奉行所 - みる会図書館


検索対象: 群狼の牙 : 天罰党始末
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1. 群狼の牙 : 天罰党始末

だが、叔母とお雪は心配して、鷹一朗に護衛を頼んだのである。 それこそ、断るわけにはいかなカった だが、何もない。 きよ、つはくじトでつ・ 期限の七日は、もうとうに過ぎているというのに、新しい脅迫状も届かず、怪しい輩も姿を 見せなかった。 いたら 「やつばり悪戯だったんじゃあ・ : : ・」 とお雪までが言い出す始末である。 だが、文七が聞き込んだところ、十軒をこす商家に、山杉屋のと同じ文面の脅迫状が、届け られていた。 かわちゃ 悪戯とは思えなかった。むしろ、河内屋の一件で、味をしめたと見ていい。 ~ 十軒の中で、金をだした店は、まだないそうである。 よりき あまのしんたろう きト史っとまちぶぎようしよどうしん 始文七の報告を受けた京都町奉行所の同心 ( 奉行所の役人「上司は与力という ) 、天野慎太郎 罰は、全てを上に報告した。奉行所ではこれを重く見て、調べにかかっているが、特に成果は上 ~ がっていなかった。 の「なにしろ、無頼浪人が多すぎるのだ」 群と、昨日、天野慎太郎は鷹一朗にこ・ほした。 「怪しいといえばみな怪しい。だからといって片っ端から捕まえて、責めにかけるわけにもい ゆき

2. 群狼の牙 : 天罰党始末

文七は、そう告げた。 弦衛門の肩ががつくりと落ちるのが、鷹一朗にはわかった。 うめ という、かって聞いたことのない、微かな呻きを捉えたのは、自分の耳だけであってくれれ 、と鷹一朗は考えた。 そしてそれを、決して人にいうつもりはない。 「とにかく、聞いて回るしかねえな」 鷹一朗は言った。 「七人もの人間をさらったんだ。何か手がかりが残っているはずだ」 「私も手伝おう」 ~ 弥四郎が一言った。 始「助かる」 「私も手下を総動員して、探索に当たります」 牙「頼んだ、親分。ーーー皆、手がかりがあったら、すぐに奉行所へ走ってくれ。叔父上も、連中 狼が何か要求をしてきたら、すぐに奉行所の方へ使いを出してください」 わず 群 弦衛門は、僅かに頷いて見せた。 「親分、できたら何人か、ここへ張り付けておいてくれないか。やはりお雪が心配だ」

3. 群狼の牙 : 天罰党始末

おど 「初めに言っただろう ? 脅しゃ冗談じやすまねえ、と。俺に刃を向けたことを、いまさら無 しにしようったって、遅えんだ」 鷹一朗は、刀を一閃させた。 鉄治郎の両の腕は、上腕で切断されて、刀を握ったまま、道場の床に、どさり、と落ちた。 ぎようしょ まもなくして踏み込んできた捕り方に、一味は一一十一名全員が召し捕られ、奉行所で手当て の後、全てを白状した。 らくがい 連中、元は洛外の道場で剣術を習っていた、その仲間であった。腕が上がり、少し強くなる と、世に怖いものがないような思いがするのは、未熟な剣士にはありがちである。 ~ しかも最近は、そうした奴らを持ち上げて喜ばす事で道場を盛り立てている輩が多いのは、 始以前に弥四郎が述べた通りである。 罰 河里鉄治郎らの通っていた道場の師も、そうした人物であったらしい 天 ととう ふろうしし 牙鉄治郎らはやがて徒党を組み、悪さを働くようになったが、これには日々増える浮浪志士た 狼ちの悪影響があることを、奉行所もみとめている。 群 連中は、昼間は決して傾いたりせず、どこにでもいるような豪農の息子や町人の顔をして、 へんばう 夜になると変貌するといった生活をしていたので、家の方でも気づき難かったようだ。 0 かいな いっせん おせ やから

