出会っ - みる会図書館


検索対象: 黄金の日々月夜の珈琲館
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1. 黄金の日々月夜の珈琲館

たい誰が決めるのでしようか ? 人間って自分の目で物を見るので、どうしても自分が主役 ( 中心 ) になってしまいます よね。 自分の人生の主役は、自分でしかない。 だけど「運命の人」というのは、お互いがそう思わなければ成り立たない。 じようじゅ もちろん、最初から成就するはずのない相手に、一方的に運命を感じることもあるか もしれません。 長い人生のうちには、自分にとって運命的な出会いをしたと信じていても、相手がそう 思わないことだって、多々あるはずです。 かんちが 相手に運命を感じても勘違いに終わったり、お互いが「運命の人だ ! ーと思えるような しい出会いをしたとしても、結果的にうまくいかないことも少なくないでしよう。 そう考えると、成就する確率はすごく低そうで、暗くなってきますが : : : そのたびに傷 あきら ついたり、いろんなことを痛感させられたとしても、諦めないで、いっかは本当の相手と めぐりあえたらいいな 5 という願いがあってできた作品です。 私も諦めてないんですが : : : なかなか出会わないなあ ところで、編集部経由での感想のお手紙に加えて、私たちの発行している同人誌へのお

2. 黄金の日々月夜の珈琲館

そう言い切られては、返す言葉もない。 冷たいコーヒ 1 をに流し込むと、青木はふうっと息を吐いた。 「だけどモデルだなんて、よくあいつが内識したな。知る限りじゃ、絵画とは無縁の男 だったぞ」 「僕も初めはてつきり断られるかと思ってましたよ。女の子にならともかく、男からモデ ルになってくれだなんて言われてもね」 「でも、断られなかったんだな ? 「うん。だって、津川先生を逃したら、ほかに描きたい相手となんて絶対出会えないと思 いましたから。それにーー出会う前から、僕は先生を描いてたんですよ」 「会う前から ? 」 意味がわからず、青木は問い返した。 「ええ。自分の頭の中の理想としてね。さっきも言ったように、初めて先生と出会って驚 ばくぜん 々 いたのは、それまで自分が漠然と描いてきた人物に、先生がそっくりだったからでもある の 金んです。だからもう、それを見せて必死で口説き落としました」 「凄いな。奴もびつくりしただろう ? 」 うなず 驚く青木に、岡野はいたずらつばく笑って頷いた。 やっ

3. 黄金の日々月夜の珈琲館

142 津川から岡の個展に誘われたのは、青木が初めて岡野と会ってから三か月ほど後のこ とであった。 もともと青木は、子供の頃から家に絵のある生活をしてきたにもかかわらず、絵画とい うものを面白く思ったことがなかった。同じ美術でも、彫刻や写真についてはまだ関心も あったが、絵には、それがどんな写実主義の物であっても、今ひとつ、リアリティーを感 じることができなかったせいだ。 きようみ しかし岡野と出会って、青木は初めて絵というものに興味を覚え始めていた。絵画全般 というよりは、『岡野が描く絵』に限定された興味ではあったが、岡野本人に対する関心 と、津川がモデルをしているという、身近な理由があったからかもしれない。 そんな矢先の誘いだった。 おもしろ 四

4. 黄金の日々月夜の珈琲館

164 ハンドルの向こうでは、人々が足早に家路を急いでいる。赴任してきてようやく見慣れ たはずの風景が、青木にはまるで違った感じに見えた。 「出会ったのはあの写真の半年ほど前 : : : 俺がアメリカにいた時だった。勉強したいこと はたち があって、大学を出てすぐ向こうに行ってたんだ。彼はまだ一一十歳前だったかな・ : : ・。声 をかけられたんだよ。絵のモデルになってほしいってな」 その時のことを思い出しているのか、津川の顔に照れたような苦笑いが浮かんだ。 「ビックリしたよ。最初はじゃないと思「た。こいつ、どうかしてるんじゃない きようみ がら かって。絵に興味もなかったし、だいいちモデルなんて柄じゃないだろ ? 青木もまた、岡野が話してくれた津川との出会いを思い出していた。 まなざ 自分が描きたかった絵に、津川がピッタリだったのだと岡野は言っていた。真剣な眼差 しで必死になって自分を口説き落とそうとしている岡野を前にして、津川はさぞかし途方 に暮れたことだろう。 「ーーーでも、あんなに強く誰かに必要とされたのは初めてだった。俺には兄弟もいない むえん し、家族愛なんかとは無縁の家だったからな。自分じゃなければダメだという感覚を、俺 は初めて彼に教えられた。人にそう感じたのも初めてだったよ」 津川の気持ちの変化が、青木にはわかる気がした。 ふにん

