激、外来性を満たした保険事故として、有責処理されることになった。 死亡保険金額は四〇〇万円。 ひつばく 経営が逼迫している機械加工工場主としては、のどから手が出るような金に違いな 。保険証券上、受取人はその会社になる。 手続き上でも、保険料は会社が負担していたし、最初の契約のときに、それぞれの 被保険者と会って了解を得ていることから、保険金が会社に払われても、どこからも 功文句の出ないところだった。 き調査の結果、事件性はどこにも認められず、周囲の状況から自殺もありえない。ま 起 して、死亡保険金目当ての殺人などという可能性は、まったくなかった。 件 この会社の社長は、鮮やかな処理を見せた 事 険「うちはこんな状態です。たとえ、この四〇〇万円があっても、せいぜい生き延びら ぜれるのは、二か月でしよう。 < の死は私に教訓を与えてくれた。また一から出直しま な すよ。保険金は福島にいる遺族に払ってあげてください。退職金も、香典も払えない 三ような私なのですから」 第 保険金を会社に払うためには、遺族の了解を得なければならない、 という保険会社 の意向を話した私に、何のためらいもなく出された回答だった。
れなかったようなモラルリスクが多発するようになった。 私が、主にかかわってきたのは損害保険の方である。 現在、金融ビッグバンによる保険の自由化で、損害保険会社も生命保険を扱うよう になり、同じように生命保険会社も、損害保険を扱う別会社を創立した。 それぞれにまだ、暗中模索の動きをしているようである。 保険業界も大変だ。保険料の自由化に続き、外資系保険会社の通信販売を主体とし 件た日本進出、日本経済の低迷、それに加えて、このような事件の続発が一層、保険市 金場の冷え込みにつながっている。 保私は、保険学者でもないし、評論家でもない。単なる調査員として、人が経験でき せないような事件を追いかけてきた。 動保険の持つ意義や社会性を、学術的な見地から話すつもりはない。あくまでも、私 間の経験した事件を通して考察してみようと思っている。 世 私は、この経験をもとにして、保険金詐欺にまつわるミステリー小説を七冊ほど出 四版した。その内容とこのカレー事件とを比較してみると、犯行する側の計画性や緻密 第 さはともかく、現れた結果は小説の比ではない。 カレー事件や、埼玉保険金殺人疑惑などで垣間見せる闇の紳士・淑女たちが織りな こ ちみつ
152 0 さんには、わずか二か月の短期間に生命保険会社五社に、総額一億八五〇〇万円 の保険が掛けられていた。 当初、検視にあたったのは現地の八重山病院・大浜院長だった。原因に疑問を感じ た大浜院長は、司法解剖で死因を調べることをすすめる。 彼は解剖に反対した。しかし、警察の強固な要求に屈する形で、司法解剖が行われ しかし、そこで出された結論も「急性心筋梗塞ーであった。 東京に帰った彼は、早速、保険会社各社に請求を起こした。 契約直後に、多額の保険金事故発生。当然のごとく、保険会社は疑問を感じたはず である。ある社は、無収入状態の彼が、巨額の保険に加入した不自然さを挙げ、支払 いを拒否した。また、別の会社は、 0 さんが契約の前年に自律神経失調症などの治療 を受けていたことを告知しなかった告知義務違反を主張し、やはり支払いを拒んだ。 八六年一一一月、彼は生命保険会社を相手取って、保険金支払い請求を提訴した。 一審の東京地裁民事部は、九〇年二月、 「 0 さんの症状は軽く、告知義務の対象となる『重大な事実』にあたらない」
