まものみにく 退治した魔物の醜さで優劣を競うほど、暇を持て余してもいない。 それでをつけねばならないような、名乗りばかりを気にする雑魚ではない。 「のある場所はわかるか ? 、 魔物のと等しい、おぞましい物体と化している樹に職としながら、ディーノは ファラ・ ハンに尋ねた。 ファラ ・ハンは感覚を研ぎすます。 「樹の、中ほどの高さのところ : : : 、と枝のに近いわ : ・ 樹の中の宝珠とファラ ・ハンが内に収めた宝珠が呼応し、どきどきと胸苦しい感じがす どうき ファラ ・ハンが持った宝珠を体外に置けば、その動悸からは解放されるのだが、樹の中の ゅうごう 宝珠に引っ張られて融合されてしまう危険性がある。 ごかく ファラ・ ハンの宝珠と樹の宝珠の数が同じであるため、引き合う力が互角なのだ。 ぶるっと身を震わせて、小さなもはディーノの肩の上からおり、ファラ・ ハンの腕に飛 びこんだ。大群をなす魔物の毒気にあてられて、震えていた。 ぼうだい 日ごと着実に成長を続ける樹に解放の兆しを感じて集まり寄った魔物は、膨大な数であ る。 目に見えない地の底深くでも、うじゃうじゃとひしめいているはずだ。はんばではない。
イムは笑う。 「大丈夫。機能的におかしくなったわけじゃないよ。聖戦士として存在する、しばらくのあ いだだけだ。ほら、昔から言うだろ ? 美人は泄しないって。あれと同じ。理想的な姿な んだ」 レイムが喩えに出したのは、単なる幻想。設された者の鑷。それでも十分な説得力が あることに変わりはない。 「ふーん : : : 」 なんとなく納得したようなしないような感じで、シルヴィンは視線を落とす。 「排泄はしないけど、食べても寝ても構わない。そういうことなんだ。ある程度の意味で、 ハンと同じ。今だけは神の一族に近しい者だから」 僕らもファラ・ ファラ・ ハンの名を耳にし、シルヴィンは納得した。 あの可愛らしい聖女に、排泄という行為はあまりに似合わない。 しかも彼女の一部であるものにすべて神秘の力が宿るのだ。 まものねら 。うち捨てたそんなも 排泄物までも魔物に狙われるというのでは、おちおち生活できない ののすべてにまで気を配っていなくてはならないのなら、たまったものではない。 「あ、でも、水浴びしたものは ? 」 ハンの神秘の力は宿るはずだ。 体を清め汗を洗い流すそれにも、ファラ・ は ) せつ
みかけ、ディーノは真正面からファラ・ ハンを見つめる。 憑かれたようにファラ ・ハンはディーノを見返した。 ひと ハンの青い瞳。 煙る光を帯びたディーノの青い瞳透明に澄んだファラ・ かな うつむけたディーノの瞳の奥には、どこか遠くを映す寂しく哀しい影が揺れていた。 同じ色のただ一人だけに向けられた、切なさ。 かって誰にも域見せることのなかったもの。 すうっとディーノの右手があがり、指先がファラ・ 熱く脈打っ血灘のかよった洋。のような手。 その激しいばかりの温もり。 触れるか触れないかの指先と手のひらから、それを頬に感じ。 ファラ ・ハンはれるようにかすかに顔をそむけて瞳を伏せた。 「その申し出を受けることは、できません : ささや わずかにかすれた声で囁いた。 ディーノは差しだした手を静かに下ろす。 「当たり前でしょー どな 勝ち誇ったように大声でシルヴィンが怒鳴った。 、ンのにのばされる。
