《主な登場人物紹介》ま ・讀輝・ ・永・ 大陸最古にして最強の魔術 冥界の女王との不死の契約 師の称号「覆麦」を受け の証「ジェスの刻印」を持つ 青年。魔王を倒そうとする。 継ぐ少女。 1 7 歳。 ・腐王・ ・災・ 亡き永の父親の肉体にとり 魔王の三人目、最後の影法 ついた魔性。強大な魔力を 師。少年の姿をしていて、 持ち、影法師を操る。 水を司る。 こ一もを
召還して永とともに電華を倒した。そのあとに残されていた剣こそ、唯一魔王を倒すこと のできる、ジェスの影から作られた魔剣「影」だった。 そして、ついに魔王と死力を尽くした闘いが始まった。強大な魔力で深手を負った永を 守るため、瞳輝は自らの血でもって火妖を呼び出し、破夜女の全能力を魔王にぶつける。 その瞬間「影」に嵌めこめられていた黒い宝石が砕け、魔王の眼から血が流れた。魔王 は自らの眼をえぐって「影」の力を封じていたのだ。本来の力を回復した「影」を持ち、 くうな 永は深々と魔王を貫いたー だがそれは、真の魔王ではなかった。「風の空奈」と呼ばれる 影法師ーーー魔王の子供ーーだったのだ。 次に瞳輝と永の前に立ちはだかったのは「地のハ牙巳」という影法師だった。はじめは くすし 栄養失調で倒れた永を助ける薬師として、ふたりに近づいた八牙巳は、コウサの街の元首 わな から地虫退治を依頼された、という名目で地底の罠へ、永と瞳輝を誇ったのだ。 またしても、壮絶な闘いが始まった。地を司る地妖が、ハ牙巳につくか瞳輝につくか。 永を守りたいという瞳輝の激しい想いが、勝利を呼ぶ。八牙巳も魔剣によって倒された。 しれんようド冖もう 本物の魔王を求めてふたりは老魔女・紫蓮の妖征網の力を借りようとした。だが紫蓮の 答えは「魔王はいない。その足跡を知りたくばサナンへ行け」というものだった。 サナンの街についたふたりは領主、可褂の歓迎を受ける。だがそれは、巫女破摩とそ れを操る少年姿の影法師「水の災波」のしかけた罠だったのだ : ・ じむし やがみ
〈『ジェスの契約』前編のあらすじ〉 世界最大の街リイジャスの南東に位置する交易都市ソウ八。この街に、大陸最古にして とうき 最強の魔術師の称号「破夜女」を受け継ぐ歳の少女、瞳輝が養母の西湖と住んでいた。 だがこの街は近ころ物騒だった。若い魔女や巫女が何者かに襲われるのだ。その下手人 は雷華という女妖。若い女を攫い、さらに瞳輝に襲いかかろうとした時、ひとりの青年戦 士が現れ、女妖を退けた。 一彼の名は永。産い瞳には深い絶望を秘め、額には冥界の女王ジスとの契約の証「ジ = スの刻印」が刻まれていた。目的を果たすまでは死ぬに死ねないおぞましい刻印がー 「を沙へ案内を頼みたい。魔王の綺を破れるのは、おそらく破夜女しかいない : ・ 魔王、という = 葉を聞いて、瞳輝の中に復讐の炎が燃えあがる。魔王こそ、瞳輝の母親 先代の破夜女の輝予螺を殺した妖魔。憎んでも憎みきれない仇だったからだ。 きゅうてき そして永にとっても魔王は仇敵。彼は永の父親の肉体を乗っとったうえに、祖父を殺し たのだ。即ち永は、自分の「父」を殺さぬかきりジェスの契約から解放されない、という おぞましい運命を負いながら、何百年も生きつづけていたのだ。 西湖がとめるのも聞かず、瞳輝は永と不沙山へ向かう。だが、その前に立ちふさがった ・らいト・・フ ふうよう のは、ソウ八で会った女妖の雷華。その背後に雷妖がいることを見破った瞳輝は、風妖を