死亡保障五〇〇〇万円以上であれば、本人確認のために第三者による調査が行われる。 その後、契約者 ( または、被保険者 ) との面談が行われ、契約内容と本人の意思で 加入かどうかが確認される。その時に、第三者確認の調査を受けたことと、契約に対 して間違いないことを確認する意味で、書類にサインをすることになっている 特に、会社契約の場合、必ず本人確認をすることが法的に義務付けられている。し かし、和歌山カレー事件では第三者確認をしたと、国会議員の調査団には回答してい るが、もし確認が行われたならば、被保険者 ( 保険をかけられている人 ) 、保険契約者、 契約を担当している外交員の住所がすべて同じという異常さに気づいたはずである。 しかも、実体のない会社 ( 休眠会社 ) との契約である。その不自然さに気づかないほ うがおかしい。「第三者確認をしたという書類が残っているから、間違いなく確認をし た」と林真須美容疑者は主張しているのだが、書類上のことは後から何とでもなる代 物である。 本庄事件においても、国友商事 ( 八木容疑者が社長 ) が受け取りの会社契約であり 説ながら、三人の被保険者に対しては、どの保険会社も第三者確認を行っていない。し 解 かも、その確認を行わなかった生保会社の外交員は、この三人の被保険者が八木容疑 者と懇意であり、八木容疑者から多額の借金をしていたことを知っていたというので
あるため、外交員の協力なしでは不可能である。それなのに、なぜ、外交員が逮捕さ れないのか。その理由は、生保会社のスポンサーとしての力と政治力によるものとい 、んよ、つ ・警察もマスコミも手を出せない生保会社 警察は政治の圧力で何とでもできる。しかし、マスコミはスポンサーの意向には逆 らえない。和歌山カレー事件の時、でさえ容疑者は元外交員と報道しただけで、 保険会社の責任については何ら言及することはなかった。 本庄事件についても、現役の外交員が八木容疑者に協力していたにもかかわらず、 テレビ、新聞には保険会社の名前すら登場しなかった。これらの外交員が逮捕されて も保険会社の名前は出ない可能性がある。 新潟の少女監禁事件においても、犯人の母親は現役の生保外交員であったが、保険 会社の名前は報道されていない。スポーツ新聞ですら報道していないのだから、徹底 説した情報管理が行われているのではないだろうか 解 は本庄事件に多くの人員を投入していたが、多額の保険金が一人にかけられ ていた不自然性や、外交員の協力については報道していない。意図的に触れないこと
がマスコミの了解事項になっている 本庄事件ではある被害者が生保会社の責任追及のため自分にかけられていた保険契 約書 ( コピー ) の引き渡しを要求したが、住友生命だけが「不正な契約がなかったと 認めるなら渡す」と理不尽な条件をつけてきた。そのことの非を追及していた被害者 に対して本庄警察署の担当者が「生保をつつくな。痛い目にあうぞ」と恫喝する始末 である。 その担当者に言わせると、被害者が生保会社を責任追及するたびに本庄警察署に連 絡してくるとのことであった。警察を通じて被害者を恫喝しているのと同じことであ り、警察と生保会社の間に正しい距離と緊張関係が保持されていない証左でもある。 今までに多数の保険金殺人事件があるが、共謀において生保会社が家宅捜索もされ なかったのは、こういう癒着があったためなのだろうか。これでは公正な捜査ができ るとはと、ってい田 5 、んない ・これからも続く保険金犯罪 本書でも指摘しているが、保険金犯罪がなくならない要素として、 ①他人に保険金をかけられる ( 会社契約 ) どうかっ
怪我の程度も同じ二人がもらった賠償金、保険金は、 < さんが四〇〇万円強、さ んがなんと七〇万円というとんでもない差がついたのである なぜこんな差がつくのだろうか。過失の問題もあるが、さんは保険会社が持って いるマニュアルに従ってパターン化された過失割合を適用されたからである。 その上、 < さんには自分の車の保険から、搭乗者傷害保険が適用されたが、さんに は、それを請求することを教えてくれる人がいなかった。保険会社は、請求のないも のには支払わないのが常識なのだ。 このように運、不運はあるだろう。しかし、専門知識を持っている人にとっては当た り前のことが、一般の人には分からない問題となる。 ただし、 < さんがこれで保険のおいしさを知ったらどうなるだろうか。このパタ 1 事ンから、保険金詐欺の常習犯となる場合だってあり得るのだ。 険基本的には、保険で儲かることはないと思っていなければならない。痛い、つらい 思いをするより何ごともないことが一番の幸せなのである もう一度、保険の原点に返ろう。万が一のために保険はあるものなのだから
