248 大気も氷もなにもかもが、音をたてながらさらに白くる。 りつく ! 「お願い ! あの手を開かせて ! ふうろう 襲いかかる風狼を光のレピアで払いのけながら、ファラ ・ハンが叫ぶ。 にして恥なる女を懸命に彊し、小さなもが猛火を吐く。 「あんなもの、どうやって倒すのよお ? 悲鳴というより怒りとばすようにシルヴィンが声を荒らげる。 自分たちとあの雪竜では、あまりに大きさが違いすぎる。 ちらりとレイムに視線を走らせてみたが、不思議をる青年は肩で荒く息をし、先ほどの しようもう 一撃ですっかり消耗している様子だ。 もうろう ハンに向ける。 レイムは朦朧としそうになる頭を乱暴に振り、上気した顔をファラ・ 珠を結んだ汗と乱れた金の髪がきらりと舞った。 「封じればいいんです , 簡潔に言いきったそれに、ディーノがぎよっとする。 正気を疑う目で、消耗し悩ましげにさえ見える青年を見る。 導球に導かれ訪れたここは、の明土。 たま
触手のように伸びあがり、襲いくるものをして、もは懸命に身をよじっているの 真下に禁断の地ホーン・クレインを置いていることから、飛竜はを吐くことができな まものしりぞ 。従ってこの魔物を退ける手段をもたない。逃げの一手しかないのだ。 ここの位置でレイムが上空に働きかけるのに最適であることを本能的に知っている飛竜 は、魔物のをれ、大きく動き変えることができない。高度を変えると、途中までやり ししよう かけたレイムの術に支障をきたすことも理解している。 魔物は明らかに、レイムをせんとして、攻撃を仕掛けてきている。 ただ動きを封じて足止めし、時間を取らせるだけの、湿なものたちだ。 魔物たちの目的から察するに、あの樹木から魔物が解き放たれようとしているのに、もう そんなに時間は残されていない。 いくらディーノやシルヴィンや飛竜がいて 時の驪を手に入れても、そうでなくても、 どとう ・ハンが無事ですむはずがない。 も、間近で怒濤のように溢れきた魔物を前に、ファラ ′」ちそう 魔物にとって最上級の御馳走にあたるその肉体、細胞の一片にいたるまで、魔物たちは争 ハンの血肉により強大化した魔 いあい奪い狂うことだろう。引き裂かれ食らわれたファラ・ しゆらおう し力な修羅王ディーノであろうと分が悪いはずである。たとえ伝説の聖なる 物を相手には、ゝゝ 斧レプラ・ザンをもってしても、無傷で生き残れるなどとは考えられない。 、んしつ
機嫌をとってもらいたいわけでもないのに、それがひどく寂しい気がすることに、ファ ・ハンは自分の浅ましさを感じて嫌気がさす。 「あなたが目指していたほうへ」 正確にディーノはファラ・ ハンの後を追っていた。ディーノ自身にも、どう向かえばそれ にたどり着くのかがわかっているはずである。形式的な確認にすぎない。 ファラ・ ハンのもっ個人防御の結兆は、彼らを飛竜ごとすつばりと包みこみ、さっきより もディーノはずいぶん楽になっていることを感じていた。 ふうろう 二人が合流したことにより、襲いくる風狼の数は増しているが、ファラ・ ハンの結界と光 のレピア、そしてそれらに呼応するディーノの野斧レプラ・ザンからにじむ力を前にはとて くもんうな も歯が立たない。結界に触れるや否や、苦悶の唸りをあげ消滅するだけだ。やや大きい形を したものがわずかに結界を突破しようかとするが、銀斧のひと振りであえなく散る。 勢いよく進みはじめた飛竜に、小さい飛竜はおたおたと居場所をディーノの左腕へと変え 宮 色飛竜は火炎で昶うを砒し突き進む。 まぼろしうごめ 玻周囲の氷壁には、場所によって亜にもなりながら幻が蠢いている。 別行動をとっている自分の姿など目にしてしまうと、どきりとすることもある。 横手の氷が不意に陰った。 けつか、
