ。 発熱し死んだようにぐったりと寝入るレイムに、ファラ ・ハンがしの魔道を与える。 「馬鹿ね。こんなになるまで一人で無理する必要ないじゃないの ! 」 かえって手間がかかる、世話をかける男だと、シルヴィンはぶんぶん怒りながらも、こま ひた、 めに動き、自分のスカーフを冷たい水で濡らしてレイムのを冷やしてやる。 既紐な神経をもっ魔道士に、ディーノは一瞥を投げただけで何も言わなか「た。 病人の枕元を、た腱で埃を蹴立て騒々しく闊歩する娘や、それに苦笑する乙に、振 りかえることもしなかった。 レイムはただ一人で気負い、ファラ・ ハンを守ろうとしていた。 自分一人の胸に、聞き知った事実を収めようとしていた。 した いまいましげにディーノはひとっ舌を鳴らす。 何がどうなのか、はっきり言うことはできなかったが。 おもしろくなかった。
134 ディーノの意見にちょっとうなずき、シルヴィンはすねたように上目遣いでレイムを見 「自分たちが死んじゃ : ・、意味ないでしょ だから仕方ないわよ。 「それでも : あんまり派手なのは、はっきりいって困る。いらぬいさかいの種やを残したくはな 「後からのこのこやってくるくせに、ロだけは達者だな」 言いかけた声をさえぎって黙らせ、つんと顎をあげ、ディ 1 ノがレイムを見くだした。 レイムだって、遊んでいたわけじゃない。 「なんだって : : : ? かちんときた言葉に、レイムはかすかに声を低くした。 レイムを待ちわびていた一人であり、わたしだってそれなりに理由があったのよと主張し こうてい たいシルヴィンは、おもわずディーノの指摘を肯定して黙ってしまう。 「あ、あのつ ! 」 険悪になった空気に、ファラ ・ハンが声をあげた。 大声をあげて突然割りこんだファラ ・ハンに驚いて、三人ははっと注目する。 る。
120 計画が失敗したルージェスの一行は、レイムがディーノにかまけているあいだに、退散す 「ここをどこだと思ってるんですか e: 場所をわきまえてくださいー 非難はディーノとシルヴィン、両者に対して。 まゆ その一 = ロ葉にディーノは爆笑し、シルヴィンとファラ ・ハンは困ったように眉をひそめた。 ファラ ・ハンが翼を振り、レイムのそばに舞い寄る。 「ホーン・クレインは、失われてしまいました : かな がくぜん 哀しい声の告げた事柄に、レイムは愕然とする。 シルヴィンがひょいと肩をそびやかした。 「本当よ。あの擘が落っこちたの」 うなが シルヴィンが顎でしやくって促した先。 レイムが首をめぐらせて初めて発見したのは、地平のかに向けて小さくなってゆく数人 の人影だった。何かに乗っているのか、滑るように去っていく黒っぱい連中のなかに、 一人、金色の頭が揺れている。 「ま、まさか : : : 」 泣き笑いのような曜な表情で、レイムはつぶやいた。 「疑ったって本当。落ちて転んで泥んこになったのを、わたし見たもの」 る。
214 レイムはそろそろと〉を戻した。立ちふさがるを見あげる。 明らかに悪意をもってレイムをんでいる。 だが少し飛竜を下に飛ばせ右にずれるとするならば、楽に通りぬけられそうな場所があ る。 透明な氷の壁の向こうに、目線を変えるちょっとした方向の違いだけで、少しばかりの距 離を隔てただろうディーノの横顔がかいま見える。 この向こうにディーノかいる。 なんともいえないしい表情を浮かべた、傷ついた。のようなディーノだった。 やや離れた氷の向こうには、飛竜の背に乗るシルヴィンとファラ・ ハンの姿も見える。 たあい どちらもそんなに離れてはいない。他愛ない氷の向こう側。 おもわず飛竜を動かそうとする手を、きつく握りしめ、レイムは止めた。 これはただの氷ではない。光源がどことも定かでないのに、こんなにはっきりと向こうを 透かし見せるなどという不思議を簡単に認めてはいけない。 蠢きひとをくの氷に騙されてはならない。 今現実に孤立してしまったのなら、なんとしてでも一人でこの場を乗りきらねばならな 言もが一人の戦士たる以上、甘えや頼り合いはふさわしくない。