33 第一章埼玉保険金殺人疑惑 五月ニ十九日未明、元バチンコ店店員 ( 六一※注Ⅱ森田昭さん ) が変死。元店員 には妻が一億数千万円の保険金の受取人になっており、この保険料は同市内の金 融業者男性 ( 四九※注八木容疑者 ) が支払っているとされ、県警は水死事件と の関連を含め慎重に調べを進めている。 行田署の調べでは、水死した無職男性は一九九五年六月十四日午後、行田市須 加の利根川で見つかった。黒っぽいセーターに黒ズボン姿で、死後約一週間たち、 同署は事故死として処理。男性には、外国人の妻を受取人に保険金約三億円が掛 けられており、妻が保険会社に請求し、その後、約三億円が支払われた》 有料記者会見 今回の事件で特徴的なのが、八木容疑者のパフォ 1 マンスである。マスコミを相手 に連日「有料記者会見」を開くという前代未聞の行動に出たのだ。 それは八木容疑者ばかりではなかった。アナリエ容疑者、森田容疑者など、疑惑の 中心人物たちが、次々と登場、自分たちの″無実〃を訴えた。 この有料記者会見は、土・日・祝日を除いた平日午後七時から、国友商事の事務所
たのは彼女だった。彼女は、その風貌通り、冷静かっ的確な回答を行った。 男の自信喪失は、そのように装っていただけで、実際はかなりのふてぶてしさを備 えていたのである それは、傷害後遺症事件の解決を見たときにわかった。 彼が請求してきた事案は、眼球の周りを強打したため、視力が矯正不能にまで低下 したというものである この保険で彼が詐取をもくろんだ保険金は、一億円に近いものだった。 私の調査によって、保険契約時に既往症としてその症状が存在していたことが証明 程されたのだ。 の彼に連絡を取り、郊外のファミリ 1 レストランで会うことになった。そこで私は彼 取 に、契約時に既存していた症状であること ( 告知義務違反 ) 、並びに損害保険の三要件 詐 険 ( 偶然性、急激性、外来性 ) の欠如ということで、無責を申し入れた。 保 ここで、彼の態度が一変した。私を、買収にかかってきたのである。 最初から、三〇〇〇万円という数字を提示してきたことは、並々ならぬ彼の欲求を 第 表しているものとしかならない 私は、この結論をすでに保険会社側に通告しており、彼が無責を納得しない場合は ふ、つぼ、つ
210 保険を熟知した代理店が契約を取っている場合、何か事故があったときの支払い保 険金に、信じられないほどの差がつく例があるのだ。一例を挙げよう。 交通事故というのは、全く、同じケースというものはないといわれる。しかし、似 たような事故はよく発生するのだ。現在の自動車保険は特別な例を除き、ほとんどが 小談代行付きの契約である。この契約がくせものなのだ。 < さんの場合、事故にあったとき自分の保険を取ってくれている代理店から適切な アドバイスをもらった。事故に対する自己主張をするように、というものだった。 代理店の担当者は、 < さんの話をよく聞き「 << さんにはその事故を回避する方法は なかったですよね。相手の保険会社との話し合いのとき、そのことは絶対に曲げない でください」といってくれた。 その主張を通した結果、 < さんの過失として車の修理期間中、代車費用を負担する ことで示談が成立。 < さん自身、怪我で入院したので代車は必要なかったのである。 一方のさんだが、加入している保険会社が「相手も保険に入っているので、任せ てください。保険会社同士の話し合いだから、もめることはありませんから」といわ れ、すべてを委任した。ところがさんの過失は三〇パ 1 セントで話し合いがっき、 そのまま推移したのである。