三人 - みる会図書館


検索対象: 群狼の牙 : 天罰党始末
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1. 群狼の牙 : 天罰党始末

168 そう声がして、仕切りの向こうから女中が顔を出した。手には、頼んでもいない酒がある。 「むこうのお侍さまからです」 と、言って、女は酒を置いた。 振り向くと、ひどく童顔の侍が会釈をしてよこした。 ちトでつしちょこ その侍は、自分の銚子と猪口をもってやってくると、 「よろしいかな ? 」 と声をかけてきた。 き 座敷に上がってもよいか、と訊いているのである。 ′」ちそう 三人は顔を見合わせたが、酒を御馳走になれる嬉しさもあり、男を座敷に上げた。 せっしゃ なかやまげんご 「拙者、長州浪人、中山源吾と申す」 女中が去ると、男はそう名乗った。 「拙者は境権丈。こっちは小沢志郎と川上鉄八と申す」 「これは御丁寧にかたじけない。さ、まずは一」 中山と名乗った浪人は、銚子を手にし、三人の猪口に酒を注いだ。 これを一口和み、 「むう」 うな と三人共が唸った。 さむらい うれ

2. 群狼の牙 : 天罰党始末

驚くこともなく、殺到してきた。 三本の白刃が同時に打ち込まれた、と見るや、倒れたのはその三人であった。 一人は腕を肩から斬り落とされ、一人は腿を切断され、残る一人は脳天をばっくりと斬り割 られていた。 はやわざ あまりの迅業に、侍たちの動きが止まった。 すると、涼しげな顔をして立っている鷹一朗を見て、内の一人が、 「あっ」 と声を上げたものである。 鷹一朗は、顔をそちらに向け、誰であるか気が付くと、 「なんだ、てめえらか」 と言って薄く笑った。 末 ざむらい 始 いたのは、あの『こぶ侍』の一行であった。 党 そのとき、一一階の方でも悲鳴が上がり、会合の行われている部屋から、弥四郎が出てきた。 牙表からだけでなく、屋根づたいに押し込んでくる可能性を考え、弥四郎を一一階に残しておい 狼たのがあたったようであった。 群かりの 「狩野殿、こちらは片付いた。おや ? そなたたちは : : : 」 「げえっ ! 」 は′、しん

3. 群狼の牙 : 天罰党始末

172 三人は互いに顔を見合わせ、大きく頷いた。 「よろしい」 とか言った。 「では、詳しいことは、これから打ち合わせましよう。この店を出たところで、小僧が一人、 待っております。その者が、我らが隠れ家へご案内致します。さ、先生ー 「せ、先生か・・ : : うむ。参ろう」 三人は立ち上がり、すっかり自信を取り戻した様子で、座敷を出ていった。 中村浪人は、ついたてから表をルき、小僧に頷いて見せた。 そうして、三人が小僧に連れられて行ってしまうと、大きく息をついて座り込み、げらげら と笑い出した。 心配して覗きに来た女中を、乱暴に追い払うと、中村浪人と名乗った男は、童顔の顔に凶悪 な笑みを浮かべ、 「馬鹿な爺いどもが」 とつぶやいた。 いっとき 鷹一朗は、お雪を、一刻ほども抱いていた。 あぐら 胡座をかいた鷹一朗の足の間で、いまは子供のように体を丸め、泣きっかれて眠っている。 じじ うか争・

4. 群狼の牙 : 天罰党始末

床には、しつかりと刀を握ったままの腕が残されている。 鷹一朗は休むことなく、するすると右手の三人に近づくと、こいつらの腕を斬り落とし、そ のままくるりと身を返して、左に固まっていた二人の間に飛び込むと、その足を腿から切断せ しめた。 圧倒的であった。 てめえ 「な、なんなんだ・ : ・ : なんなんだよ手前はあー 鉄治郎はもう、泣き声であった。 そのとき、後ろでも悲隝か上がり、振り向けば仲間の一人がやはり、弥四郎に腕を肩からそ がれて、泣きわめいて転がっていた。 「わあっー ~ 自棄になった二人が、弥四郎をめがけ斬りかかっていった。 始この二人、白宵にからんでいた奴らである。 だが、たちまちにして腕と足を切断され、道場に転がる羽目にな 0 た。 「うわあっ ! 」 狼「た、たすけてくれえ ! 」 群 鉄治郎に張りつくようにしていた二人が、ついに刀を投げ出して、逃げだした。 しつぶう 鷹一朗と弥四郎は、その背中に疾風の一刀を送った。

5. 群狼の牙 : 天罰党始末

116 「え ? ああっー てのひら 二人のうち、一人は足を払われ、もう一人は胸を掌で突かれて、尻をついた。 鷹一朗は、素早く白宵を背中に隠すように、三人の前に立った。 すぐに顔を上げた男たちの表情が、見る見るひきつった。 「あっ : : : 」 と誰かが言ったきり、言葉も出ない様子であった。 鷹一朗は七尺あまりの大男である。 それが不動明神のごとき怒りの形相をして、下からの燃える提灯の明かりに浮かび上がって 見下ろしているのだ。 恐ろしくないはずがなかった。 おび 怯えのあまりか、一人が腰の脇差しに手をかけようとした。と、 低く、轟くような声で、鷹一朗が言った。 「そいつを抜いたらしまいだ・せ」 す、と鷹一朗が右足を滑らすように連中の方へと踏み出した。 連中は、押されたように、尻をついたまま後ろに下がった。 とどろ ちょっちん

