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検索対象: 群狼の牙 : 天罰党始末
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1. 群狼の牙 : 天罰党始末

急な変更だけはしない、とそれだけは約束を取りつけてある。 ( 今日はこれまでだな ) きびすを返し、鷹一朗は通りを、大橋の方に向かって歩き出した。 今日は少し暑い。夏が戻ってきたようで、鷹一朗は笠を外した。 ぎおん その足は、祗園に向かっている。急に、白宵太夫の顔を見たくなったのだ。 しじようおおはし すると、鷹一朗は四条大橋の上で、 「もし」 と呼び止められた。 ふかあみがささむらい 呼んだのは、同じ深編笠の侍である。 「やはり、あなただ」 鷹一朗は探るように相手を見たが、笠の向こうの顔は見通せなかった。 「 : : : 誰だか知らねえが、まず、笠をとって顔を見せるのが、礼儀ってもんじゃねえかい ? 」 「ふ、ふ、そうであった」 そうはっ 侍は、紐を外し、深編笠をぬいだ。現れたのは、総髪の浪人である。 おぼ 「やはり、憶えていてくださったか」 男の顔は、闇の中で鷹一朗を襲った侍のそれであった。 ひも しらよいだゅう かさ

2. 群狼の牙 : 天罰党始末

140 「なくていいんだもん」 お雪は、よっ、とかけ声をかけて起き上がった。 「どうせ、貰いものだし。持ってみたかっただけ」 「何だ、そうか」 「あ ! ぬ、とお雪の顔が鷹一朗に迫った。悪戯が成功したような、そんな笑みが浮いている。 「な、なんだよ」 「大丈夫だって」 ぽんぽん、と鷹一朗は肩を叩かれた。 「兄ちゃんを残して、お嫁になんかいけるわけないじゃん」 「はあか」 あき 鷹一朗も呆れ顔で顔を突き出した。互いの鼻が、ちょん、と触れ合った「 おじうえ 「くだらねえこと考えてねえで、さっさと嫁にいって、叔父上たちを安心させてやれ」 べ、と舌を出し、お雪は鷹一朗から離れると、 「そうだ ! おみやげあけなきや。おみやげ、おみやげ、つとーーーあれ、かたいなあ、この紐 もら い 4 学・ら ひも

3. 群狼の牙 : 天罰党始末

114 おび が、間違いなかった。怯えを表ににじませもせず、背をしゃんと伸ばし、無頼の徒を見据えて それを守るように立っているのは、顔なじみの下男であった。 どくろ さむらい 商家を背にした二人を囲むように立っているのは、燃える髑髏や、斬り落とされた侍の首、 まゆ といった、思わず眉をしかめたくなるような柄の着物姿の若い男たちで、腰には脇差しのみを さしている。 ( 何だ、餓鬼じゃねえか ? •) わかしゅまげ 下男の方へと近づいた顔は、月代こそ剃っているものの、どう見てもまだ、若衆髷が似合う 顔であった。 「少しばかり、俺たち三人の相手をすれば、一両くれてやる、といってるんだぜえ」 唇を突き出すようにして、男が言うのが聞こえた。 「楽しめて、それで金がもらえるんだ。いいことだらけじゃねえかよお」 「なにおう 「いや、まっぴら」 りん 凜と、白宵は言った。 その顔がまた、涼しげであった。 さかやき ぶらい

4. 群狼の牙 : 天罰党始末

道代はいま自分ができること : : : 娘を抱き、背中を撫でてやることに専念した。 道代が聞いた物凄い音とは、鷹一朗が道場の扉を蹴り破った音であった。 そこそこ広い道場には、十五名ばかりの若衆がいて、突然の乱入者に仰天した様子であった が、それでもすぐに立ち上がって鷹一朗を半円に囲む形になった。 せとやヘいご その中に鷹一朗は、白宵に絡んでいた連中と、そしてさらわれたはずの瀬戸屋の平伍の顔を 見つけていた。 「なんだあ、手前は ? こ 言ったのは、おそらくはこれが首領であろう男である。 てつじろう たけはた かわさとじえもん 「・ : : ・竹畑村の豪農、河里治衛門の次男、鉄治郎だな」 ~ 男が、ぎよっとした顔になった。 てんぼっとう がき 始「天罰党が、まさか餓鬼の集団とは思わなかったぜ。俺や慎太郎も、まんまとだまされた。だ が、悪さが過ぎたな」 ←「誰なんでえ、手前は」 狼すると、平伍が鉄治郎に近づぎ、何事かを耳打ちしたものである。 群 「 : : : そうかい。山杉屋の用心棒か」 鉄治郎の顔には、いやらしい笑みが張り付いていた。人を見下し、小馬鹿にする笑みが。 ものすご しらよい な ぎよってん

5. 群狼の牙 : 天罰党始末

「ふ、ふざけてるんじゃねえそ ! 歯を剥きだし、男が怒り狂った犬のような顔になった。 「この場で裸に剥いてもいいんだぜ ! こいといったらこい ! 」 「やめやがれ ! 」 下男が、男が伸ばした腕にからみついたが、これはなんなく振りほどかれ、殴りつけられて 昏倒したようであった。 落ちた提灯が、めらめらと燃え上がった。 ころく 「へへ、これで邪魔者はいなくなったぜえ」 わず 三人は押し包むように、白宵に迫った。さすがの白宵の顔も、僅かに青ざめた。 ~ 途端、鷹一朗は走った。走りながら、 党 罰 と男たちに呼びかけた。 天 牙連中が振り向いたときに見たのは、鷹一朗の拳であった。 狼「ぎやっ ! 」 群 手前にいた男は、その場で体を回転させ、後頭部から地面に叩きつけられた。 「な、なんだ うわっ こんとう なぐ

