成田 - みる会図書館


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1. 視線

「あ、ほら圭子動いてる動いてる ! 」 「きあああああああ」 ・ : 良かった圭子、こっくりさん怒ってないって」 「捺美が動かしたんじゃないのオ ? 「なんでよ。指が勝手に動いたんだってば」 「えー ? ・ : でもなんかそっちのほうがヤだー」 しいからあんた、早く考えなさいよ」 「何訊こうか ? 「圭子 ! 」 「・ : えーと、そうだ ! 寺田有里は成田克之のことが好きですか」 「こっくりさん答えてください」 線「いやー、うっそオ。やつばり ? あいっ絶対気イあるよねえ成田に。く 「そりや見ればわかるけどオ 視 「ビアノの伴奏だってさ、寺田がものすごい勢いで成田のこと推薦したんだよ。まあ、成田は 成田であっさり引き受けたらしいけど」 かっゆき / レバレだもん」

2. 視線

124 「推薦状は書けないってこと ? こ 少し風が強くなった。瞳は乱れた前髪をかき上げながら、成田の顔をのそきこんだ。 「そうじゃなくて、そんなものはなくても、おれは推薦状くらい書いてやる、って」 「なんだ、良かったじゃない」 「・ : まあな」 成田はうつむき、ちいさく笑った。体の後ろに手をついて、コンクリート の感触を楽しんで いる様子だった。瞳は前を向いて、白い地平線を見ていた。空の青と海の青を遮る一本の光の なが 線を、まばゆさに少し顔をしかめながら、飽きもせずに眺める。そのうちに成田が言った。 「なー」 「田辺え」 「何よ ? 「俺、・ : ごめんな」 「は ? 」 いらいら 要領を得ない成田のロ振りに、苛々して瞳は声を荒げた。顔をのそきこむと、成田は逃げる ように横を向いた。 なぐ 「おまえ、美術準備室で俺のこと殴っただろ」 さ )

3. 視線

線「誰にも言うなよ」 短く言い捨てて、成田は前を向いたまま足早に歩いた。瞳は小走りに追いかけた。ほとんど 視 何も入っていなさそうな鞄を肩に担ぎ、半袖のシャツを風になびかせて、成田は身軽そうに瞳 の数歩前を歩いていた。重い鞄に足もとをふらっかせながら、瞳は必死に後を追った。なぜこ 聞き慣れた男子生徒の声が、扉に手をかけた瞳の背中に聞こえてきた。反射的に振り返る。 見ると、椅子に腰かけうなずいている吉村と、それに向かって頭を下げている成田の姿が見え 何事だろう。瞳は成田の横顔を盗むように見つめ、ふと、自分を見つめる別の視線に気づい したう た。吉村だった。チッ、と思わず胸のなかで舌打ちし、瞳はさっさと職員室を出た。あんな男 まじめ に頭を下げるなんて。妙に真面目くさった成田の横顔を思いだし、瞳は不愉快な気分になっ た。廊下に出ると、反対側の扉から成田が顔を出すところだった。彼は瞳と目を合わせるとば つが悪そうに笑い 「帰んの ? 一緒に帰ろー と一一一一口った。 こ 0 かっ はんそで

4. 視線

カサガサといっせいに音を立 彼はそう言って、ビアノの上に置いた白い楽譜を取り出した。。 て、生定たちも自分の楽譜を開いた。自由曲の選択は結局、吉村に任される形になった。彼が 用意した何曲かのテー。フを聞き、多数決で、あっという間に決まったのだった。男子生徒のな かには自分の好きなロック・ハンドの歌をうたいたいと言い出した者もいたが、吉村は薄く笑っ て、黙って首を横に振っただけだった。音楽なら何でも好きだ、という彼の言葉は、時と場合 によるのだ。 「伴奏者は誰だ ? 」 楽譜から顔を上げ、吉村が言った。はい、と返事をする声が聞こえて、瞳は反射的に顔を上 げた。皆より一回り大きな楽譜を持ってビアノの前に腰かけたのは、成田だった。 「・ : おまえか、成田。ちゃんと弾けるんだろうなあ」 おどけたような吉村の言葉に、女子生徒の数人が笑った。瞳は楽譜を開き、 , そこから目玉だ けを出すような格好で、鍵盤に目を落とす成田の顔を見た。瞳の立っ場所からは彼の手元は見 えず、彼女には成田が。ヒアノを弾く場面など想像もっかなかった。入れ替わりに。ヒアノの椅子 線を立った寺田が、ソプラノの列に加わりながら言う。 おととし 「先生、成田くん上手いんですよ。一昨年の文化祭でも伴奏やって、すごく評判良かったんで 視 す。それに私、成田くんのお母さんにビアノ習ってるし : ・ まゆ 頬を微かに上気させて、寺田は成田の顔をちらちらと見やりながら言った。吉村は眉を上 かす