5. 黄金の日々月夜の珈琲館

194 「僕は、あなたと出会ってそれを知った」 「あ、ああ : ・ うなず 頷きながら、自分もそうだ、と青木は感じていた。 りくっ それは理屈ではなく、菊地というかけがえのない相手を得て初めて、本当の意味で痛感 することのできた思いでもあった。 もどかしさ、やりきれなさ、そして、それでもなお消えることのない憎しみにも似た深 い愛情ーー おそらく、あの時の津川の中にあったのも、唯一無二の相手と出会ってしまった人間 の、そういった強さと弱さだったのだ。 「前のあなたは何も言えなかったかもしれない。今だってやつばり、言葉なんて見つから ないかもしれません。だけど、それでもいいじゃないですか。だから津川さんだって招待 してくれたんでしよう ? 」 くちびるか 青木は驚いた顔で菊地を見ると、涙がこばれ落ちないようにきつく唇を噛んだ。 長いあいだ自分の中でわだかまっていた何かが、ほろりと溶けて消えていくような気が した。

6. 黄金の日々月夜の珈琲館

おまえたちが出会った後に起こったんだろう ? 」 「そう言われてはいるが、ケースパイケースみたいだな」 苦笑いを浮かべながら、津川は言った。 「いったい頭の中で何を基準に振り分けが行われるのかわからないが、姉や絵のことは きおく ちゃんと記憶にあるのに、彼は俺のことは覚えてはいなかった。一時的に覚えはしても、 記憶はされない 「そんな : : : でも、前に彼と話した時、彼はおまえが理想像だったと : ・ 「それは本当さ。さっきも言ったように、俺たちはあいつが話したとおりの出会い方をし た。彼の中で俺に関する記憶があるとすれば、彼の描きたかった人物に俺がそっくりだっ たということぐらいだ。ほかのどんなことを忘れても、それだけは決して記憶から消えな いらしい 『我々の目は、いつでも一つの定まったタイプに執着するもので、こうして無意識に一つ せんたく 日のタイプを探し求めることが、我々の選択を支配する』ーーー青木はかって岡野に話したコ 金クト 1 の言葉を思い浮かべていた。 津川との日々は記憶から消えても、無意識に彼を求める気持ちだけは岡野を支配し続け ているのかもしれない。

7. 黄金の日々月夜の珈琲館

僕は菊さんの ためなら なんだって できるんです一ワ から 5 言うんですか なあ・ : 沖田・ : 運命の相手つて いると思うか ? 運命 : ・ですか ? いると思います , 断言しますー だって僕は菊さんに出会ったし これはきっと運命なんだと 思うし : それって : ・

8. 黄金の日々月夜の珈琲館

141 黄金の日々 こた 青木は軽く笑ってそれに応えた。 じようじゅ 岡野たちと違って、青木の恋愛はまだ成就してはいない。だが、その言葉は、菊地と 出会って以来、常に青木の中にもあったものだったからだ。

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Ⅷいうか、懐かしいというか : : : 。知り合って間もないし、知らないことのほうがずっと多 いのに、一緒にいるのがとても自然で、違和感も不安も感じないんです」 「運命の出会い、というやっかな ? 「そう : ・・ : かもしれないー 嘘のつけない性格なのだろう。岡野は小さな声でそう答えると、耳まで真っ赤にしなが ら、「同性相手に変かもしれないけど」と付け加えた。 「少しも変じゃないさ」 「えっ ? 」 「人を好きになるのに、性別も年齢も関係ないと俺は思ってる」 あんど 思いがけない青木の言葉をびつくりした表情で聞いていた岡野の顔に、ほっと安堵の色 が浮かんだ。 まだ付き合いは浅いらしいが、岡野と津川とは、いゝ し関係を築いていっているらしい 「先生にもそういう相手がいるんですね : : : 」 しばらくして、ねるともなしに岡野が呟いた。 「出会えたことに感謝ですよね」 うそ なっ いっしょ

10. 黄金の日々月夜の珈琲館

122 青木が岡と初めて出会ったのは、当時、赴任していた病院の中だった。同級生だが違 つがわやすゆき う医大に進み、青木より一年早くそこで勤務していた外科の津川泰之を介してのことだ。 いっしょ もっとも正確には、津川に紹介される少し前に、エレベ 1 ターで一緒に乗り合わせたの が最初だった。 その日、病棟での仕事をあとわずかで終えるという時になって、青木は外来から呼び出 しをくらっていた。この日、三度目の急患の知らせだった。 今でこそ、患者の病状を聞いてから外来に降りることも、また、病棟での仕事を誰かに 任せることを考える余裕もあるが、まだ「若い新任』と呼ばれていた青木としては、言わ れるまま仕事をこなすしかないというのが実情だった。 ようやく処置を終えた頃には、とっくに就業時間も過ぎていた。それでも、病棟にはま