6. 群狼の牙 : 天罰党始末

だがそれには構わず、 おじうえ一おばうえ 寂父上、叔母上は : : : お雪は、帰っているかワこ と鷹一朗は訊いた。 をしおられますが・ : : ・」 「そ、そうか」 「あの、すぐにお知らせをーー」 「いや、待った ! 」 立ち上がりかけた番頭を、鷹一朗は押しとどめた。 「お雪だけを呼んでくれ」 「はい」 ほどなくしての奥からお雪が現れ、鷹一朗を見ると驚いた顔をした。 「兄ちゃん、どうしたの ? 「ちょっとこい」 鷹一朗はお雪の手を引いて店の外に出ると、そのまま脇の木戸に飛び込み、義妹の白い頬に 顔を寄せた。 「ど、どうしたの ? : いいか。これからしばらくの間、決して外出をするな。叔母上もだ。叔父上はそうはい ほお

7. 群狼の牙 : 天罰党始末

ゃんを驚かしているだろうよ」 「だといいんですが : : : それより親分」 卯吉は酒の臭いのする顔を近づけた。 「ありゃあいったい何者ですかね ? 旦那は、御公家さんのようなことを言ってましたが」 「わからねえ。仮に御公家衆だとしても、なんであんな回りくどいやり方で、坊っちゃんに会 せんどう おうとしたのか : : : それにあの船頭。おい卯吉、おまえ、気づいていたか ? 「油断ならねえ奴でしたね [ 「おう。だが、坊っちゃんを殺せるとは思っちゃいなかったろう。狩野の坊っちゃんは、恐ろ しいくらい強えからな」 文七がしみじみというと、卯吉はごくりと唾を飲み込んだ。 「そんなに、ですかい ? ー 始「おう : : : 。そうか、おまえにはあの時のことを、話していなかったんだな」 罰「あの時、といいますと ? 」 こいし くらいしゃ 目に、小石町の蔵石屋に、押し込みがあったろう ? 牙 おぼ の「憶えておりますよ」 群卯吉が、たちまち嫌な顔となり、 ( 無理もないことだ ) にお

8. 群狼の牙 : 天罰党始末

「旦那のせいじゃないじゃありませんか」 「や、大丈夫か、雲斎さん。顔が汚れているそ」 「え、そうですか ? 雲斎は顔を擦ったが、すると手の甲にすすがついた。 「坊っちゃん、雲斎さんが、火事を発見してくれたのですよ」 「そうだったのか。この前倒れたときといい、本当に世話をかけた」 そう言ってまた頭を下げると、雲斎は照れまくった。 「さあさ、皆、もう大丈夫だ」 文七が手を叩いて言った。 ぶぎようしょ 「帰ってくれて構わないぞ。しばらくは、奉行所の方から人を頼んで、このあたりを見張らせ 始その言葉に安心したのか、人々は家に帰っていった。 馗「じゃあ狩野の旦那、私もこれで : ・ : ・」 はおり ←「ああ、ありがとう。ーーや、羽織が焦げてしまっている。後日、必ず弁償するから、今夜の 狼所は勘弁してくれ」 群 、え、とんでもない : : こんな古着、どうせ、買い換えようと思っていたところですか ら : : : はい、失礼します」 ~ る」 こす こ

9. 群狼の牙 : 天罰党始末

180 伝えてもらえないかい ? こ うかが みあし 「あ、狩野さまでございましたか。伺っております。どうぞ、お御足をおすすぎになってくだ さい」 「そうかい。じゃあ、使わせてもらうぜ」 鷹一朗は運ばれてきた桶で足を洗うと、きれいに拭って板の間に上がり、女の案内で廊下を 進んだ。 「か来ることを、前もって聞かされていたのかい ? こ お見えになったら、すぐにお通しするように、と 「ふうん」 こじゃれ 通されたのは、庭の一角の茶室めいた、小洒落た離れであった。 けんそう 表の喧騒もここまでは届かず、実に静かである。 「神坂さま、狩野さまがお見えになりました」 女中がそう声をかけると、がらり、といきなり戸が開いて、弥四郎が顔を出した。 「やあ、来てくださったな」 子供のように笑う弥四郎に、鷹一朗の顔も思わずほころんだ。 「さ、入ってくれ。 : : : あ、佳代さん、すまぬが酒を : ・ 「はい」 おけ ぬぐ ろうか

10. 群狼の牙 : 天罰党始末

142 「 : : : 何だ、知っていたのですか」 「ま、あれはか好きでやっていること : : : 気にしないでいただきたい」 す、と弦衛門の顔が上がった。 あきら 「 : : : 鷹一朗さま。脅迫者は、諦めたとお思いですか ? 」 ぶぎようしょ えせしし 「正直、わかりません。ただ金が欲しい似非志士であれば、奉行所の動いているを知って、諦 めたかも知れません。だが、そうでない場合は : : : 」 「諦めぬ、とー じつい 「攘夷思想はいまや、狂信的と言えましよう。夷狄は倒すべし、という題目の前には、あらゆ る行為が正当化される。国を思って戦う我らに、金を出すのは当然だ、と考えてもおかしくな なぜ 「では、何故動かぬのでしよう ? 約束の期日はとうに過ぎているというのに」 「動いているのかも知れません」 「それはどういう・・・・ : 」 かわちゃ 「河内屋にしたのと同様の手口で、どこかの店に仕掛けているかも知れない。何か聞いていま せんか ? こ しいえ。文七親分も顔を見せませぬし : : : 」 いてき