5. 視線

120 たどり着いたのは海だった。目の前に開けた青い景色に圧倒されながら、瞳は激しく肩で呼 かが ひざ 吸をした。グラウンド何周分だろう ? あまりの息苦しさに彼女は屈み込み、地面に膝をつい て、 「おえっ うめ と呻いた。何も出なかったが、呼吸はわずかだけ楽になった。堤防に寄りかかってそれを見 ていた成田が、手を叩いて笑った。彼は少し前にここに着いて、コンクリート の堤防を背に座 り込んでいた。 「あんた、何考えてんのよ」 小刻みに呼吸しながら、目だけはしつかりと成田を捕らえて、瞳は言った。成田はまだ笑っ ている。 「待って ! 」 すでに小指ほどに小さくなっている成田の後ろ姿に叫び、瞳は走り出した。スカートが派手 にまくれ、太腿のあたりがひやりと冷たくなった。シャツの内側に風が吹き込む。お尻丸だし かも。必死に走る頭の片隅でそう思ったが、小憎らしい成田を捕まえ張り倒すことだけを考え て、懸命に走った。 けんめい ふともも

6. 視線

118 んな男の後ろについて歩いているのか自分でもわからなかったが、言葉少なな成田の態度が気 になって、仕方なく一緒に歩いた。見てはいけないものを見てしまったのだろうかと思い、彼 女はなかなか上手い話題を見つけられなかった。 うつむいて坂を下る。成田は時おり振り返り、瞳が追いつくのを待っている。ふたりはつか ず離れず、夏休みの宿題の確認などしながら、どこかぎこちない空気のなかで歩いていた。誰 にも言うなよ。そう言 0 てキ = , と犠を噛みしめた成田の表情を繰り返し思い浮かべ、瞳はひ とりで首をかしげた。 「ちょっと、どこ行くのよ ? 」 彼の足が通学路を大きくそれたので、瞳はあわてて追いっき、後ろから腕を引いた。成田は 瞳の荷物に目をやり、 「重いだろー と無理矢理自分の肩に担ぎ上げた。 「交換しよう そう言って自分の鞄を彼女に押しつける。 「何なのよ ? 帰るんじゃないの ? こ 「待って」 問い詰める瞳にすがるような目を向けて、成田は短くつぶやいた。

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が、それはともかく、瞳の目にも、成田に対する彼女の感情はわかりやす過ぎるほどだった。 ゆり かっゆき 寺田有里は成田克之を好き。どうでもいい、と言えば嘘にはなるが、そのことは今のとこ よしむら ろ、瞳にとってあまり問題ではなかった。むしろ気になるのは、成田の吉村に対する態度だっ た。寺田の馴れ馴れしさを彼が許して受け入れているということ、それはつまり、彼が寺田と 同じように、吉村に味方しているということだった。味方しているという言い方はおかしいか もしれない。けれど瞳にとっては、どんな言い方をしようが同じことだった。少なくとも自分 の味方ではない。出て行け、と寺田に言われ素直に外へ出たのは、成田が自分ではなく、寺田 を見ていたからだった。 夏の一日、成田と堤防に腰かけて見たタ陽のことを、瞳は今も大事に胸にしまっていた。あ きれい の時の光景があまりにも綺麗だったから、あとに残しておきたくて、絵にすることを思いつい た。何度絵の具でなそっても違うような気がして、何枚も破いて、塗りつぶして、描き直し た。彼が言ったこと、彼が笑っていた理由や、彼がさわっていた小さな石の形を全部、あのタ 陽と一緒に、覚えていた。でも彼は違ったのだ。 めぐ ぐるぐると考えを巡らせながら、瞳は自分がいったい何に対してこんなにもショックを受け ているのか、だんだんわからなくなってきた。吉村のこと、寺田のこと、それとも成田のこと すべ だろうか。・ : わからない。・ とれでもなく、その全てだという気がした。 気がついたら坂の下にいた。風が吹いて、地面に落ちた枯れ葉がくるくると転がり落ちてく