胸ファラ ハンを取り巻く空間が界に守られ、そこだけふいと風が凪いだ。 ひとごこち ハンはほうと急を吐く。 ようやく人心地つき、ファラ・ 自力でファラ・ しくつもの氷片にかすめられ、浅く切り裂 ハンの腕によじ上ったは、、 かれて血をにじませる白い腕の傷に、キュイと悲しげに鼻を鳴らす。 な ・ハンにごめんなさいと詫びるよう、そろそろと傷を舐め 自分のために傷を負ったファラ ・ハンはびつくりして飛竜を見る。 かく柔らかいもののくすぐる感触に、ファラ 視線を受けた飛竜は、申し訳なさそうに小さく小さく身を縮める。 「平気よ、このくらい」 うしあし 捕まえていた後ろ肢から手を放し、ファラ ・ハンは優しく言って、飛竜の頭をでた。 ハンのみは温 何もかもが凍てつかずにはいられないこんな場所にあっても、ファラ・ かく空気の色を変えるをの織を起こさせる。 生命が芽吹き、弾けようとする春の色。まばゆい陽をいつばいに受け、瑞々しく鬼やかに 咲きこばれたばかりの、可なる花のりが満ちるよう。 この小さな飛竜が卵からえったときには、もうすでに世界は崩壊の兆しに襲われてい 小さな飛竜は卵の中でうらうらと眠りながら、朽ちていく花々の匂いをいでいた。
212 みないはずがない 。もしも無にレイムがディーノと衝突しても、あれでは文句の言いよ つ、も、ない この状況から判断するに、非は一方的にディーノのほうにある。たとえどんなにまともに ぶつけられても、力量と余裕からディーノが悪いに決まっている。それすらもままならず、 ひりゅう 現実に飛竜を止めてしまったディーノ。突然に飛竜を止めたのには何かただならぬ理由が しゅうたいさら あったに違いない。でなければディーノほどの男が、あんな醜態を晒すはずがない。 っ一」ゝ し / し・ 「ディーノー 振りかえりながらどうしたのかと問いかけたレイムは、なんの前触れもなく激しく唐突に ふぶき 襲いきた吹雪に顔面をなぶられ、声を最後まで言葉にすることができなかった。 するど 細かな鋭い氷片を含むそれに、たまらず腕をあげて目をかばう。 どとう まるで集団の昆虫の大軍か何かのように、怒濤のごとく襲いきた突風は、すぐにゃんだ。 あおられ吹き飛ばされかけながら、飛竜はなんとかその場に留まった。 息をすることすらできなかったレイムは、通り過ぎた風に、ほうと安心して腕をおろす。 ディーノ : 「大丈夫かい ? 呼びかけながら顔をあげたレイムは、ぎよっと目を見開いた。 白くえる風にまれて何も見えない。すっかり取りかこまれてしまっている。 後に続いていたシルヴィンの飛竜も、ディーノの飛竜も何も目で確かめることができな こま
はうしゅ 〃時の宝珠〃を正し、世界を滅亡から おとめ 救う、翼を持っ乙女ファラ・ 1 ) ン 一つめの宝珠を手に入れた聖戦士たちは、 次なる宝珠を探して、先へと歩を進める。 しか旦則には、新たなる敵が待ちうけ、 次から亠〈と聖戦士たちに襲いかか「てくる。 さらには、もう一つの世界救済伝説を信じる ルージェス一行の攻撃も相次ぎ、四人の道程を っそう困難なものにー 聖戦士たちの世界救済冒険ロマン第四幕 " white heart な B ー 04
はうしゅ 〃時の宝珠〃を正し、世界を滅亡から おとめ 救う、翼を持っ乙女ファラ・ 1 ) ン 一つめの宝珠を手に入れた聖戦士たちは、 次なる宝珠を探して、先へと歩を進める。 しか旦則には、新たなる敵が待ちうけ、 次から亠〈と聖戦士たちに襲いかか「てくる。 さらには、もう一つの世界救済伝説を信じる ルージェス一行の攻撃も相次ぎ、四人の道程を っそう困難なものにー 聖戦士たちの世界救済冒険ロマン第四幕 " white heart な B ー 04
