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検索対象: 群狼の牙 : 天罰党始末
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1. 群狼の牙 : 天罰党始末

陽も落ちて、あたりは静かだった。 時々茄子をつまみながら、酒を注いでは呑み、呑んでは注ぎ、を繰り返していると、騒がし ろうか く廊下を来る足音と、 「お待ちを。お待ちください」 と声をひそめて言う、女中の声が聞こえてきた。 弥四郎は早くも、大刀を左腰にひきつけていた。 しつじ 足音がやんで、次の瞬間には、障子が引き開けられていた。 侍が三人、恐ろしい形相で立っていた。 例の、こぶ侍である。 すいか まさに、鷹一朗が西瓜を投げつけて懲らしめた、あの侍たちであった。 ~ 弥四郎は、うろたえている女中に頷いて見せた。 始下がれ、と無言で言ったのである。 女中は心配そうにしながらも、弥四郎にあとを任せた。 牙三人は部屋に入ると、後ろ手に障子をびたりと閉めた。 狼どの顔にも怒りが浮いている。 まね 群 「お主、あれはなんの真似だ ! 」 さかい 立ったまま、こぶ侍ーー撞か言った。右手がひくひくと動いている。いつにでも、刀を抜い うナ手・

2. 群狼の牙 : 天罰党始末

228 そのうちに、賭場にも出入りをするようになった鉄治郎らは、そこで、商家の次三男と懇意 になったらしい かわち 河内屋の女房の一件は、初めは金が目的であったわけではないことがわかった。 おど たまたま悪事を目撃されてしまったゆえに誘拐し、ならばついでに、と金を脅し取ることを 思いついたのだという。 もくろみ その目論見がうまくいったのに味をしめ、大店十軒への脅迫を考えたのだ。 しわざ 卯吉殺しも、連中の仕業であった。 幽霊飯屋で怪しげな振る舞いをしていたところを見つけ、これは自分たちを調べに来たので ′」うもん は、と直感し、拷問にかけて殺したと白状した。 しわざ 無論、脅迫にからんだ一連の殺しは、全て連中の仕業である。 たくら 例の偽火事騒ぎの企みを考えたのは、瀬戸屋の平伍であった。年に一度の大切な会合の日に ちを知ったとき、思いついたと言う。 まんまと乗せられ、襲撃を行った志士たちは、自分たちをそそのかしたのが、童顔の男など が / をん ではなく、本当の若衆だと知って、愕然としたと聞いた。 連中は、召し捕られた夜の明け方のうちに、さらった店に新たな脅迫状を送るつもりであっ たようだ。 人質を殺さなかったのは、ゆっくりと楽しむためであったらしい。若い娘は嬲るため。他は にせ ゅうかい おおだな なぶ こんい

3. 群狼の牙 : 天罰党始末

174 人間の仕業じゃねえ : : : 明らかに、楽しんで殺しやがった」 文七が、減多に見せない鬼の形相とな 0 て、畳にを立てた姿が、頭にこびりついている。 「坊っちゃん、間違いありません。卯吉を殺したのも奴らですー 「卯吉さんが、殺されたのですか ? 弦衛門には、初耳のことであったのだろう。 うか争・ 文七は頷いて見せた。 「それから、こいつが残されておりました」 言って懐から出したのは、一枚の紙であった。 「写しですが、文面はそのままです」 それには、 おおだな こ、つと、つあお 『京の大店、十軒。物価高騰を煽り、私腹を肥し、天下を思う我らの願いを一顧だにせず、た おの だ、ただ、欲望のままに己が事のみを思い、町衆を苦しめたること明らか。これより初め、十 五日をも 0 て殪誅を蒄する也。天罸 とあった。 「親分、十五日と期日を切ったことにどんな意味があると思う ? 」 「さあ : : : 。十五夜、月見と何か関係があるのでしようか」 「十五日・ : ・ : あ ! 」 しわざ ふところ こや いっこ

4. 群狼の牙 : 天罰党始末

106 あいづ 「幕府はともかく、会津をはじめとする東北の雄藩の武士は、たいしたものでござる。それに さつまざむらいき なにより、薩摩が幕府についたことは大きい。貴殿、薩摩侍と斬りあったことは ? 」 「ありがたいことに、ないね」 じさつだん 「私は一度ある。強敵、でござった。上段とは少し違うのだが、剣をこう上に構え はし 弥四郎は、持っていた箸で構えを再現して見せた。 しょだち すさ 「なにしろ、初太刀の気迫が、凄まじかった」 とんば じげん 「示現流ってのは、そういうものだ、ときいている・せ。あんたのいま見せたのは、蜻蛉の構 え、という奴だ」 「ほう。あれがそうでござったか。貴殿はどこでそれを ? こ 「ま、ちょっとな」 鷹一朗は薄く笑ったのみで、それには答えなかった。 「それより、江戸からは、まともな道場は消えてしまったのかい ? こ 「あ、いや、そんなことはござらん。北辰一刀流の玄館をはじめ、数々あり申す。だが、そ はたもとごけにん うしたところは稽古も厳しい。すると当節の旗本、御家人はすぐにやめてしまい、教えるのが うまし・・ : つまりはいい心地にしてくれる道場へと落ちていくというやつで、そうした道場が かす 栄え、まともな道場は霞んでしまうのでござる。それに、郊外に行けば、まだまだあり申す」 「へえ」 ゅうはん

