神官 - みる会図書館


検索対象: 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣
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1. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

・ジェイクラット・グラス、ルミナティス・フォルティネン : だいしんかんちょう 二人の名を呼んだ大神官長ヒルキスハイネンは、大きな溜め息をついた。信望も厚く、 した おだ やかなりし父として皆から慕われている大神官長である。神官を統べ、それぞれの神を 崇める神官長よりも、さらに多忙な大神官長の御を風せないために、修道士たちは すみ いつも細かく気を配っている。問題は耳に入れられるまえに、修道士たちによって速やか めった うれ に対処され、大神官長がこのような表情を見せて憂えるようなことなど、滅多にない。 ミゼルの神官長マイトバッハは、困り顔で二人の若者を見つめる。 「さきほどの、この屋根の上でのことです」 言われて、儀式に集中していて、そんなことなどすっかり忘れてしまっていたルミは、 ほまえ しょたた 一瞬きよとんとした表情になって目を瞬いてから、につこりと微笑んだ。 「ああ、あれですか。大事にならずにすんで、幸いでしたね」 「ーーーそうではない まゆひそ ゆる 目を伏せて緩く首を振った大神官長に、ジェイは少し眉を顰める。 虜「死にましたか 蓮屋根を滑りちたときには、まだ十分に一兀気そうだった。宙に投げ出されたところを魔 里どうし 道士に受け止められて、てつきり助かったと思ったのだが。 ふぬ 助けてなどと、腑抜けた叫びをあげた根性なしだが、初志貫徹できたのなら、それもま た

2. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

こうべた 深々と頭を垂れる。 しと 「我らミゼルの使徒として、使命を果たすことをここに誓います」 そろ だいしんかんちょうみぎどなり 声を揃えて述べられた誓いの言葉を、大神官長の右隣で聖書を捧げ持っミゼルの神官 うやうや 長マイトバッハは、天窓の光を聖書に受けて押しいただき、恭しく神に送り届けた。 おごそ 静かに下ろされた聖書が閉じられ、パイブオルガンの曲は厳かに終わった。 ひぎまず 跪いていた二人の青年は、ゆっくりと腰を上げる。 大神官長ヒルキスハイネンは、姿勢を正す二人の若者に言った。 へいたん 「平坦ならぬ道にも、ひと筋の光があらんことを」 儀式の終わりを告げる、旅の安全を祈る言葉をいただいて、二人は大神官長に会釈し パイブオルガンを奏でる巫女は、儀式を終えた者たちを送り出すための曲を奏でた。髪 の長い美貎の青年は、手に持っていた帽子をる。 だいせいどう いつもならしずしずと、音楽とともに優雅に大聖堂の奥に下がる大神官長とミゼルの神 しゅうどうし 官長は、修道士が会釈して下がり、聖歌隊の少年少女たちが修道女や巫女とともに立ち 去っても、その場を動こうとしなかった。ミゼルの神官長マイトバッハはパイブオルガン すみ を奏でている巫女に振り返り、そっと合図を送る。合図を受けた巫女は、速やかに音を小 さくしていき、曲を奏でるのをやめ、そこから立ち去った。 かな ささ えしやく

3. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

のだと気づいた。世界はすべて、彼がそう望んだからこそ、存続しているのだ 「一度、間近でお目にかかりたいと切望しているのですけれど、どうもわたしたちには縁 がないらしくて」 懸命に情報を集めて、追いかけたり、かの男が向かいそうな場所に先回りしているのに そうぐう と、ルミは苦笑する。何人で組もうとも、救世の英雄に遭遇するのは、いつでも二人以外 おが の者なのだ。救世の英雄の顔を拝んだ者は、そして不幸な事故に見舞われて、天に召され てしまう。 ミゼルの使徒の活動報告書は、あくまでミゼルの使徒がその地で何をしたかを報告する ものであり、活動記録書は使徒自身がそこで何をしたのかを書き留めておくものだ。その 地で起こった事件を知らせるものではないので、なぜその使徒の助力を、どのぐらい必要 としたのかという、細かい理由は表記されない。 ぎんふせいせんし ミゼルの使徒として回国しながら、銀斧の聖戦士を追いかけているのだという事情を だいしんかんちょう 虜知った大神官長ヒルキスハイネンは、ミゼルの神官長マイトバッハとともに、しばらく うなず 蓮沈黙したのち、重々しく頷いた。 「そうか : 次の儀式の準備が調ったことを神官が報告しに現れ、大神官長は控えの間に下がった。 しと ひか えん

4. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

( うわ ! ・ : : ) こうしてこの場所に来る誰かと組んで、ミゼルの使徒として回国することになるのだと かしこ かっこう 考えて、リンゼはどきどきした。誰も皆、賢そうで格好いし 「今日の昼前に、ミゼルの使徒の登録をした、リンゼイ・ホ 1 クです。メダルはできてい ますか ? 」 ほおこうちょう しょむしんかん 少し頬を紅潮させ、緊張しながら受付の窓口に向かったリンゼは、庶務の神官に声を かけた。宿を引き払うために宿場町まで往復し、昼食をすませてきたので、もうメダルは できあがっているはずだ。リンゼの名前を聞いた神官は、奥の引き出し棚から、できあ がったばかりの真新しいメダルを一つ取り出してきた。 しゅにく 「右手の親指に朱肉をつけて、ここに押してください」 かばん 足元に荷物の入った鞄を置いたリンゼは、緊張のためにやや汗ばんでいた手を、スラッ クスのポケットに入れていたハンカチで拭いてから、庶務の神官が受付の卓の上に差し出 しもん した紙に、右手の親指の指紋を押した。神官はリンゼが指紋を押した紙を受け取り、リン こくいん ゼの指紋の横に、同じようにメダルの裏に朱肉をつけて押し、指紋とメダルの裏の刻印と いんかん を見比べる。メダルの裏の刻印は、リンゼの押した指紋の形どおりの、印鑑になってい と、つ た。このミゼルの塔で行われる事務処理全般もそうだが、回国した先で、このメダルの刻 印と指紋を、活動報告書とともに提出することになっている。ミゼルの使徒の滞在にか しと だな

5. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

( 近くにいれまゝ 冫しいなあ ) 。ししカまとまらなけれ、は、一囲 その二人が聖地の外にいた場合、うまく話がまとまれまゝ むだあし 談に向かうリンゼは、無駄足を踏むことになる。聖地から離れた場所に向かわなければな らないのなら、今日はもう午後も回っているし、使徒の家で一泊して明日の朝早くに向か うことになるだろう。 「すみません、紹介状をお願いします」 けいじばん 受付に向かったリンゼは、神官を呼び、自分の登録票といっしょに、掲示板から持って きた登録票を差し出す。 「はい」 事務机から受付の卓にやってきた神官は、リンゼの差し出したピンの跡のある登録票の まゆふる 名前を見て、びくりと眉を震わせる。 ・ : この方たちへの紹介状でよろしいのですね : : : ? 「はい 虜 にこやかに返事をしたリンゼをまじまじと見つめ、神官は何やら複雑な顔をしながら紹 蓮介状を書いてリンゼに渡した。 「 : : : 二人は使徒の家にいます」 「そうですか」 しんかん

6. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

しと だいしんかんちょう ミゼルの使徒にあるまじき行為であると、お怒りである大神官長ヒルキスハイネンに、 ジェイは一一一口った。 「我は人として、知の神ミゼルの恵みをもたらす使徒なり 。死を望む者を生かす力 は、持っておりません」 水辺に馬を連れていっても、水を飲ませることができないのと同じく、医者が救うこと ができるのは、生きる意思のある者だけだ。 「それに、使徒承認の儀式がまだでしたから、使徒としての活動には数えられないと思う のですが。そこのところはいかがなものでしよう ? きかん ミゼルの使徒は承認を受けてのち、初めて活動を認められる。聖地に戻って、帰還の手 続きをとってしまったならば、使徒としての活動は、一度終了したことになる。 ミゼルの神官長マイトバッハは、使徒と呼ばれるだけの資格を有する者は、試験を受け て免許を取得し、知的財産を受け継いで神の名を掲げることを許された、良識ある善意の 奉仕者であると言いたかっただけだ。 し 理屈を述べるルミに、ミゼルの神官長マイトバッハは渋い顔をした。 「昨日今日使徒になったばかりの新人ではないでしよう。あなたたち二人については、 少々よくない話が聞こえてきています」 かか

7. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

幻た本望だろう。 「そうではない : だいしんかんちょう 大神官長ヒルキスハイネンは、やや怒りを含んだ声で、同じ言葉を繰り返した。大神 官長の言わんとしていることがまったく伝わっていない様子の二人に、ミゼルの神官長マ イトバッハは一一一一口った。 まどうし と、つ 「あの者は助かりました。魔道士に運ばれた癒しの塔で休んで、じきに帰ることでしょ う。大神官長がお話をなさらなければと思われたのは、あの者ではなくあなたたちのこと です」 となり 対象が自分たちだとわかって、ルミは隣に顔を向けた。 だめ 「ほら、やつばりお叱りを受けることになった。駄目だよ、ジェイ、あそこで灰を落とし ちゃ」 しんせい 神聖なる大聖堂の上に煙草の灰を落とすのは、まったく感心できない行為である。 大聖堂の讎えの間で、ミゼルの使徒としての旅立ちに必要な承認の儀式を待っていた ジェイは、煙草が吸いたくなって、上のほうの階に移動した。大聖堂そのものはどこも禁 煙である。大聖堂の外に出てしまうと、空いた時間に儀式を希望する順番待ちの権利がな くなる。テラスに出て煙草を吸っても、煙のいで見つかって咎められることになる。神 しゅうどうし 官や修道士たちに文句を言われないためには、風向きに注意し、煙が上にのばっても気 しか しと

8. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

なんじ みもと 「先の汝らの回国において、ミゼルの神の御元に旅立った同行の使徒は、十七名に及んだ と伝え聞くが、如何に : ミゼルの使徒の活動領域は、主に都から遠く離れた地方の村落である。当然、そこに行 そうぐう きようあく き着くまでの道は険しく、人を食らう動物や、平気で命も奪う凶悪な盗賊たちと遭遇す けが る機会も多い。活動の途中で怪我をしたり、使徒としての役目もなかばにして天に召され る者は、昔から多いのだが、五年と経たない期間のうちに、この二人と行動を共にして、 命を落とした者が十七名というのは、あまりに数が多すぎる。ミゼルの使徒は単独行動を せず、数人での登録制であるため、天に召された者が出るたびに、ジェイとルミは聖地に 戻って登録をし直さなければならない。回国しているミゼルの使徒は、何千人といるが、 こうも繁に聖地に戻ってくるのは、ジイとルミぐらいのものだ。 「おそれながら」 うやうや だいしんかんちょう うった 恭しく一礼し、ルミは大神官長に異論を訴えた。 「わたしたちと行動を共にし、ミゼルの神の御一兀に旅立った同行の使徒は、十八名です」 虜たとえ一人であれ、数え間違えられては、忘れられてしまった者が気の毒である。 すず あぜん 蓮涼しい顔をしている二人に、大神官長ヒルキスハイネンは唖然となり、ミゼルの神官長 マイトバッハは力が抜けるのを感じた。十八名なら、なおよくない 「 : : : あなたたちは、『使徒殺し』などと呼ばれているのですよ」

9. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

しとしょむ 心当たりはないかと問われて、使徒の庶務を担当している神官は、首を横に振った。 きかん けいじ 帰還してすぐに承認の儀式をすませる使徒は、この二人ぐらいのものだ。登録票を掲示 ばんは 板に貼りにいくジェイを見送って、神官は小さく溜め息をついた。この受付に来るのも、 すっかりお馴染みになった、悪評高い二人組である。条件は甘いが、要望に応じられる者 かいるのか、わからない と、フ 身分証明のメダルと、預けておいた荷物を受け取り、ミゼルの塔を出て聖地での宿舎で ある使徒の家に向かいなから、ルミはジェイに尋ねる。 「いつまで ? 」 「 : : : 記録係がいるだろう」 たち ジェイは日記のようなものを書く趣味はないし、ルミはそのような質ではない。 ほまえ 簡潔に言ったジェイに、ルミは困った顔で微笑む。尋ねたのは、加わるのかどうかわか らない、新しい仲間を待っための期日のことではない。 「わたしが知りたいのは、いつまで追いかけ続けるのかってことだよ」 虜ルミと出会いミゼルの使徒となってから、ずっとジェイは救世の英雄を追っている。 あ 蓮「 : : : 逢えるまでだ」 不機嫌そうに、ジ = イは少し口を 4 らせて、コートのポケットから細巻き煙草を取り出 かどうりん 芻し、火導鈴を三、四回動かして火を点けた。 っ しんかん

10. 黒蓮の虜囚 プラパ・ゼータ ミゼルの使徒1⃣

ジェイは優秀な医師であり、ルミは腕のいい薬剤師である。二人とも王都でも一流とし て十分に通用するだけの実力があ「ても、同行者があまりに緊に天に召されては、嫌な うわさ 評判がたつのも仕方がない。つまらない噂だと笑い飛ばし、自分は大丈夫だと胸を張って たが たど 同行した者も何人かいたが、彼らもすべて、例に違わず同じ末路を辿っている。悪評のた しと め、この二人に同行しようという使徒は、変わり者の物好きだけだろうと言われている。 なんじ 「汝らの行動に、問題はないか」 だいしんかんちょう 大神官長ヒルキスハイネンは、厳しい口調で二人に問いかけた。立ち寄った場所から まどう おさ 魔道によって送られる、村落の長たちからの使徒の活動報告書に記されている事項と、 きかん ジェイたちが記して帰還した際に提出する活動記録書とは、まったく同一のことが記載し ふしん ぐうぜん てあり、なんら不審な点はない。しかし、同行者がこうも次々と、偶然に不幸な事故に見 舞われるというのは、あまりにも異様である。 いきなり磁、いに迫る質問に、視線を落としたルミは、目を動かして、ちらりとジイを 見た。 「ーーー心当たりならば、少々」 無表情のまま、ジェイはルミの声を聞いていた。 ミゼルの神官長マイトバッハは、厳しい口調で命じた。 「説明しなさい