剛ディーノはしく光る青い瞳をか「と見開く。 まど 「思いあがるな ! 惑わされるものかー 思考のわずかな透き間にもぐりこみ、それをねじ曲げてしまうもの。 いつのまにか心の方向性を変えてしまうもの。 「俺は何からも逃げぬ ! 」 みずか 常に力強く自らを押しとおす。 ここうしゆらおう あた、 それが孤高の修羅王と呼ばれるにする彼。 王者としての格をそこなわず存在しようとする男。 にしてき者。 ディーノは氷の、をするため、を振りおろした。 聖なる護符を持たぬ彼が手にできる神聖なる物は、その不思議の銀斧しかない。 まもの 魔物に対して絶対的な力を有する銀斧。 空を切り振りおろされた銀斧から光の粉が散り、発火した。 舞い落ちる小さな火花は、周囲に吹き荒れるえた風を焼く。 反撃を開始したディーノに、白銀のの形をした風が襲いかかった。 ふうろう 次々と集まり襲いくる風狼。 ごふ
女でなければ着ることのかなわない、上等の衣装であることが一目でわかった。 ゅうが すうこう・ 乙女は姫という呼び名にふさわしい崇高さと気高さ、優雅さをもっている。 しかしはかなくしく淡い。こうしてたしかに手を取り、目の前にいるというのに消え失 ひとみ せてしまいそうに頼りない。なぜだかいたたまれない不安なものに襲われレイムは瞳をかげ らせる。 「僕にできうることならば力を尽くしましよう。なんなりと致します。お話を聞かせていた だけますか ? ・」 立ちあがった乙女は、レイムから手を放し、誠実な部の申し出にほのかに微笑んだ。 「悲しみを止めてください。これ以上、被害が広がらないように 清らかに輝き響く細い声は、せっせっと語りかける。 しんしむらさき 真摯な紫の瞳を、レイムはまっすぐに見つめかえす。 うなが 誠実に耳を傾けるレイムを促すよう、乙女はゆるりと首をめぐらせる。 迷「この地では時のを得たもが暴れております。山も都も雪竜のため、雪と氷に埋も 色れ、生きとし生けるものたちは閉ざされて凍え、深い眠りの淵に沈んでいるのです。金色の 玻聖魔道士様、どうぞ翼ある聖女に時の宝珠をお渡しになって。雪竜を封じてくださいませ」 「雪竜 : ・ 小さな頃、側仕えをしていた姫君と一緒にんのお伽話で聞いた魔物に、レイムは じよ けだか ふち
ファラ ・ハンに言いながら、レイムはその一一一口葉を自分自身にも聞かせていた。 ろうまどうし そうだ。老魔道師が関与しているなら、不安がる必要はない。 を許可し世界の救済を願った女王も、誰かが犠牲になることを望んではいなかった。 「 = 一〔われた言葉をみにするのか。つくづくおめでたいな」 ディーノはふんと鼻を鳴らした。 さいぎしんかたまり 猜疑心の塊であるディーノにとってもっとも信じられるのは、魔物に冒されていない純粋 けもの な死人と本能に頼る野生の獣だけだ。 ハンのために気をつかっているの この男は何か言うと必ずそれをまぜっ返す。ファラ・ たいき に。疲れて気がとげとげしくなっていたレイムは、溜め息をつく。 「ならばあなたは勝手にするといい」 とした口調で突き放した。 与えられた言葉に、ディーノはむっとする。 「俺がいっ誰に従うと言った ? 」 ここうしゆらおう 孤高の修羅王を名乗るディーノにとって、その物言いは、はなはだ心外である。 ああ、失言だったかと、レイムはうんざりしてうなずいた。 「そうですね」 こうてい 肯定してやる以外にない。 おか