6. 群狼の牙 : 天罰党始末

「代わりに、少し待っていてください。なに、すぐ済みます」 文七は、戻っていた手下を呼ぶと、その男に、これから向かう場所へ、すぐに捕り方をよこ してくれるように、天野への伝言を頼んだ。 男はすぐに走り去った。と、 「鷹一朗さま」 なかなか戻らぬ三人を案じてか、弦衛門が店の外へと出てきた。 「なにか、あったのですか : おじうえ 「ひょっとすると、何かわかるかも知れないのです叔父上。ああ、心配はいりませんから、店 の中に入って、我らが戻るまで、決して外に出ないでください」 「ああ、言うとおりにしますよ」 ~ 「さ、参りましよう」 始文七が促し、三人は夕刻の道を走り出した。 らくがい めざすは洛外、東九条である。 牙 狼この頃の東九条の辺りというのは、一面の畑であった。 みずな 群ねぎ 葱やくわい、水菜などが採れ、 「京の野菜は、江戸とは比べものにならぬほど旨い」

7. 群狼の牙 : 天罰党始末

170 そこで境は、 「ああ、あれか」 と頷いて見せた。ほかの二人もすぐに、境の胸の内がわかった様子で、 「まさに」 とか、 「あの時か」 などと言いあった。 「思い出されましたか ? 」 「うむ。まったく、近頃はああした、けしからぬ者が多い」 境は胸を反って、そう言った。 いてき 「これから夷狄と、命を賭して戦おうという我らに、金出すことを惜しむとは、実に許せぬ」 「そのとおり」 「さすがは、境さんだ」 と二人が境を持ち上げると、境はますます胸を反らして、鼻息を荒くした。 「さすが、ご立派です」 中村浪人は、深く頭を下げた。 「そこで、御三人を見込んで、お話があるのですが : うた争・

8. 群狼の牙 : 天罰党始末

陽も落ちて、あたりは静かだった。 時々茄子をつまみながら、酒を注いでは呑み、呑んでは注ぎ、を繰り返していると、騒がし ろうか く廊下を来る足音と、 「お待ちを。お待ちください」 と声をひそめて言う、女中の声が聞こえてきた。 弥四郎は早くも、大刀を左腰にひきつけていた。 しつじ 足音がやんで、次の瞬間には、障子が引き開けられていた。 侍が三人、恐ろしい形相で立っていた。 例の、こぶ侍である。 すいか まさに、鷹一朗が西瓜を投げつけて懲らしめた、あの侍たちであった。 ~ 弥四郎は、うろたえている女中に頷いて見せた。 始下がれ、と無言で言ったのである。 女中は心配そうにしながらも、弥四郎にあとを任せた。 牙三人は部屋に入ると、後ろ手に障子をびたりと閉めた。 狼どの顔にも怒りが浮いている。 まね 群 「お主、あれはなんの真似だ ! 」 さかい 立ったまま、こぶ侍ーー撞か言った。右手がひくひくと動いている。いつにでも、刀を抜い うナ手・

9. 群狼の牙 : 天罰党始末

214 と評判の京野菜の産地である。 無論、人家はほとんどないから、夜ともなれば真っ暗な闇となり、伏見と京をつなぐ街道 ひとけ も、人気は途絶える。 あぜみち やってきた鷹一朗たちは、目指す家から少し離れた場所の畦道に立つ、地蔵を祀る社の陰 に、寄り添うようにして身をひそめていた。 「こいつは何とも見張り難い」 と文七が言ったように、辺りは畑のため、身を隠す場所がなかった。いまは夜が隠してくれ ているが、昼間であれば、三人は目立っことこの上ない。特に鷹一朗は、七尺余りの大男であ る。 はいおく 三人が見ている家は、以前はこの辺りの者に剣術を教えていた道場で、いまは廃屋となって いるそうだ。 ぶぎよう いまの洛外、洛中にはこうした家が結構あって、それが移り賭場になっていることは、奉行 所の方でも承知している。 ここも、そうした場所のひとつであったが、いま賭場は別の場所で開かれているはずであっ とも だが、家には明かりが灯っている。厳重に戸締まりをしているつもりでも、まったくの闇の わず 中では、僅かな明かりでも目立つものだ。 ふしみ まつやしろ

10. 群狼の牙 : 天罰党始末

境内から聞こえてくる蝉の声が、いまだ耳を聾せんばかりであった。 なか もはや八月も半ばを過ぎたというのに、蒸れた風がべたべたと肌にまとわりついて、まこと に暑し すれ違う人々は、 「暑いですなあ」 「ほんとうに。今年はいつになく、暑さがきついですなあ」 あいさっ などと挨拶を交わし合っている。 昼日中だけあって、通りには人も多い さむらい ぶつこうじ そこを三人の侍が、仏光寺を左手に見ながらいかにも威張って歩いていた。 たてじま もめんこそではかま いずれも縦縞の木綿の小袖に袴という格好で、腰には一一本の刀を差している。月代も綺麗に そ 剃っているし、着物も新しい けいゼい 序 せみ ろう さかやききれい