借金のカタに八木容疑者の運転手をしていた。 ・九八年一一一月森田考子容疑者の母の同居人 ( 女性Ⅱ六〇歳前後 ) が病死。保険金 がらみのうわさが流れた。 ・九九年二月八木容疑者から借金があったといわれる埼玉県本庄市の居酒屋経営 者が農薬を飲んで自殺 ・九九年二月八木容疑者からの借金を苦にして、パプ経営の男性 ( 五〇歳 ) が自 分の経営するパプのステ 1 ジで首吊り自殺。 ・九九年二月八木容疑者の長男が経営する人材派遣会社から鉄工所に派遣されて いた男性 ( 三九歳 ) が埼玉県岡部町のアパートで焼死。 ・九九年五月森田昭さん ( 六一歳 ) が変死。 ・九九年 飲食店経営者 ( 年齢不詳 ) が服毒自殺。八木容疑者に借金があった といわれる ・九九年 男性 ( 年齢不詳 ) が車内で排ガス自殺。八木容疑者の友人だったと いわれている。 ・九九年七月日本生命の女性外交員 ( 五〇歳前後 ) が水死。 ・九九年 男性 ( 年齢不詳 ) が急死。八木容疑者の愛人の妹と偽装結婚させら
んどもらえなかったらしい。それなのに連日連夜、八木容疑者が経営するスナックで 朝まで大量の酒を飲まされ、衰弱が進んでいったようである。 そして九五年六月一四日、利根川で水死体になって発見された。遺書があったため、 自殺と認定されて約二億八〇〇〇万円の保険金がアナリエ容疑者に支払われた。 それにしても尋常でないのは、八木容疑者に関連する人たちが大勢、死去している ことである。 うわさレベルのものも含めると、その数はなんと総勢一〇名以上にも及ぶ。列挙す 程ると次のようになる。 の・九五年六月八木容疑者から借金のあった佐藤修一さん ( 四五歳 ) が利根川で水 取 死。自殺と断定され、二億八〇〇〇万円が支払われた。 詐 険・九七年夏男性 ( 四〇代 ) が群馬県下久保ダムに車ごと飛び込み自殺。八木容 保 疑者に借金があったといわれる。 一一・九八年三月元運送業の男性 ( 五三歳 ) が埼玉県加須市で首吊り自殺。八木容疑 第 者からの借金を苦にしていた。 芻・九八年一二月八木容疑者のもとに出入りしていた男性 ( 三八歳 ) が首吊り自殺。
て一般市民として生活をしているものもいる たくら だが、これらはあくまでも氷山の一角であって、保険金詐欺を企んで保険金が支払 われたケースはこの何十倍、いや何百倍もあるはずである。 そのことは、私のように現業に携わってきた人間か、その業界にいる人間にしか、 計り知れない問題なのだ。 ところが八木容疑者には、数多い生命保険業界のプレーンがいた。前述した日本団 体生命の・が筆頭だが、そのほかにも八木容疑者のかかわっていた多くの生保レ ディ 1 たちがそうである。その存在が、八木容疑者の犯罪を助長することになったと い、んよ、つ 八木容疑者は、必然的に、彼らから保険業界の調査力不足、民事事件に対する警察 の消極的な姿勢などを基礎知識として、たたきこまれていたはずだ。 ただ、警察が消極的な姿勢をみせるのは、あくまでも人命にかかわらない単なる保 険金詐欺事件に限ってのことである。これに殺人がからむとなると、まったく様相が 異なってくる。 この点を、八木容疑者は、錯覚していたのだろう。
上申書 話は前後することになるが、県警がこの事件の捜査を進めるにあたって大きなきっ かけとなったのは、ある人物が提出した上申書だった。 その人物が、武まゆみ容疑者が九八年一一月に偽装結婚したといわれる建脇保さんで ある。 そもそも建脇さんが本庄市に来たのは約一一〇年前のこと。当時、部品関係を扱う仕 第事をしており、八木容疑者とは単なる取引相手として出会ったのだという。 殺その後、九五年に彼は寝具などの製造会社を設立したが倒産。八木容疑者に割り引 険いてもらっていた手形を不渡りにしてしまう。八木容疑者に対して借金ができてしま 玉ったわけだ。そして、それがきっかけで、八木容疑者の金融会社を手伝うことになっ 一その建脇さんもまた、八木容疑者らに命を狙われていたというのである。 第 彼が提出した上申書の要旨は次の通り。
