ファラ ・ハンはいかにも伝説の聖女らしい、しとやかで優しい乙女で、あまりにか弱いそ ゆだ しいと思 の容姿は麗しく頼りなくはかなげであったけれど、彼女はたしかに世界を委ねてもゝ えるほどに、強い意思と魅力をもっていた。自然界そのものを友とする純粋な可さは、大 なっ 地とともに生きてきたシルヴィンには懐かしく、多いに支持すべきものがある。たとえファ じんりよく 宮ラ・ ハンの背に白き翼がなくても、シルヴィンは世界を救おうと尽力する彼女に協力を者 のしまなかったはずだ。 璃この乙女こそ、自分の命をけ身を犠牲にしても『守りたいと思える』者なのだ。 しかし、今、眼下で自らを救世主と名乗るこの少女は。 あまりにも丈高で、感じがよくない。 る。 それは彼ら聖戦士として王都を出発した三人には、聞くに新しい事柄だった。 ろうまどうし エル・コレンティ老魔道師からは、そんなことは一言も聞いてはいない。 おとめ シルヴィンやディーノの知る、翼ある乙女に関する世界救済伝承にもない。 それなのに。ここにまたもう一人、救世主たる聖女が存在する。名乗りをあげている。 かわい この態度の大きい、常識なしで世間知らずの可愛げのない娘が、世界を救う伝説の聖女。 ファラ・ ハンと時の宝珠を用いて時空を安定させ、世界を復地させるのだと公言してい うるわ ) たけだか
量は、重々しく、何かしらレイムとざえている。 どこかが微妙にずれ、わずかにんでいる気がする。 規約に従うならば、魔道士同士はむやみに会話しない。世間話や無駄は禁じられてい こうきしん 俗世間から隔離された修行者である魔道士は、好奇心をもって交友してはならない。 用件もなくまみえるものではない。 もを駆って雲間を縫い上空に出たレイムが目当てで、その魔道士はそこにいるのだ。 上級魔道の纐都であれば、飛竜の行く先を察して即座に追いつくことなど造作もない。 しようぞく 法衣は深緑色で見習い魔道士の装束のままであるが、魔道師エル・コレンテ、イの承認を 受けて派遣されているレイムは、『聖魔道士』として一人別格にある。 世界救済の役目をう、世界ただ一人の聖戦士としての立場を踏まえると、格が違うとい 宮えむやみに下手に出ることはできない。 の レイムから先に声をかけることは、望ましくない。 色 璃 しばらくの間の後、中空に浮かぶ闇色の法衣の魔道士は、すいと礼をした。 レイムの出方をうかがっていたらしい る。
鼻先でせせら笑い、ディーノが言った。 聖戦士であるディーノを封じてしまうことなど、できようはずがない。 ディーノこそ、自分の存在価値を一番よく知っているのだ。 知っていてなお、に推みかけている。 それがわかるから、レイムにはその腐ったが許せない。 「やめてお願い ファラ ・ハンは二人の若者に向かって叫ぶ。 「お願い、ですから : ・ するように、カなくうなだれた。 うそ たとえば。ファラ ・ハンが嘘でもディーノの望みを聞き入れていれば、こんな険悪な状況 にはならなかった。世界を滅亡から救えたならという条件をつけても、ディーノの申し出を 受けたことにはなる。ディーノを聖戦士に引きこむための方健であっても、それは駆け引き 宮に違いない。力を得たい男を仲間に取りこむ一つの手段として、それは十分に通用する。 のそう誘いかけてきた相手に対して、不当な手段ではない。世間によくあることにすぎな ましてや、 いい加減で勝手気ままなディーノが、いつまでもそのことに固軋し覚えている 四とはかぎらない
・ハンがひとの姿で具現したのだと思っている。 だからレイムは、ファラ ひとでありながら神でもある姿をして現れでたのだと。 として存在することで、ひとと神々の両方に義理を立てたのだと。 神々のなかでひとに近しい容姿をももっ彼女であるからこそ、地上の者たちをかえりみる ことができ、金銀の時代の後でも、再び地上に降り立っことができるのに違いない。 「世界救済の方法が一つでないことは、僕は決して悪いことだとは思いません」 それだけ世界が救われる可能性が大きくなる。 「でもその方法によって、その後の世界が違ってくるのではありませんか ? 」 必ずしもまったく同じ結果にたどり着くとはかぎらないのではないか。 そうならば世界救済は、後の世界を選択するという重大な擲になっている。 聖戦士となった誰もが軽々しく行動するわけにはいかない。 しかも魔道士は、その術を駆使し、世界を裏から支える存在である。世界救済が終了して 宮も、他の者たちと違い、魔道士であるレイムはその役目を解かれることはない。 自分にかかる責任が多大であるからと、その津から一歩退いて、なりゆきを見守るな 璃どということが世渡りのへたなレイムにできるはずがない。 偉大なる魔道師エル・コレンティの使者であると口にしたケセル・オークを、レイムはひ たと見つめた。
はうしゅ 〃時の宝珠〃を正し、世界を滅亡から おとめ 救う、翼を持っ乙女ファラ・ 1 ) ン 一つめの宝珠を手に入れた聖戦士たちは、 次なる宝珠を探して、先へと歩を進める。 しか旦則には、新たなる敵が待ちうけ、 次から亠〈と聖戦士たちに襲いかか「てくる。 さらには、もう一つの世界救済伝説を信じる ルージェス一行の攻撃も相次ぎ、四人の道程を っそう困難なものにー 聖戦士たちの世界救済冒険ロマン第四幕 " white heart な B ー 04
