13 第一章埼玉保険金殺人疑惑 殺人疑惑」ーー・その事件の全貌解明 に向けて、埼玉県警捜査一課と本庄 署がついに容疑者逮捕に踏み切った のである。 逮捕されたのは八木茂 ( 五〇歳 ) 、 森田考子 ( 三八歳 ) 、アナリエ・サト ウ・カワムラ ( 三四歳 ) 、武まゆみ 庄 ( 三一歳 ) ーーまさに疑惑の渦中にい た人物たちだった。 見 会本庄署で容疑者逮捕の記者会見が 本開かれたのは、二四日午後四時一〇 捜分のこと。会見場には新聞、テレビ など、マスコミ各社の記者約六〇人 以上が詰め掛け、逮捕の発表を待っ 年ていた。そして、一斉にカメラのフ ラッシュがたかれる中、加藤久夫・ たかこ
本庄署長が、やや緊張気味に発表を読み上げた。 「本日、本庄署に本庄市内の金融業者らによる保険金目的殺人・同未遂容疑事件捜査 本部を設置いたしました。なお、偽造結婚で金融業者ら四名を逮捕いたしました。逮 捕罪名は公正証書原本不実記載・同行使であります」 捜査本部の前につく名前を戒名と呼んでいる。この戒名を見て、記者たちの胸のな かには「おやっ」という思いがよぎった。確かにこの事件は世間では保険金目的の殺 人容疑事件ということになっている。マスコミで疑惑が浮上してから約一〇か月。マ スコミの関、いは、いっ県警が強制捜査に踏み切るか、ということだった。それにして いきなり捜査本部の戒名が「保険金目的殺人・同未遂容疑事件ーとは。 しかも、逮捕容疑は偽装結婚に絡む公正証書原本不実記載・同行使。「これだと弁護 士は、別件逮捕を厳しく追及するだろうな」と思った記者も多かったに違いない。し かし、この戒名こそ捜査側の長い裏付け捜査への自信を示したものと受け取れた。さ らに、偽装結婚は保険金殺人に密接に関連している問題でもあった。会見に同席した 県警本部の本田忠男捜査一課長は「 ( 殺人容疑についても ) 当然視野の入れている。本 件の関連事件とみており、別件逮捕ではない」と明言した。 八木容疑者ら四人の逮捕容疑は次のようなものだった。
3 目次 プロローグなぜ、保険金犯罪なのか 第一章埼玉保険金殺人疑惑 逮捕 事件の登場人物たち 埼玉新聞第一報 有料記者会見 記者暴行事件 風邪薬 5 上申書 借金漬け 最初の殺人 ? 再逮捕硯 第ニ章保険金詐取の方程式 二四億円一七社
再速捕 浦和地検は二〇〇〇年四月一五日、森田昭さんと川村富士美さんに掛けた保険金の 受け取りを目的として偽装結婚をさせていたとして、八木容疑者と三人の女性容疑者 を公正証書原本不実記載・同行使の罪で、浦和地裁に起訴。翌四月一六日、本庄署の 捜査本部は四人を再逮捕した。逮捕容疑は川村さんに多額の生命保険を掛け、市販の 風邪薬を大量にのませて殺害しようとしたとする殺人未遂だった。四月一六日、日曜 日の午後五時から約一時間、殺人未遂容疑での再逮捕を受けた捜査本部の記者会見が、 本庄署の食堂で開かれた。加藤久夫・本庄署長が用意した発表を読み上げた。 「本日、金融業者ら四名を保険金目的殺人未遂容疑で再逮捕しました。被害者は被害 当時本庄市内在住の < 男 ( * 注Ⅱ川村富士美さん ) である。被疑者四名は共謀の上、 知人の < 男を殺害してその生命保険を騙取しようと企て、平成一〇年五月ころから平 えんげ 成一一年五月下旬ころまでの間、総合感冒薬を同人に大量に嚥下させるなどして、右 給合感冒薬の長期過剰服用による薬害により同人を殺害しようとしたが、平成一一年 五月三〇日未明、同人が居住付近病院に保護を求め、通報により駆け付けた警察官に へんしゅ
二人が出会ったときは、外尾被告が四〇半ば、山口被告は三〇を越えたばかりの年 齢だった。ここに、常識では計り知れない男と女の現実がある。 この件については、裁判がどのように動いているかわからないので、軽々しく結論 は出せないが、これまでの情報を総合すると主導権を握っていたのは、外尾被告の方 じゅばく らしい。悲惨な結末になったが、 山口被告は男の暴力と呪縛から解き放されて、この 数年の間になかった平穏なときを過ごしているのかもしれない 埼玉保険金殺人疑惑に登場する女三人も形は異なるが、長崎・佐賀の山口被告に共 阯通する点がある。両方とも絶対的な支配権を持っ男に振り回されていた。 方 公正証書原本不実記載 ( 女性一一人の偽装結婚を画策した ) ・同行使容疑で逮捕され、 の ずれ殺人容疑に切り替えられて、厳し 詐殺人未遂容疑で再逮捕された八木容疑者は、い 険い取り調べを受けることだろう ( 四月二六日現在 ) 。 保 この五〇歳の中年男に、なぜ三人の女が隷属したのか これだけの悪事に片棒を担がせるということは、女たちにかなりの影響力を持ち、 第 それをフルに行使していることを示している。 逮捕された女性以外にも、複数の愛人がいるようだが、大勢の女性たちを惹きつけ