7 A 」し、つ まずさん ( 運送業Ⅱ三八歳 ) 。彼もまた、「マネキンーで借金を重ねていた一人だ ったが、 週刊ポストの取材にこう答えている。 《一時は、私が死んで、女房に保険金が入ればそれで八木の借金を返済することがで きる。残された家族が八木との関係を完全に絶っことができるのなら、それでもいし と思っていた》 ( 『週刊ポスト』二〇〇〇年四月一四日号より ) もう一人はさん ( 三二歳 ) だ。彼の場合、父親も八木容疑者に借金があり、それ を苦にして自殺したと言われているが、週刊ポストの取材に次のように答えている 《出される酒は透明のボトルに入った焼酎で、この酒がいくら水で薄めても全然薄く ならないのです。店に行くと、このポトルが一度に 3 本ぐらい出てきました。 とくにムリャリ飲まされた記憶はないが、気がつくとグラスはいつも酒で満たされて いる状態で、毎回ボトル半分から 1 本は飲んでいた。だから記憶がなくなることもし ばしばでした》 ( 同 ) そして、さんは本庄署に対して、《私は大同生命に八木から強要されて入りまし たが、契約にあたっては大同生命の営業職員は八木と共謀していると思われ、正当な ( 中略 )
森田さんはまともにとりあわなかったと一一一口う。その結果が、 引警告したともいう。だが、 命を落とすことにつながったのだろうか 建脇さんは、埼玉新聞のインタビューに応じ、「死ね。死にたい日を決めろ」と迫ら れていたことを告白している。 建脇さんによると、八木容疑者の会社を手伝っていた九八年二月ごろ、リウマチを 患ってアパートに寝ていた際、八木容疑者が一人で訪れ、建脇さんをベッドから引き ずり下ろし、保険の名義変更用紙を持ち出し、「夫の欄に自分の名前を書けーと怒鳴っ に A 」い、つ 八木容疑者が一時間にわたって執拗に迫ったため、早く引き取ってもらおうと、仕 方なく用紙にサインした。しかし、自分の姓を「武ーと書くよう強要された。不安に なったため、知人に依頼して住民票を取り寄せたところ、自分が武容疑者の戸籍に入 る形で婚姻させられていることが分かった。 その日から数日後、八木容疑者が再びアパートに来て、今度は「死ね。死にたい日 を決めろ。でも、保険加入から一年経過していないから自殺はだめだ。事故死でいし 死ねないなら、中国人を使って殺してやる」とまくしたてたと言う。 その後、八木容疑者は三日ほどの間に数回にわたって建脇さんのもとを訪れ、同じ しつよ、つ
当然のように、保険料の掛け金が数か月で支払われなくなる。 これが数か月続くと、保険契約は失効になる。生保レディーとしては、このケ 1 ス がいちばん恐ろしい。二か月くらいは、自腹で立て替えることもある。これは、生保 の業界では日常茶飯事のことで、保険料を払うのが本人でなくてもいいという、暗默 の了解にもなっているようだ。 それにも限界があって、契約の紹介者である八木容疑者に、泣きつく。立て替えた 二か月分が融資される場合もあるが、それはそのまま彼女の借金になる。 その段階で八木容疑者の考えていたことが実行に移される 程「解約にしたくなかったら、俺が掛け金を払うから、受取人を俺にしろ」と強要、合 の理的に自分が保険金受取人となるのだ。 取 八木容疑者が、この手口を使って数多くの保険契約の受取人になっていることは、 詐 金 目 5 象こ難くない 険梦イ。 保 この手に引っかかって抜き差しならなくなり、自ら命を絶った生保レディーもいる 一一とうわさされている。さすがに、彼女の保険金までは、八木容疑者の手に入らなかっ 第 ただろうか :
