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検索対象: 群狼の牙 : 天罰党始末
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1. 群狼の牙 : 天罰党始末

文七は、そう告げた。 弦衛門の肩ががつくりと落ちるのが、鷹一朗にはわかった。 うめ という、かって聞いたことのない、微かな呻きを捉えたのは、自分の耳だけであってくれれ 、と鷹一朗は考えた。 そしてそれを、決して人にいうつもりはない。 「とにかく、聞いて回るしかねえな」 鷹一朗は言った。 「七人もの人間をさらったんだ。何か手がかりが残っているはずだ」 「私も手伝おう」 ~ 弥四郎が一言った。 始「助かる」 「私も手下を総動員して、探索に当たります」 牙「頼んだ、親分。ーーー皆、手がかりがあったら、すぐに奉行所へ走ってくれ。叔父上も、連中 狼が何か要求をしてきたら、すぐに奉行所の方へ使いを出してください」 わず 群 弦衛門は、僅かに頷いて見せた。 「親分、できたら何人か、ここへ張り付けておいてくれないか。やはりお雪が心配だ」

2. 群狼の牙 : 天罰党始末

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3. 群狼の牙 : 天罰党始末

手は鷹一朗のものである。 あんどん いずみの 行灯の薄明かりの中で、鷹一朗はそろりと土間のほうへと動いた。左手には早、愛刀、和泉 かみかねしげ 守兼重一一尺九寸が握られている。 お雪は身じろぎもせずにそれを見守った。 音もなく土間に下りると鷹一朗は、 「・ : ・・・誰だい ? 」 と聞いた。 ぶつこうじぶんしち 「仏光寺の文七でございます」 「 : : : なんだ、親分か」 しんばぼう かぎ ちょっちん 心張り棒 ( 戸を押さえる鍵代わりの棒のこと ) をはずして戸を開けると、ぶら提灯と共に現 ~ れたのは、お雪もなじみの顔であった。 始「や、これはお雪ちゃん、遊びに来ていたのだね [ 罰お雪は、につ、と笑った。 あめ ~ 文七は受け持ちの仏光寺界隈の見回り中に、山杉屋に立ち寄っては、よく飴やら玩具やらを の買ってきてくれたりしたものだ。 しんばちろう 群「詳しくは知らないが、新八朗兄によくしてもらった、とか聞いたことがあるよ」 と、今の養父である叔父、山杉屋弦衛門がお雪に語ったことがある。新八朗とは狩野新八朗 はや おもちゃ

4. 群狼の牙 : 天罰党始末

よういちろう 鷹一朗が目を覚ますと、お雪はいなかった。 枕元には、 『よく寝ているようなので、このまま帰ります』 ふみ と文が残されていた。 もう、陽も高い。 ふとん 始だが、布団から起き出してみると、寒気がした。 罰 ( や、邪か : : ・ウ•) ~ そういえば、すこし熱もあるように思える。 の ( しかたもないことだ ) 群昨夜は、ずぶ濡れのまま帰って、たいそうお雪を驚かせた鷹一朗だった。 だが、お雪は何も聞かず、ともかくも湯に浸した手拭いで体を拭くのを手伝うと、熱いお茶 ゆき てぬぐ

5. 群狼の牙 : 天罰党始末

「昨夜遅く、こっそりと店を出ていくのを見ましたが : : : 」 「な、なんだって ? 」 驚いたのは清太郎である。だが、文七は構わず、 「佐助どんはそんな遅くに、何をしにいったんだね ? 」 多分、夜鳴き蕎麦かなにかを食べにいったのじゃないかと・ : そう言った番頭の目が、ちらちらと清太郎を見るのを、文七は見た。 「 : : : そうかい、邪魔したな」 「いえ、とんでもないことで : : : 」 「瀬戸屋さん、平伍坊が帰ってきたら知らせてくれ。ちょっと聞きたいことがあるんでな」 「は、はい」 ~ 「じゃあ。また来る・せ」 始店を出しな、文七は、鋭い一暼を瀬戸屋にくれるのを忘れなかった。 清太郎の顔は、奇妙に白かった。 牙 狼文七は、帰ったわけではなかった。 群 そう見せかけて、瀬戸屋の向かいの家に頼み込んで二階を使わせてもらい、番頭が店を出て くるのを、待っていたのである。 いちべっ

6. 群狼の牙 : 天罰党始末

「それにしても、うるさき蝉よ」 先頭の男は舌打ちをして、いまいましげに寺を見やった。 け・いんい 「おい誰か、境内の木に火をかけて、燃やしてしまえ。あのような木があるから、蝉が鳴くの 「なるほど。それは道理だ」 「油が要りますな」 さむらい 侍たちの会話を聞いた人々は、ぎよっとして振り向き、途端、 「あっー と誰かが声を上げた。 だいはちぐるま とめてあった大八車の陰から、子供が飛び出して、彼らの一人にぶつかったのだ。 しり 子供は尻もちをつき、体と侍たちを見上げた。 「あ、ざん、襷が : ・ : ・」 「なに ? あっ 見れば、男の新しい袴にくつきりと、泥の手形が出来ている。 おの 母親らしき女が飛び出してきて子供を己が胸に抱き、額を文字通り地面にこすりつけ、 「どうかお許しを ! 」 と叫ぶがごとく一 = ロった。 せみ