4. 群狼の牙 : 天罰党始末

212 と一一 = ロった。 「な、なんですって ? こ 「信用できるかどうか怪しいが、しかし、これが今日、唯一手にすることができた情報だ。す がる価値はあると思うぜ」 「行こう、狩野殿。時間が惜しい」 「わ、わかりました、坊っちゃん ! 私も行きますー 「そう言ってくれると、思っていたぜ」 「それは言えねえ」 ぶぎようしょ 「しかし、それじゃあ、奉行所は人を出してはくれませんぜ ! 」 「仕方もない」 「狩野殿。我ら一一人で十分でござろうー 「待ってくだせえ ! 坊っちゃん、いま少し、いま少しでも、話してはもらえぬので ? こ 「わかったよ、親分」 鷹一朗は文七の耳に口を寄せると、小さな声で、 「 : : : 実はこれはな、あの鴨川で会った、 , 御簾の向こうにいた野郎が、教えてくれた話なの

5. 群狼の牙 : 天罰党始末

「旦那のせいじゃないじゃありませんか」 「や、大丈夫か、雲斎さん。顔が汚れているそ」 「え、そうですか ? 雲斎は顔を擦ったが、すると手の甲にすすがついた。 「坊っちゃん、雲斎さんが、火事を発見してくれたのですよ」 「そうだったのか。この前倒れたときといい、本当に世話をかけた」 そう言ってまた頭を下げると、雲斎は照れまくった。 「さあさ、皆、もう大丈夫だ」 文七が手を叩いて言った。 ぶぎようしょ 「帰ってくれて構わないぞ。しばらくは、奉行所の方から人を頼んで、このあたりを見張らせ 始その言葉に安心したのか、人々は家に帰っていった。 馗「じゃあ狩野の旦那、私もこれで : ・ : ・」 はおり ←「ああ、ありがとう。ーーや、羽織が焦げてしまっている。後日、必ず弁償するから、今夜の 狼所は勘弁してくれ」 群 、え、とんでもない : : こんな古着、どうせ、買い換えようと思っていたところですか ら : : : はい、失礼します」 ~ る」 こす こ

6. 群狼の牙 : 天罰党始末

「親分、俺は、嫌な予感がするぜ。だが、いまからじゃあ、聞き込みもできねえ。全ては明日 : だが、もう遅い気がするよ」 「親分、今度のことは、山杉屋だけのことじゃねえという気がする」 「ほかの商家でも、同じようなことが起きていると ? こ 「ああ [ 「わかりました。すぐに人をやって聞いてまわらせましよう」 文七は立ち上がった。 「親分、そっちの方は ? 何かめたのかい ? ー ぶぎようしょ 「残念ながら、何も。志士どもも特に目立った動きをしてはおりません。奉行所では、天罰党 ~ と志士は関係ないかも知れぬ、と思い始めているようです」 始「だと、 しいんだが」 罰 鷹一朗は、つぶやくがごとく言った。 牙 ( 金だけが欲しい連中なら、さらわれた信介が戻る可能性は、まだある ) 狼であった。 群 だがそれならば、すぐに要求があってしかるべぎである。 それがないということは、別の目的があって、さらったと考えるのが正しい

7. 群狼の牙 : 天罰党始末

ぶぎようしょ てんばっとう 奉行所は、天罰党の十五日の襲撃に備え、三十人ほどの捕り手を出して、警備に当たらせる ことになった。 あるじ 脅迫状を受け取った十の商家は、それそれ店を休み、主以下、誰も外へ出ることをしないよ むね うに厳命され、これを守っている。また、洛中の親類縁者にも、その旨は伝えられていた。 会合ま、 をしよいよ明日であった。 その前日の今日、鷹一朗は = 一条大橋側の籠、『武蔵屋』を訪ねた。 罰 店の中は遅立ちの客で込み合っていたが、 牙「ごめんよ」 狼と、声をかけると、すぐに女中が飛んできた。 「おいでなさいまし」 かみさかやしろう かりのよういちろう 「ここに、神坂弥四郎という人が泊まっていなさると思うんだが、狩野鷹一朗が訪ねてきたと らくちゅう