竜巻と同等の迫力がある。 しかもそれは、の表面に魔物の形を浮かべた、世にも恐ろしい形をした樹だった。 おど 中から樹を裂いて躍りでようとした魔物が、封じの魔法陣の内に根づいた木の表皮にさえ ぎられて外に出られず、しかも奥側から押されているため、和ルがそんな形になっているの 魔法陣に生えた木は、それだけで野癜を記されたのと同じような効力を持っている。 にじ 実を結ぶという、植物としての木の本来の過程を経なければ、中から滲みでようとする魔 物は自由を得られない。 の時期を感じ、樹に押しかけた魔物で樹はばんばんに膨れあがっている。 みにく ひしめきあい、内側から押されて、醜くおぞましい魔物の浮き彫りをなしている。 大きく膨らんだ実もまた、気味の悪い魔物の形をしたもので、鈴なりになっていた。 皮の薄くなっているところでは、魔物の目玉がぎよろりと動くのが透かし見える。 宮物によってはディーノの飛竜よりも大きい のホーン・クレインだ、楽園だと、こだわるつもりはディーノにはない。 ただ、面倒なことやわずらわしいことは御勉だ。魔物など出現しないにこしたことはな す、きよう・ 数を競って魔物を退治して自慢するような、そんな醴狂な趣味はディーノにはない。 たつまき
176 おも 寂しい心が見せた夢のひとつ。決して願ってはいけないことを想う、心の弱さだ。 ひとを犠牲にし生きながらえた、汚れた命をもっレイムが、誰かを愛し、愛されたいなど と、許されるはずがない。 んだをかげらせるレイムを、ファラ ・ハンは気遣わしげに見つめた。 すっととおった高い鼻梁をもっレイムの横顔は、ひどく礙紐ではかないものに感じられ きはく レイムの内に潤った透明で涼しいものは、あまりに清浄すぎて彼の現実味を希薄にさせ さつかく る。目を離すと不意に空気の中にほどけ、光に混じって消え失せてしまいそうな錯覚が起こ る。身体のもっ質量が、どこかにまぎれてしまう。 レイムの漂わせる『』さは、夢と通じた感覚。かな息はからむのに、手をのばし ても届かない、うたかたのような遥かな距離。 静かに《むレイムを見て、シルヴィンがむっと眉を上げた。 ファラ ・ハンが感じたのと同じものを、シルヴィンも感じていた。 こうてい だがシルヴィンにはそれを肯定することはできない。今という現実の時間のなかに確実に きょよう 存在し、すこぶる健全に生きているシルヴィンが、彼のような者を許容できるはずがない。 「ばやばやしてるんじゃないわよ ! 時間ないのよ ! 」 うるお けが
上空の同じ地点にある『静止衛星』と同じ理論で、浮かべて固定させることだって可能 まほうじん だとすれば、灰色に重く垂れこめるあの雲をのけることができれば、魔法陣の効力は増 ナが 魔物を産み落とそうとしている、汚れた樹を封じることができる。 一即のうい事態を、鏘めることが可能だ。 ハン、時の驪を手に入れてください」 「僕は封じの魔法陣の力を元に戻します。ファラ・ レイムは言いながら、のをった。 まか 彼女の身の安全はディーノの機知と腕力に任せることができる。小さい飛竜もファラ・ なっ ンにべったりと懐いているし、シルヴィンもいる。不安になる要因はない。 時の宝珠を取り除き、それから引き出されて利用されている神秘の力を失えば、産みださ れようとしている魔物も樹から出てこれなくなるはずで、恐れるに足りない。 ・ハンは、その提案に賛成した。 レイムの図を察したファラ レイムの乗った飛竜だけが上空に、あとのものは巨大に成長した樹に向かった。 近寄るにつれて、その樹の大きさは実感された。 はいいろ