5. 群狼の牙 : 天罰党始末

170 そこで境は、 「ああ、あれか」 と頷いて見せた。ほかの二人もすぐに、境の胸の内がわかった様子で、 「まさに」 とか、 「あの時か」 などと言いあった。 「思い出されましたか ? 」 「うむ。まったく、近頃はああした、けしからぬ者が多い」 境は胸を反って、そう言った。 いてき 「これから夷狄と、命を賭して戦おうという我らに、金出すことを惜しむとは、実に許せぬ」 「そのとおり」 「さすがは、境さんだ」 と二人が境を持ち上げると、境はますます胸を反らして、鼻息を荒くした。 「さすが、ご立派です」 中村浪人は、深く頭を下げた。 「そこで、御三人を見込んで、お話があるのですが : うた争・

6. 群狼の牙 : 天罰党始末

くまいが、誰か護衛をつけた方がいい」 「 : : : ほんとうに大丈夫、兄ちゃん ? 」 おでこが、こつん、とあたった。 「はか。もう熱なんかねえ」 「だって・ : ・ : 」 「例の脅迫状、な。本気かも知れん」 くも お雪の顔が曇った。 「なにかわかったの ? 「かもしれねえ」 「とにかく、俺の言ったことを守れよ。詳しいことがわかったら、また知らせにくる」 始「うん」 罰「じゃあ。店に戻れ。中に入るまで、見ててやる」 うた・ ~ お雪は頷くと鷹一朗の手を握り、二人は連れだって路地を出た。細い指は震えていた。 の「 : : : 兄ちゃん、気をつけてね」 群「心配するな」 鷹一朗は笑って見せた。

7. 群狼の牙 : 天罰党始末

182 来た文だけは違う、と思いたがる。男って奴は悲しいぜ ) などと、とても十九の男の考えとは思えぬようなことを、鷹一朗は思った。 「金はよさそうだ」 「ま、そこそこでござるよ」 「それにしては、いい部屋だぜ」 わ 「これは、宿の方の詫びでござる」 ざぶとん 弥一郎はあらかた片付け、鷹一朗に座布団を勧めた。 ざむらい 「実はあれから、例のこぶ侍が来ましてな」 「来たか」 「よい。 ちょいと驚かすつもりで居合いを見せたら、小便を漏らしたのでござる」 「そいつは、ちょっと : ・ 鷹一朗は、 ( 気の毒だったなあ ) という言葉を呑み込んだ。 すさ 弥四郎の居合い抜きの凄まじさは、少し想像しただけでもわかる。 じんぶう ( あの刃風を受けたんじゃあ、小便くらい漏らそうってもんだ ) であった。 ふみ

8. 群狼の牙 : 天罰党始末

176 「しかし親分、会合の場所は毎年変わります。今年の場所を知っているのも、それそれの店の 者でも、わずかなはず : : : どうして連中にわかりましよう 「それは : : : 」 うな 文七は唸った。 「あー 1 そうか ! そういうことか ! 」 「何か気づいたんですか、親分 ? 」 「山杉屋さん、廃屋で見つかったのは、六人なんですよ」 「つまり ? こ 「・ 1 ーひとり、足りないな」 うた・ 文七は、大きく頷いて見せた。 「そうなんですよ、坊っちゃん」 「いなかったのは、誰だい ? こ 「瀬戸屋の、平伍坊です 「ふむ。 : : : 親分は、連中が会合の場所を聞き出すために、平伍を連れ去った : : : そう思うん だね ? 」 ばくち おそらく連中は、平伍坊が博打好きだったのを、知っていたに違いねえ。それで狙い をつけてさらったんだ」 はいおく

9. 群狼の牙 : 天罰党始末

「わかりません。だが、心当たりがないわけじゃありません」 「それはーー」 「卯吉は私の命令で、ある事件を追っておりました。考えられる線は、それしかありません」 「親分、その事件というのはなんだ ? 」 「親分。俺は卯吉さんを友人だと思っていた。それが殺されたと聞いて、どうして黙っていら れるものか」 「 : : : では申し上げます。卯吉は、十日程前に起きた、河内屋の妻女の誘拐と殺しについて、 調べておりました。」 「河内屋だって卩 「坊っちゃん、何か御存知なので ? 」 文七は身を乗り出した。 きよ、つは / 、じしっ 鷹一朗は例の脅迫状を取り出すと、文七に見せた。 「これは : おじうえ 「叔父上のもとに、送りつけられてきたものだ。河内屋にも送られてきたかい ? こ だが、店の連中は何か隠しているようでした。まさか : : : 」 「隠す、ということは、つまりは金を払ったってことだろうな」 ごぞんじ ゅうかい

10. 群狼の牙 : 天罰党始末

おかみ 「なら、何故そのあとでも、御上にそのことを話さなかった」 「恐ろしかったのです : : : 金を払ったあとも、話せば殺すと : ・ ついに、河内屋は泣き出してしまった。 娘が縁側から下りて、父の側によると、何かを言いかけて苦しげな顔をし、ただ、父の背を 抱きしめた。 「河内屋さん、この娘はロがきけなくなってしまったのだなあー あるじ うなず 鷹一朗が言うと、主はこっくりと頷いて見せた。 文七は驚き、それからがつくりと肩を落とした。 「間違いないようでございますね と文七は言った。 ここは、文七の家の二階である。 きよ、つは′ . 、しっ 一一人の前には、河内屋が受け取った脅迫状がある。 「卯吉を殺ったのは、こいつらですよ。おそらく、なんらかのことを突き止めて、それで殺さ れたのだ」 「卯吉さんはどんな調べを ? 」 いつも見ている、と文が届い ふみ