122 ワイフの心配そうな声がシャワー ・カーテンの外から聞こえる。・ほくは知らぬ間に、張 り裂けるような声を発していたのだ。 「ウォーツ」。それはまさに動物の「咆哮、である。頭の上から熱湯をザアーとかけ、ル を立てて髪を洗いながら、「オレは駄目だ。早く死ぬ。死んだほうがマシだ」。全くワケ のわからぬことをわめく。激しい自己嫌悪に襲われている。 昨晩飲んだときの、・ほくのあの言い方はきっと相手を傷つけたに違いない。 どうしてああいう議論になってしまったのだろう 。「酒のうえ」とはいえ、 つもへマばかりするぼく。まったくやりきれないのである。 「あの人はホドのよい人」と言われるようになりたいと思うが、なれない。けして「ワル い酒 . ではないのだが、際限がない。二次会三次会と率先し、途中で「明日がありますの けいべっ で」と抜けてゆく仲間を軽蔑し、最後の最後までとことんっきあう。そして毎朝のシャワ ーの咆哮。こうなったらもう酒をやめるしかテはないのである。 日本から生命保険会社の専務さんがニ ーヨークへ来られた。「新橋 , という日本料理 店でタ食をともにした。水割りのダブルを五杯飲み終え、かなりでき上がっていた・ほくに、 専務さんがそれまで手酌で飲んでいたそのぐいみをさし出した。それから酒の飲み方と しては最も悪いパターンが始まる。ぐい呑みでのやりとり。二人とも、したたか酔った。