体力がものをいった。 きりきりと全身に痛みを感じて目を開けたのは、二人ほば同時だった。 迷飛竜の背から投げ出されたとき、習慣的に身を丸めていたらしい形で、うつ伏せに倒れて 色いたシルヴィンは、眉にを寄せ、腕を突いて身を起こす。 ひだりひじ 璃あおむ 玻仰向けに横たわっていたディーノは、ゆるく頭を振りながら、左肘を突いて体をもちあ げ . る。 激しく揺すぶられ、頭はがんがんと痛み、受け身を取ろうとしたためか体のあちこちの筋 岩穴の中は意外にも、巨大な空洞になっていた。 の飛竜が五、六頭一度に吸いこまれてもなんともないだろう、広い空洞が穿たれて しかも真っ暗闇の空洞は、落のようにさらに深く、ロを開けてずっと先に続いている。 その奥底目がけて、氷雪の暴風が刃物のような勢いで吸いこまれる。 ほんろう 風と一緒に吸いこまれた彼らは闇の底に深く深く墜ちながら、風にめちゃくちゃに翻弄さ れた。 不快感を感じるまでもなく、揉みくちゃにされ、彼らの意識のことごとくは消し飛んでい
明滅して浮かびながら、レイムを導く。 あんど そこから雲を排除すれまゝゝ。 。ししレイムは安堵して、肩に入った力を抜く。 術の効力を少しでも上げるため、そこに竜を向かわせようとしたレイムは。 を握る手を、ぎくりとこわばらせた。 同様のものを飛竜も感じていたらしく、ぎゅっと体をたわめて身構える。 飛竜の感じたのは、莫大な威圧感のようなもの。 さっ レイムはそれ以上に明確に巨大な波動を感知し、全身に冷水を浴びせかけられたような錯 を生じさせていた。威圧感に胃が握りつぶされ、吐き気と悪がした。肺が収縮し呼吸が 浅くなった。激しい動悸で、心臓が元までせり上がってきた気がする。ねっとりと脂じみ た気味の悪い汗が全身に滲みでる。 背後にたしかに存在するものに、ゆっくりとレイムは振りかえる。 ゆるやかに波打っ雲の海。 暗くよどんで火花を散らし、弾ける雷雲たち。 その上に。 やみいろほうえ 底知れぬ闇色の法衣をまとう人影が浮かんでいた。 風に吹かれ色に輝く法衣に身を包み、レイムを見つめていた。 にじ はじ
いかに無敵のディーノといえど、無傷でいられるとは思えない。 もろ・とろ・ 肉の一欠けであろうと、こんなところで魔物に食らわれてやるつもりなど毛頭ない。 下等でおぞましい下な輩など、同じ場に存在することすらディーノには許しがたい。 「驪は ? どな ・ハンに怒鳴った。 りつけるようにファラ 「はい ! 」 うなが ・ハンは本来の目的に立ち戻る。 声荒く促され、ファラ ほうぎよく ひとみ 透きとおる青い宝玉ににた瞳を閉じ、神秘なる感覚を研ぎすます。 ディーノが急かさせた理由が、実感となってひしひしと感じられる。 ぼうだい ひそ 息を殺し密やかに機を待って蠢いている膨大な魔物の放っ気が濃くなり、空気中でざわめ く静電気のようにちりちりとを刺激していた。 宮びくんと背筋を震搬させ、シルヴィンが姿勢を正す。 「ただのかしだと思うのか ? 」 璃相手にされず業を煮やしたルージスが、上げた右手で作ったを気わせた。 「矢を : ・ ルージェスが一一一一口いかけたその時。 うごめ
強く吹きすさぶ風のせいか、腹の中で蠢く魔物のせいか、木は揺れている感じがする。 びくんと、ディーノが身を震わせた。 同時に飛竜も反応していた。 ハンごしに、振りかえったディーノがシルヴィンに叫んだ。 何事かと驚くファラ・ 「沈めつー どな 怒鳴られ、反射的にシルヴィンがそれに従う。 おぞましいそれを極力見ぬようにと、目線を落とし、いやあな顔をしながら枝の下をく ぐって飛竜を飛ばせていたシルヴィンの上。 くるんと身を丸めていた実の中の魔物が、いきなり体をのばした。 頭をさげたシルヴィンの髪を、かすかに実の皮がかすめた。 咄嗟に反撃しようとシルヴィンが短剣のに手をかける。 宮「よせ ! の ディーノは怒号のようにりつけた。 色 璃はっとして、シルヴィンは短剣を引きぬきかけた手を止める。 誘いに乗って刃物を振りかざし、木を切り開いて魔物を解放してやることはない。 どんなにおぞましい形状に変化していようと、この樹は魔物を封じているのだ うごめ