8. 視線

152 かま ったんだよ。そんで、吉村じゃねえけど、なんかやたら、成田に構うんだよな。べつに苛めて る感じはしねえんだけど、要するに、『構う』んだよ。それがかわいがってるようにも見える し、時々は 。まあ、それは受け取る側の問題かもしれねえけど。成田は、あからさまに嫌 がってたな」 瞳はシャーベンの尻犠に当て、ふうん、と低く唸 0 た。独身の女教師。そういえば、夏に 会った時、成田がそんなことを言っていたような気がする。。ヒーマンを口に突っ込まれてまる でレイプされているみたいだった、と。今聞いた女教師とあれは同一人物なのだろうか ? 「あ、田辺、おまえ、俺が言ったって言うなよ。成田怒るからよ、あん時のこと聞くと。俺ら 未だに、なんで転校してったのかわかんねえんだよ。勝手に推理して言ってるだけだからな。 な、おい、言うなよ成田に」 あせ ひじ 焦った様子で肘を引っぱる沢村に、瞳は視線も向けず、黙って頷いた。ガラガラと扉の開く 音に顔を上げると、 「沢村ア、宿題は進んでるか ? 」 廊下から体半分を覗かせ、唇に嫌な笑みを浮かべて、河合が片方の眉を上げていた。

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「 : ・渡部」 「はい」 「 : ・あー、欠席は成田と田辺か : ・」 教室ではちょうど、出欠をとり終えたところだった。直後に、音を立てて成田が扉を開け た。前の扉だった。吉村がこちらを振り返る。 と彼は一一 = ロった。瞳は怖くなって思わず言った。 「ほんとは怒ってるでしょ ? 」 成田は振り返り、びく、と反射的に眉を動かす瞳を見て、 「怒ってねえよ ! 」 と怒鳴った。瞳は肩を揺らし、じっと彼を見つめ返した。なんだっけ、と彼女は思った。こ の人に何をしたんだっけ。何か、嫌われるような、恨まれるようなことをしたつけ ? 「・ : あんた、すっげえムカつく にら 胸のなかで考えていることとはまったく逆のことを、彼の顔を睨み上げながら、瞳は言っ た。ふん、と鼻を鳴らし、成田は背中を向けて、先に立って階段を上がり始めた。 わたべ うら

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なりたかっゆき 「 : ・成田克之です。部活はバスケ、趣味はべつにありません。よろしく」 瞳は顔を上げた。聞き覚えのある名前だった。ガタン、と音を立て椅子に腰かけた横顔は、 少し陽に灼けて浅黒い。すねたようなへの字のロもと。目玉の黒い部分が、普通より少し足り つね ないようだった。整っているといえば整っているその顔のなかで、常に上目づかいをしている けんか ようなその大きな目玉だけが、まるで見るものすべてに喧嘩を売っているかのようにギラギラ ぎ・っし していた。 / を 彼よその目で、何も置かれてはいない机の表面をじっと凝視していた。 のざわしげる 「野沢茂です、趣味はーー」 すぐ後ろの男子生徒が立って、少し頬を赤らめながら、まだ、話している最中だった。吉村 は組んでいた腕をほどき、彼の声を遮った。それは少し無遠慮な、暴力的なやり方だった。 「ちょっと待て、成田。趣味がひとつもないってことはないだろう。ん ? テレビを観るので も、音楽を聴くのでもいし べつにないって言うのはだめだ。何かあるはずだろう ? 」 吉村はまっすぐに成田だけを見つめ、成田はうとましげにそんな彼を見上げた。その後ろで 棒立ちになっている野沢茂には、ふたりとも気づかない。 「・ : 趣味は食って寝ること。以上、おわり 成田は立ち上がり、それだけ言うとまたすぐに座った。吉村の表情をうかがうこともせず、 椅子に深く座り直す。吉村は笑い 「そうか。それも趣味だな」 さ。」