暮林 - みる会図書館


検索対象: 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか
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1. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

ったかしら」 「ヤクザの女組長に、ちょっかいを出してるヤンキー少年のドタ・ハタコメディみたい らヒンシュク ? 」 「おまえ、あやかの前でそれ言うなよ」 ひたい 一方、演出家の暮林も、額に汗を浮かべている。 「ーーー先生、あの二人、なんとかしたほうがいいんじゃ : : : 」 「じゃあ、その、きみが注意してくれますか」 先日二人の演技中に口をはさみかけた暮林は、あやかと陽の両方から、 「なんですかっ」 と殺気だった眼でにらまれて、すごすご引き下がってしまったのだった。 きみが言ってくれと振られて、 「いや、それは : : : 」 みね と、助手の峰も口ごもった。 「で、でも、こんなんで、例のシーン大丈夫なんですか」 「例のシーン : : : 例のシーンですか : : : うむむ」 うなる暮林。 「いまさらナシには、できませんよねえ、やつばり」 それは、舞台の最大の呼び物ともいうべき、あやかと陽のキスシーンだった。 った

2. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

230 暮林が、声をうわずらせて、そう言ったとき、恐怖に怯えた目で、あやかを見ていた友樹少 年の首が、かくんと後ろにそれた。 「おい ! 森田くん、森田くん」 「だめだあ、意識ぶっとんじまってらー」 「森田くん、しつかりしてください、森田くん ! 篠原くん、きみは、なんてことを言ってく れるんですか」 暮林が、あやかを責めた。 「そもそもきみが、相手役にもっと優しく接していたら、こんなことにはならなかったんです あしゆら あやかは、阿修羅のような面相で、暮林をにらみつけた。 「あたしがいけないって言うんですか」 「え、あの、その : : : 」 「あたしが優しくしてたら、陽は降板しなかったって、そうおっしやるんですか」 「し、篠原くん : : : 」 「でも、あたしが優しくしてやっても、陽はぜんぜん戻ってきやしないじゃありませんかっ ! それどころか、親切にされると不気味だとまで言われて、それでもあたしが全面的に悪いって 言うんですか ? ええ ? 」 「すみません ! ぼくが言い過ぎました」 こうばん おび

3. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

234 「どーしましよう、センセイ ! 客席のほう、どえらい騷ぎになってますよ、あやかさんがテ ばくちく レビで言った内容が、陽くんのファンの子たちに流れたらしくてーー舞台に爆竹投げ込んでや るって、わめいてて、実際、外に買い物に走ったコまでいるんですよ ! もうヤジ飛ばされる くらいじやすみませんよ ! 」 「念のため警察呼んだほうがいいんじゃないですか、センセイ」 「それより、思いきって舞台自体を中止にすべきじゃ : : : 陽の代わりもいないし : : : 」 「その必要はないわ」 椅子に足を組んで腰かけたあやかが、尊大に言った。 「陽が来ないときは、あたしが一人で舞台に立ってやるわよ」 暮林が、また、う、んとうなった。 「もう、めちゃくちゃだ、」 そのとき、 「あ、おい」 人り口のほうが急にざわめき、陽が息を切らして駆け込んで来た。 暮林が、がばっと身を起こした。 その顔が、救世主でも見るみたいに明るくなった。 「江上くん ! 」 陽は、真っすぐに暮林の前まで歩み寄ると、勢いよく頭を下げた。 いす

4. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

と、彼らににじりよって強要したが、途中でむなしさに気づいて、落ち込んでしまった。 ( くっそー、最低だわ ) けいこ カップに二杯目の紅茶をガ・ハガバ注ぎ人れ、イッキ飲みし、あやかは稽古に行く準備をはじ めた。 しかし、稽古に行ったら行ったで、もっと腹の立つ出来事が待ち受けていたのだった。 しのはら 「あー、篠原くん。今日からこの子が江上くんの代役をやってくれることになりましたから」 くればやし わざとらしいほど愛想のいい顔で、演出家の暮林がひょろっとした男の子をあやかに紹介し こ 0 」もり・たともき 「も、森田友樹ですっ、よろしく、篠原さん」 「 : : : 。昨日の村瀬とかいう子はどうしたんですか」 ナイフのような目で、あやかは暮林を見た。 いっしんじようつごう 「いや、あの、その、村瀬くんは一身上の都合で : : : 」 張 主暮林がロごもる。 薇 ( また逃げたわね ) ぶぜん あやかは憮然とした。 ( これで最初のコを人れて三人目よ。みんな、なんて根性がないのつ ) ら」 むらせ

5. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

190 「うそだろ : : : 」 くちびる 陽の唇から、乾いた声がもれた。 かんべき あれがオレの代役 ? で、今、完璧だって言われてた : 「もう、きみに関してはまったく問題はありませんよ、森田くん ! 短期間で、よくここまで せんさい 上達してくれたもんです。繊細な感情表現が、まったく素晴らしい。本番もこの調子でがんば ってくださいね。きみはぼくらの期待の星です」 暮林が早ロでまくしたてるあとから、スタッフや共演者も口々に森田を褒めたたえる。 「サイコーだよ、森田くん ! 「この役はすでに、きみ以外考えられないよ」 あんたい 「これで舞台は安泰だ 「プラボー、森田くん ! 」 陽は立ち尽くしたまま、動けなかった。 はんきよう 頭の中で、暮林たちの言葉が、ぐわんぐわんと反響する。 ( なん : : : だよ : ・ : ・ ) ( なんだよ、これ ) ( あいつのほうが、オレよりずっとイイっていうのか ) ( あいつは、あやかの演技についていけるのか ) ( オレはできなかったのに、あいつはできるのか )

6. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

146 : いいですか、このシーンが終わったら、みんなして、いっせいに森田くんを褒めるんで きゅうけい すよ。どんなささいなことでもいいから、褒めて褒めて褒めまくるんです。それから、休憩時 間もなるべく篠原くんと接触させないようにして、とにかく彼が舞台を降りるなんて言いださ ないよう細心の注意を払うんです」 「 : : : 苦労しますね、先生」 「実は最近抜け毛がひどくてね : : : 」 暮林が、ごによごによとつぶやいたとき、シーン最後のセリフを友樹少年が言い終えた。 今だよ、きみ、と目で合図して、暮林はまず自分が立ち上がり、盛大に拍手をしながら言っ ( 0 「いやあ、、素晴らしい演技だったね ! 天才じゃないか、きみは ? プラボ 1 、森田くん ! プラボー さあ、みんなも一緒に ! 」 その声を合図に、スタッフも手を高く上げて拍手した。 「プ一フポー、森田くん ! 」 「プラボーし」 ( ったく、なんなのよ、あの・ハカ騷ぎはっ ) いす 壁際のパイプ椅子に、あやかはダン ! と腰をおろした。 逆サイドでは、スタッフがぐるりと友樹少年をとりかこみ、「いい演技だったよ」、「アカデミ

7. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

こう長く居場所が知れないのでは、プロダクション側も困惑しているだろうし、実際、陽の マネージャーは疲れはてている様子だった。 ( 陽との約束なんて、知ったこっちゃないわ。もともと顔の痣が目立たなくなるまでマンショ ンにいてもいいって言い出したのは美鈴なんだから ) が、小柄で気弱そうな顔をした陽のマネ 1 ジャーは、あやかの姿を目の端にとらえるや、 『僕は何も見ていません』という態度で、そそくさと離れていってしまった。 追いかけようとしたところ、志貴に、 「あやかさん、急いでください」 とせかされて、話をすることはできなかったのだった。 ( なんで、誰もかれも、あたしの顔見ると逃げ出すのよっ ) こいつもそうだ と、罪もない代役の男の子を、こめかみをひくつかせてにらむと、立ち上がりかけていた男 こしくだ の子は、再び腰砕けになって座りこんでしまった。 きゅうけい 「あー、休憩にしましよう、ね ? 」 張 くればやし 主演出家の暮林が助け舟を出した。 薇各自が動き始めると、男の子はよろよろと暮林のほうへ歩み寄り、べそかき顔で訴えた。 「先生、、江上くんはいっ復帰するんですか、」 「そ、それは : : : 」 あいっ はし

8. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

252 で・ : ・ : オレとおまえと、ただ二人きりで : : : 』 鈴の音が響く中、陽は客席に背中を向けた。 幕が降りた。 「プラボー ! 」 真っ先に叫んだのは、暮林だった。 そして、数十秒後、舞台は爆発的な拍手に包まれていたのだった。

9. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

そでぐち また、反対側の袖ロでは演出家の暮林が、じい , ~ ~ んとした顔で、 「やつばり篠原くんと江上くんを、この役に選んだぼくの目に狂いはなかったんですね : : : 」 と感動の言葉をつぶやいた。 客席では美鈴が、ときどきあやかと陽のセリフにうなずいたりしながら、真剣な表情で舞台 を見つめている。 その周りで、陽のファンの女の子たちが、吐息のような声でささやいた。 「・ : : 陽くん、いつもと、ちょっと違う」 「うん : : : でも、なんか : : : いつもより、ドキドキする : : : よ」 : さ」 「篠原あやかも・ 「うん : : : 」 「すごく : : : 危険な感じで : : : 」 「うん : : : 」 「どうなっちゃうんだろ、あの二人 : : : 」 張 の 薇あとは沈黙して、ひたすら舞台に視線を向けた。 『なぜオレの前に現れた。なぜオレに秘められた真実をつきつけ、選択を迫る。おまえは何者

10. 薔薇の主張 : 悩める女優篠原あやか

みよう 「美鈴に妙なことを言うな、おまえら ! 」 「美鈴ですって ! 」 「かばったわね ! やつばりこのコが本命なんだ ! 」 「違うってつつ ! 」 「どーせ、あたしたちなんて、あんたから見たらオバさんよ。つき合うなら、そりや若い子の ほうがいいでしようよ ! 」 「あの、、女子中学生ってなんのことでしようか」 「んまー、トボける気ね ! ムカつく ! 」 「江上くん ! 江上くん ! 暮林です、聞こえてますか ! 」 「あんたたち、いいかげんにしなさいよ しゅうしゅう 皆がてんで勝手に声を張り上げ、もはや誰にも収拾のつけようがないのでは、という状態に なったときだ。 ン ガチャ と、派手な金属音が響き渡った。 張 主 の 薇とっさに、そちらのほうを振り向いて、あやかをはじめとする一同は目をまるくした。 すがら ロビーに備えつけてあるタ・ハコの吸い殻人れが床に転がり、その向こうに、白い。ハンツスー 网ツに身を包んだエレガントな美女が立っていた。