あるため、外交員の協力なしでは不可能である。それなのに、なぜ、外交員が逮捕さ れないのか。その理由は、生保会社のスポンサーとしての力と政治力によるものとい 、んよ、つ ・警察もマスコミも手を出せない生保会社 警察は政治の圧力で何とでもできる。しかし、マスコミはスポンサーの意向には逆 らえない。和歌山カレー事件の時、でさえ容疑者は元外交員と報道しただけで、 保険会社の責任については何ら言及することはなかった。 本庄事件についても、現役の外交員が八木容疑者に協力していたにもかかわらず、 テレビ、新聞には保険会社の名前すら登場しなかった。これらの外交員が逮捕されて も保険会社の名前は出ない可能性がある。 新潟の少女監禁事件においても、犯人の母親は現役の生保外交員であったが、保険 会社の名前は報道されていない。スポーツ新聞ですら報道していないのだから、徹底 説した情報管理が行われているのではないだろうか 解 は本庄事件に多くの人員を投入していたが、多額の保険金が一人にかけられ ていた不自然性や、外交員の協力については報道していない。意図的に触れないこと
102 保険金殺人の統計上の推移 保険金殺人は、それこそ大正時代からあったが、その数が顕著に増えていったのは、 第二次大戦後の困窮時代を越え、日本経済が発展を見せだして以降である。 警察庁が、犯罪統計上「保険金殺人」という項目を新しく設けたのは六七年、それ 以来七五年までに二七件の保険金殺人が起こり、その後八五年までの一〇年間に七九 件という数にまで増えた。そして、最近の九七年までの一三年間に発表された数字は、 五八件となっている。 もちろん、この数字には和歌山ヒ素カレー事件、長崎・佐賀保険金殺人事件、埼玉 保険金殺人疑惑は入れられていない これは、あくまでも摘発された事件の数であり、疑いは持たれたが立件にまでいた らなかった事件は含まれていない じつは保険金詐欺の殺人事件を立証するのは、大変困難な作業なのである。逮捕し て取り調べるまでには、長期間の内偵を重ね、かなり自信を得た場合にのみ逮捕する。 内偵の段階で、捜査の継続が放棄されたものが、数限りなくあるはずだ。
ち、五三本が定期保険であった。定期保険の場合、少ない掛け金でも五〇〇〇万円、 一億円の保険金を設定することができるのである。 残りの一一本は、定期付終身保険であった。定期付終身保険とは、終身保険に保険金 額の大きい定期特約 ( 保険 ) がついたもので、生保会社の利益商品であり、外交員へ のインセンテイプ ( 成功報酬 ) も高い。八木容疑者の保険契約は、一人に対し多重契 約で多額の保険金額が受け取れるようになっていた。こうした契約はどうしても外交 員との共謀がなければ不可能なことである。こうしたことからも、二本の定期付終身 保険は共謀していた外交員の成績を上げるための配慮だったと思われる。 ・ズサンな加入審査が横行 和歌山カレ 1 事件の林夫婦が逮捕されたのが平成一〇年一〇月三日であるが、この 夫婦が怪しいと報道され始めたのは、その年の八月頃からであった。そのため、一〇 月というのは、捜査もいよいよ大詰めでいっ逮捕されても不思議でない時期であった 説といえる 解 そして、まさにその時期に、本庄では、八木容疑者による保険金殺人を目的にした と疑われる保険契約が大量に行われていたのである。
はあるね」 そして、三月二四日に逮捕。開かれた有料記者会見の回数は、逮捕前日までに二〇 三回を数え、会見料の総額も一〇〇〇万円を超えていた。 風邪薬 捜査本部は三月一一五日午後、国友商事と武まゆみ容疑者の自宅を家宅捜索した。 国友商事前には冷たい風の中、報道陣約四〇人と住民約三〇人が集まり、混乱を避 惑 けるために五人の警察官が交通整理に当たる騒ぎとなっていた。 疑 殺午後一時四〇分ごろ捜査員一一人が事務所前に到着。五〇分すぎに立会の八木容疑 険者の元妻らを先頭に捜査員が事務所内に入った。 玉捜査員が事務所に入ると同時に、報道陣が一斉にカメラを構えて押し寄せる。 「こら、やめて」 一入り口から次々と差し込まれるカメラを捜査員が押し出す。白いプラインドがすぐ 第 に下ろされた。 国友商事に捜査員が出入りするたびに、カメラを抱えた報道陣が走り回り、その様
逮捕後、彼女の容貌が白日の下にさらされたとき、そのふてぶてしい雰囲気にテレ ビ視聴者は度肝を抜かれたものである。 かたぎ 同時に逮捕された林健治被告も、一見して堅気の男性には見えなかったが、彼女と 比較してみると、一種のかわいらしさすら、感じられたほどだった。 当初は夫の方もすべてを知り、彼女に実行させたのではないかと思ったが、捜査が 進むにつれ、逆に被害者の立場に置かれることが判明して驚かされた。 別々の拘置所の中で、妻を心から気遣う健治被告。裁判の場で出会ったとき、冷た いちべっ い視線で夫を一瞥すると、そのあとはまったく無視する真須美被告。女が持っ魔性と いうものを如実に表した出来事だった。 こうかん 私は、今でもヒ素カレー事件が巷間に流布されているような、自治会活動のトラブ ルから実行されたものではない、と確信している。 あの林真須美被告が、実行しても一銭にもならない事件を起こすだろうか。自分の 命取りにもなりかねないよ、つなことを : 。やはり、当日計画されていた麻雀大会の 参加者に掛けられた傷害保険金がターゲットだった、という方に現実味を感じる。 まだ、解明されてはいないが、彼らの画策した保険金犯罪の原点ともいうべき、最 初の従業員死亡事件 ( 八五年一一月 ) だが、この段階での実行犯は、夫の被告ではな よ、つほ、つ