建脇さんが八木容疑者らの第三の標的だったのだろうか。 ちなみに、建脇さんが上申書を提出してまもなくの九月一八日、武容疑者との離婚 届が提出され、同時に彼に掛けられていた生命保険も解約されたという。 僻金漬け 八木容疑者をよく知る人物は、その手口について「自分が経営するスナックの飲食 代のツケを返せなくなった常連客に仕事や住居を与える。生活を完全に面倒見てもら っていたので、保険加入でも偽装結婚でも言いなりだった」と話す。 県警の捜査幹部は「多額の借金の担保として保険加入を了承させるのが八木容疑者 のパターン。おとなしそうな客を選んで標的にしていたようだ」とも語る。 ちなみに「マネキンーの料金はスナックというわりにはバカ高いものだったという 「一回行けばビール数本で三万円ぐらい取られる。ひどいときには七万 5 八万円。一 か月で六〇万円請求された人もいる」という人もいる。 だが、八木容疑者は強くッケの支払いを求めることもなかった。だから客は安心し て酒を飲み続ける。そしてある客は「栄養剤ーと称してもらった大量の風邪薬を飲ま
翌日、八木容疑者から「昨日なんで殺さなかったんだ」と怒鳴りつけられた。そば に武まゆみ容疑者がいて「チャンスは二度と来ない」とばかにしたよ、つな言い方をさ れた。 【事故死して親孝行を】 同年一一月、持病のリウマチが悪化、国友商事にはほとんど行っていなかった。 翌年一月、八木容疑者がアパートに来て「そんなに体が悪いなら早く楽になって親 孝行すれよ、、。 ( しし五月になれば自殺でも保険金が下りるが、今は交通事故死しかない 対向車線にはみ出し、大型とぶつかれば一〇〇パーセント死ねる。このまま生きてい 窺るより、事故死して親孝行をした方がいい、よく考えろ」と言われた。 殺その後も「催眠薬を飲み排ガスを車内に引けば苦しまないで死ねる」と言われた。 険【署名しろ】 玉九八年一一月、八木容疑者がアパ 1 トに来て一枚の紙を差し出し「署名しろ」と脅迫 され、言うがままに署名した。その後、武容疑者の戸籍に入れられたかもしれないと 一思って、住民票を請求したら武容疑者の戸籍に入籍していた。 第 建脇さんは、九八年九月、森田さんと会って「このままでは八木に殺されるぞ」と
最初の殺人 ? また捜査が進むにつれて、佐藤修一さんの死にまつわる疑惑も深まりつつある。 まず、一九九五年六月、アナリエ容疑者と結婚していた佐藤修一さんが行方不明に なった際、八木容疑者が知人の男性に、利根川に架かる特定の橋の下流で遺体を探す ように詳細に指示をしていたことが判明してきたのだ。その橋とは、本庄と伊勢崎を つなぐ坂東大橋だった。 第調べによると、八木容疑者はその知人男性に遺体発見の場合には一〇〇〇万円の報 殺酬を支払うことを約東した上に、橋への詳しい道順を教え、「橋の欄干でほこりが取れ 険ている部分があるから、そこを起点に下流を探せ」と指示したというのである。男性 玉は実際に指示どおり遺体を捜しに出かけたが、発見することはできなかった。捜査本 部は、八木容疑者がなぜ佐藤さんが利根川で水死していると考え、具体的な場所まで 一挙げることができたのか重大な関心を寄せ、関係者から詳しく事情を聞いている。 第 また佐藤さんが、八木容疑者の勧めで保険に加入していたことも分かってきた。八 木容疑者の長男 ( 三一歳 ) が、埼玉新聞の取材に対して、その事実を明らかにしたの