7. 群狼の牙 : 天罰党始末

それで、・お雪は安心したようだ。 手を振り、店の中に戻ったお雪を、鷹一朗は見送り、しばらくはその場所を動かず、店を窺 う怪しい者がいないかどうかを確かめた。 とりあえず大丈夫らしい、と見極めるど、鷹一朗は再び通りを走り出した。 向かうは河内屋である。 河内屋は、山杉屋の通り二つ向こうに店を構えている。だが、着いてみると、戸は閉さされ たままであった。 あんじしっ 本尸をくぐり、鷹一朗は裏手に回った。すると案の定、文七の激しい声が聞こえてきた。 てめえ 「なんで黙っていやがった ! 手前のせいで、卯吉は死んだようなものだ ! 」 あ”黛し 鷹一朗は息を整え、庭に入った。見れば、河内屋の主とお・ほしき男が、文七に胸倉を擱まれ て、ひいひい泣いている。 普段は多くの人に慕われる文七であったが、許せぬ相手にたいしては鬼の顔を持っているこ とを、鷹一朗は知っていた。 そうしたときの彼は、まさに別人と言っていいほどの『恐さ』があった。 「この野郎 ! あまっさえ賊に金を渡すとは許せねえ ! 手前は賊と一緒だ ! 人の屑だ ! 」 縁側では、柱にすがるようにして、娘ががたがた震えている。 鷹一朗はすっとそこへ出ていくと、 つか うかが

8. 群狼の牙 : 天罰党始末

出口側の、ついたての向こうの席から、 かわち 「河内 : ・ という言葉が、微かに聞こえてきたものである。 酔いが、さっと醒めた。その一言は、卯吉の探索に、深く関わりのある言葉であったのだ。 だが、卯吉は何事も聞こえなかったかのように、何気ない様子で店を出た。 かんじよっ 勘定をすませてしまった以上、また席につきなおすのはおかしい。 卯吉は店の左にまわると、閉じられた雨戸を慎重に動かそうとした。位置的に、ここからな ら、先刻の言葉を吐いた連中の姿が、見えるはずであった。 ( 関係ねえかも知れねえが、もしや、ということもある ) 雨戸は音を立てることなく、何とか毛筋よりは少し大きく開いた。 すきま 卯吉は、そろそろと、その隙間に顔を近づけていった。途端・ : 「がっ ! 」 凄まじい衝撃を、首筋に受けた。 ( し、しまった : : : ) どう、と卯吉は倒れた。体が動かぬ。見えるのは、土ばかりであった。 人の気配が押し包むように迫るのを感じ、卯吉は必死に動こうとしたが、果たせなかった。 こんな : ( ち、ちくしよう ! すさ かす

9. 群狼の牙 : 天罰党始末

た影が浮いている。 ふところ あいくち 船頭は脇に控え、右手を懐に入れている。間違いなく、匕首 ( 短刀の事 ) を握り締めていよ ( ただの老船頭じゃねえと思ってはいたが : : : こいつ、かなり使うな ) 鷹一朗の目に、冷たい光が凝った。 みす ( かあの御簾の向こうのすました影に斬りつけたとたん、脇から匕首をつきかけようって腹 か。・それに、感じる・せ。こいつばかりじゃねえ。この流れの速い水の中にも、何人か息を潜め てやがる ) 鼻を鳴らし、鷹一朗は刀を脇に置くと、浮かしていた腰を下ろした。 「ようきた」 「あなたさまが、投文を・ : : ・ ? 」 文七が探るように訊いた。 「そうじゃ」 「川島さまの殺しについて何かお聞かせ願えるのでしようか ? こ 「それはそこの男しだいじゃ 御簾の向こうの手が動いて、扇が鷹一朗を指した。 「やはりそうかい」 ろうせんどう こ

10. 群狼の牙 : 天罰党始末

文七は紙入れから小さく畳んだ手紙を取り出すと、それを鷹一朗に渡し、ぶら提灯をかざし こく しじようがわら 『文七どの。今宵亥ノ刻 ( 現在の午後十時 ) 四条河原にて待つ。川島殺しの情報あり』 とある。 「これだけかい ? こ 「猿の親分には ? 」 「知らせようと思いましたが、つかまらないので。それで、時間もないことでもありますし 「一緒に行ってくれ、と言うのだろう ? いいぜ。わけもないことだ」 だんな 「旦那が一緒に来てくれるなら、怖いものなしだ」 卯吉が急に強気になって言った。 ふみ 「文には、一人で来いとは書いてねえ。つまりは、旦那を連れていってもかまわないってこと それを聞くと、ふふ、と鷹一朗は笑った。 かもがわ しもがも たかのがわ 京の北から東を流れる賀茂川は、下鴨神社南の今出川口で高野川と合流し、鴨川となり、や ましら こよいい たた いまでがわ かもがわ ちさっちん