190 る 「何を、言うの卩」 ぞうお 親友を殺された憎悪に、西湖の瞳が燃える。 「何をしたの卩おまえは、いったい何をしたの、叉巳に ! 輝予螺ばかりか : : : おまえは何 を考えているの卩」 魔王その人によって、友人を変えられたことを、西湖は信じて疑っていない様子だった。淡 い色の瞳が、強い感情に輝いている。怒りと憎悪に染まった西湖は、これまで見たことがない ほどに強く見えた。 「何もしておらぬさ」 いたずら まゆ 魔王はいかにもおかしそうに答える。眉をひそめるふたりの魔女に、悪戯つ。ほい視線を投げ 「いや、したことは、したな。叉巳 道化師のような衣装に身を包み、顔を隠した魔術師に、魔王は声をかける。 「おまえの素顔を見せてやるがいい」 はず 命じる。そして、叉巳は逆らう気配もなく、すぐに仮面を取り外した。 瞳輝は息を飲む : ・ : ・仮面の下から現れた、その素顔に。人間ではありえない。目も鼻も口も 耳も・ : : ・何もない、のつべらとした顔にー る。 ひとみ さみ
・ : 母を奪われた憎しみと、魔王の血を引くこの子への恐怖に、私はこの子の心を、癒しよう がないほどに傷つけてしまった」 血の気のない白い肌ーー・頬をつたって、透明なしずくが流れ落ちる。 「この子が私を術にかけ、甘えてきている時、本当にそれだけを求めていたことがわかったの ・ : なぜ、抱いてあげなかったのかしら。もっと早くに : ・ : なぜ」 = んで、破摩は少年の体を抱き寄せる。 「弟なのに・ : ・ : 災波、災波」 おもも 後悔に身をもむ巫女の姿を、永は沈痛な面持ちで見つめた。 災波は : : : あの少年はおそらく、影法師たることに、何の意味も見出してはいなかったの だ。魔王の眠りとともに、自由になった子供は、ただひたすらに肉親の愛情を求めて、この街 に来たのだろう。 破摩は破摩で、その秀でた霊感で、彼の内部にひそむ、魔性の影を見出し、恐れたのだ。 人と人の結びつきの、なんと簡単によじれることか。愛に飢えた少年は、姉を人形に仕立て ることで、やさしさを手に入れ、そして待っていたのだろう : : : 誰かが、自分の命を断ってく れるのを。 運命の皮肉と呼ぶべきなのか ? いい や違う、と永は思う。 魔王さえいなければ、その悲劇は起こらなかった。災波の母親は攫われることもなく瞳輝の はだ ほお さら
65 ジェスの契約一後編ー 母親もまた、あのような酷い死に方をすることもなかったはずだ。 ましようおさ 魔王よ : : : 父の体を奪い、悲劇の種すらも楽しんで蒔く魔性の長よ。 瞳輝の震える体を抱きしめる腕になおも力をこめながら、永は固く決意した。 じ。ゅばく 必ずおまえを倒してやろう。ジ = スの呪縛からの解放のためだけでなく、おまえのためにこ れ以上不幸な人間が出ないためにも。 目覚めるがいし : ・ : そして、自分の前に姿を現せ。その時こそ、おまえの最期だ : ・ 世界中が、不安に震える。妖霊が騒ぎ、魔術師たちが、突然歪みはじめた世界の気に狼狽す いわむろ かくせい 暗い、今では誰もその場所を知らぬはずの岩室で、魔王が覚醒しようとしていた。 る。 むご ゆが 0 ろうばい
とても大好きだった母さん。それを、殺した魔王。 復讐の種子が、瞳輝の心にまかれたのは、まさにその瞬間だった。 「西湖、私は魔王を倒すわ : : : 許せない。絶対に、倒すわ」 幼い少女が、きつばりと義母である魔女に言いきる。 かたきう 「母さんの仇を討つの。私、絶対に討つの」 せりふ あの日ロにしたそのままの台詞を、夢の中で、幼い自分がロにする。 その時ーー 声が鏘いた。 「嘘だよ、まだその女は、すべてを語りきってはいないよ」 少年の声だった。夢の中の瞳輝は聞いたこともない、だが今夢を見ている瞳輝は知っている 「教えてあげようか、あなたの母親の死んだ、本当の理由を ? こ 幼い少女が、西湖とその声のする方向を交互に見つめる。 「知りたくはないのかい ? ー どうしよう ? 少女が首をかしげる。 「瞳輝、耳を貸してはだめ ! 」 西湖が悲鳴に近い叫びをあげる。 ふくしゅう