ファラ ・ハンは魔物だけでなく、もう一つの神話を信じるひとびとにも狙われているの とっとっと語られた言葉に、ようやく事態を納得し、三人は息を吐いた。 「ケセル・オークって名前、あの女が叫んだわよ」 耳ざといシルヴィンは、竜が出現し大物の魔物に襲われたときのルージスが叫ん だ名前を記憶していた。 ルージェス一行についている魔道士が、あのケセル・オークだったとしたなら、レイムに ふる はかなりい相手であるはずだ。対決したならと考えて、ぞくりとレイムは身を震わせ ・ハンに気づいて、レイムはなんとか淡く知む。 心細げな視線を向けたファラ ファラ・ ( ンを不安がらせてはいけない。ただ一人見知らぬ世界にされたか弱い んにいを与えることは、彼女を守らねばならない彼らが何よりもしてはいけないことだ。 ハンにとって、 迷自覚と記憶をもたず、その使命と激しい優しさで役目をい進むファラ・ 色絶対の信頼をおける味方が彼らなのだから。 玻「大丈夫です。あのひとは魔道師様からお言葉をいただいたらしい正規の魔道士ですから、 そんな乱暴な方法はとらないはずです。その姫は大きな責任に気が急いてらしたのでしょ う」
量は、重々しく、何かしらレイムとざえている。 どこかが微妙にずれ、わずかにんでいる気がする。 規約に従うならば、魔道士同士はむやみに会話しない。世間話や無駄は禁じられてい こうきしん 俗世間から隔離された修行者である魔道士は、好奇心をもって交友してはならない。 用件もなくまみえるものではない。 もを駆って雲間を縫い上空に出たレイムが目当てで、その魔道士はそこにいるのだ。 上級魔道の纐都であれば、飛竜の行く先を察して即座に追いつくことなど造作もない。 しようぞく 法衣は深緑色で見習い魔道士の装束のままであるが、魔道師エル・コレンテ、イの承認を 受けて派遣されているレイムは、『聖魔道士』として一人別格にある。 世界救済の役目をう、世界ただ一人の聖戦士としての立場を踏まえると、格が違うとい 宮えむやみに下手に出ることはできない。 の レイムから先に声をかけることは、望ましくない。 色 璃 しばらくの間の後、中空に浮かぶ闇色の法衣の魔道士は、すいと礼をした。 レイムの出方をうかがっていたらしい る。
「言いすぎよお : 小さな声で抗議した。いじめなくてもいいのに。 神の一人であるファラ ・ハンには、俗世に制れた感情がしい分、どこか的はずれなとこ ろがあってしかるべきなのだ。 ルージスの感情を攤でしたあれにしても、そう。こればっかりは仕方がない。 矛先をファラ ・ハンに譲ってしまった形になったレイムは、溜め息をついた。 「すみません。僕がでしやばりすぎたみたいです : ・。僕ももっと努力しますから、他の方も もっと注意深く行動しましよう。こういうことで : わかっていただけませんか ? それぞれの考え方に違いはある。見過ごしたままいくわナこよゝゝ 。。ーし力ない。許容するにしろ なんにしろ、一度は本心でぶちまけてしまわなければならないことだったのだ。 他の二人を気にしながらシルヴィンはうなずき、ディーノはそっぱを向いた。ファラ・ ンはかすかに首を縦に振った。 宮 迷 色少しだけ横にならせてくださいと言ったレイムは、そのまま深く眠りこんでしまった。 玻なんだか様子がおかしいことに気づいたシルヴィンがレイムに近寄り、彼の御が火のよう に熱くほてっていることを大慌てでファラ・ ハンに伝えた。 今の世の中、即効性の新鮮な薬草などどこにも残っていない。何か電の悪いものに応し ほこさき ひた )
はうしゅ 〃時の宝珠〃を正し、世界を滅亡から おとめ 救う、翼を持っ乙女ファラ・ 1 ) ン 一つめの宝珠を手に入れた聖戦士たちは、 次なる宝珠を探して、先へと歩を進める。 しか旦則には、新たなる敵が待ちうけ、 次から亠〈と聖戦士たちに襲いかか「てくる。 さらには、もう一つの世界救済伝説を信じる ルージェス一行の攻撃も相次ぎ、四人の道程を っそう困難なものにー 聖戦士たちの世界救済冒険ロマン第四幕 " white heart な B ー 04
はうしゅ 〃時の宝珠〃を正し、世界を滅亡から おとめ 救う、翼を持っ乙女ファラ・ 1 ) ン 一つめの宝珠を手に入れた聖戦士たちは、 次なる宝珠を探して、先へと歩を進める。 しか旦則には、新たなる敵が待ちうけ、 次から亠〈と聖戦士たちに襲いかか「てくる。 さらには、もう一つの世界救済伝説を信じる ルージェス一行の攻撃も相次ぎ、四人の道程を っそう困難なものにー 聖戦士たちの世界救済冒険ロマン第四幕 " white heart な B ー 04