刀 - みる会図書館


検索対象: 群狼の牙 : 天罰党始末
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1. 群狼の牙 : 天罰党始末

226 「ぎゃあっ ! 」 髷が斬り飛ばされ、一一人は気絶してその場に倒れた。 瀬戸屋の平伍は、とっくに刀を投げ捨てて、道場の隅で泣きながら震えている。辺りが濡れ ているのは、、 る便を漏らしたのだろう。 「た、助けてくれ・ : : ・」 鉄治郎は泣いていた。泣きながらこいつも、小便を漏らしていた。 「か、勘弁してくれ・ : : ・頼むよ・ : 「もう遅い」 後ろから弥四郎が言い、鉄治郎は飛び上がった。 「だから言ったんだぜ、抜くな、と」 今度は鷹一朗である。 「ひい ! 」 てめえ 「刀を抜くって事は、手前のその目玉が、いま見ているこの有様に、足を踏み入れるってこと だったんだぜ」 「わ、悪かった : : : ま、待ってくれ、いま刀を捨てるよ ! 」 だが、恐怖のためか、鉄治郎の指は硬直して、刀から離れなかった。 「あ、あれ : : : ? ちょ、ちょっとまってくれ ! おい、嘘だろう ? まって ! いま離すか

2. 群狼の牙 : 天罰党始末

222 それは仲間も同様である。明らかに、鷹一朗を侮っている たち 全員の手が、腰の太刀に上がる。と 「おっと ! 」 「抜くなよ 鷹一朗は静かに言った。 「抜けば、しまいだぜ」 いのちご 「何だ、いまさら命乞いか ? こ 「覚悟はできているんだろうな ? こ 「あん ? 」 「刀を抜く、覚悟ができているんだろうな、と聞いているのさ 「何を言ってやがる」 おど 「抜けば、脅しゃ冗談じやすまねえぜ。刃の先にあるのは、命のやりとりだけだ。その覚悟が てめえ あって、手前らは刀を抜くのだろうな ? こ 「うるせえ ! 訳のわからねえことを言ってんじゃねえ ! 」 「そうか。わからねえか : ・ : ならば、しかたがねえ。少しばかりわからせてやる・せ」 いずみのかみかねしげ 言って、鷹一朗は、愛刀の和泉守兼重を、すらりと引き抜いた。 あなど

3. 群狼の牙 : 天罰党始末

224 若衆は両の腕の肘から先を、刀を握ったまま切断されていた。 「皆、こっちだ ! 」 弥四郎に続いて、勝手口から入ってきた文七が、全員を外に連れ出すのに、そう時間はかか らなかった。 ろうか 人質は文七に任せ、弥四郎は廊下を進んでいった。 かが じようだん 上段に振りかぶって斬りつけてきた二人の足を、鷹一朗は身を屈め、一刀で膝から切断し へいこうくず 平衡を崩し、倒れた餓鬼たちのあとには、四本の足が残って転がった。 「この野郎 ! 」 叫び、左右から打ち込まれた刀は、空を斬った。 鷹一朗が動くともなく後ろに下がったため、刀は道場の床板に食い込んで、抜けなくなっ 引き抜こうとあがく一一人の両腕を、鷹一朗は斬った。 「ぎゃあっ ! 」 悲鳴を上げ、一一人は突き飛ばされたように倒れ、血を撤き散らしつつ、羽目板にぶち当たっ て転げ回った。 ひじ がき

4. 群狼の牙 : 天罰党始末

を出し、あとは、 「おやすみなさい」 と頭を下げて、部屋に戻った。 余計なことを聞かぬ、お雪の心遣いが、鷹一朗にはありがたかった。 やますぎや せつかく『山杉屋』の養女となったのだから、 ちなまぐさ ( 血生臭いこの世の闇とは、無縁でいた方がいいのだ ) そう思っている。 この夜、鷹一朗が眠ったのは、明け方近くであった。 お雪が下がったあと、刀の手入れをしていたためである。 ′、さ ちあぶら 鞘に水が入った上に、刀の血脂をそのままにしておけば、刀は錆び、鞘は腐ってしまう。 早い手入れが必要だったのだ。 それにしても : ・ ( これくらいのことで邪を引くとは : : ・・俺も弱くな 0 たものだ ) 鷹一朗は苦笑した。 寝乱れた着流しの上に羽織を着て勝手にいくと、小鍋の中に鯉節でとった出汁が張られてい て、脇におひっと、卵が二つおいてあった。 ひめし 鷹一朗は鍋を竈にかけると冷や飯を入れ、軽く煮立ったところで卵を入れてかき混ぜ、雑炊 さや かま はおり かつおぶし だし ぞうすい

5. 群狼の牙 : 天罰党始末

ざんげき すぐさま、尋常よりも長い刀の斬撃が、雨のごとく襲ってきた。 すき わず 僅かの隙に兼重を抜きはしたが、重く迅い斬撃に、鷹一朗は、受けるだけで精いつばいであ か つばもと がっき、と鍔元で一一人の刀が噛み合った。 鷹一朗はこのときやっと、男の顔をまじまじと見た。 そうはっ 男は痩せていて、・ほさ・ほさでおさまりの悪い総髪を無理に結っている感じであった。着てい うな む こそではかま いっちょうら る小袖と袴は、一丁羅であるのか、古い血の染みが幾つも見える。歯を剥き出して唸るさま よ、 ( まるで狂犬だぜ ) であった。 つばぜ ~ それにしても、凄まじき金剛力ではある。体格的に勝る鷹一朗と、鍔競り合いで互角以上に 始押していた。 はがねす 罰きりきり、と鋼が擦り合う音が耳に障った。 牙二人ともすぐに汗だくになり、足元には染みがいくつもできた。 狼だが、鷹一朗が勝った。徐々にではあるが、相手の刀が押し返されていった。 群 男はむきになってますます歯を剥ぎだし、力を込めるものの、もはや、かなわなかった。 ついに男は、膝をついた。 じんじよっ すさ こん′」、つり・き はや さわ