。ほろりと落ちる。 「気の短い娘だ : : : 話の腰を折るものではない」 あき 呆れたように言って、魔王はさらに続けるーー・皮肉げに、自らの言葉で追い詰められていく 西湖を見つめながら。 もくろみ 「その女は役に立ってくれたよ。おまえを大切に育ててくれた : : : わたしの目論見どおりに。 まさかあの小僧が現れるとは思わなかったが、それでもともに旅することにより、おまえはい うれ よいよ力を強めた。嬉しい誤算というものだな。影法師を皆失ってしまったのは、いささかま をいくらでもつりは来るというものだ。本当 いったが : : : まあ、それでもおまえが手に入れま、 ここまでうまくことが運ぶとは、運命とやらに感謝したいぐらいだよ。女ーー」 最後のひとことは、西湖に向けられた一一 = ロ葉だった。やさしげな美貌の魔女は、びくりと身を 強張らせる。 「褒美をやろう。おまえは、わたしの命に忠実に、この娘をここまで案内してくれたのだから な」 そうはく 残酷な・ : ・ : 残酷な宣告。蒼白な養母の顔に、瞳輝は心臓を鷲みにされたような気がした。 おそらくーー西湖は、何も知らなかったのだ。ただ母を : : : 輝予螺を心配して、それで魔王 の退屈しのぎの罠にかかった。かかってしまったのだ。そして、母が自刃したあと、魔王は別 の興味の対象として、彼女の心を覗きこんだ。その中には、幼い自分のことがあって : : : すぐ こわば ほうび わな のぞ わしづか みずか びばう
性格ではかちんとくるものだった。 「ま、そうね」 うなずいてはみるが、だからといって、すぐに食事に集中できるものではない。 消えたという西湖 : : : 大切な養母。それから姿を見せなかった紫蓮。 まわ どんどん自分の周りから、大切な人が消えていく。原因がわかれば、捜すことだってできる はずなのに・ : ・ : なのに。手がかりのひとつもない、泣きたくなるような現実。 「そうね」 もう一度つぶやいて、瞳輝は大きく息をついた。 「瞳輝 ? 」 「一度、ソウハに戻りたいの : : : 西湖が消えたというのなら、屋敷に何か手がかりが残ってい るかもしれないし。本当は、魔王をさっさと倒してから、捜そうと思ってたんだけど、そちら 編のほうでは、今のところ何もできることはないし : : : 」 しっそう 一それに、やつばり心配だった。西湖の失踪の原因が何であるかはわからない。わからないが 契ゆえに、心配も募る。 スもしも、自分を捜して彼女が旅をしているのだとしたら、どんな偶然で魔王と係わってしま うかもしれない。そんな危険な目にあわせるわけにはいかない : ・ : かの魔性は、近づく者にと びきりの不幸を撒き散らすから。
しかし、魔王はそれに対して、ゆっくりと足を進める。両者の距離は、縮まることはあって 、も広がることはなかった。 「嫌よ : : : 誰が・ : ・ : 」 ようやくのことで、そうつぶやく。だが、男は頓着しない。 一歩、一一歩 , ーー近づいてくる。恐ろしい予感に、瞳輝は心臓が凍りつくような気がした。 「いや・ : ・ : 嫌よ ! 来ないで ! 何度もかぶりをふりながら、瞳輝は叫ぶ。あの手に触れてはならないーーそれは直感。 ましよう たましい あの、すべてを無に帰す手に触れてはならない。あれは魔性の手。魂までも奪われる ! 婉と微笑む魔王の手から、瞳輝は逃げる = ・ = ・逃げつづける。 しかし、それはついに終わりを告げた。あとずさる瞳輝の首筋に、生暖かいものが触れたの 編振り返る。 一そして、彼女は見た。闇の鎖に繋がれた、女の姿を ! 契 の ス 「わたしの餌だよ」 男はあっさりと答える。まるで、見られても何のこともないように。 ちそう はら 「人の恐怖は、我らにとって、この上ない馳走 : : : わたしは、孤独にはもう飽きたのだよ。同 0- 」 0 えさ われ とんちゃく こお