8. 群狼の牙 : 天罰党始末

142 「 : : : 何だ、知っていたのですか」 「ま、あれはか好きでやっていること : : : 気にしないでいただきたい」 す、と弦衛門の顔が上がった。 あきら 「 : : : 鷹一朗さま。脅迫者は、諦めたとお思いですか ? 」 ぶぎようしょ えせしし 「正直、わかりません。ただ金が欲しい似非志士であれば、奉行所の動いているを知って、諦 めたかも知れません。だが、そうでない場合は : : : 」 「諦めぬ、とー じつい 「攘夷思想はいまや、狂信的と言えましよう。夷狄は倒すべし、という題目の前には、あらゆ る行為が正当化される。国を思って戦う我らに、金を出すのは当然だ、と考えてもおかしくな なぜ 「では、何故動かぬのでしよう ? 約束の期日はとうに過ぎているというのに」 「動いているのかも知れません」 「それはどういう・・・・ : 」 かわちゃ 「河内屋にしたのと同様の手口で、どこかの店に仕掛けているかも知れない。何か聞いていま せんか ? こ しいえ。文七親分も顔を見せませぬし : : : 」 いてき

9. 群狼の牙 : 天罰党始末

ろうが ) であった。 だんな 「旦那、最近良くお見かけいたしますが、そんなにうちの団子がお気に入りで ? こ 「まあな。この固さがなんともいえねえや」 「そうでございましよう ? ・ 親父はにこにことして言った。 「歯が丈夫になった、と評判なんでございますよ」 鷹一朗は胸の内で、 ( よくいうぜ。俺の他は、ほとんど客なんかこねえじゃねえか ) と毒づいた。 まるすいあん ここは、『丸水庵」を見ることができる辻である。 末 おじ 始 いつものように、叔父の護衛をしている鷹一朗であった。 党 おばみちょ 罰 新たな脅迫もなく、最近は叔母の道代も忘れたように振る舞っている。 天 牙さすがにお雪だけは、鷹一朗からよくよく言い聞かされていることもあって、外出をするこ 狼ともなかったが、退屈で仕方がないらしく、訪ねていくと、一刻も一一刻も相手をさせられる鷹 群 一朗であった 9 ぶぎようしょ 奉行所の方では、怪しい浪人を何人か捕まえて、これを締め上げているようだが、手がかり ゆき つじ だんご

10. 群狼の牙 : 天罰党始末

り締まることで、人々から恐れられた。 彼らの目的は、悪人の『捕纒』ではなく、『殲をである。ゆえに、逆らう者は容赦なく斬 り捨てたという。 ( 人斬りが人斬りを呼ぶか・ : : ・ ) 鷹一朗はそんなことを思ったが、ロにすることはなかった。 それはともかく : ・ あきら ぶぎようしょ てんばっとう 天罰党に動きがないのは事実だが、それで奴らが諦めたと思うのは早計だ、と奉行所でも見 ているらしい 賭場の探索でも、特に新しい情報は得られていない様子であった。 いま鷹一朗にできることは、こうして叔父を陰ながら護るくらいである。 ( だが、いいかげん退屈だぜ ) 始食い物の愚痴のひとつも、出ようというものであった。 罰付かず離れず、鷹一朗はあとをついていった。何者かが弦衛門をさらおうと襲い来ても、一 ~ っ跳びで駆けつけられる距離を保っている。 のしかし、今日も何事もなかった。 群弦衛門は真っ直ぐに店に戻った。これから先、外出をする予定はない。 叔父の行動については、その日その日に、山杉屋から知らせが届くようになっているのだ。