6. 群狼の牙 : 天罰党始末

だが男たちは親子をぐるりと囲むと、 「いや、許さん」 「その首ここへ出せ」 などとしきりに言い立てては、母子を蹴ったり、踏みつけたりしはじめたものである。 火がついたような子供の泣き声と、タ立のような嬋の声が大きかった。 町衆は手を出さぬ。出したくても出せぬのだ。彼らのような手合いの恐ろしさをよくよく知 っているゆえ。 そのうちに、堺と呼ばれた侍がついに刀を抜いた。それを母親の横顔へ突き付けておいて、 「五両だ。出せぬというなら、小僧の腕をもらおう と一一 = ロった。 袴の代金が五両だと言うのである。これは、親子が半年は暮らせようという金額である。女 末が思わず、 「そんな無体な : ・ : ・」 天 と言ったのも当然であった。 牙 の だが堺は、 群「ならば、腕をもらう ! 」 言うなり、母親を蹴り倒して引き剥がすと、子供の腕を踏みつけておいて刀を振り上げた。

7. 群狼の牙 : 天罰党始末

126 てくれる、と見えた。 りよっけん 「狙う相手と飯を食うなどと、どういう了見だ ! 」 だが、弥四郎は意に介した様子もなく、酒を呑んだ。 「・ : : ・貴殿たちもどうでござる ? ひとつ、私と飯を食ってみぬか ? 「ふざけるな ! 「いや、でござるか。ならば致し方ござらぬ」 そで ぜんの 弥四郎は袖から十両を取り出すと、膳を除け、これを畳の上に置いて、連中にさしだした。 ごじんき 「私には、あの御人は斬れん。金はお返し申す」 「なに ! あきら 「他に人を頼むなり、諦めるなりしてくだされ」 「臆したのか ? こ 「理由は、何なりと考えてもらって結構でござる」 「冗談ではない ! 今さらそうですか、と許せると思うかー こうなれば貴様も斬るー 言うなり、境は腰の刀に手をかけようとしたが、それは果たせなかった。 なぜなら、手が柄にかかるその蔔こ、 月冫いつのまにやら、境の首にびたりと刀の刃があてられ ていたからである。 誰にも、見えなかった。 おく つか たたみ

8. 群狼の牙 : 天罰党始末

二十二日であった。 宇郷重国が下屋敷にやってくるという情報が、昨夜、鷹一朗のところへ届けられたのであ る。 いずみのかみかねしげた あいいろ 今夜、鷹一朗は、濃い藍色の無地の着流しに黒の細帯という格好で、腰には和泉守兼重の太 刀一本だけを差していた。 宇郷を斬ることについては、もはや何も感じてはいない。 ( 奴の腕がどの程度かは知らねえが、俺を頼むくらいだ。同等かそれ以上だろうぜ ) と思っている。 こよい 今宵この場で斬り合い、殺されても仕方のないことだ、と鷹一朗は考えていた。 剣士としての道を選んだ上の宿命である。 ~ 人を斬ったものは、いっ斬られても仕方がないのだ。 ( : : : 来たか ) 鷹一朗は、そろそろと刀に手をかけた。 牙人が走ってくる足音がする。 狼 ( 俺に気づいたか ? •) 群 だが、聞こえる足音は、やがて二つになった。

9. 群狼の牙 : 天罰党始末

「馬鹿が ! ぶち殺せ ! 」 てんばっとう 鉄治郎の掛け声一下、天罰党の面々はいっせいに刀を抜き払った。 勝手口を叩く音に気づいた見張りの男は、何事かとそちらへ寄り、 「なんだよ ? 」 と訊いた。 「あ、あけてくれ。大変なんだ」 れた声でそう答えが返 0 てくると、見張りはただならぬ気配を察したのか、すぐに心張り を外し、戸を開けた。 途端、風のように跳び込んできた黒い影に、男はいきなり顔面を殴りつけられ、鼻と前歯を こんとう ~ 全て折って昏倒した。 始「あっ、神坂さま ! 」 影の正体に気づいた道代が、思わず声を出したのと、障子が引き開けられたのは同時であっ ろうか 狼何事かと顔を出した廊下の見張りは、迫りくる弥四郎に気がつくと、刀を半ば引き抜いたが 群 果たせなかった。 「ぎゃあっ ! 」 しトつじ なぐ

10. 群狼の牙 : 天罰党始末

100 鷹一朗の手は早くも刀の柄にかかっていた。だが、 「あの晩は、失礼をした」 それを見ても臆することなく、浪人は深々と頭を下げた。殺気はなく、上げた顔は、ニコニ コしていた。 これには鷹一朗、毒気を抜かれた。 「いかがであろう。これから少し私につきあわぬか ? この前の非礼の詫びにもならぬが、一 、差し上げたい」 「面白い」 鷹一朗は、刀から手を離すと、懐手にし、ニャリと笑ったものである。 かみさかやしろう 「私は、神坂弥四郎と申す。見てのとおりの浪人ですー かりの 「俺は、狩野鷹一网身分は、まあ、あんたと同じさ」 一一人は互いに名乗りあったが、このとき、息がびたりとあったのを、鷹一朗は感じとった。 たまや 場所は、『珠屋』という料理茶屋の一一階である。 えど うなぎ ここは、特別に注文すれば、江戸風の鰻を出してくれるところとして、知られている。 神坂浪人が注文したのも、まさにその、江戸風の鰻であった。 だが、まずは酒である。 おく つか ふところで