はうしゅ 〃時の宝珠〃を正し、世界を滅亡から おとめ 救う、翼を持っ乙女ファラ・ 1 ) ン 一つめの宝珠を手に入れた聖戦士たちは、 次なる宝珠を探して、先へと歩を進める。 しか旦則には、新たなる敵が待ちうけ、 次から亠〈と聖戦士たちに襲いかか「てくる。 さらには、もう一つの世界救済伝説を信じる ルージェス一行の攻撃も相次ぎ、四人の道程を っそう困難なものにー 聖戦士たちの世界救済冒険ロマン第四幕 " white heart な B ー 04
ふる 震えわなないていた。 「ふざけるなっ ! 」 ・ハンはディーノの腕をきゅっと抱きしめる。 金切り声にびつくりして、ファラ ハンを睨みつけ、すっと右手をあげる。 ルージェスはのような瞳でファラ・ 「矢をつがえ ! 」 かっちゅう っせいに弓矢を構えた。 自動人形のように、黒い甲胄をまとった兵士たちが、い 場所柄を考えぬ行動に、シルヴィンが色をなす。 ここをどこだと思ってるのよ ! 」 「ちょっと、あんたー 悲鳴のようなシルヴィンの声に、ルージ = スはにやりと唇をめる。 「ホーン・クレインであろう。よく知っている。すみやかにその女を引き渡すというのな ら、考えてやらぬでもないー おとめ 世界最後の楽園ホーン・クレインと、翼ある乙女ファラ・ 宮それらを穰にかけ、どちらかを選択しろと迫っている。 ほお きようはく のあまりにふざけた脅迫に、ひくっとシルヴィンの頬が引きつった。 璃ルージェスには自分こそが世界を救う者であるのだというはなはだしい思いあがりがあ る。だからファラ ハンよりも、世界の宝であるホーン・クレインにおのずから軍配があが る にら
野通たるレイムは、彼の師たる人物が考えたことを伝える。 けが 「『汚れていない場所』ならば、完全復興の魔道が可能です」 清らかな大地のみに与えられる、ただ一度きりの大がかりな魔道。 朽ちた動植物のすべてが、かっての姿を取り戻し、生き返ることができる。 そのために無残に放置されているのだ。 ホーン・クレイン ここは『残された土地』。 世界のひとびとの。によって的に残された、世界で最後の楽園。 この世界の貴重な財産として、守りぬかねばならない場所だ。 いっぴき そしてそれは、魔物の一匹たりとも存在してはいけない場所だ。 おぞましく忌まわしい指が刀でもかすかに触れれば、ホーン・クレインの価値は失われ ホーン・クレインの存在意義を重要視すれば、魔道の粉など用いるわけにはいか 魔道の粉なしでは、広範囲における綺は張れない。 樹そのものを結界に包みこんで万一の場合に備え、魔物と戦うという形はとれない。 「直接、樹を始末するのか . レイムの迷いを読むように、 こともなげに一アイーノは = 一一口った。 ナつか、
驚いて身動きかなわないまま瞳を向けたディーノと眼下のルージェスに、素早く視線をめ うるわ ・ハンは、困惑するように麗しい瞳をかげらせる。 ぐらせたファラ 「わたしに用があり、おそばまでと望まれるのなら伺いますわ。世界を救おうという方が増 えるのは、喜ばしいことなのではないのですか ? 事態がまるつきりわかっていない ひょうしぬ 拍子抜けし、シルヴィンが目をしばたたく。 「それは正規の聖戦士の話でしよう ? 聖選を受けた者だけよ」 その他の者は、いても足手まといになる。だから世界じゅうから集まった選りすぐりの有 能者の多い王都にあってさえ、彼ら四人以外の者の同行は遠慮されたのだ。 こにく ましてや。こんないけ好かない、小憎らしい娘が聖戦士であるはずがない。 「気持ちは大切にしなければならないわ」 まゆ ・ハンは少し引く。 形のいい眉をひそめ、ファラ 宮シルヴィンの言わんとしていることが、正しいことであるかもしれないと感じた。 まもの 気味の悪い魔物と戦ったり、怖い思いをしたり危険に向かうのは、できれば少ないほうが 璃 いいたろうから。 ハンとしては自分一人 それが彼女がこの世界に招かれた理由であったのだから、ファラ・ で世界救済をしなければならないとしても、和う識していたことだろうと思う。 こんわく
に過ぎない。 歯噛みしながら、レイムは必死に自分の理性に呼びかける。 あの姫はたしかにこの世に一人、ただ一度の存在であるのかもしれない。 しかしメイビクを本当に救いだすことができるのは、救われた世界でのことだ。 世界救済なかばである今、どんなことをしてもメイビクが救われることはないのだ。 救世の聖戦士であるレイムは、世界すべての希望をう一人である。 決して一人の意思で先走ったり行動したりしてはならない。 もろ 一見物静かで、脆くあるともとられるレイムの優しさは、彼のもっ誠実さそのものであ まじめ かたく ゅうづう 実直で真面目な分だけ融通がきかず、誰よりも頑ななのだ。 おのれ おぼ いさぎよ 決して己の情に溺れ、周囲の状況を失念して流されることを潔しとはしない。 しかしこれがもしレイムでなかったのなら。 迷愛しい者の無残な姿を目にしようとした者は、我が身の危険もかえりみず、そこに足を向 いや 色けるに違いない。嫌でもそうせずにはいられないものを、この氷は映すのだ。 玻むかむかむかとレイムの内に怒りがこみあげた。手段の汚さに心の奥底から懾した。 まどういん 念をこらしたレイムは、聖女の波動を追うために魔道印をきる。 同じような目にあっていたとしても、ファラ・ ハンならばそれを乗りこえられる強さを る。